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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第5章「夢と茸」
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第328話

いつもありがとうございます!

時は大戦争の真っ最中。

後に「神樹様」と呼ばれる神様である救世主「光」の登場以前、3つの世界は度重なる災害と戦争で荒廃化したこの星で少しでも有利になるため、そして生き残るため、世界の命運をかけて無益な戦いを続けた。


頭数、資本金で圧倒的な有意を占めていた「魔界」。

数は少ないが、種の優秀さと「黄金の塔」という組織を中心とした団結力を全面に出し、戦術に長けていた「神界」。

それに引き換え、我ら「人界」、つまり人間はポテンシャルはあるが、くだらないことで内輪もめをする愚かな種族だった。


怪物がうようよする戦乱の渦巻きの中で、人間のような軟弱な種が生き延びられたのはそれまで積み上げてきた産物である科学のおかげ。

そして勝つため、ねじ伏せるためであれば手段を選ばないという残酷性。

それは他の追随を許さない、人間でしか持つことができない生まれつきの曲がった性質であり、人間の最大の武器。

いや、そういう卑劣で歪な性質こそどんな種族よりも醜くて忌々しい怪物かもしれないと、私は今もそう思っている。


そんな残酷で理不尽な世界の中で、


「お父さん!」


あの子だけは誰よりも純粋であった。


娘の名前は「珠璃(じゅり)」。

死ぬ前まで「徳真(とくま)珠璃(じゅり)」という自分の名前を大切にしてくれたあの子は私の世界であった。


失いたくない、そして失われてはいけない宝物。

私はじゅりを通して、世界から祝福され、幸福を学んだ。

あの子が病院で初めてその小さな手で私の傷だらけの荒れた手を握ってくれた時、私はそれまでずっと背負ってきた心の闇を振り払うことができた。


こんなに小さいのに、なんというぬくもり。

触れる体温は今でも消えそうに微弱でハラハラしたが、そこから込み上げてくるぬくもりには胸がいっぱいになってしまうほど熱かった。

その手を握った瞬間、私の胸には初めて希望という芽吹きがして、初めて目の前の闇が晴れたような気がした。


今までの呪まみれだった人生はすべてこの子が安全で生きられる世界を築くため。

そう思った私はその小さな手をそっと自分の中で包んで、いつまでもそのぬくもりを自分の胸に刻み込もうとした。


それから私は身を置いていた軍を抜け、普通な外科医として、科学者として生きることにした。

そして珠璃が生まれて3年後、息子の「十三(じゅうぞう)」が生まれ、私は珠璃が生まれた時と同じ感動を再び味わうことができた。


後に生まれた息子のことももちろん愛している。

息子は特に妻の「久美子(くみこ)」の愛を独り占めしたが、とにかく私は珠璃のことも、十三のことも差別せず全力で愛した。

二人共、すごく頭がよくて礼儀正しくて本当に自慢の子供だった。

得意分野は少し違って、娘は私に似て科学と医学に、息子は妻に似て経営と会計に頭角を現した。


私に似た灰色の髪の毛をいつも母と同じく長く伸ばして小学校からずっと生徒会長を務めた自慢の娘。

娘は家族皆のことを心より愛してくれる心の優しい子であった。

そして正義感も強くて、弱いものをいじめるのが大嫌いで、不正を見たら見過ごさない性格で、いつも周りから頼られるタイプであった。

動物が好きで、シラハラインコを飼ったことがあって、今も大事に面倒を見ている。

将来の夢は子供の頃からずっとお父さんのような立派なお医者さんになること。

実際、珠璃はその夢のために努力を惜しまない、律儀で真面目な生徒であった。


友達からは箱入り娘と言われたりすることがあったらしいが、実際、私は珠璃のことを自分の命より大切にしてきた。

あの子の人生において不要と判断されるものであれば、あらゆる手を尽くして排除する。

必要なすべてが用意された安全で楽な環境で、いいものだけを与えたい。

素敵な女性に成長し、ちゃんとした男と恋をして幸せな家庭を築いて欲しい。

