第48話
遅れて誠に申し訳ありません。いつもありがとうございます!
「じゃあ、確かに受け取りました。みもりちゃんの入部届。」
「はい!」
翌日の放課後、私は少し遅れましたがやっと先輩に自分の決心が詰まった入部届を提出できました。
先輩の力になるため、そして皆の笑顔のため自分の気持ちを固めた私は昨日寝付きの前にゆりちゃんから持ってきてくれたこの入部届を書き上げました。
「いつかこういう日が来ると思いました。」
まるで私のことをとっくに昔から見抜いたようにそっと私の前に同好会の入部届を差し出してくれたゆりちゃん。
「頑張ってください。私だけのスーパースター。」
そう言ったゆりちゃんは後ろから私のことをギュッと抱きしめてくれました。
今まではただ先輩達と一緒に楽しむだけでいいと思いました。ただ昔みたいにまた歌って踊れるようになった今までの自分に安心した気持ちもありました。
でもあの頃の自分が本当に好きだったのは何だったのか、皆の笑顔のために歌う本当のアイドルの意味が何なのかを改めて考えるようになった私は自ら前へ進もうとしました。
今私が出したこの入部届はただの入部届ではない。私のことを応援してくれるゆりちゃんと先輩達の気持ちがいっぱい詰まっている大切な入部届です。
その気持ちは私のことを前へ進むための力を与えて臆病の私の背中をぐっと押してくれる。
そしてこれは逃げてばかりだった私の人生へのリベンジなのです。
「ほ…本当の入部届…私…うみちゃんの入部届以来の入部届なんて初めてです…」
まるで宝物でも見ているようなキラキラな目。そんなに嬉しいんでしょうか…
「もう…大げさ…」
ってなんか泣いている!?
「うう…みもりちゃんの入部届…」
私から出した入部届を握ってまたポロポロ涙を流している先輩!
そんなに嬉しかったんですか!?
「せ…先輩…!泣かないでください…!」
「だ…だって嬉しすぎて…」
嬉しいって気持ちはよく伝わりますがいくらなんでもそんなに本気で泣く必要は…!
まあ…私だって中学校の時、初めて後輩の入部届をもらって感動しちゃったからその気持ちはよく分かりますけど何ていうか…
「ちょっと恥ずいですね…これ…」
それに誰かに見られたら変な誤解されちゃうかも知れないし…特にゆりちゃんとか…
「ほらほら…もうすぐレッスンの時間ですしかな先輩が来る前に色々準備しなきゃ…」
ややこしくなる前に先輩のことを落ち着けようとした私は泣いている先輩の背中をなでつけながら何度ももう泣かないでって慰めてあげました。
なんで自分は自分よりおっぱいもデカくていつも自分のことを「マミー」と呼んでいる上級生のことを宥めているんだろうって少し戸惑ってしまうこともありましたが正直に言って私は先輩のこの反応が本当に嬉しかったです。
こんなふつつかな私のことをこんなに心から喜んでくれる人、ゆりちゃん以外には本当に久しぶりでしたから…
先輩のその気持ちに応えるためにでもこれからもっと頑張らないと…!
「みもりちゃんの入部届…早く額縁に入れなきゃ…」
って何恥ずかしいことをやるつもりですか!?っていうか提出するんですよね!?それ!?
「みもりちゃんの入部届…なんとピカピカしているんでしょう…」
「別に普通の入部届ですけど…」
いちいち反応が恥ずい…
それにしても本当に嬉しそうな笑顔ですね、先輩って。そんなに嬉しかったんでしょうか。私だって本当に私なんかでいいのかなって何度も迷ったりしたのに。
「はい!なんか本当にまた始まるんだなって感じがして!」
っと今の嬉しいって気持ちを隠さず外に全部出し切ってくれる先輩。
意識高いですね…先輩って…
「それになんだか去年のことを思い出して…」
ふと私からの入部届のことを懐かしい目で眺める先輩。
恋しくてちょっとだけ切ないあの日の記憶は今日のことで先輩の中から再び蘇って愛おしいノスタルジアを呼び寄せてきました。
「うみちゃんが来た時もこんな風に私がうみちゃんの入部届を家に持ち帰ろうとして大騒ぎになったんです。私がこっそり匿っていた提出しなければならない大事な入部届がいなくなってそれを探すのに部室を全部散らかして本当大変でした。後で先輩にバレてめっちゃ怒られてうみちゃんの前で泣いちゃったりしたんです。」
な…なんだかすごく分かりそうな光景…
でも先輩がその思い出のことをどれだけ大切にしているのかだけははっきりと伝わってきます。もう先輩の先輩や青葉さんはこの部室にいないんですがその大切な思い出だけは今も先輩の中から生きている。先輩はそれでまたいくらでも頑張れるっと私は今の先輩を見てそう感じまし…
「って何こっそりポケットに入れちゃうんですか!?」
「ダ…ダメですか…?」
ダメに決まってるんでしょ!?っていうか提出しなければならないってば!!先輩、本当部長なんですか!?
