第68話
最近少し遅い年で運転を習っています。今までは何とかやっていましたが最近ちょっと必要になったと感じられましたね。
いつもありがとうございます!
「そうやって私はゆりちゃんのお父さんのおかげで無事に家に帰れたんです。」
「なるほどですわね…」
今までの話がさぞ衝撃だったのか驚きを隠しきれないままの赤城さん。
でもさすがにこういう話、簡単に聞けるものではありませんから当然としたら当然な反応かも知れません。
その時、私は世界政府に捕まっている「大家」の人達と交換されました。
御祖母様は私への興味を全部失っていてそれを薬師寺さんがゆりちゃんを経由してゆりちゃんのお父さんと私のお父さんに伝えました。
あの時は「大家」は幹部の何人かが世界政府に捕まって色々困っていて
「まあ、いいでしょう。もうあなたに要はないんですから。」
御祖母様も薬師寺さんの意見に許可して私を家に帰らせました。
交換が行われたのは「大家」所有の私有地で世界政府からはゆりちゃんのお母さんが勤めていた陸軍特殊部隊「Ultra」が、「大家」からは「黒砂」が同行して最後まで立ち会うことになりました。
「ゆりちゃんのお父さんは私を救うために世界的な重犯罪者を開放しました。このことで「緑山」家の地位は随分下がることになりましたがおじさんはこれで済むのはむしろ安いものって全然気にかけないでくれたんです。」
「人獣」「12家紋」の中でも際立った権威を誇っていた「馬の一族」。
このことでゆりちゃんちは世界政府での発言権を大分失い、私はそれを自分の責任だとずっと自分を責めていました。
でもゆりちゃんも、おじさんも
「これであなたが助かったのならむしろ幸運です。だからそんなに気にしないでください。」
っと私には何の責任もないとそのことを全然気にかけませんでした。
「私が今こうしていられるのは私のためにゆりちゃんが、おじさんやお父さん、色んな人達が私のために頑張ってくれたおかげです。」
だから私は今の時間を大切にしたい。ようやく気づいた自分の本当の心にちゃんと向き合いたい。
私にはたくさんの借りがあるんだからそれにちゃんと答えてあげたい。
そう思っているから私はこうやって赤城さんとかな先輩のことにこだわっているかも知れません。
「だってやっぱりたった一度だけの高校生活ですから楽しまなきゃって。」
そう言った時の私を見る赤城さんの目はなんだか私のことを見直した気がしました。
「…思ってたよりあなたはずっと大人でしたわね。」
「えへへ…そうでしょうか…」
思いがけない褒め言葉にどんな顔をすればいいのか私はただそうやって自分の照れくささを隠していましたが本当のことを言うとやっぱり去年のことなんてあまり考えたくもないです。
あの時は本当に苦しくて辛くて毎日を涙で過ごしていましたから…
でも私は私を信じて自分の痛い過去のことを話してくれた赤城さんの気持ちに自分なりにも答えたかったんです。
皆それぞれの苦しい時はあってもこうやってお互いの背中を押し合って、手を引き合って一緒に前に進もうとしているってことを教えてあげたかったんです。
まあ、結局私はゆりちゃんがあそこに行って薬師寺さんと接続してくれたおかげで家に帰ってきただけでなんにもしなかったんですけど…
「それは違いますわ。」
そう思っていた私の怯んでいた自信を否定してくれる赤城さん。
彼女はそれは決して卑怯なことではないと私を励ましてくれました。
「そんな大変な状況の中でもあなたは大好きな緑山さんや皆を信じて自分を失わずに自分でいられた。それだけでも十分上出来ですわ。」
「自分で…」
「だから胸を張ってもう少し自分を褒めてあげなさい。わたくしはそれこそ「人の輝き」と思いますわ。」
赤城さんはあの家の生活の厳しさや理不尽さの中でも自分を失わずしっかり保っていた私のことをそう褒めてくれました。
周りに惑わされず、持つべきの自分を一瞬でも手放しなかった去年の自分をもっと大切にし、褒めてあげようっと。
でも私はふと赤城さんが自分にはできなかったそのことを心から悔やんでいるように見えていたんです。
心の迷子になってさまよっている哀れな少女。
今までずっと自分を導いてくれたかな先輩という道標を失ってしまった赤城さんはそうやって自分にはできなかったことを私を見て羨んでいました。
「ありがとうですわ。辛い話だったのに。」
「いえいえ。赤城さんだってかな先輩とのこととか正直に話してくれましたから。きっとゆりちゃんだってそうしたはずです。」
互いの傷を知り合い、癒やして慰め合う。
それこそ一緒に成長することというのを私も、ゆりちゃんもお互いのことを見てよく知っていました。
「ずっと謎でしたわ。あの人、いつも生徒会室では「なんだか今日はすごくみもりちゃんを犯したい気分です」とか言っているくせにとんでもなく強そうだったから。なるほど。あの「伏魔殿」の「深淵」でしたわね…」
「はい。あ、でもこのことはくれぐれも内密にしてください。あそこの存在は外には知られてはいけないってゆりちゃんが…」
「もちろんですわ。その代わりにあなたにも今のことは二人だけの秘密にしてもらいます。」
「はい、もちろんです。ありがとうございます。赤城さん。」
って今さらっとすごいこと言ってません?
