第47話
いつもありがとうございます!
「ゆりちゃんー…寝てる…?」
そろっとドアを開けて部屋の様子を窺う私。
時間はもう日付が変わったほど遅くなって規則正しい生活をしているゆりちゃんならもうとっくに寝ている思った私はゆりちゃんを起こさないようにする同時に起こして怒られないするため密かに部屋に足を入れましたが
「やっと帰りましたね、みもりちゃん。」
やっぱり全然寝ていてくれなかったゆりちゃんでした。
パジャマ格好で腕まで組んで私のことを寝ずに待っていたゆりちゃん。明らかな不機嫌そうな顔を見るとやっぱり勝手に先輩のところまで夜歩きしたことに随分怒っているようです。
「どれだけ心配してたか分かりますか?」
「ご…ごめん…」
やっぱりめっちゃ怒ってる…
「私が生徒会の仕事で一緒に行けなかったのは私にも責任があるかも知れませんがだからといって一人で勝手に出かけてしまうなんて。もしかして私と一緒だったのが嫌だったんですか?それとも裏から何か私に隠したい疚しいことでもしているんですか?」
「ち…違うよ…!」
「じゃあ、なんでですか!」
もう完全に問い詰めモードに入ったゆりちゃんはすごい勢いで私が言い訳する暇も与えず私のことを容赦なく追い詰めましたが
「私は…昨日のことであなたのことを…こんなに心配していたのに…」
ついに見せられたその涙の前に私は何の反論もできませんでした。
気を揉んで心配していた自分の気持ちを全く分かってくれない私のことが水臭く感じられたのかついに涙を見せてしまうゆりちゃん。
私はいくら先輩のためとはいえ一番大切な幼馴染にひどいことをしてしまったのです。
「ご…ごめんね?ゆりちゃん…もう泣かないで…」
「もういいですよ…!」
いくら慰めてもなかなか涙を止めてくれないゆりちゃん。
やっと顔が見られて安心したせいか、それとも自分の気持ちを分かってくれない私のことを寂しく感じたのか。
私はゆりちゃんなら多分両方だと思います。だってゆりちゃんは優しくてもそういう素直なところもある私の可愛い幼馴染ですから。
でもわたしはやっぱりゆりちゃんの涙は見たくありませんでした。
「もう一人で行っちゃったりしないから…ねぇ…?」
「知らないです…!みもりちゃんなんか知らないんですから…!」
先輩を元気づけたいって思ってやったことが逆にゆりちゃんを悲しませてしまった。私は両方を満たすのが大変なことということを知りながらも自分の未熟さを反省してしまいました。
「ゆりちゃん。」
でも私は知っています。こういう時こそどう行動すればいいのか、どうしたらゆりちゃんを元気づけて慰められるのか。
そのためにまずゆりちゃんに自分の無事をちゃんと伝えてあげなきゃダメ。そう思った私は腕を開いて思いっきり自分の中にゆりちゃんを抱き込みました。
「みもりちゃん…?」
とっさに起きたことに少し戸惑ったようなゆりちゃん。
でもまもなく触れ合っている胸の中から伝わる私の鼓動を気づいたゆりちゃんは
「ずるいですよ…いつもいつも…」
っとまいりましたって呆れたように笑った後、私のことをギュッと抱きしめてくれました。
「まだ完全に許したわけではありませんからね…?」
「えへへ…ごめん…」
やむを得ずこの辺で勘弁するだけって言うやさぐれたゆりちゃん。
でもやっぱり人がいいな、ゆりちゃんって…こういう素直なところがまた…って
「ゆ…ゆりちゃん…?」
「うふふっ…♥みもりちゃん、いい匂い…♥ふにふにします…♥」
な…なんか腰の締まりがどんどん強くなってきますけど…!?
「な…なんかちょっと痛いんですけど…!?」
「みもりちゃんー♥ゆりはすっごく寂しかったんですー♥生徒会の仕事が大変だったからみもりちゃんにいっぱい甘えて癒やされたかったのに部屋に戻ったらみもりちゃんがいなくて♥おまけに一人で夜のお出かけしちゃって♥」
「うん…!それは悪かったと反省しているよ…!」
っていうかゆりちゃん、腰…!抱くの強すぎる…!
「今日ですね?♥副会長にめっちゃ怒らっちゃったんですー♥もっと仕事に集中しなさいって♥それ、絶対みもりちゃんのせいですからね?♥みもりちゃんがちゃんとゆりのことを待っていれば私が副会長から怒られることなんてなかったはずでしょう?♥」
「う…うん…!ごめん…!ごめんって…!」
ゆりちゃん、私を半分に分けるつもりかな!?ギブ…!ギブです…!!
「みもりちゃん♥罰としてみもりちゃんのパンツ、見ちゃいますね♥」
「見せます…!見せますからもうちょっと緩めて…!」
結局見ちゃうの!?
「うふふっ…♥みもりちゃん、汗もたくさんかいちゃったんですね…♥すごい匂い…♥楽しみですね、みもりちゃんの汗臭いパンツ…♥」
ってさてはキサマ…!それが狙いだったな…!?
