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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第3章「カナナ」
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第59話

いつもありがとうございます!

「そういえば緑山さんは昔あの虹森さんとアイドルをやったことがあるっと聞きましたが。」

「はい。その通りです。」


特に珍しい質問ではなかった。地元の辺りでは結構有名だったからたまに分かってくれる人も少なからずいたものであった。


「あの…!「フェアリーズ」のゆりちゃん…ですよね!?私、子供の頃、大ファンだったんです…!」


活動していた頃のチーム名は「フェアリーズ」。市役所のふるさと課で働いたみもりの母「虹森(にじもり)鈴子(すずこ)」が提案した町興しの一環として始めたそのローカルアイドルの活動はそれなりの成果を上げ、地元の発展に大いに貢献することができた。

それぞれ「森の妖精、みもりちゃん」と「山の妖精、ゆりちゃん」でアイドルとして活動した仲良しの幼馴染ペア二人は地元では知らない人がいないほどその辺ではなかなかの有名人となった。


「でも私達は結構昔に引退しましたから。だからあんな風に分かってくれる人がいるのは普通に嬉しかったです。」


もちろんアイドルとはいえあまり大したことはしなかった。

母が作った曲を大切な幼馴染の子と一緒に市民イベントで歌ったりケーブルテレビの番組に出て街の名所や見所を紹介するだけの地味な活動。

だがその頃は本当に楽しかったとゆりはそう覚えていた。


「そうでしたわね…」


その言葉に少し考え込むなな。

何か答えを求めているような彼女のそういう行動にゆりは


「どうかしましたか?」


今度は自分の方からななの疑問を解いてやろうとした。


「何か聞きたいことがありましたら遠慮なく聞いてください。」


ななとは特に交流があったわけではなかった。

だが自分の答えから何かを探そうとしているような気がしただけであった。


彼女は「夜の帝王」と呼ばれる「吸血鬼」の次なる頭領。一般人なら一生その目にかかることもできないとてつもない地位に付いている彼女であるがゆりの目には彼女はただ寂しがりのか弱い少女にしか見えなかった。

普段人前では堂々としてキリッとしている彼女だがここ最近の彼女はずっと何かを悩んでいる様子であった。

それがここんとこずっと気になっていたゆりはみもりが到着するまで少しでも彼女から情報を取り出そうとした。


「いいえ。特に理由はありませんわ。変なことを聞いてすみません。」


だがななはそれ以上、ゆりに何も聞かなかった。

ゆりからでは自分が求めている答えが聞けないと判断したのか、それともただ聞くことを諦めたのか。

だが確かだったのは


「…」


その曇った顔が自分に残したむしゃくしゃな気持ちはどうにかしなかればならないものだとゆりは本能的に感じてしまった。


「副会長はアイドルが好きじゃないですか?」


っと意外なところを突っついてくるゆりの唐突な質問に


「え…?」


まるで図星を指されたという顔でびくっとしてしまうなな。

普段幼馴染のことを犯すことしか考えない彼女がたまに意外のところで鋭く突っ込んでくることにななは少なからぬ驚きを感じていた。


「あ、すみません。大した意味があるわけではありませんのでそんなに気にしないでください。」


っとゆりはあの「Fantasia」の「真紅のシンデレラ」と呼ばれる超人気アイドルに対しておこがましいことを聞いたと今の発言について謝ったが


「どうしてそう思いますの?」


ななは彼女からそう聞いた理由について知りたいと思っていた。


「ただの感です。ただの戯言と考えてもいいです。」


どこまでも見せない本心。

しらを切るような顔でとぼける彼女のことにななはまた呆れたって顔を彼女に向けてしまった。


「あなた、そういうところありますわね。思いがけないところから突っ込んでくるというか。普段はあの虹森さんのことしか考えないのに。」

「うふふっ。ありがとうございます。」


「別に褒めているわけではありませんわ」っと呆れたそうに笑ってしまうなな。

だがゆりのそういう真っ直ぐで一筋なところが満更でもなかったななはむしろその屈しない素直さを密かに羨んでいた。


「そうかも知れませんわね。もしかするとわたくしはあなたやあの虹森さんのことから自分が求めている答えが見つけられるかも知れないと思っているかも知れません。」

「私とみもりちゃんのことですか?」


持っていたペンを置いてななを見つめるゆり。

日光から身を引いて奥の影から書類作業をしていたななはその満月のような目を昼間の太陽より強く光らせながら抱えていた彼女達への期待感を明かした。


「緑山さんは、虹森さんはアイドルのことを楽しいって思いましたか?」


そう言われた時、ゆりはやっと気づいてしまった。

彼女が今の自分のことを、アイドルのことを本気で楽しめないってことを。

それはいつかみもりから言った彼女に関することであった。


「赤城さん、なんかあまり楽しそうには見えないから…あんなにきれいで歌も上手なのにすごく苦しそうで…」


根拠はない。ただそう感じただけの感想。

だがゆりにはみもりの「人の心を見抜く目」に対する確信があった。

そしてそれは今、彼女からななのことを完璧に見透かしたことを証明してみせた。


「そうですね…」


やっとななの意図が見えてきたゆりは彼女からの質問に対する自分だけの答えを探して少し回想に浸ることにした。


「本当のことを言うと私はあまりアイドルのことをそう真剣に考えませんでした。ただみもりちゃんから私と一緒にやりたいっと言われただけのことで始めたことでしたから。最初はただみもりちゃんの笑顔が一番近くから見られただけで満足していました。」