でもまさか中学校のお二人さんにそんなことがあったなんて知りませんでした。
中3の冬の頃からなんか様子がおかしくなったというのはもう知ってましたがまさかかな先輩がそんなひどいことを言っちゃったなんて…
でも私はそれが本当に赤城さんのことが嫌になってやったのではないと思います。だってかな先輩は赤城さんの話題になったらすぐ悲しくなっちゃいますから…
本当は今も赤城さんのことを大切に思っていると私は信じています。きっと何か事情があって…
「だからちゃんと話をすれば…」
「わたくしはあの人から「嫌い」って言われたのが悲しかったことではありませんわ。」
自分は決してかな先輩から嫌って言われたのが悲しかったわけではないと言い切る赤城さん。
彼女は既にかな先輩の気持ちが全部分かっていたことを今の赤城さんを見て私ははっきりと分かるようになりました。
「あの人は嘘が下手くそですから。そんなのとっくに知ってますわ。」
「ならどうして…」
分かっているのなら謝って仲直りすればいい。
誤解は解けばいいから同じ「解」の字だと私はお母さんからそう習いました。私もゆりちゃんと食い違ったことなんていくらでもあったしちゃんと向き合って話して解いてきました。
でもそんな私の安易な考えをまるで欺くようにそこにはより深い理由が潜んでいたことを私は次の赤城さんの言葉から気づいてしまいました。
「わたくしはあの人がわたくしのことを最後の最後まで信じてくれなかったことも、そしてあの人にそんなことを言わせてしまった自分のことも許せませんでしたわ。」
窓を通して吹いてくる風。
そしてその風に靡かれる彼女の鮮血の髪はとても美しかったんですが
「わたくしは結局あの人の力にはなれなかったんですの。」
彼女の表情は夕暮れの影のように寂しく、そして悲しく見えていました。
「あの時、あの人が「超能力者」として覚醒したのはもう知ってますわ。そしてそのことで悩んでいたのも、わたくしのことを遠ざけたのも。お義母様はわたくし達の仲がグレることを恐れられ、そのことをわたくしに教えてくださったんですの。結局何の能力だったのかまでは教えてくださらなかったんですがこの期に及んではもうどうでもいいですわ。」
「能力…」
そういえばいつか先輩が言いました。
「実はかなちゃん…あまり自分が能力者ということが好きじゃないみたいで…」
って。
何の能力なのかも人の前では絶対見せないというかな先輩の「超能力者」としての才能。
私はそれが原因となって赤城さんとの喧嘩を及ぼし、その挙げ句、お二人さんの今までの、そしてこれからの人生が狂うようになったことを分かるようになりました。
でもそれが全ての原因ではなかったことも赤城さんは私に教えてくれました。
「それはただのきっかけに過ぎませんでしたわ。わたくしはこの世の終わりが訪れてもあの人との絆に揺るぎはないと信じてやみませんでした。死がふたりを分かってもわたくし達はお互いのために喜んで死を受け入れられる。だがそう信じていたのはわたくしだけだったことを知らされた時、わたくしはそれ以上、あの人の傍にはいられませんでしたの。」
その時に感じた純粋なる絶望。
かな先輩の傍から離れざるを得なかった赤城さんはあのままかな先輩との生活から消えてしまおうとしたそうです。
「わたくしはあの人に何が起きても全部受け入れるつもりでしたの。なのにあんな些細なことにもあの人からは何の信頼も受けられなかった。だからいっそこのまま夜に戻ろうとしたんですの。まあ、結局できませんでしたが。」
辛くても、どうしようもなく痛くても彼女は夜には戻らなかった。
いや、多分戻れなかったと私は思います。
「だってわたくしにはまだあの時の約束がありますから。」
彼女は決して先輩との最後の約束まで手放しにはしたくなかったのです。
