第52話
いつもありがとうございます!
「ところでゆうなちゃんは何の用で生徒会室に行くんですか。」
「私?」
いつの間にか私達と一緒に生徒会室に向かっているゆうなさんに用意してきたお菓子を渡しながらその理由を聞く先輩。
これも私の護衛のお礼だらしいです。後でゆうきさんにも渡す予定だそうです。
「ななちゃんから学校外のセキュリティーついて話したいことがあるってね。私以外にも「Scum」の紫村さんと「Vermilion」のすみれちゃんも呼ばれたから。」
っと口の中に先輩のクッキーを入れながら今日の予定を話すゆうなさん。
私のことを気を使ってあえてなんてことでもないって感じて話しているんですがそれって多分私の家筋である「大家」と関係のあることなんでしょう…
仕方ないってことなのは分かっています。「大家」は今も私達が住んでいた人界にも至大な影響を及ぼしていてその目的のために多くの犠牲者を出しているんですから。
世界中あちこちから起きている世界政府に向けたテロ行為。彼らは「神樹様」による統治では「自由意志」を持って自由に生きる世界を唱えていました。
でも彼らはただの極端主義者に過ぎませんでした。彼らはただ自分達の種族がこの世界の支配する側にいたかっただけだったんです。
自分達以外の種族は決して認めない彼らは他の種族のことをただの下等生物にしか扱いませんでした。
人間だけではない様々な種族によるその暴力行為。世界政府はそのことを「悪」と宣しました。そしてその陰から皆を操っているっと指目された御祖母様の「大家」でした。
「この世界は誰のものでもない。皆の世界なんだ、みもり。」
でも「大家」の血が濃く流れているお父さんはいつも私にそう言ってくれました。
誰かを支配しても、支配されてもいけない平等で助け合う世界。
「神樹様」はそんな世界のために自分の身を捧げた方から生まれた神様だとお父さんはいつも「神樹様」に感謝していたんです。
だから私も信じていました。
「神樹様」が築かれたこの世界の平和を、その輝く慈愛を。
だからこそ衝撃だったんです。自分があの「大家」の首領「鉄国七曜」様の孫娘だったことが。
自分達が生き残るため、そして自分達以外の全ての種族を排除しようとする「大家」の血が私にも流れているってことを初めて知った時、私はその胸糞悪い事実にその場で吐いてしまったんです。
「大家」の目的はほぼ判明済みです。他の種族達を利用して最後の美味しいところを取ること。でもそれを分かっていたところで「大家」はどうにかできる組織ではありませんでした。
「世界政府や「神樹様」のことを嫌っている種族なんていくらでもありますから。彼らが活動するためにはどうしても「大家」の協力が必要です。」
っと「大家」のことを卑劣であくどい最低の組織だと歯ぎしりをしたゆりちゃん。
ゆりちゃんは私のことをさらってしまった「大家」のことが大嫌いだったんですが
「あ、でもみもりちゃんとは関係のないことですから。あなたの家系がどうだろうとあなたはあなた。私の大切なみもりちゃんです♥今日も汗だくですね、みもりちゃん♥スーハースーハーしてもいいんですか?♥」
相変わらず私のことをずっと大切にしてくれたのです。
でもやっぱり私は自分が「大家」の孫娘ってことが嫌でした。
って私の頭から何してるの!?ゆうなちゃん!?止め…!止めってば…!