また人が話しているうちにこっそり取っちゃって…そういうのゆりちゃんだけでいいですから…
「ゆりちゃんはいいんですね…」
なんかすごく引いている顔…
実はゆりちゃんって私が小学校の時に履いた上履きやランドセルも学年別に分けて全部持っているし中学生の時の水着や靴下まで自宅に別室まで作って保存しているんですよ…
まあ、ゆりちゃんの場合はすっかり慣れちゃって平気なんですけど…
私のことを大切にしてくれるのはやっぱり嬉しいんですがゆりちゃん以外の人が私のものを持っているのはさすがに恥ずかしいっていうか…ってなんか心配しているような顔してませんか?先輩…
「いいえ…特に…でもみもりちゃんには早く今自分が置かれている状況を気づいて欲しいなって…」
なんかめっちゃ心配されている!?なんで!?
「と…とにかく私はこれからこのことも含めてセシリアちゃんのところにお話にいくつもりです。昨日電話からもしみもりちゃんから入部届が届いたら自分から必要な手続きは全部済ましてあげるって言われまして。」
「へえー先輩って本当会長さんと仲いいですね。」
これは多分会長さんなりの先輩への思いやりだと思います。今までたった二人でこの同好会のために必死になって努力してきた先輩のことを会長さんは傍からずっと見守ってきましたから。
きっと先輩の負担を少しでも減らしてあげたいっという会長さんなりの優しい気遣いに間違いないです。
それにしてもまさか私から入部届を持ってくることまで見通していたとは…さすが生徒会長さんです…
「去年うみちゃんが同好会からいなくなった以来、セシリアちゃんは1年の時より私のことを構ってくれました。先輩達まで卒業して一人になってしまった私が寂しくならないように。同好会だけではなくたまにうみちゃんのことも気遣っているようで本当に助かります。」
「そうでしたね…」
そうか…会長さん、青葉さんのことも気遣っているんだ…なんていうか、本当先輩に似た人ですね、会長さんって。
「かなちゃんならチア部の練習があるから今日もちょっと遅くなります。かなちゃんには連絡入れておきましたから終わったらすぐこっちに来てくれるはずです。それじゃ、私は…」
っと私に部室のことを頼んで会長さんがいる生徒会室へ向かおうとする先輩。でも
「あの…先輩…私もご一緒させてもいいでしょうか…」
私はなぜかそんな先輩の足を止めてしまいました。
「みもりちゃん?」
珍しいって目で私のことを見つめる先輩。でもまもなく先輩は
「ええ。もちろんです。むしろ大歓迎です。」
っと私の手をギュッと握って席から引っ張り上げてくれました。
人一倍は高い体温の先輩のポカポカした手。その温かさで私の手をそっと包んでくれた先輩は
「私もみもりちゃんと一緒ならすごく嬉しいです!」
いつか私に「大丈夫」っと言ってくれた時と同じ顔で私を引っ張ってくれました。
あの時、先輩を止めたのは私からも会長さんに直接お礼を言いたいっと私自身が思っていたからです。会長さんはいつも見えないところで私達のことをフォローしてくれていますから。よく考えてみれば私だって会長さんには色々助けてもらっているのにちゃんとお礼を言ったことがないなっと思いまして。
でもその以前に私は先輩ともう少し一緒にいたかったのです。もう少し先輩とお話してもう少し先輩のことが知りたい。
私はただそう思っただけでした。
***
「はぐれないようにマミーと手取りましょうね?」
「もう…先輩ったら…」
っとまた私の手を取っちゃう先輩。なんだか子供扱いされているような気がして少し恥ずかしいって気持ちもありますが先輩がこんなに喜んでいますから。これくらいは好きなようにさせてあげてもいいのでしょう。
でもくれぐれもゆりちゃんにだけは見つからなかったらいいのですが…
生徒会室に行くバスに乗るためバス停に着いた私と先輩。さすがの放課後には人もたくさんいますね。
皆、帰宅部なのでしょうか。私個人的にはうちの学校って部活もいっぱいありますからもう少し楽しんでもいいと思いますけどね。せっかくの高校生活ですからもうちょっと楽しまなきゃ損ですよ。