「結局わたくしにはあなたや緑山さんのように異なる種族同士で分かり合うことなんて端から不可能でした。所詮わたくしは吸血鬼。あなたのような人間に比べてはあまりにも異型の存在ですわ。」
だからこれ以上のお互いのことを分かることを諦めてしまったという赤城さんのその言葉のが私はなんだかすごく…ものすごく心痛かったんです。
「多分あなたは会長から言われたんでしょう。わたくしのことをよろしくっと。」
「ギクッ…!」
「まったく…本当に人が言い過ぎますわね。あなたも、わたくし達のアイドル大統領様も。他にはおそらくあの紫村さんとか。」
既に今朝の会長さんのことや寮長さんのことまで把握している赤城さんのことにどんな顔でごまかしたらいいのか混乱してしまった私!
そんな私の隠しきれないバレバレの反応に赤城さんは呆れたって笑いながらも
「ありがとうございますわ。こんなわたくしのことにかまってくれて。」
なぜか私にお礼を言っていました。
「さすが会長ですわ。やはり人の頭が見えるのは恐ろしいですわね。」
改めて会長さんの能力のことについて恐れの気持ちを表す赤城さん。
彼女は急に今企んでいた計画のその全てを何故か私に全部解き明かしました。
「その通りですわ。わたくしは会長がいらっしゃらないこの機に乗じて生徒会を乗っ取り、統廃合を進めてそのまま合唱部や「Scum」、「百花繚乱」などの大型部を縮小、及び弱体化を目論んでいますの。そしてその隙間に突き込んで生徒会がこの学校の全てを管理する。ここまでがわたくしの計画ですわ。」
「赤城さん…?」
どうしてこんなタイミングで自分の計画の全貌を私に明かすのか。
その意図をたどり着いてみた私はまもなく薄く気づいてしまいました。
「もうわたくしは自分の心をどうにかできませんわ。」
彼女は私に望んでいたんです。既に自分の制御から離れて自分にも抑えられない心を止めて欲しいと。
自分が進めようとしているこのことが今の学校の状況を解決するところか前より悪化してしまうということをよく知っていた赤城さん。
でも彼女にはもう自分の足で止まるという選択肢がなかったのです。
このままでは彼女は本当の意味で皆の敵になって独りになってしまう。
私は彼女にそんな悲しい青春を送って欲しくなかったのです。
でもその同時に私はふと気になってしまいました。彼女はなぜここまでして学校を守ろうとするのか。
ただ親や祖母がこの学校の出身だからと言うにはあまりにも過激な手段。
だがその理由もまたあまりにも単純で純粋なものでした。
「わたくしは学校の一番のアイドルになってわたくしのことをあの人に見せたかったんですわ。」
ただ好きな人に自分のかっこいいところを見せたい。
その願いはあまりにも純粋で勝手だったので私は次の言葉すら忘れられてしまいました。
「「一緒にアイドルをやろう」。それがあの人との最後の約束だったんですから。」
でもその約束は最後まで叶わなかった。
赤城さんとかな先輩の間で生まれてしまった誤解の種はやがて取り返しがつかないほど大きくなってやがて二人の間の巨大な壁となりそのまま二人を分かってしまいまいました。
先輩の方からいくら壁の向こうから赤城さんの方に向かって声をかけてもその切ない声は空中に散るだけで決して彼女には届かない。
それでも彼女は大好きな人と交わした最後の約束だけは今もずっと大切に胸の奥にしまっておいていました。
「わたくしは会長のように立派なアイドルではありません。純粋に自分のエゴのためにアイドルをやっているだけですわ。あの人を振り向かせたい、ただその一心で歌っていることに過ぎません。そのために会長や他のアイドル達のことを乗り越えなければなかったんですが今のわたくしなんかの実力では誰にでも勝てませんから。だから自分以外は目立たないようにすればいいって思いましたわ。」
