第79-3話
いつもありがとうございます!
本日の定期報告。
こんにちは。「オーバーロード」。
お母様、今日の一日はいかがでしたか。
あなたの三女、モデルナンバーRB003、ルビーです。
今日はセミナーの準備でとても忙しい一日でした。
神社の掃除や資料の準備、発表リハーサルなどなど当日のセミナーに備えて精一杯頑張りました。
シスター、お姉様がまだメンテナンスから帰らなくて当日までちゃんと間に合わせられるのかなと少々憂いの気持ちもありましたがお手伝いに駆けつけてくれたたくさんの生徒達のおかげで今年もなんとかできそうです。
皆にとても感謝しています。
「オーバーロード」もご覧になっていたはずですが本日はご報告いたしますのは私のデイリーメモリーと例の件についての些細な意見を述べたいと思います。
その後、青葉さんは
「すみません…!巫女様…!私、ちょっと…!」
なんだかすごく慌てて遠くなる緑山さんの後を追いました。
「どうやら計画にトラブルが発生したようです。」
私はネットワークからあなたにそう報告しましたが
「そのまま進めてください。」
あなたからの返信は無情極まりないでした。
緑山さんに何があったのは今も分かりません。
ただ彼女は自分がとてつもない顔で神社から抜け出そうとしていました。
地獄の業火でも浴びたような鬼気迫った顔。
まるで今でも周りの全てを飲み込んで燃え尽くしてしまう炎の災いのようにただひたすらの怒りを吐き出す緑山さん。
彼女のことなら既に報告を受けており、その性格もある程度把握済みですがあれほど憤慨を抑えきれない姿は初めてでしたのでどう行動すればいいのか少々戸惑ってしまいました。
あなたは
「今はそっとしてあげましょう。」
っと放っておくようにっと私に命令されましたが私はやはりそれには従いづらかったのです。
私はあなたのような放任主義にはなれません。
放っておくことで私達はいかにたくさんの命を己の手から溢れてしまったのかあなただって十分お分かりでしょう。
ただ優先された任務を全うするため、数多な命を見殺しにしてきた私達はこの星で生きているどのような存在より命の重さを知るべきだと私はそう存じております。
ある田舎の村での作戦の時です。
負傷した私と「黄玉」は敵に包囲されまさしく絶体絶命の危機に瀕していました。
幸いあなたと「緑玉」お姉様のおかげで退路を構築することができましたが村の皆を連れて行くことが到底不可能でした。
あの子…私の大切なたった一人の妹だったトパーズは
「私達が逃げてしまったら村の皆は全部殺されちゃいます…!」
っと村に立てこもって援軍を待とうとしましたが結局私達はあなたのご命令に従わざるを得ませんでした。
我々が村を離れてから途端、敵は村に押しかけ、村の皆を反逆者と目し、全員処刑しました。
中央が勝手におっ始めた戦争。
何十年も、何百年も続いている忌々しい戦い。
その災いに巻き込まれてしまった全く無関係の民。
たくさんの命が散り、世界は崩壊してしまった。
それでもなお敵だった私達に対して温情を巡ってくれた温かい人々を私とあの子は見殺しにしてしまったのです。
今もあの時、山越しに聞こえた悲鳴と銃声が聞こえそうです。
私はそのことを絶対忘れないようにしました。
私は「オーバーロード」、お母様のことを心から愛しています。
私達を産み、育ち、道いてくださったあなたには尊敬の心も、感謝の気持ちもちゃんと持っているつもりです。
でもあの時のあなたが人界以外の世界は何もかも全部滅ぼそうとした悪魔だったということだけはどうしても許せない自分です。
たとえそれがあなたの本当の意思とは相反したものであろうとも。
自分なりに反抗もしたつもりです。
私はあなたのような個人の判断に委ねることではなく、誰かを自分がちゃんと導いてあげられる生き様を目指そうと心を決めたことがあります。
まあ、未だにあなたの陰から全く離れられないお子様のままなんですが。
実際私は青葉さんが私と副会長から離れた後、
「ど…どうしたんですの…!?ちょっと…!お待ちなさい…!」
「いいです。後は青葉さんにお任せしましょう。」
あたなの命令に従って困惑している副会長に放っておくようにとしてしまったのですから。