と…とにかく今までずっと陰に潜んで他の種族を煽って戦わせてきた「大家」が初めて表から姿を現した。それもそれが「大家」の首領である御祖母様の次の有力者「死神」の「薬師寺天真」さんってことはこの社会に大きな揺らぎを招くほどの波及力をもたらしました。
「今学校はちょっとした非常事態だからね。既に学校の周りには世界政府からの軍が派遣されていて「百花繚乱」を含めた学校内の全組織にも世界政府からの通達が届いている。あ、でも絶対みもりちゃんのせいじゃないから安心して。「大家」はいずれ世界政府と必ずぶつかる組織なんだから。」
ってなんとか私に気を使わせたくなかったゆうなさんのお言葉はとてもありがたかったんですが私は私のせいで皆に迷惑をかけてしまったそうな気がして相変わらず不安のままでした。
「すまないな、みもり…お父さんのせいで…」
それに昨夜のお父さんからの電話からそう言われた時はもう本当に泣いちゃったんです…だって…
「私は大丈夫だから…別にお父さんのせいじゃないし…」
っと私が言ってもお父さんが泣いちゃったんですから…
私はそのことがとても悲しかったです…
でも色んな人達が私のために、そして皆のために頑張ってくれている。
その事実に私はなるべく前だけを向いて歩こうとしています。だってそれだけが皆さんの応援に応えられる方法だと信じて思っていますから。
大変なことだとは思いますが私は私なりに頑張ってみせようとしていますからどうか皆さんには安心して欲しいです。
「ところで今さり気なくあのすみれさんの名前が聞こえたような気がしたんですが…」
「あ、そうか。みもりちゃん、知らなかったんだ。」
っと私が聞き間違えたことではないって言ってくれるゆうなさん。
彼女はあの「手芸部」の部長でありながら大企業「灰島」の跡取り娘である「鬼」のすみれさんが「Vermilion」の部長ってことを私に教えてくれました。
「Vermilion」。「百花繚乱」や「Scum」と一緒にこの第3女子校の生徒を守ってくれる組織の一つで「人命救助」という崇高な理念のために命がけで一生懸命励んているすごい人達なんです。
「百花繚乱」や「Scum」と違って戦闘特化ってわけではありませんが「Vermilion」はここ第3女子校の生徒達だけではなく外の人達にもすごく尊敬されていて第3の歴とした誇りとしてその名が高いです。
でもあの二人と違ってアイドル活動をやっていないから今のところ学校内での人気は殆どありません。1年生の間にも「百花繚乱」や「Scum」の入部希望者はいくらでもいたんですすが「Vermilion」に入りたいって言った人はあまり見かけませんでしたから…
当然部員の数だって「百花繚乱」や「Scum」に比べると著しく少ない方でそのせいで分けられる部費も一番少ないらしいです。
「でもすみれちゃんはあの「灰島」のお嬢様だから。この学校で一番お金持ちだからそこはあまり困らないかもね。」
「あー確かにそうですね。」
まあ、確かにあの人はあの大企業「灰島」のお嬢様ですし私みたいな庶民と違ってお金に困ることなんてあまりないかも知れませんね。
聞いた話によると寮で暮らすことになる前には自家用のヘリで登校したそうですし…
本当にあるんですね…本物のお金持ちって…
でもそんなことより…!
「びっくりしました…まさかあのすみれさんが「Vermilion」の部長だなんて…」
私はてっきりすみれさんのことを手芸部一筋だと思っていました。だってあんなに衣装作りがお上手だったんですもの。
それはまさにプロ並みのクオリティーだったんですから…!一針一針から職人さんの年季を感じるっていうか…!
「そうだね。すみれちゃん、すごくおしゃれさんだから。本人は自分のことをあまり可愛くないって着ないようだけど。」
「そ…そうですか?」
それはちょっと分かりにくいですね…すみれさんって背も高くてすごくかっこよくて一目からも超美人さって感じですから…
ちょっと無口で不器用っぽく見えたりはしますが私はすみれさんのこと、すごくきれいで素敵なな人だと思います。
「それ、すみれちゃんが聞いたら絶対喜ぶわ。とにかくすみれちゃん、あまり人前で出るのが苦手で会議なんかにも来ないの。いつも代理の子が来ちゃってね。」
だから私も知らなかったんだ…そういえば前の会議ですみれさんのこと、見たことがないかも…
「人それぞれ事情があるってもん…」
「いらないって言っているんでしょうが!!」
ええ!?何!?
その時、私達が開けようとした生徒会室のドアの向こうから聞こえる女の子の叫び声!