彼女はこんなことを思い出した自分のことを心から恥じらっていました。
「卑怯というのは分かっていますわ。正攻法では敵わないから自分の地位を利用して自分だけが目立とうとするなんて。ですが半人前のアイドルであるわたくしにできることなんて精々これしかないんですの。」
歌うことを楽しんでなくて皆を笑顔にさせられない自分のことを会長さんのような本当のアイドルだと自分が認められなかったそうな赤城さん。
でも彼女にはそこまでしても振り向かせたい人があることを知っていた私は彼女の自己嫌悪に同調できませんでした。
「こんな気持ちになるくらいのなら最初から会わなかった方が良かったものを。」
でもそうやってかな先輩との出会いを後悔しようとした赤城さんを
「それは違います…」
私は止めずにはいられませんでした。
「私はそれでもやっぱり赤城さんが先輩に会えて良かったと思います…」
「虹森さん?」
人の人生はそう簡単に変わらない。
でも私達はその変わりそうもない人生がひっくり返すほど大切に出会いに会うことができました。
だって赤城さんのことを心配してくれる人がこんなにもたくさんいますから。
でも私は赤城さんのことを誰より心配して大切にするあの人の心だけは裏切らないで欲しいです。
「先輩はたった一度も赤城さんとの出会いをそんな風に後悔したことがありませんから…だから…」
かな先輩はあまり赤城さんのことを言わないようにしてましたが一度だけ私にこういう話をしてくれたことがあります。
「でも私はやっぱりななに会えて良かった。今この痛いって気持ちだってななと出会ったこそ知ってた気持ちだから。」
後悔しない。先輩はどんなに辛くても痛くてもあなたと出会ったことに悔いはないと言いました。
「だからそんな風に自分の大切なものを手放さないでください…赤城さんがそんな…そんなこと言ったら先輩が可哀想ですから…」
赤城さんの苦しみを分からないものではありません。でもあの時の先輩、すごく寂しそうだったから。
もう戻れないって、元にはなれないって密かに泣いていましたから。
「だから大切にしてください…あの人と出会ったこと、お互いのことを好きになったこと…先輩との思い出まで独りにはさせないでください…それはきっといくら時間が経っても変わらない赤城さんだけの宝物ですから…」
「虹森さん…」
私は謝りました。先輩のことばかり肩を持つような言葉だけで赤城さんのことを全然考えてなかったことを。
でも赤城さんにはこれ以上自分の気持ちに嘘をついて欲しくなかったんです。
それは去年の私のように自分の心から目を背けさせ、結局好きなことから自分を引き離す最悪の結果を招いてしまいますから。
これは私が自分の身を持って学んだ大切なことでこれからもずっと大切にするべきの私のもう一つの宝物でした。
そしてそんな私の気持ちをちゃんと分かってくれた赤城さんは
「分かりましたわ。」
今のような言葉は二度と言わないと約束してくれました。
「不思議な人ですわね。あなたという人は。」
「そ…そうなんでしょうか…?」
「ええ。だってわたくし、今までこんな話、誰にもしなかったんですもの。」
一体何が自分をその気にさせてしまったのかすごく珍しがる赤城さん。
彼女はもしかするとこれこそ私の才能かも知れないと自分にもよく分からない才能のことを称えてくれました。
「あなたには人の心を引き出す才能があるかも知れませんわね。」
「才能…」
そしてそれはきっと強力な武器になるはずだと
「飾らず自分の気持ちを素直に伝えること。そしてそれに引かれて相手もまた自分の心を全部見せてしまう。会長とはまた違って別の方向性で人の心を自分の方に向かせる力かも知れません。」
いつまでも大切にしなさいって言ってくれました。




