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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第2章「始まり」
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第46話

いつもありがとうございます!

中央広場のベンチに腰を掛けて少し話をすることにした私とゆうきさん。夜風になびく彼女の紅焔の髪の毛はまるで夜空に打ち上げた花火のように熱く、そして美しく夜の闇を切り開いていました。


「しかし驚きました。まさかあの桃坂さんが未来人とは。というか本当に存在しますね、そういうの。」

「ゆうきさんは信じるのですか?」


先の私達の会話を全部聞いていたゆうきさんは改めて先輩の正体について驚きを禁じ得ませんでした。

でも私は案外先輩の正体のことをそうあっさり信じてしまう彼女のことにもっと驚かされちゃったんです。


「まあ、私みたいな龍もあるんですから。それくらい存在しても別に珍しいことではないでしょう。もちろん地味に驚いちゃいましたが。」


「神樹様」によって3つの世界が繋がったこの世界には自分達みたいな様々な種族がいる。その中に未来人一つや二つ混じっても不思議ではない。ゆうきさんは私にこの世界のことをそう言っていました。


「でもこれはあまり外には出さない方がいいでしょう。桃坂さんにも事情があるらしいし。」

「ありがとうございます…」


ゆうきさん、かっこいい…!


先輩の正体が外に出たら私達が困ってしまうことを承知して秘密にしてくれることを約束するゆうきさん。

彼女は今の先輩に警戒する要素はないと判断した上の決定だとそう言いました。


「別に悪い人ではないと思います。バンドの先輩達もいつも桃坂さんのことをいい人だって言っているし。なんかちょっと近づきにくい人で気兼ねするところはあるようですが。それにあの人、姉さんと仲良くしてくれていつも感謝しています。」

「ゆうなさんですか?」


先までは目も当たらなかった姉のゆうなさんのことを急に話題にするゆうきさん。

そんな私の反応を見てまず解きたい誤解があると言ったゆうきさんは姉のゆうなさんに対する自分の気持をもう少しだけ私に聞かせてくれました。


「私、特に姉さんのことが嫌いってわけではありません。」

「え?」


っとゆうなさんに自分からは特に何の嫌な感情はないと自分の心を素直に打ち明けるゆうきさんの話が少し理解できなくて首を傾げてしまう私。

その疑問として


「じゃあ…なんであんなそっけない態度で…」


っと聞く私の質問にきまり悪く笑ってしまうゆうきさん。

でも私はそのぎこちない笑顔がなんだかとても悲しそうに見えたのでふと寂しい気持ちを抱えてしまったのです。


「でもやっぱり良くないと思います。「結日家」の尊敬される「勇者」様と私みたいな()()()なんかが姉妹に見られることなんて。」

「失敗作…」


その時、私はこれはあまり触れてはいけない問題だと口を慎んでしまいましたが


「別に虹森さんから気を使うことではありませんから。」


優しいゆうきさんは元々自分から言い出したことだから気にしないでくださいっと私のことをフォローしてくれました。


「これから話すのは他言無用にしてくださいませんか。「結日家」は神界の屈指の名門。そして歴代最多の「勇者」を排出した歴とした家柄です。こういう話、あまり人の耳に入ったら父さんの立場も悪くなってしまうのでしょう。そして姉さんも…」


それからゆうきさんから私に見せたのは姉のことを心底から心配している目だったので私は決して自分から言い出すことは断じてないと指切りで約束しました。


「世間に知られていた通り姉さんは「雷の槍」の使い手。でもその流派の継承者と言うにはあまりにもポンコツでびっくりするほど才能がないです。」

「才能がないって…」


私はそういう方面の知識は殆ど備えてない人なんですがそれでもゆうなさんがどれほどすごい人なのかということだけはよく知っていました。

数々の候補者の中でも一握りの人しか完全に使いこなせないと言われている3つの流派。

「雷の槍」、「炎の矢」、そして「水の剣」。その中、世界政府から認定されている十人の「勇者」の中で「雷の槍」を使えるのはあの「百花繚乱」の団長であるゆうなさんしかありません。