街の人達や地元のことが好きだったのは事実だったが一番の理由はやはりみもりであった。


「ゆりちゃん、すっごく可愛いから絶対人気出るよ!」


ただあの子がそう言ってくれたから始めただけであった。

ただあの子を喜ばせてあげたいと思っただけであった。


「でも頑張っているみもりちゃんを見てなんだか自分も頑張りたくなりました。みもりちゃんの歌で皆が笑顔になって元気になるのがすごく眩しくて。これが本当のアイドルなんだって思ったのもあの時でした。」


ただ可愛い衣装を着て歌うだけではない。

皆を笑顔にしたいという気持ちと皆と繋がりたいという気持ちをいっぱい詰め込んであの子は誰より大きな声で皆の前で歌っていた。


「私はああいうみもりちゃんのことをずっと憧れていました。」


だから自分も頑張りたいと思った。

あの頃のあの子が伝えようとしたその気持ちを自分も受け継いでその背中を追いついて同じ景色を見ようとした。

何よりあの子の笑顔と同じ笑顔の自分になってその笑顔をいつまでも見届けてあげようと思っていた。

二人の少女はそうやって少しずつ自分達の未来への道を踏み出していた。


「みもりちゃんには人を引き込む力がありますから。一緒にいるといつの間にか自分も引かれて頑張るようになってしまう。だから私はみもりちゃんが大好きで愛しています。」


周りを元気づけて巻き込んで一緒に楽しくなる。

それこそ本当のアイドルだとその時からゆりはずっとそう思っていた。


「でもそういった幸福はそんなに長く持ちませんでした。」


っと残念な顔で名残惜しい気持ちを表すゆりのことをななはすごく寂しいと感じてしまった。


あの頃には知らなかったがみもりには「大家」の孫娘という出生の内幕が隠されていた。

「虹森」ではない「大家」の「鉄国」という血の柵がある限りその子は幸せにはなれなかったことをゆりはずっと悔しんでいた。


「小3の頃でしょうか。ある日、市役所から今後ロコドルの活動は中止って通告が届きました。後で調べたところみもりちゃんのことを前からずっと注視していた「大家」が裏から手を回したということが分かりました。「人界」に住んでいる限り「大家」には逆らえないから市役所の皆も私達の活動を止めさせずにはいられませんでした。」


「大家」のトップ「大母」と呼ばれる「鉄国(てつごく)七曜(しちよう)」。そして彼女の息子である「鉄国(てつごく)源之助(げんのすけ)」と妻の「虹森鈴子」の間から産まれたみもりには紛れもなく「大家」の血が流れていた。

ゆりはそのことを正しく「呪い」だと恨んで悲しんでいた。


「あのクソババア…みもりちゃんの御祖母様はみもりちゃんが産まれる前からみもりちゃんのことを後継者の候補として目をつけていました…「大家」は表には顔を出さないからどうしてもみもりちゃんの活動を防ぐ必要があったのです…それがあんな形で…」


