第74話
いつもありがとうございます!
「ど…どうかな…」
「かわいい…かわいいですよ!みもりちゃん!」
「そ…そうかな…?」
奥の方でなんとか仕事用の巫女服で着替えた私のことを見てもはや感服の極みの状態となったゆりちゃん。
そんなゆりちゃんの反応に私は少しだけ照れくさいって気持ちになっちゃいましたが
「は…初めて着てみたね…」
さすがこうしているとテンション上がっちゃう…かな?
白衣と緋袴、白い足袋と鼻緒が赤い草履。ちらっと見せかける襦袢と掛襟もこんなにバッチリ決めてて。
いつもそのままにしている髪だってゆりちゃんが水引の髪飾りできちんと整えてくれて本物の巫女様っぽくてなんか恥ずかしいような嬉しいような…
でもやっぱり嬉しいって気持ちの方が大きいかもですね…
それにしてもゆりちゃん、私は初めてなのによく着せ方とか知ってるんだね…
「うふふっ♥あなたになんでも着せるためにゆりは子供の頃からずっと練習してきましたから♥」
っとなんだかうっとりした顔で私のことをじーっと眺めているゆりちゃん…
そういえばゆりちゃん、着物とかもよく着せられるんだよね…
「さ…さすが緑山さんね…欲望のためなら本当なんでもできる…」
「うふふっ♥そんなに褒めなくても♥」
褒めるっていうかなんかちょっと引いた顔してるんだけどね…?今の青葉さん…
「でも本当に似合うよ。虹森さんの巫女服。もう本物の巫女様ぽっくていっそこのまま本気で目指すのも悪くないって感じで。」
「ええー大げさですよー」
元巫女様の娘さんである青葉さんにそう褒めてもらうのは嬉しいのですが見た目だけで本気になっちゃうのはやっぱり失礼な気がするっていうか…
もちろん私の実家は「神樹様」への信仰心がとても篤実ですがまだ真剣にそちらの道を考えたことがなくて…
「そう?でも似合うっていうのは本当だから。」
「ええ。今日集まった人の中でみもりちゃんがダントツでお似合いなんです。」
「えへへ…ありがとう…」
っと青葉さんも、ゆりちゃんも私のことをいっぱい褒めてくれましたが本当のことを言うと私はやっぱり青葉さんとゆりちゃんの方がもっとお似合いだと思います。
実家が「神社」の関係者だからかな。青葉さんの巫女姿は申し分ないほど違和感なくお似合いで本当に素敵です。
深海色の髪色と巫女服の組み合わせも抜群。
二つ結びの髪型はいつの間にか解けされて私と同じ髪型になっていていつも掛けている眼鏡も今回に限ってコンタクトに変わっててなんだかレアな青葉さんのことが見られた気がしてすっごくワクワクします。
「さすが青葉さんですね。お見事です。」
「ふふっ。ありがとう。」
格の差を感じるっていうか表情までこんなに余裕が溢れて…すごいな…
ゆりちゃんの場合は…えっと…
「なんかマニアっぽい…」
栗色の髪と巫女服の色合いはとてもいいと思いますが「人獣」特有の特徴である耳と尻尾との相性はなんというか…
「そうですか?私は割りと普通だと思いますが。」
っと私の言葉に一度自分の姿を確認するゆりちゃん。
その姿はなんだかすっごく可愛く見えた私は
「でも可愛いよ。世界一でね?」
今の自分の感想を素直に伝えることにしました。
「あ…ありがとうございます…嬉しいです…みもりちゃんが喜んでくれて…」
そんな私の感想に珍しく顔まで真っ赤に染めて照れくさがっているゆりちゃん。
こんな素直なところがまた可愛いんですよねー
「えへへ…これなら行けそうですね…今日は絶対孕ませてもらっちゃいます…」
え?何が?
「でもやっぱりちょっと新鮮ですね。ケモ耳の巫女様とか人魚の巫女様とか。」
「そう?でも私達の方から見たら虹森さんの方がもっと珍しいから。」
「そうですね。」
今のゆりちゃんや自分の姿は決して変わったものではない、むしろ私の方が珍しいと青葉さんはそう話しました。
「元々人界には宗教がありませんでしたから。魔界や神界には「神」と奉る種族が存在しましたが。」
「まあ、今になってはそんなに重要なことではないけどね。」
本来宗教がなかった人界。
「大家」は大昔から人界に存在していましたが「神樹様」のことが人界に伝わったのは大戦争の時の約百年くらいに過ぎなかったのです。
当時人界の多い人達は世界政府や「神樹様」のことをあまり信用しなくて相当の難航を喫したらしいですがその疑いを晴れてくれたのが世界政府と国々が一緒に建てたここ「世界政府付属高校」の存在です。
人間を含めた異なる種族達が一緒に交わって共存の方法を一緒に悩んだり助け合ったりする姿は人界の人達に大きな衝撃を与え、まもなく「大家」の方針に疑いを抱く人達が現れました。
本当の私達だけでこの世界を生きて行くのが正しいのかって。
人間は脆い。
どの種族よりももろくて弱いその種族は外敵から自分達の身を守るため門を閉じて外には一切の興味も待たず自分達だけの社会を維持してきました。
その鎖国政策の先頭に立ってのが今の人界を牛耳っている御祖母様の「大家」。
本来私がいるべきのところです。
「惑わされてはいけません。私達は自由。どんなものにも縛れてはいけない自由の身なのです。」
っといつもそうおっしゃった御祖母様。
でもその長い間、人々を縛り付けていたのは「大家」の歪んだ同じ人間への慈愛でした。
それ以来、「大家」による災いを避けて徐々に世界政府に協力する人達が増え、今には「大家」より「神樹様」を信じる人の方がずっと多い。
でも「神樹様」の思召が届かなかった悲しくて閉じられた世界に自分が関わっているというその事実がふと悲しくなってしまって
「みもりちゃん?」
つい隣のゆりちゃんの手をギュッと握りしめてしまいました。
「どうしたんですか?」
「ううん…何も…」
私は今も怖いです。
いつ御祖母様や薬師寺さんが訪ねて私のことをあの家にまた連れて行ったらどうしようっと心の密かで恐れていました。
「あ…ごめんね?虹森さん?別に仲間外れとかじゃないから…」
「え?いいえ…っていうか私、特にそういうの思ってなかったんですけど…」
でも何故か私に今の言葉のことを謝る青葉さん。
多分何か誤解していると思われるんですけど別に謝らなくても…
「す…すみません…!みもりちゃん…!私達、本当にそういうつもりじゃ…!」
今度はゆりちゃんが謝る…なんで…?
