第72話
ほぼ6年ぶりにパソコンを変えました。結構長く使いましたね。
いつもありがとうございます!
「大きい…」
バスで降りた私達の目の前に広がっている壮大な「神社」の光景。
それに圧倒された私は口が閉じないくらいに驚きの極みでした。
私達が住む世界と「神樹様」がいらっしゃっている世界を隔てる「大鳥居」。
そしてその向こうに広がっている長い玉砂利の「参道」と雄大な「本殿」。
何より遠く見えるまるで「神樹様」のことを縮小したようなそっくりの大きな「神木」。
その美しさは言葉では言い切れないほど幻想的で神聖なもので私の胸からはなんだかグッとくる謎の気持ちがこみ上げ…
「みもりちゃんのおっぱい♥またこんなに大きくなって♥」
触るな!!
とにかくその全ては「神樹様」の信仰に篤い家で育った私の心の中を何かを改めて目覚めさせてくれたのです。
「すごい…」
「そうか。虹森さん達は初めてなんだ。」
「はい…」
思ったよりずっと感動している私のことをなんだかかん微笑ましく見つめている青葉さん。
彼女は自分の家も「神樹様」に仕える巫女の家系でこうやって私のように信仰深い人を見ると巫女の娘として誇りが持てるって言いました。
「うちのお母さん、地元では結構尊敬されているから。私もその娘としてちゃんとしなきゃね。」
っと言った時、青葉さんはいつものような平然とした顔を私に向けましたが私はわずかに薄く気づいていました。
「神樹様」に仕える巫女様の娘としてこの星の平和と調和のために励まなければならない青葉さん。
でもその正体は第3女子校に新たな分裂の風を引き起こした台風の目。
今の学校は理事長さんの指示によって学校内部のことが外には出れるようになんとか防いでいるんですがいずれこのことは必ず外の人達に知られてしまう。
そうなったら青葉さんの今までのキャリアも、今までの努力も全て水の泡になってしまう。
巫女の娘であるながらも自ら先頭に立って生徒達を扇動し、分断させてしまったことが世間に知られたら私達は彼女のことをもう二度とテレビでは見られないでしょう。それどころかもうこの国では生きられなくなるかも知れません。
それほど今の彼女がやっていることはこの世界にとってやってはいけないことなんです。
でもそれは多分青葉さんのご自身が一番分かっているはずでしょう。今の自分の行動によって巫女様のお母さんや家族皆、ひいては種族全体にまで災いをもたらすことになりかねない。
巫女の娘として誰より皆のことを考えなければならない自分が却って皆を煽り立ててお互いを憎ませている。
その矛盾と乖離から生まれるとてつもない罪悪感と潰されそうな重圧感。
それを承知の上で彼女は自分の手を底知らずの沼の底にどっぷり浸けていました。
いずれ訪れる破滅を静かに待っている青葉さん。
でも彼女の目には微塵の躊躇もなかったことをその時の私は既に気づいていました。
でも何が彼女をそこまで追い詰めてしまったのか。
巫女の娘としてその教えを受け継いで「神樹様」の思召を敬虔に自分の心に刻み込んだ彼女はなぜ怪物にならなければならなかったのか。
私はその理由を今はまだ彼女自身には聞けませんでした。
でも一つだけは確信していました。
彼女はきっと自分の心が信じている最も正しい方法を選んだと。たとえそれがこの世界にとって有益で正義とは認められないものであろうとも。
「あ♥みもりちゃん、腋に毛が生えましたね♥私がもらっていってもいいですか?♥」
そしてこの場の空気を壊すのはいつでも私の大切な幼馴染の少女でした。っていたっ!
「ちょっ…!力で抜くと痛いよ…!」
「えへへ♥みもりちゃんの脇毛♥今夜のごちそうです♥」
なんかめっちゃ嫌ですけど!?その表現!?