今でも思い出させるだけで腹の虫が治まらないところか喉を這い上がって口から出そうな気分になるほど胸糞が悪い。

ゆりは「大家」のことを誰より嫌悪し、呪っていた。


「その時のみもりちゃんがどれだけ悲しんでいたのか…みもりちゃんだって別に望んであんな呪いの血なんかを受け継いだわけでもないのに…」

「緑山さん…」


歯ぎしりをするゆり。

ゆりにとって「大家」はいつも自分の大切なみもりを虐げる叩き潰すべきの永遠の宿敵だと言える存在。

だから今になってもあの「大家」だけは許せなく、その名前だけでこんなにいきりを立つのだ。


「でも…」


だがだからこそゆりは思っていた。


「それでも私は、私達はあの頃のことをずっと大切に覚えています…」


皆を笑顔にして自分達も笑顔になれる世界。

その夢のような世界のために前に進んでいた頃のことは今も自分の一番の宝物でかけがえのない大切な思い出であった。


「例えあんな形になってもそれが私達の一番の宝物ということは変わりませんから…大変だったけどその思い出だけはちゃんと持っていこうと…」


今でも悲しくて辛い思い。

だがゆりはだからこそその頃のことを悲しかった分まで大切に覚えようとした。


「私達がアイドルで楽しくて幸せだったことは本当ですから…今でも取り戻したいと思っているかけがえのない宝物ですから…」


もしそれを否定してしまったら自分は自分にいられない。

ゆりはそのことを心底から恐れていた。


「だからあの時、みもりちゃんを助けてくださって本当にありがとうございます。」


頭を下げて先日みもりのことを助けてくれたななにお礼の言葉を言うゆり。

だがそれだけは全然足りないとゆりはそう思っていた。


「みもりちゃんは私の全てです。私の生きる意味です。もしまたあの蛆虫共目にみもりちゃんを攫われてしまったら私は耐えきれず頭がどうかしたんでしょう。副会長が救ってくださったのはみもりちゃんのみならず私の命も救ってくださったのです。いくら感謝してもしきれないほどです。本当にありがとうございます、副会長。」


世界政府の樹立に誰より先頭に立って平和の旗を揚げた共存の主役である「人獣(ビースティアン)」。

その「12家紋」の中で最も大きな影響力を持っている「馬の一族」の「緑山」家。

ななは今自分に頭を下げているのが将来全ての人獣の首領になる人ということを誰より知っていた。


だがななの目に映っている彼女は幼馴染の無事を安心し、助けてくれた人への感謝の気持ちを惜しまず全部表しているただの優しい一人の女の子にしか見えなかったので


「生徒を守るのも生徒会のお役目ですから。お礼には及びませんわ。」


その気持ちをそっと受け入れることにした。


「いいですわね。そういう大切な思い出があるというのは。」


っとふと机の上に置かれている写真に目を移すなな。

それはもう拾うことも、やり直すこともできない壊れて溢れてしまった古く、大切な過去の欠片であった。


「本当に羨ましくなります。」


ゆっくり写真の中で笑っている一人の女の子を見つめるなな。

その目に宿ったのはほのかな懐かしさと濃い寂しさということを気づいたゆりはまもなくななを悲しませている少女の正体を推測することができた。

だがそれは自分を余計に悩ませるだけでななの胸の傷をこじらせるだけであった。


「本当…一体何があんなに嬉しかったんでしょうかね…この人は…」


ひまわりのような温かい金髪と晴れ渡った真夏の青空のように爽やかに光っていて真っ青な目。

何より真似もできないほど輝いているその元気な八重歯の笑顔はどんな宝石より眩しくこの世界を照らしていた。


それはまさしく「太陽」。

ななは「夜の一族」の身でその太陽を真心で愛していた。


「いつ見てもきれいですわね…あなたという人は…」


ななは写真の中でとびっきりの笑顔の少女をただそうやってそっとなでつけるだけであった。


「わたくしはあの人のことをずっとわたくしの「太陽」と思っていました。」


いつでも自分を見守って照らしてくれる眩しい太陽。

その温かさはななの憧れとなり、夢、希望であった。


だがななは決してその温かさには触れることができなかった。


「でもわたくしは「夜の一族」。決して太陽の傍にはいられませんわ。」


触れるだけで肌が焼かれて灰になってしまう。

それは「罪」、それは「罰」。夜にしか生きられない運命に定められた以上、その呪われた宿命には抗えなかった。

だからそれ以上、その子の傍にはいられなかった。


「「夜の一族」の分際で太陽を愛した罪。端からあの人とわたくしは結ばれる運命ではありませんでしたの。」


諦めたような口調。

もはや彼女の瞳からでは何の希望も感じ取れない。そのことが何より心痛かったゆりはただ悲しい目でななのことを見ているだけであった。


「あの人が写真の中でわたくしのことを見て笑ってくれればそれでいいですわ。もう傷つくこともなく、いつまでもわたくしを見て笑ってくれる。もうそれだけで十分ですわ。」


中学校の入学式。

新しい学校生活への期待感より二人同じ中学校に通えるのが何より嬉しかったあの頃の自分。

ななはその頃の記憶を祝福であり、呪いだと話した。


今では取り戻すこともできない溢れた思い出。

どんなに泣いて、喚いても割れた記憶は二度と元には戻れない。だからななは諦めてしまった。


あの子に関する全てのこと、期待、願い。

その全てを放り出してしまったななは二度と振り向くことも、祈って望むこともしなかった。

ただ自分の胸の端っこを許してそこにその懐かしさをそっとしまっておいてたまに開けて見るだけで過去の終着地を定めた。

もう自分には何も残ってない。だからこれ以上、絶望することも、傷つくこともなかった。


だがふとこう思ってしまう。


「もし私達も一緒にいることができたらあなた達みたいに笑顔になれたんでしょうか。」


もし彼女達と同じ道を歩むことができたなら何か変わったろうかと。


「でも過去は過去のままですから。」


そう言ったななはついに写真を元の位置に戻して事務を続けた。

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