「一太刀だけで相手のことを木端微塵にできる「雷の槍」の凄まじい速さと強力な一撃は正しく雷の必殺の一撃。でもそれは「壱の型」である「一閃」を完璧に身につけなければ到底使い道がない欠陥だらけの技です。まず相手の懐に飛びかからなければならない。「一閃」はそのための電光石火の技でした。」


少し悔しんでいるようなゆうなさん。彼女はなんだかそのことに凄まじい悔いを抱えているように見えました。


「私はその「雷の槍」が全部使えたんです。父さんは最後まで身につけられなかった「漆の型」「須佐之男(すさのお)」まで私は完璧に使えました。でもどうしても基本である「一閃」だけは完全に自分のものにはできませんした。」


その同時に思い浮かぶいつかゆうなさんのところに借りたハンカチをお返ししに行った日の「百花繚乱」の高宮さんからの話。

一つの技しか使えない才能のないゆうなさん、そしてそんな姉と違って天才と呼ばれた妹。私は今の私はそのことを示しているということをこっそり気づいてしまいました。


「どうしても「一閃」を使ってしまったら足が砕けてしまって次の技まで続けられなかったんです。「一閃」がない限り「雷の槍」の最強の技だと言われる「須佐之男」さえその威力を出しきれない。それほど「一閃」の習得は重要ということです。

対して姉さんは「一閃」以外は全く使えなくてその次の手がありませんでした。「一閃」が外れた時のための2つ目の術がなかった姉さんは「結日家」の落ちこぼれでした。一族の皆はそんな姉さんのことをポンコツや役立たず、間抜けと罵りました。でもそれは私も同じだったので私達姉妹にとってお互いの味方なんてお互いのことしかなかったんです。」


衝撃的な話。まさかあの「雷神」と呼ばれる「勇者」ゆうなさんが家からでは落ちこぼれとして扱われていたとは…

でももっと衝撃的だったのはゆうなさんも、ゆうきさんもお互いのことを寄り添って互いに頼ってきたってことでした。


「でも姉さんはその「一閃」だけを極限まで鍛えました。最初はバカの一つ覚えとバカにされましたが毎日鍛え上げたその極限の「一閃」はついに一族の誰も敵わない神の(いかずち)になりました。足りた分は肉弾戦で補う方法を取っていたから素手だけでも一族の中に姉さんの敵はありませんでした。

その前には誰も立っていられないほど自分を鍛え、高めた姉さんは「勇者」になって今は一族の誇り。でもそんな姉さんと違ってそこから逃げてしまったんです。」

「逃げたと言いますと…?」


っと慎んで聞く私の前に腰にかけていた自分の剣を見せるゆうきさん。

まるで炎の熱気を凝縮したようなその剣はとても熱そうに見えましたが見ているとつい見惚れてしまうほど美しかったです。

古の職人さんがその生命を燃やして叩いて打った芸術品と呼ぶに値する完璧な仕上がり。彼女はその剣の名を「無限」と言いました。


「察している通りに私は異なる違いの世界の血を分けてもらったんです。「守護の龍」と呼ばれる金龍の父と「破壊の龍」である魔界の「火龍」の母の中で生まれたハーフということです。父さんは皆に尊敬される剣士なんですがあいにく女の関係が乱雑な方だったのでそこはあまり感心ではないんですね。」


そこは娘さんと同じかも…


「そこで生まれたのが私。両親共剣士という共通点があったんですが父さんの女癖のせいでお二人はすぐ別れました。養育権は父さんにあったんですが父さんの興味が姉さんに移った後からは父さんは私のことをあまり娘として扱いませんでした。結局私は「失敗作」として家から追い出されて母さんのところに行って「炎の矢」を教わりました。この「無限」は母さんの家から大切に持っていた家宝だったのを私がもらったんです。」


