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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第3章「カナナ」
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第66話

いつもありがとうございます!

「まあ、当然だよ。あんなひどいこと言っちゃったから嫌われても仕方がないよ。」


話が終わった後、かなはそのことについて当然なことだとそう受け入れるような顔をしていた。

諦めて当たり前なことだと言わんばかりの断念して納得してしまう顔。

ゆりはかなのそういう顔が嫌だった。


「でも私が考えるには多分それが理由ではないと思います。」


だが今の私ではっきりと分かったことがあった。


「副会長は決してそれのせいで先輩のことが嫌いになったわけではありません。」


ななは決してたったそれだけの理由でかかのことが嫌になったわけではないということを。


「だって先輩、嘘つくの下手くそですもの。誰かさんと一緒に。」

「それ…絶対モリモリだとね…?」


自分の大好きな子と同じく正直で素直な人。

ゆりはかなのことをずっとそう思っていた。


「正直に驚きました。先輩がまさかあの事象能力の「超能力者」というのは。今まで合ったこともなくてお母様だった軍で一度しか見たことがないとおっしゃいましたから。でもそれが弁解になってはならないと思います。」


ななに嫌われることを自分への罰だと甘んじてそのまま受け入れているかな。

その挙げ句、ついにななの傍から離れようとするかなのことがゆりはどうしても許せなかった。


「副会長は鋭い人ですから先輩の嘘なんてとっくに昔からバレたはずです。先輩は副会長のことが大切すぎて彼女のことを守ってあげたいって思ってからの思いやりかも知れませんがきっとそれがどうすることもできないほど悲しかったんでしょう。」


自分だってきっとそうだろうとその時のななの気持ちがよく分かってくるゆり。


「大好きな人から信頼されない気持ちなんてそれ以外、惨めで悲しいことはありませんから…」


ゆりはそれだけは死んでも嫌だった。


一生懸命隠したようだが詰めが甘くて隠しきれなかったかなの転校届。

それが目に入った瞬間、ゆりは先の悲しんでいたななのことを思い出してしまった。


「副会長、とても悲しんでいましたから。もうあの時は戻れないって。なのに先輩はそんな副会長をおいて他のところに行っちゃうなんて…その上、私達には一言の相談もせず…」


ほっぺを膨らませて今のイライラした気持ちを表すゆり。

そのことに非常にまずいって感じたかなは


「あはは…ごめんごめん…」


ここは一旦誠心誠意の謝罪あるのみと思ってこのことをお詫びすることにした。


「なんかもうななに迷惑掛けたくなくてね。ななも結構気にしているようだしあんなに嫌がるのにいつまでも絡まるのは単なる自己満足じゃないかなって。」


しおれた笑みで一人で抱え込んでいた気持ちを打ち明けるかな。


「往生際が悪いって思われてもどうしてもななに謝りたかったんだ。でも今更全部話したところで言い訳にしか聞こえないだろうと思っていっそこのまま離れてあげた方がいいかなって。

ごめんね?相談もせずに勝手に決めちゃって。」

「こ…今回だけは許して差し上げます…」

「あははーなんかユリユリって本当にななと似ているかもー」


そんなかなのことをゆりは今回だけに限って許してあげることにした。


「でもどうして副会長に正直に言わないんですか?言い訳にしかならないって先輩は言いましたが副会長ならきっと分かってくれると私は思いますが…」

「ん…確かにななならそうかも知れないけど…」


少し答えを迷うかな。

だがかなはたとえどのような理由があってもななの傍から離れてはいけなかった。

それは自分にも、ななにも分かっていたことだからこそかなはなおさら自分の体のことが話せなかった。


「だからちゃんと謝って本当のことを言おうとしたんだ。でもそれがなかなかうまくいかなくてね。」


自分の中途半端な思いやりが招いてしまった結果。

あの時、ななを自分の能力から守るために自分の傍から離したことを後悔しなかったが時々思ってしまう。


「私がもっときちんとしていたらきっとそれよりもうちょっといい方法を考えたかも。」


小さかった自分。かなは幼かった中3の頃の自分を愚かな間抜けだと思っていた。

本当は諦めかけようとした。これ以上、ななには迷惑は掛けたくなくてこのままこの学校を卒業しても意味がないと思って実家の方に戻って地元にある高校の編入試験を受けようとした。