「でもやっぱりちょっと安心しました。」
「ん…?何を…?」
って感じて無茶なことを要求していたゆりちゃんからの突然な話。腰の痛みに苦しんでいた私は早速その話に疑問を現しましたが
「やはりみもりちゃんは私の理想のアイドルのままでいてくれて本当に良かったっと思って。」
ゆりちゃんから話してくれたその言葉はまた私に色んなことを考えさせました。
「あなたは昔からずっとそうでしたから。皆の笑顔が大好きで誰かの力になりたいと思ってくれる優しくて温かい人。私はそんなあなたのことを誇らしく思っていました。」
っと懐かしい笑顔で私のことを見つめるゆりちゃん。
ゆりちゃんは今もあの頃のことを大切にしてくれました。
***
「みもりちゃんがそう言ってくれて私、本当に嬉しかったんです。」
「そう?」
夜遅く電話を掛けたことにも関わらず喜んでみらいの話を聞いてくれるセシリア。だがセシリアにとってはこういう何もない日常的な時間さえかけがえのない宝物であった。
「良かったわね。いい後輩ができて。」
「はい!」
なんと嬉しそうな声だろう。ただ話を聞いているだけなのにどうしてこんなにも幸せな気分になるのかしら。
そう思ったセシリアはただ声を聞いただけで今のみらいがみもりの話にどれほどの勇気をもらったのか察することができた。
「本当に嬉しかったです。みもりちゃんが先輩の力になりたいって言ってくれたのが。」
後悔はしない。自分の正体のことや未来のことをあの子に話したことに悔いはないとみらいは自分の選択を信じていた。
セシリアの立場を思って彼女にすら明かさなかった自分の正体のことを彼女に全部話したのは自分なりにその気持ちに答えてあげたかったという気持ちからできたものだったがそれは決して勢いで言ったことではなかった。
「みもりちゃんのことを初めて見てた時から思ってたんです。この子と同好会に入ってくれば私の中から何か変わらないのかなっと。でも思った通りに私はみもりちゃんのおかげで気づくことができたんです。本当の臆病者だったのは私。私はただ周りを気にしすぎてただうろうろしていただけでした。」
うみのことを気づいてくれなかった自分に抱え込んでいた情けなさ。そして彼女への罪悪感。みらいは今までの自分はその全てに捉われていたと自分の過去を悔しんでいた。
「でもやっぱりそうだけでは何も伝わらない。皆と仲良くなりたいってことも、うみちゃんのことも。私はそれを行動するみもりちゃんを見て気づいたんです。」
「好きならちゃんと行動するべき」っと。そう言った時のみらいはなぜかいつもとは少し違ったすっきりした顔をしていた。
「だから私はもっと自分を出そうと思います。もっと自分を外に出して自分の言葉で皆に届けようとします。私のことが大好きで私の力になりたいって言ってくれたみもりちゃんみたいに。」
「そう…か。」
だがそんなみらいと違ってどこか少し寂しそうな表情のセシリアはその決心をそう素直に受け入れられなかった。
その話から急にみらいのことが少し遠くなった気がするセシリア。彼女はもう自分がいなくてもみらいは大丈夫かなっと思って胸の片隅が痺れてくるような気がしたがみらいにはそんなセシリアにどうしても言いたいことがまだ残っていた。
迷わず、ちゃんと自分の言葉で、自分の行動で自分の気持ちを伝えようと心を決めたみらい。そんな彼女が一番でやりたかったこと。
それは
「いつもありがとうございます、セシリアちゃん。私、セシリアちゃんと友達になって本当に良かったです。」
自分の大好きな友達であるセシリアに日頃の感謝を伝えることであった。
「みらいちゃん…?」
突然な話に少し戸惑ってしまうセシリア。そんな彼女の反応に少し照れくさくなったみらいは
「えへへ…」
ぎこちない笑いでその空気を誤魔化そうとした。
「セシリアちゃんにはいつも迷惑かけていますから…これくらいはちゃんと話さなきゃっと思って…」
だが欠くことなくきちんと自分の心を電話の向こうのセシリアに伝えるみらいであった。
「これからもたくさん迷惑をかけるかも知れませんがどうか今まで通りに仲良くしてください。私、セシリアちゃんのこと、大好きですから。」
下心の欠片も見つからない無垢な告白。だがそれは
「あ…!え…えっと…!」
相手のことを全く気遣ってくれない決め手になって「Fantasia」の「女王様」を攻めまくってしまった。
何か言わなければならないことは知っていたがみらいのその決めセリフはセシリアの理性を完全に麻痺してそれ以上何も浮かばせなかった。
「それじゃ、そろそろ切りますね。明日学校で。今日はお話してくれて本当にありがとうございます、セシリアちゃん。おやすみなさい。」
「あ…!うん…!おやすみなさい…!」
結局もたもたしている間に何も言えなかったセシリア。彼女は長いあくびをしながら電話を切るみらいのことを名残惜しい気持ちで見送ることしかなかった。
今でも死にそうな真っ赤な顔は彼女がどれほど嬉しいと思っているのかを代わりに語っているように初々しくて明らかなものだったがそれは決して嫌な気分ではなかった。
むしろ嬉しくてたまらないって気持ちは今でも夜空に飛び上がって舞い踊ってしまうくらいのとてもいい気分だと彼女は今の感情をそう感じていた。
「みらいちゃんったら…」
困った笑いで今の浮かれた気分を隠そうとするセシリア。だがこみ上げる嬉しさだけはどうすることもできないほど大きくて心地よいものであった。
「うん。私もみらいちゃんのこと、大好きだから。」
電話では最後まで伝えられなかった気持ち。その切ない気持ちをただ独り言でつぶやく自分のことをほんの少し寂しいと思ってしまうセシリアだったが彼女もまた彼女の好きな少女と同じく心から願っていた。
「いつかちゃんと言えたらいいね。」
っと。
窓の外に浮かんでいる数多な星達。だがその夜の彼女達の心はその星より明るく輝いていた。