「二人って本当仲いいんだね。ならちょうどいいんじゃない?ここの神社って縁結び神社で有名なパワースポットだから。」
「え…縁結び神社…!」
ニヤニヤした顔でガイドさんみたいにここの神社の詳細を説明する青葉さん。
当然ゆりちゃんは大喜びしましたが本当のことを言うと実は私も普通に興味がありました。
学校の神社のことは入学前からよく知っていました。
何だって入学前にゆりちゃんが毎日
「ここ見てください、みもりちゃん!縁結び神社ですって!私はみもりちゃんの花嫁でみもりちゃんは私の花婿さんですから何が何でも行くことしかありませんよね!?」
っと学校紹介のパンプレットを見ながら燥いでいましたから。
でも結局私は行けなかったんです。
理由は簡単。私があの家に連れられたからです。
「所詮はまがい物の救世主。神擬きに人間のことを操らせるわけにはいきません。」
っと「神樹様」の存在を否定してきた御祖母様。
御祖母様は
「結局人間のことは人間の手でしか動きません。我々は同じ人間として彼らを外道から守り、正しい道に導く義務があります。あんな得体も知れないものに惑わされてはいけません。それが我々「防人」の努めなのです。みもり。」
っと「神樹様」に関わっているその全てを否定するように私に命じました。
「神樹様」がこの地で成し遂げたかった理念。人々がもっと笑顔で暮らせるように願っていた理想。そのために私達に与えてくださった夢。
その全てを自分の頭から捨てなさいと御祖母様は私にそう命令しました。
でもお父さんは私にいつもこう話しました。
「強く、優しく、そして正しく生きなさい。みもり。」
だから心だけで抗えました。
御祖母様が私に押し付けたのは自分が信じている正しさとは真逆の閉鎖的で歪な愛に満ちた世界。
私はその世界で生き延びるために全力で自分の心を保ちました。
結果的私の精神は崩壊寸前まで追い詰められ、回復には相当の時間がかかりましたが私は自分の心だけは守ることができました。
この皆と繋がりたいっというこの気持ちだけは…
「どうしたんですか?みもりちゃん。そんなにじっと見てて。」
そして私の大切な幼馴染は私があの家で耐えられるようにしてくれた私の希望となり、私はそのことを誇らしく思っています。
「ううん。なんでも。」
「もーなんですか?もったいぶっちゃって。」
だからゆりちゃんと念願の縁結び神社に来られて本当に良かったと思います。
「ここの神社で愛を誓うと必ず結ばれるって言い伝えがあってね?外の人達だけではなく本校生達にも大人気なんだ。」
「へえーそうなんですねー」
…ってあれ?うちの学校って女学校なんじゃ…
「素敵ですねーね?みもりちゃん。」
「え?あ、うん。」
まあ、ゆりちゃんも嬉しそうですし別にいいでしょう。
ネットでも有名な縁結び神社で知られているここでは毎年たくさんの結婚式が行われているそうです。
特に去年からは予約が来年まで全部埋まっちゃうほど殺到しているそうです。
その理由は当然去年入学した青葉さんの祝歌。
「神社」と「教会」のおかげで陸地生活ができる青葉さんは「見習い巫女」としてルビー様のお手伝いをしているそうです。
その主なお仕事の一つが新しい未来へ向けて歩く新婚さん達のために祝福の歌を歌うこと。
他ではできないここの神社だからこそ聞くことができる青葉さんの生歌。その評判は当然多くの人々を呼び寄せるに十分なものでした。
「でも巫女様から聞いた話によると今の3年生達がもたらしたシナジー効果もあるらしい。何と言っても3年生にはあのスーパーアイドル「Fantasia」がいるし。」
「へえーそうでしたねー」
伝統的にここ第3女子校の音楽科の生徒は順番で「神社」や「教会」で歌うことになっているらしいです。
もちろん首席であるみらい先輩や会長さんも歌ったことがあってあの赤城さんも「教会」で歌ったことがあるそうです。
「昔は3年生にしか歌えなかったけど去年からは皆で歌うことになってね。」
「あ、もしかしてそれも会長さんが…」
っと聞く私に答えの笑みを浮かべる青葉さんのことに私は会長さんがこの学校で成し遂げたものがいかなるものか改めて知ることができました。
そして今日、私達は青葉さんという「見習い巫女」の地位を利用したかな先輩と赤城さんの仲直り大作戦を目論んでいます。
名付けて「幼馴染仲直り大作戦」!