「本当にそれでいいの?かな…」

「うん。もうななには迷惑掛けたくないから。」


母は電話でそう言っている娘のことが本当に心配だった。

娘にとってなながいかほどの存在なのか、それをよく知っていた母はなんとか娘を説得したかったが


「お母さんがななちゃんとちゃんと話し合ってみるよ…かなの能力のことも、かながそうするしかなかった理由も…だから…」

「ううん。全部私が悪かったから。それに今のななじゃ多分それだけじゃ納得してくれないから。」


既に心を決めてしまったかなにそれ以上の話は続けられなかった。


「同好会にも後輩ちゃん達ができたからミラミラのことももう大丈夫だと思う。そもそも私は正式部員でもなかったし皆みたいに真剣に取り組んだわけでもないから。じゃあ、私はチア部の練習があるからそろそろ切るね?また電話するから。」


っと母との通話が終わった時、たとえ一瞬でもななの傍から離れてしまった自分を許せなかったかなの手には退学届が握られていた。


提出すればこの学校での全てが終わってしまうたった一枚の紙。

これを提出する時はきっとすごく寂しくて泣いてしまうかも知れないがそれでもかなはどうしてもななには償いたかった。


「ごめんね、なな。あの時も、そして今も逃げちゃって。」


傷つけたこと、そして逃げてしまったこと。

その全てに償いためにかなは今度こそななの人生から消え、二度とその前には現れないようにした。


「私はななが言った太陽やモリモリが思っているヒーローなんかじゃないよ。いつも怯えて逃げてばかりの弱虫にすぎない。本当は皆やななと別れるのは嫌だけど…すごく嫌だけど私は臆病で何も知らないから…私はこうやって逃げることしかできないから…だから…」


ついに涙を見せてしまうかな。

かなは自分のことを一度もヒーローとは思わなかった。肝心な時、相手のことを放っておいて逃げてしまう卑怯者。行き詰まったらただ迷うばかりで必ず悪手を打ってしまう愚か者。

それ以外、自分はなんにもなかった。


皆との別れを悲しみ、ななへの気持ちと自分の情けさに対する悔しみが混ざり合ったその涙を見た時、ゆりはただ


「辛い話だったのに話してくれて本当にありがとうございます。」


彼女の手をそっと握って自分を信じて素直に話してくれたことに感謝の気持ちを表した。


「ごめんね…ごめん…」

「いいんです。泣いても。」


抱きかかえる肩。

いつも強くて頼もしかったかなのその弱った姿はゆりの心をすごく痛ませてしまったがその一方、ゆりは初めて見ることができたかなの心の素顔にほっとするようになった。


「私、先輩みたいな人、よく知ってますから。」


辛くても、苦しくても決して自分の前では出さなかった優しくて可愛い黒髪の少女。

大好きだったアイドルができなくなって落ち込んでいた時も


「私はもういいから。私には向いてなかっただけ。ごめんね、ゆりちゃん。私のせいで。」


一緒にやってきた相手のことをあまりにも考えすぎて逆に自分自身のことを疎かにしてしまった優しすぎる子。

自分はあの子の優しさを心から愛していたがそんな風に軽く自分自身を傷つけることが嫌だった。


辛くても自分一人で抱えて全部我慢してしまう優しさ。自分はそれこそ呪いだと思っていた。


「先輩の周りにはもっといい人達がたくさんいますから。だから一人で何もかも全部抱え込まないでください。」


軽く撫で下ろすかなの金髪。

太陽から放たれて陽気をいっぱい吸い込んで真夏のひまわりのように自分達の照らしてくれたかなの存在が今までどれほどの支えになったのか、それをよく知っていたゆりはこんな形で学校を辞めることを決して許さなかった。


「先輩にはいつまでも私達のヒーローにいてもらいますからこんな結末なんて認められません。ヒーローは逃げずに立ち向かうべきのものですから。だからこれは私から処分します。」