その尖った声を聞こえた時、私達は足が凍えてしまったような感覚に包まれ、ドアを開けようとした手を止めてしまいました。
「な…何!?」
「セシリアちゃん…!こ…これは一体…!?」
とっさに起きた出来事に頭が追いつかない私と先輩。
まるで全身の毛が一斉に立ち上がるような声。目の前の相手にずっと溜めておいたありったけの怒りを全部吐き出しているように悲しくて切なかったその叫び声を聞いた瞬間、私は胸の底から何かドーンっと落ちるような気分でした。
でもそんな戸惑っている私達に引き換え
「…かなちゃんがいるよ。」
ただ悲しそうな顔でそのドアの向こう側を眺めているだけの会長さんでした…
今ここでドアを開けるのは決して賢明な行動ではない…
何が起きているのか何一つ分からない状況で下手に足を踏み入れても状況をこじらせるだけで余計にややこしくなる…
でも私はその声があの日、私のことを助けてくれた赤城さんのものだったこととその相手がかな先輩ということを知ってて
「ちょ…ちょっと待ってください…!」
気が付いた時はもう自分の体は思いっきりドアを開けて中に入っていました。
***
「二度とわたくしの前に現れないようにお願いしたはずですが!?」
思ったより険悪な雰囲気。
まるで私のことを助けてくれたあの夜のことみたいに真っ赤な顔になって
「どうしていつもいつもわたくしのことにまとわりつくんですの!?」
どうすればいいのかただ困惑しているかな先輩のことを追い詰める赤城さんはもう周りが見えないほど興奮していました。
「ごめん、なな…」
そんな赤城さんの行動にまた自分から余計なことをしたっと後悔しているようなかな先輩はなんとか今のことを謝りたくて
「ごめんね…」
何度も今のことについて謝罪しましたがその気持ちが赤城さんのところに届くことは決してありませんでした。
むしろそのことが気に触ったように
「あなたの謝りなんて聞きたくありませんわ!!」
先より更に声を上げて荒れてくる赤城さん…!
興奮して叩きつけた机の上から書類の山が崩れ落ちましたが赤城さんはこれっぽっちも気にしてませんでした。
彼女はただまた目の前に現れたかな先輩のことにひたすらの憤りをぶつけることに夢中になってそれ以来のことは全然目に入らせないようにしていたのです。
「ごめん…」
また謝ってしまうかな先輩…
もしかしてわざとやってるのかなっと思われるほどのその行動は見ているむしろこっちがハラハラさせられちゃうくらい危ういものでした。
なんとか赤城さんのところに今の謝りたいって気持ちを伝えたかったと思われるかな先輩。
でも先輩のその態度は逆に赤城さんの怒りを煽だけでした。
あのクーロで冷静だった赤城さんがこんなにも嫌がることとは…それは一体…!