「まあ、そのままだけどね。」
「やっぱり「幼馴染ハメハメ大作戦」の方が良かったのではないんですか?」
え…なにそれ…怖っ…
っとツッコミを入れる青葉さんとまだ作戦名にこだわっているゆりちゃんですがとにかく青葉さんが練り出したのはこうです。
「多分今日のセミナー準備作業に中黄さんも参加するはずだから。ああ見えても責任感強くて真面目な人だから仮病なんかで任された仕事をほったらかしたりはしない。今日のチア部の代表は中黄さんだから。」
「さすが同じ部屋のルームメイト…詳しいですね…」
かな先輩のことなら赤城さんの次くらいはなるつもりだと自身を持って言い切る青葉さん。
でも私が知っているかな先輩は確かに責任感の強いとてもしっかりした人でした。
初めて会った時、自分とぶつかった私の面倒を最後まで見届けてくれた優しい人。
先輩ならきっと今日のお手伝いに来てくれると私もそう信じています。
「私は生徒会の代表者である赤城さんと作業の指示や巫女様のサポートする予定だから。そこで私が赤城さんのことをうまく誘導して例のイベントに参加させる。多分緑山さんは私と一緒になるはずだと思うから虹森さんには中黄さんをそこまで連れてきて欲しい。」
っと青葉さんが私達に予め説明してくれた例のイベント。
それは「神社」から進めている生徒向けのイベントである「神前式体験」でした!
伝統的な白無垢や色打掛などを着て挙式を挙げる「三々九度」や「祝詞奏上」などを儀式を通して絆を結び、神に二人の愛情を報告する「神前式」。
それはまさに女の子の夢でありずっと夢見てきた憧れの世界。
「神社」や「教会」は特にこういう「結婚式体験会」を積極的に宣伝していました。
「「神前式」…なんという響きなのでしょう…」
その単語を聞いただけでゆりちゃんはもうこんなにうっとりしてて感動の渦潮の状態。
でもそれは私も同じ感想でした。
子供の頃、一度だけ子役モデルとして聞いたことがある真っ白なウェディングドレス。
お母さんの知り合いの方からの雑誌に私達のウェディングドレス姿を載せたいというお願いでわけも分からなく着せられた生涯初めてのウェディングドレスでしたが
「ゆりちゃん…きれい…」
私はカーテンの向こうから現れたウェディングドレスを着た幼馴染の姿を今もはっきり覚えています。
「ど…どうですか…?みもりちゃん…変じゃないですか…?」
多少恥ずかしいのか照れくさいような、それともぎこちないような顔をしているゆりちゃんでしたが
「ううん…すっごくきれい…天使様みたい…」
私がそう言った時、ゆりちゃんはとても幸せそうな顔をしていました。
栗色の髪を丁寧に結びあげてウェディングベールの中からほっぺを染めているゆりちゃんは本当に私の理想のお姫様でした。
背中に羽でも生えているのかその足元はとても軽やかで優雅で…
「また着られるんでしょうか…これ…」
っと聞くゆりちゃんがあまりにも愛しかった私。
その姿がいつまでも見たかった幼い私は
「き…着られるよ…!私がゆりちゃんのこと…!花嫁さんにしてあげるから…!」
自分も知らないうちにいつの間にかゆりちゃんの話も聞かずあんな約束をしてしまいました。
今思えば多少は恥ずかしい思い出ですがその時のゆりちゃんはとても嬉しそうでした。
私の言葉にほっとした笑顔になって
「はい…約束です…」
私と指切りでその時のことを待ってくれると約束してくれたゆりちゃん。
ゆりちゃんはその日を今もずっと待ち望んでいました。
お母さんとお母さんの知り合いの方はそんな私達のことを見て可愛いって笑いましたがその時の私は心の中で自分に誓いました。
何があっても私がまた着せてあげよう。ゆりちゃんのウェディングドレスを自分が着せてあげようっと。
だから私も、ゆりちゃんもこんなに感動しているんでしょう。
あの時の感動が今もこの胸の中で生きているから…
でも残念ながら今回私達はその「神前式体験」には参加しない予定です。
なぜなら
「私はこれを利用して二人を仲直りさせるつもりなの。」
これは青葉さんが提案した「幼馴染仲直り大作戦」の大事な決め手だからです。