っと机の上に置かれていた退学届を没収するゆりの行動にかなはただキョトンとした顔でそれを見ているだけであった。

だがその行動の中に潜んでいるゆりの優しさが覗けたかなは


「やっぱり優しんだな、ユリユリは。」


そうやってその照れくさい優しさを称えることにした。


「そ…そうでしょうか…私は自分のことをあまりいい人だなんて思いませんから…」

「でもユリユリはこうやって私のことを励ましてくれるから。本当にどうでもいい人ならそのまま放っておくよ。」

「で…ですが私はお二人さんのことを本当に邪魔者にしか考えませんからそんなに褒めなくても…」


予想外のかなの褒め言葉に少し難色を示すゆり。

かなはどうしてあのみもりがゆりのことをそんなに大切にするのか少し分かった気がして


「うまくいったらいいね。モリモリと。」


ゆりの幼馴染への恋心を全力で応援してあげた。


「ええ…!?ど…どうしたんですか…!?いきなり…!でもありがとうございます…!」


嬉しそうな顔。

かなは似た者婦婦の二人の後輩ちゃん達が同好会に入ってくれて本当に良かったとその出会いに心から感謝した。


「そういえば私はモリモリとユリユリの昔のこととかあまり知らないね。精々モリモリがあの「大家」の孫娘ってこととかユリユリと一緒にアイドルやってたくらいかな。あ、別に話したくなければ話さなくてもいいから。ただちょっとした興味なんだ。」


自分達と同じく子供の時からずっと一緒だった二人のことがふと気になってきたかな。

その質問にお土産で持ってきたおやつをかなと一緒に食べながらゆりは自分達の過去を振り向いてみた。


「そうですね。今とあまり変わりはないと思います。私、どこにでもいる普通な小学生で中学生でしたから。先輩のように学校のヒーローだったり副会長のように何か特別な才能があるってわけではなかったので特に。」


いつも同じ空間で同じ時間を過ごした。地元では有名な仲良しで元アイドルという経歴も持っていたが特に目立つタイプではなかった。

生徒会長だった自分はともかくみもりの場合は特にそうだった。


「何と言ってもみもりちゃんはあまり人前に出るタイプではありませんでしたから。でも普通に友達もいてそこそこ人気もありましたから。まあ、私はそういうの結構不満でしたが。」


多分告白まで考えた子はいくらでもいたと思う。

だがゆりは決してそれ以上みもりのところに他人からの接近を許さなかった。


「みもりちゃんは可愛くて性格もいいから良いかも知れませんが私は嫌です。みもりちゃんが他の子と仲良くするの…みもりちゃんには私だけを見て欲しいですから…」


人生初めてできた大切な幼馴染。

その黒髪の小さな女の子は今も記憶の窓から夕暮れに染まって自分に向かって手を振っていた。


「何の特別なこともない普通な毎日。私にとってかけがえのない宝物でした。」


たとえアイドルはできなくなったとしてもそれでもあの子との毎日が自分にとって大切な宝物ということは変わらなかった。

お互いのことが大好きで大事で大切だった普通な毎日。あの子は水泳部で、自分は生徒会でお互いの場所で精一杯青春を駆け抜けていた。


「だから失うわけにはいかなかったんです。」


どうしても守りたかった存在。自分の生きる意味。

その子のためなら命さえ安いものだとずっとそう思っていたはずだったが


「みもりちゃんが…「大家」に…?」


夕方、家に帰った時、父からそう言われたゆりは結局自分はその子のために肝心な時、何もできなかったという事実を思い知らされてしまった。


何もできなかった無力だった自分。そんな自分が「大家」からあの子を取り戻すためにできることは何なのか。

やがて見つけたその道は今まで経験したこともない苦しく、そして二度と元には戻れない「修羅の道」であった。


「先輩からも話してくれましたから私からも話します。私達の間に存在するたった1つの汚れた過去のことを。」


絶望に塗れて暗黒に染まった時間。

ゆりは失われたみもりとのその時間をずっとそう思っていた。

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