第327話
遅くなって誠に申し訳ございません(´;ω;`)
今までの一番長い時間を休んでしまいました。
特に遊んでいたわけではございませんが、このようにお待たせいたしまして本当にすみません。
遅れてしまった理由についてはまず健康と仕事の問題だと思います。
今はなんとか調子を取り戻しましたが、つい先日までなかなか調子が戻らなくて本当に大変でした。
でもこれからはなんとか両立できるようにコツを掴み、体も良くなったので復帰してもいいと思います!
今まで休んだ分もっと張り切って参りますので、今後ともどうぞよろしくお願いします!
いつもありがとうございます!
その日、世界政府は例の異常現象を観測した。
最後に観測したのは大戦争の最中。
吸血鬼の国、小国「ワラキア」は敵に陥落され、滅亡の危機に瀕していた。
当時、吸血鬼を率いる「赤城」一族の当主「赤城ジョージ」は生き残った数少ない吸血鬼を城に集めて最後の抗争を繰り広げようとした。
生き残りの大半は幼い子供で、増援が来るまで持ちこたえなければならなかった当時の当主は攻め込む敵に対抗するために、古代の禁断の術式を発動した。
「「十一月の雨」」。
やがて彼の城の上から真紅の雨が降り注ぎ、周りを真っ赤な霧に包んで、外部からの侵入を一切許さない赤い城をそこに作り出した。
その雨は近づくすべての敵を貫く赤い弾丸、そして刺し殺す刃物。
敵を飲み込んで食いちぎる霧、そして肉をえぐり取る凄まじい血の風。
地面に落ちてできた血溜まりは踏んだら地雷のように爆発するか、それとも敵を飲み込んで沈めるか、あるいは飛び出して体を貫く血の槍となるか、様々な形態で敵を待ち構えていた。
難攻不落の城。
坂の上で血の雨を浴びながら命が尽きるその時まで抗い続けるその赤い城は敵に原初の感情、恐怖の名の感情をその心の中に深く刻み込んだ。
敵はその姿に慄き、恐れいていたが吸血鬼の増援が来るまでケリを付けなければならなかったため、命がけで城に突撃を強行した。
結果は全滅。
体を貫通する血の雨と前が見えない真っ赤な霧、迂闊に足を入れたら何が起こるか分からない不吉な血溜まりをくぐり抜けた勇敢な兵隊たち。
だが外部からのいかなる侵入も許さない人知を遥かに超えた結界は彼らを無惨に食い殺して、彼らを養分にしてより一層自分の縄張りを広げていった。
砲弾も効かず、ますます自分の領域を広げてくる真っ赤な結界の前で百戦錬磨の兵隊たちは打つ手がなかった。
結局、敵はその城から撤退、「ワラキア」を撤収する。
まもなく吸血鬼の増援が城に到着し、同胞の気配を察知した当主は最後の力を振り絞って結界を解除、仲間たちを城の中に入らせた。
そして彼の同胞たちが子供たちを保護し、彼のことを見つけた時、彼の椅子には乾いたチリと灰が儚く散っているだけであった。
貧弱な同胞たちを守るために初代の吸血鬼、「ノーライフキング」とまで呼ばれた「串刺し公」、「ヴラド・ツェペシュ」が考案した古代の禁断の術式「十一月の雨」。
一定の範囲内に強力な結界を張って侵入するすべての敵を抹殺するその意識は容赦なく敵を串刺しにし、食い殺す故に、長い間ずっと恐怖の象徴にされてきた。
血溜まりの雲と野を浸す血の雨。深い霧が掛かって荒れた風が吹き続ける地獄の一面。
その結界は日光という最大の弱点を抱えている軟弱な同胞たちを守る「赤い城」となり、貪欲に敵を飲み込んで自分の縄張りを広げていく。
それはまるで意識を持っている生きている生き物のようだった。
だがその人知を超えた強力さの故に、儀式の発動者は代償として自分の命を差し出さなければならなかった。
血と魔力が尽きれば発動者はチリと灰になって遺体も残らない。
存在そのものが消滅するため、吸血鬼の「血の記憶」も使えない。
血のつながりを誰よりも大事にする吸血鬼にとってそれ以上の残酷な死に方はなかった。
そのことを知っていた「赤城」一族は儀式を封印し、「十一月の雨」」を最後の最後に使う奥の手にすることにした。
使えるのは「串刺し公」の血を引くほんの一握りの「赤城」一族の吸血鬼のみ。
ななの両親、「鮮血女王」と呼ばれる「赤城ナターシャ」も、「絶対零度」の「赤城ウォルター」も到達できなかった「ノーライフキング」。
その素質を持った吸血鬼しか使えない血の雨が降り続ける不可侵の領域。
それが百年という時間を超えて、再び現代に現れた時、
「ではこの件は彼に任せて速やかに排除することにします。」
世界政府は一夜でななをこの世から消すことにした。
***
最後の通信が途切れる時、私は見てしまった。
「「ノーライフキング」…」
新たな「ノーライフキング」の誕生。
その歴史的な瞬間を自分の目で確かめることができたことに心より感謝した。
「ヴァンパイアロード」と呼ばれる高等吸血鬼、「赤城」一族。
「串刺し公」の末裔である「赤城」の吸血鬼はとても魅力的な実験材料だったが、その時の私にとって優先順位は低かった。
偶然とはいえ、目の前にあの「金色のリセットボタン」がいたからそれを奪うことしか考えられなかった。
何よりたとえ小娘とはいえ夜のヴァンパイアロードを前にしてのんびりしている暇はなかった。
だから厄介者は早めに片付けておく必要があって、奥の手である「メルヘン」も使った。