たとえこれが何千、何万人の命を代償として求めることにしても、私には我が家族を、珠璃を幸せにしてみせるという覚悟がすでにできていた。


過去の自分がどんなことをしてきたのか、そういうことはもう気にしないほど充実で幸せだった時間。

円満な家庭、安定した職業。

人々からの称賛と名誉もあって、自分にはすべてをねじ伏せられる力もあった。

これ以上、我が家族の幸せな未来を阻むことはない、私はそう信じていた。


だが、それは風でも吹いたらいつでも消える脆い慢心。

そのことを、私は珠璃が医学部に入学して、卒業を前にしていた頃まで気付けなかった。


「先生、頼まれた資料です。」

「あ、ありがとう。」


私が娘の大学の医学部の教授に在籍していた頃、私には自分の研究を手伝ってくれる助手がいた。

スッキリした印象の背が高くて真面目だった彼の名前は「ウィル」。

後に「Dr.Will」とも呼ばれる彼は私の生徒であり、同時に仲間であった。


ぶっちぎりの首席で入学して、卒業後、立派な医者となって社会で活躍した彼はこんなろくでもない私が愛弟子と思ってしまうほど私の誇りであった。

天才という肩書がつくとびきりの秀才。そして前途有望の将来有望株。

そんな彼は、


「今日から先生のもとで学ぶことにしました。」


ある日、突然安定的な職場を放り出して、私の研究室に飛び込んで、再び学びの道を歩こうとした。


彼はこう話した。


「ここではない世界のあちこちでは今も無益な争いが続いていて、たくさんの人々たちが苦しんでいます。

そして戦争が終わってもその痛みは絶えず、いつまでも続きます。

僕はただ生かすためではなく、真の意味で人々の傷を治してあげたいです。」


奉仕活動として世界を回った彼は、戦争が終わってもなお人々の苦しみが続くことを見て、彼らに大切な日常を取り戻してあげたい。

彼は特に地雷や爆撃で身体の一部を失った人たちに変わりの体を用意してあげたいと思っていた。

そのために彼はアンドロイド医学分野の私に助けを求め、自分を導いてくださいと願い続けた。


彼の熱意と気高い志に感動した私は快く彼を受け入れ、共に研究することにした。

私は自分の知識はもっぱら誰かを殺すためのものだったと、心の中で密かにずっとそう思っていたから、彼と一緒なら呪われた自分の人生を巻き戻せると、本当はすごく嬉しかった。

私を化け物から普通な人間に戻れるきっかけを与えた珠璃、そして救われる道を提示してくれたウィル。

私は本当の意味で自分の人生を変えられるかもしれない、そう思って胸を躍らせていた。


だが、


「キサマ…!よくも珠璃を…!私の大切な娘をあんな無惨な姿にしたな…!」


その数年後、私は自分の手でその男をぶち殺してしまった。


今も目を閉じれば思い浮かぶその男の最後。

自分より頭2つ分は大きい私に軽く持ち上げられて、虚ろな目で私のことを眺めていたその目に、もはや希望のかけらも残っていない。

残されているのはただ尽きることのない悔いと底なしの絶望だけ。

絶望の淵から這い上がる気力も、勇気も失ったその男は足掻くことも、自分を弁護することもせず、ただ静かに、


「すみません、先生…」


その言葉を呟くだけであった。


気がついたら、私はすでに素手でその男の顔を元の形もわからないほどすりつぶした後で、


「少将、あなたを逮捕します。」


私は戦争における最重要人物を殺害した罪で、辺境の牢獄に閉じ込められなければならなかった。


その男を「徳真(とくま)」家のものとして迎え入れるべきではなかった。

我が平和な家庭に災いをもたらした不穏な存在。

あの時、


「あのね、お父さん。

私、そろそろウィルさんとの結婚、真剣に考えなきゃって思うんだけど。」


珠璃が彼との結婚のことを言い出した時、


「ウィルくんか。」


私はなぜ、


「彼はいい男だ。彼ならきっと珠璃のことを幸せにしてくれるだろう。」


あのように言ってしまったのか。


そのことを私は今もずっと後悔しているが、


「ありがとう!お父さん!お父さんなら分かってくれると思ったよ!

大好き!」


私はただ自分の娘の幸福の笑顔を見られればそれで十分だと、そう思っていた。

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