「で…ですが…」
でもやはり副会長はそう簡単に見切ってくれなかったのです。
さすが「鮮血女王」と「絶対零度」の娘というところでしょうか。
困った人、助けが必要とされる人は見過ごせません。
私とは大違いの情け深くてとても温かい人です。
でも彼女には父とは同じ道を歩まないでもらいたかったです。
人と交わるために日の下で長い時間を送ったせいで自らの体を壊してしまった愚者なんてなっていいものではありませんから。
たとえそれが悔いのない人生といっても私はそれを自分が正しいと信じている方向へ導いてあげたかったのです。
あなたはよくこうおっしゃいました。
「世界において決まった答えは一つや2つに限らない。我々はその全ての答えと可能性を予測、想定し、最も良い未来への答えを導き出す役目を担っている。」
っと。
実にその通りだと思います。
正しい正解なんて本当に分かるようもないものだと自分の身を持ってつくづく思い知らされています。
いや、むしろ端から存在しなかったかも知れないとここ最近の私はそう思うようになりました。
青葉さんがやることが正解なのか、それとも副会長を元の場所へ帰らせようとする自分の行動が正解なのか、私は一つも分かりません。
ただ自分の行動に迷いはなく、自分にとって一番正しいことだというのだけは強く思っています。
私が今回の青葉さんの計画のことを引き受けたことにはあなたとの取引があったこそできたことです。
青葉さんにはあえて黙っていましたがあなたと私達姉妹の間にはこの件を巡って何らかの取引が行われました。
もし今回も副会長が中黄さんと仲直りできなかったら私とシスターは彼女を本国の「ワラキア」へ帰らせて頂きます。
あの夜の国へ戻れたらきっと副会長もすぐ元気になれるはずでしょう。
たとえ副会長、ご自身が望まなくても私とシスターは自分の地位や立場の利用も辞さず彼女を本国に帰らせるつもりです。
それが彼女から憎まられ、恨まられる結果につながっても私達に迷いなんてありません。
「ど…どうしたんでしょうか…緑山さんも、青葉さんも…」
急な出来事でかなり驚いたような副会長。
でも先走ったのは二人のことを案じる優しい心でした。
可哀想な副会長。
もしこの計画が失敗したら本国に強制送還されるかも知れないのに他人のことを真っ先に思ってくれるとは。
そんな優しい子から私達は大好きな友達との仲直りするチャンスさえ奪ってしまうのですね。
そう思ったら急に機嫌が良くなくなってきて鬱屈な気分になってしましたがこの期に及んで止めるわけにはいきません。
私は彼女に寿命通りには生きて欲しくてこれからもずっと彼女の歌が聞きたいです。
決して父と同じ道を選ばないで欲しいのです。
だから今はただなすべきことを全力でやるしかありません。
「行かなくてもいいのですか?仕事のことならこちらからやりますから。」
っと二人を追わなくてもいいのかと聞く私に
「…いいえ。そこは青葉さんにお任せしますわ。」
返ってくる彼女の返事はただ一つでした。
決して面倒くさがるわけではない、真の信頼による行動。
彼女は生涯初めて現れた一番のライバルである青葉さんのことを心から信頼していました。
「彼女は魔界側の生徒達を率いている「合唱部」の部長ですわ。魔界の皆は彼女のことを信頼していて彼女自身もまた皆のために努力することを常に怠りません。
きっと緑山さんの気持ちだってちゃんと分かってくれるはずです。」
揺るがない信頼。
それほど副会長は彼女のことを認めているということです。
だがその分、彼女自身は
「最も自分のことすら解決できていない出来損ないに誰かの話を聞くなんて笑止なことなんですわ…」
自分に対してとてつもない自己嫌悪を抱いていました。
くるっとした赤い髪と黄色の目がとてもきれいな名門「赤城」家の吸血鬼の少女。
彼女の母のことも、祖母のことも知っている私にとって彼女もまた大切な人。
だからこそ寿命通りには生きてもらいたいと思っていてなんとしても本当へ帰らせてあげようとしていた私でしたが
「それじゃ参りましょうか。まだ半分も終わってませんから。」
何故でしょう。
私はなんだか彼女のこのような顔が見たくなくなってしまいました。