モデル「フォールアウト」の中で、最も優れた個体だけを選抜して組織した「メルヘン」なら一発で確実にその小さなヴァンパイアロードを排除できると判断した。
たとえ敵とはいえ幼い娘をいたぶってなぶり殺しする趣味はないので、せめて一発で楽にしてあげようと思った。
「撃て。「ゆき」。」
「はい。」
私の合図に合わせて数キロ離れた場所から鳴り響いた銃声。
一瞬の迷いもなく飛び込んだその銃弾は赤い髪の毛を持った夜の帝王に永遠の眠りを贈る、私はそう信じて疑わなかった。
だが、自分の予想と全く違った映像がレンズ越しに見えた時、
「嗚呼…」
私は終戦以来、初めて心底絶望してしまった。
「かな…!」
撃たれたのは本命だった金色の少女。
そしてその動かない体を抱きかかえて泣きわめくヴァンパイアロード。
その泣き声はあまりにも切なく、そして儚くて、まるで夜の空が溶け出していくような感覚であった。
私ははっきり見ていた。
あの一瞬でなにか不吉な気配を感じ取ってその右手で空間を消し取り、自分の体を投げ出して赤い少女へ向かってきた凶弾から彼女のことを守る切った金色の少女の勇敢な姿。
一瞬の迷いもせず、自分の行動に何の疑いも持たない彼女のことに私は心より敬意を表するようになってしまった。
たとえその結果が死という最悪の結末であろうとも、彼女に何の悔いもないだろうと、私は決意に満ちた彼女の表情から確信した。
だが、残されたものにとってそれ以上の残酷なことはない。
私は決死の行動が必ずしもいい結末を迎えられるとは限らないということをあまりにもよく知っていた。
「目を覚まして…!お願い…!」
哀願するように何度も倒れている少女に声を掛ける赤い少女。
だが、彼女の悶える気持ちにも関わらず、彼女の声は金色の少女には届かずにただ虚しく空で散るだけであった。
対吸血鬼用の血液凝固弾。
しかも強力なヴァンパイアロードを無力化するために作られたその弾丸は一発でも撃たれたら全身の血が固まって心臓が止まって数分で死に至る。
最も撃たれる瞬間の衝撃で即死してもおかしくない。
あんな物騒なものを生身の人間が受け止めてしまったら、それはもう生きる可能性はゼロということ。
だからそれを撃たれた金色の少女は二度と目を覚まさない、二度と起き上がれないということであった。
そしてそれは同時に彼女のことを生きたまま確保するという私の計画の失敗を意味した。
「メルヘン」の狙撃手「白雪」、通称「ゆき」はあらゆる射撃の達人のデータを集めて作った集大成。
そんなゆきの弾丸が外れるはずがないと、今でも私は心の中からそう信じ込んでいる。
なら一体何がその金色の少女に赤い夜の帝王を守らせてたのか。
「全ては「神の摂理」です。」
私は知り合いのイカれた修道士が良くいうあれではないかと、科学者でありながらそういう不確かなもので結論付けてしまった。
ここで彼女たちに会ったのも単なる偶然ではなく神の摂理、つまり運命だと思っている。
このスカイタワーがたまたま自分の計画の一部だったことも、急にここに来て忌々しい夜景が見たくなったことも、そして彼女たちがここに運ばれて私に出会ったことも、すべて運命レベルで最初から仕組まれていたことだと、かつて大切な娘、「珠璃」と一緒に神に世界の安寧を祈った私はそう思った。
「申し訳ございません、親方様。」
無線から目当てを外してしまった落ち度を謝罪するゆきの声。
だが運命レベルでこうなることが決まっていたこの仕組みで私は為す術もないと、痛い思いをやっとの思いで飲み込んで、ただ冷静で現実を見ることにした。
「仕方ない。」
このまま何の収穫もなく帰るわけにはいかない。
せめて遺体だけでも回収してゆきや他の「フォールアウト」のように使えないか、研究しなければならない。
そう思って、倒れている金色の少女に近づいた瞬間、
「…退場してもらいます。」
私のボディーはその一瞬で爆ぜて通信が途切れてしまった。
その時、私は初めて自分の目で確かめることができた。
切れてしまった理性。湧き上がる悲しみと恨み、そして絶望。
そのすべてを飲み込んで誕生した新たな吸血鬼の王、「ノーライフキング」。
単なるヴァンパイアロードの一人に過ぎないと思っていたその少女の内側には古代の真祖、串刺し公の血が今までのどの吸血鬼より濃く流れていたということに気がづいた時、
「全「メルヘン」、及び「フォールアウト」はスカイタワーに集合しろ。」
私はやはり運命は存在すると、もう一度その事実に歓喜してしまった。
あの時はまるで沈み続けていた底なしの沼から救いの手が差し伸べられたような気分だった。
尽きることのない虚無と怒り、そして寂しさだけを抱えていた私がまさかあれだけの喜びを感じるとは思わなかった。
もしかすると初めてその金色の少女を見つけた時よりずっと喜んでいたかもしれない。
その少女を失うことで一度絶望を味わった私はまだ到来した千載一遇の好機に、
「ヒャハハハ!」
私は声を上げて思いっきり笑ってしまった。
「私の勝ちだ!世界!」
運命の女神は自分のことを見捨てなかった。
その事実だけでここまで笑いが込み上げてくるとは。
「誠心誠意を込めてぶっ壊してやろ!その偽った正義を!」
そして返してもらう。
「さらばだ!こんなツギハギのいびつな世界!」
「珠璃」という私の世界を。