って言っている私だってこの前まで放課後にはすぐ寮に帰っちゃいましたね。入学したばかりの頃には何の部活もやってなかったので授業が終わるとすぐ寮に帰るのが今までの私が続けてきた日課の最後でした。
生徒会のゆりちゃんが仕事を終えて来るまでにぽつんと部屋で本を読んだり生徒専用のプールで泳いたりする一人だけ過ごす時間が割りと多かった私。
寮に同じクラスメートは結構いましたが私は皆と距離を取っていたので皆とはあまり仲良くなれませんでした。
皆に問題があるってわけではありません。ただ私が皆に自分勝手な劣等感を持ったのが原因だったんです。
あの頃の私はおしゃれで可愛い皆のことと自分のことを比べて自身を持てなかったんです。皆はあんなにキラキラしているのに私だけ埃っぽく見えてしまって…
ゆりちゃんが帰るまでの一人だけの長い時間。私はいつゆりちゃんが来るのかを待ち続けながらその孤独にじわじわと塗られました。その頃の自分は…ゆりちゃんと一緒じゃなければあまり笑わなかった子だと思います。
でも同好会に入ってから私は少しずつだけでも変わり始めました。前よりよく笑うようになって他人のことに自分を比べないようになりました。
前原さんと野田さん、高宮さんから話を掛けてくれてお喋りする時間が増えて挨拶してくれる人も増えるようになって毎日が楽しいです。
何よりゆりちゃんと一緒に同好会に行って先輩達と歌っていると本当に幸せが何なのか実感できるほど楽しくて今はもうその孤独だった時間が思い出さないようになりました。
私はこれも全部先輩のおかげだと思います。
「待ってますね、虹森さん!」
あの時、あの部室から先輩が私のことを待っていてくれなかったなら私は今も一人でゆりちゃんの帰りを待っていたかも知れません。
私にもうそんな時間を過ごす必要がないってことを教えて少しでも自分と向き合って前へ進もうとした勇気を与えてくれた先輩。先輩は私に「運命の人」って言いましたがそう思っているのは多分先輩だけはないって私はそう思います。
だから私は全力で先輩の力になります。どんなに大変なことがあっても挫けないように強くなります。
だから見届けてください、先輩。あなたが導いてくれた私「虹森美森」のことを。
「あら?どうしたんですか?みもりちゃん。そんなにギュッと握って。」
そう自分の心を決めて改めて意思を固める私を見てどうかしたんですかっと聞いてくる先輩の話に私は自分が知らないうちに先輩と取り合った手に力を入れてしまったことにやっと気が付きました。
「あ…!す…すみません…!つい…!」
「もう♥本当に可愛いですかね♥みもりちゃんって♥」
慌てて力を抜こうとした私のところに逆に力を入れてギュッと握りしめてくる先輩。
私達はあれからしばらく何も言わずに取り合った手からお互いの温もりを重ね、感じ合いました。
「あら。あそこの1年生、可愛いわね。あんなにギュッと握って♥」
「うわぁ!?何あれ!隣の人、でっか!」
「いいな…」
そんな私達のことを見て色んな感想を並べる周りの生徒達の目は少し恥ずかしかったんですが私は先輩のためにここはもうちょっと我慢することにしました。
「あら?みらいちゃんじゃない?」
「みもりちゃんもいる。」
ふと後ろの方から聞こえる聞き慣れた二人の女性の声。
私と先輩のことを見つけて近づく彼女達のことに周りは一瞬びっくりするほどの大騒ぎになってしまいましたが彼女達はその状況さえとっくに慣れていたようにすごく落ち着いていました。
「ごめんねーちょっと通るね?」
「うへへ…♥女の子いっぱい…♥」
上品できれいな声。そして周りの女の子達を見ながら喜んでいる怪しいその声に私は今自分達が誰に声をかけられたのかすぐ分かることができました。
そして振り向いたあそこには
「こんにちは。二人共。」
先輩のことに完全に「乙女モード」のスイッチが入った会長さんと
「今日もめっちゃ大きいんだね、みらいちゃん…♥みもりちゃんの太ももももちもちして素敵…♥」
相変わらずすごい話で思いっきり私達のセクハラしている「百花繚乱」の団長のゆうなさんがよだれを垂らしながら私と先輩のことを見つめていました。