っと淡々と自分の過去のことを語るゆうきさん。

彼女はもう昔のことだから苦しんだりはしないって言いましたが私はむしろそのことが心配になってしまいました。

痛みに慣れてしまうなんて…やっぱりそういうの、いいことではないと思いますから…


「姉さんはことは好きです。私なりに姉さんに対して劣等感や妬みの気持ちも感じていても姉さんのことは好きです。何と言っても姉さんはあの家で私のことを最後まで信じてくれた唯一の家族でしたから。でも姉さんにはあまり私に関わらないでもらいたいです。」


ふと寂しそうな顔で自分からゆうなさんのことを離さなければならない理由を説明しようとするゆうきさん。

それを聞いてから私はようやく彼女の事情のことを分かることができました。


「姉さんは「勇者」ですから私みたいな失敗作には関わらないで欲しいです。それはきっと一族の誰も望まないことですから。もし姉さんが私に構っているってことが父さんの耳に入ってしまったら皆が困ってしまうのでしょう。だから私の方から姉さんのことを事前に遮るしかなかったんです。」

「だからゆうなさんのことを…」


それは決して姉のことが嫌だったからやったことではありませんでした。ゆうきさんは今もゆうなさんのことが大好きだったんです。大好きでゆうなさんのことを困らせたくなかったんです。

家から追い出されてしまった自分に家の誇りであるゆうなさんが関わってしまったらきっと彼女の立場が悪くなってしまうから。

それは妹なりの姉のための優しい気遣いでした。


彼女は


「やっぱりいい方法ではないとは思っています。でもそうでもしなきゃ姉さんはいつまでも近づいてしまいますから。」


っと自分の行動を後悔している同時に仕方がないとそのそっけない態度のことに正当性を与えました。

自分だけがその矛盾を抱えて傷つくことにして…


「だから私はこの学校のことが守りたいです。私が変われる機会がなってくれたこの学校が、姉さんが大好きなこの学校が私も大好きですから。だから私はあなたに自分の話をしたかも知れません。虹森さんからには姉さんと同じ匂いがしますから。」

「同じ匂い…」


それってもしかしてあの人みたいに私も同じ女の子にスケベなことを求めるっぽく見えているってことでしょうか…

っと複雑な顔をしている私に


「いえいえ。そんなことではありません。」


それは違うって言ってくれるゆうきさんの話に私は心底から安心しちゃいました。良かった…


「あなたもこの学校のことや皆のことを心から心配しているんですから。私はあなたのその優しさから姉さんを見てたかも知れません。あなたのこと、本当にいい人だと思います。」

「そ…そうですかね…えへへ…」


っと思いっきり私のことを褒めてくれるゆうきさん。

なんか照れちゃいますね、こういうの…自分にはあまり自覚ないんですけど私って子は案外人にそう見ているかも知れませんね。


「これからも姉さんと仲良くしてください。」


忘れずにお姉さんのことも頼んじゃうゆうきさん。でもあの人の仲良くっというのは私にちょっと重いかも…


「きっと皆分かってくれると思いますよ。あなたの人の力になりたいって気持ちも、誰かを笑顔にしたいって気持ちも。もちろん桃坂さんが言った皆と仲良くなりたいって気持ちもですね。」

「ゆうきさん…」


そう言ったゆうきさんは席から立ってそろそろ寮に戻ることを提案しましたが私はなぜか胸がいっぱいになってなかなか足を動けませんでした。

今のゆうきさんの言葉で頂いてしまった温かい勇気に胸がこんなにこみ上げてしまって…


「それじゃそろそろ行きましょうか。」


っと私の一歩前から歩いている彼女の背中を眺めながら私はこっそり心を決めました。

今は小さくてちっぽけな私でも皆と一緒に少しずつ頑張っていけばきっと私達のこの思いを皆にも届けられる。そのためにこんな普通だらけの私でも精一杯頑張って見せるっと。


ありがとうございます、ゆうきさん。今ので私、完全にやる気が出ちゃい…


「…って」


その時、ポケットから感じられる携帯の震い。不安な気持ちで携帯を出してその着信を確認した私はそれから寮まで全力疾走しなければなりませんでした。


私の携帯の画面に表示されている


「ゆりちゃん♥」


っという名前を見た時、私はそれから自分に起きることを心底から心配しなければなりませんでした。

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