「あ…うん…分かってるよ?だから謝らないで…?」
「み…みもりちゃん…!」
ってなんでいきなり抱きつく!?く…苦しいよ…!ゆりちゃん…!
「私がまた無神経にみもりちゃんのことを傷つけちゃってしまったんですね…!大丈夫です!みもりちゃんの巫女姿は世界一似合ってます!絶対珍しくないんですから!ゆりはいつでもあなたの味方です!」
「わ…分かったから…!」
こ…このままでは脳みそがで…出ちゃうよ…!
「はい!?何か出るんですって!?出す時はぜひゆりの中にお願いします!」
だ…だから何の話をしてるのよ…ゆりちゃん…
「お二人共ー行きますわよー」
その時、少し離れたところからゆりちゃんと青葉さんのことを呼ぶ声がありました。
危機一髪の私を助けてくれたあそこに向けて首を振り向いた時、そこに立っていたのは
「何またお嫁さんといちゃついてるんですの?」
先ルビー様と一緒に私達と別れて後から合流した生徒会副会長の赤城さんでした。
っていうかお嫁さんって…
「あ、すみません。みもりちゃんが急に寂しいから抱っこして欲しいって。」
言ってないよ…そんなこと…
「赤城さんの巫女姿、久しぶりだね。」
「そうですの?まあ、あなたとは違ってわたくしは年に一度くらいしか着ませんから。」
見習い巫女の青葉さんと違って自分にはあまりこの服を着る機会がないって話している赤城さん。
でも初めて見る赤城さんの巫女姿はあまりにも優雅で気品が溢れてつい見惚れて…
「みもりちゃん…?あなたのゆりはここですよ…?」
あ…はい…
っとゆりちゃんは赤城さんのことから目が離せない私のことにすっごく怒っちゃいましたが
「でもさすが副会長です。オーラが違いますね。」
なんとか今の赤城さんのことを内心認めている様子でした。
鮮血のようにゾットする潤沢をまとった赤い髪の毛。
普段二つ結びでやっておく髪型は青葉さんと同じく水引の髪飾りでしゃきっと一本に整えて上品の上に神聖さまで加えてすっごく優雅!
何より色合いがいい!
さすが人気アイドル「Fantasia」の「赤城奈々」さんですねー何を着てもこんなにお似合いだなんてー
それに胸の大きさだってこんなに落ち着いてー最近私の周り、なんかボインボインした人ばかりでしたからほっとします。
「それって嫌味ですの?」
あ…すみません…
「まあ、あんなの所詮余計な脂肪に過ぎませんからわたくしには要りませんわ。動きにくいし肩も凝りますし。」
っと自分はあまりそういうものにこだわらないと言い切ってしまう赤城さん。
その堂々とした姿に私は一瞬彼女のことを見上げてしまったんですが
「とか言って赤城さん、結構気にするタイプなんでしょ?バストアップの体操とか毎日やっているし。」
「や…やかましいですわ…!」
その次の青葉さんの話で本人も結構気にしているってことが判明されて私は心の底から彼女の成長を祈ることにしました。
「む…胸のことはもういいですわ…!ほら…!行きますわよ…!緑山さん…!」
一刻も早くこの場から離れたくて早速仕事に入ろうとする赤城さん。
そんな赤城さんに
「ごめんごめん。」
っと青葉さんは今の言葉を謝りながら彼女の後を付きました。
「それじゃ私もそろそろ行きますね。みもりちゃん。後ほど見に行きますから。」
「うん。お仕事頑張ってね。」
「はい。みもりちゃんも頑張ってください。」
そしてゆりちゃんも私と別れの挨拶をして赤城さんのところへ…ってなんかゆりちゃん、こっちに戻ってる?
「そうだ。言い忘れましたね。」
「ん?何?」
っと私にどうしても伝えたいってことがある話があるというゆりちゃん。
もしかして赤城さんのこととかそういうことなんでしょうか…
「お仕事が終わったら庭の倉庫から待っててくださいね?あそこなら誰も来ないらしいですから♥グチョグチョにして待ってますね?♥」
早く行け!!
「虹森さんー」
って今度は青葉さん!?
もしかして青葉さんも私に言い忘れてたことがあったりするんですか!?
っと聞く私の話にどう分かった?って顔で驚く青葉さん。
でも青葉さんのことですから。
ゆりちゃんみたいなことは言わないはずでしょう。多分ですが…
「庭の掃除の時、一緒にする子に話しかけてみて。きっと私達のことを助けてくれるから。」
っと謎の一言を残して
「行こうか。緑山さん。」
そのままゆりちゃんを連れて行く青葉さんの背中を私はしばらくぼーっと眺めているだけでした。