っと思った瞬間、私の目についたのは…
「クッキー…」
床に散らかっているクッキー。
何かの力、多分赤城さんによって投げられたと思われるそのクッキー達は食べて欲しいという人のところには届かずそのまま無情に床で転んでいました。
「これ…もしかして…」
形は少しでこぼこで決してきれいなとは言えないかも知れませんが大切な相手に食べて欲しいって気持ちがいっぱい詰まっている愛情たっぷりの手作りのクッキー。
可愛いラッピングまできちんとできているところを見るとかな先輩がこのクッキーを焼くまでどれほど念を入れたのか推考できましたがその大切なかな先輩の気持ちを
「もうわたくしにも構わないでって言ってたんでしょうが!?」
赤城さんは決して受け入れてくれませんでした。
「でもモリモリのことを助けてくれたお礼がまだだったから…せめてこれで元気付いて欲しいって…」
「あなたが気に使って欲しいとは一言も言ってませんでしたのよ!?誰がこんなふざけなことを頼んだと言うんですの!?」
話を全然聞いてくれなさそうな状態の赤城さん。
興奮しすぎたせいで私のことさえ認識に入らせてくれない彼女は今何を言ってもじっくり話し合える状態ではありませんでした。
そんな赤城さんは机の上の書類や本などをかな先輩のところに手当たり次第に荒々しくぶん投げながら
「もう出ていけ!全部嫌だから私の目の前で出ていけ!」
ただ一刻も早く自分を苦しませるその全てをこの部屋から追い出そうとしました。
「赤城さん…!ちょっと落ち着いて…!」
目が回ってしまうほど空中に散らかっているたくさんの書類。
その中でなんとか彼女のことを落ち着けようとした私でしたが
「いや…!何もかも全部いやですわ…!」
既に私という存在を自分の意識から引き離してしまった赤城さんに私の声は全然届きませんでした。
でもその時の私は見てしまったのです。私のことを助けてくれたあのたくましくて凛々しい赤城さんのきれいな目元に吊られている
「何で…!何でまたわたくしの前に現れたんですの…!わたくしにはもうあなたなんかは必要ないのに…!」
恨む気持ちと悲しむ気持ち、そして寂しさが一つとして混ざった感情の凝りを…
その瞬間、
「いたっ…!」
「先輩!」
書類に紛れ込んで先輩の方に飛んできた本が先輩の頭に当ってしまい、
「先輩…!頭から血が…!」
その可愛らしい額から鮮やかな赤の雫が流れ始めました。
「先輩…!大丈夫ですか…!?」
「かなちゃん…!」
赤城さんから思いっきり投げられた本に当てられてしまった先輩。
その一瞬で生徒会室はまた新たな一騒になってしまいました。
「かなちゃん…!大丈夫ですか…!?ちょっと見せて…!」
外で様子を見ていた先輩達だって今のかな先輩の声を聞いて入らずにはいられなかったように慌てて部屋に入ってかな先輩の怪我のことを心配する先輩と
「ちょっとなな…!」
かな先輩のことを怪我させた副会長の赤城さんのことを咎めるような会長さん。
でもそんな先輩達の心配にも
「全然平気だから…!ちょっとびっくりしただけ…!」
あえて全然大丈夫って皆を安心させる感心なかな先輩のことに私はまた感服させられてしまいました。
「ななも気にしないでね…?別にななのせいじゃないから…」
こんな状況でも赤城さんのことを責めたくないっと彼女のことをフォローする優しいかな先輩。
先輩は
「ななを怒らせちゃったのは私だから…こんなに嫌がるのを知っていたのに無理やりに来ちゃって…」
っと全ては自分が悪いって言ってました。
「ごめんね…?余計なことまでしちゃって…皆も心配しなくてもいいから…あ、早く片付けるね…?」
早く保健室にでも行きましょうっと怪我のことを心配している先輩の話にも早く部屋を片付けようとする律儀なかな先輩。
でも床に散らかっている自分が作ってきたクッキーのことを寂しそうな目で拾っている先輩のことはとても…とても心苦しかったんです…
「わ…私も手伝います…!」
「ありがとう、モリモリ。」
放り出されてしまった大切な気持ち…私は一体そんな先輩になんと言ってあげたらいいのでしょうか…
「ここは私が片付けておくから。かなちゃんは早く保健室に言って手当して。ほら、血、まだ出ているじゃない。」
っと散らかっているクッキーを拾っているかな先輩と私の手を止めようとする会長さん。
「そ…そうですよ、かなちゃん…!ここは私とセシリアちゃんがやりますから…!一先ず絆創膏でも貼っておきましょう…!」
そして会長さんの意見に同意してポケットからウサギさんのイラストが付いている絆創膏を出してかな先輩の怪我にそっと貼り付ける先輩。
本当に手際のいい人だなと感心したいところなんですが
「あ…」
私はその時、赤城さんの様子がなんだか尋常じゃないってことに気がついてしまいました。
震える眼差し。その目に宿っているのは今のことについた深くて痛ましい後悔。
彼女はいつもの冷静の欠片も見つからないほど動揺していました。




