第326話
お待たせいたしました!
新人賞の応募が終わり、少し休憩を挟んで活動再開することになりました!
ご報告は遅くて大変申し訳ございません。
後、少し遅くなりましたがあけましておめでとうございます!
昨年は皆様の応援のおかげで無事新人賞に出品もできてとても充実な一年でした。
今年も楽しくバリバリ参りますので、どうぞよろしくお願いいたします!
皆様の一年が幸せに満ちた楽しくて元気な一年になりますよう、心よりお祈りいたします。
「なにこれ…」
私たちがスカイタワーに着いたのは学校を出て15分くらい発った頃。
そんなに遠いところにある場所でもなかったゆえ、私たちがスカイタワーに着くまでそれほど時間はかかりませんでした。
最初から学校に運んでおけば良かったのではないかと思ったりもしましたが、
「この学校に「Dogma」関係者はいくらでもいます。
警察のところにもドクターの息がかかった内通者が多いので当てになりません。」
荒沼さんはドクターに気づかれずに、先に二人のことを確保する必要があると、念には念を入れる慎重な態度を取っていました。
「あのスカイタワーは世界政府管轄。
それもあの「保安局」が直に管理していて、テロ対策としてその辺のすべてのセキュリティは必ず統括管理システム「オーバーロード」を経由しなければなりません。
普通に観光客として出入りすることはできますが、いかなる脅威もそこを通ることは不可能です。」
3つの世界が平和の印として建てた記念すべき建物であるため、世界政府はスカイタワーのセキュリティにもいつも以上に注意を払っている。
だから内部に危険物を持ち込んだり、外から攻撃することもできない。
赤城さんとかな先輩を隠す場所としてうってつけの場所だと、以前、私たちを二人とところまで運んでくれたよざくらさんの選択に狂いはなかったと、荒沼さんはそう言いました。
他に似たような場所を何箇所か確保しておいたという彼女の話に、私たちは改めてよざくらさんの優秀さに舌を巻いてしまいましたが、
「だが運命というのは,やはり人の手でどうすることもできないものだったようです。」
それでも初めからそうなると定められていたものは仕方がないと、荒沼さんは淡々とした口調で謙虚に今の状況を受け入れていました。
「結局、人の力でできるものには限度があると思っているだけです。
私はただそれを認めて、その次の回答を探し求めるまでです。」
そう言う荒沼さんはとても現実的で合理的に見えましたが、私は彼女こそそんな無駄のない考え方しかできない自分のことを受け入れてないと、何故かそう感じてしまったのです。
不安な思いを抱えて夜景を飛んできた私たちはやがて二人がいるというスカイタワーに着いたのですが、
「赤城さん…かな先輩…」
そこに繰り広げられている、地獄の一面を切り取ったような残酷な光景に、私たちはしばらく言葉も失って、ただ呆然と佇んでいるだけでした。
「これは一体…」
ここに来る途中、誰もが見ていたスカイタワーの異常状態。
それを間近で目視できた時、私たちは今、赤城さんとかな先輩が置かれれいる状況について、ほんの少しだけ予想がつくような気分になりました。
それだけ残酷で惨たらしい光景だったゆえ、
「大丈夫ですよ、みもりちゃん。」
私は目を閉じてゆりちゃんの懐に潜り込んでしまったのです。
「あなたの傍にはこのゆりがついています。
誰もあなたには指一本触れさせませんから。」
っと力強く私の体を抱き込んで、何度も安心の言葉をかけてくれたゆりちゃん。
あの「影」の住民として生きたことがあるゆりちゃんにはもう慣れた光景かもしれませんが、
「ゆりちゃん…震えている…」
それでも身近い人に起きあ不幸ということによる、その動揺だけは抑えきれなかったようです。
一度も見たことのない異質の光景。
まるで悪い夢でも見ているのではないかと錯覚を起こすほど、あまりにも非現実的な感覚に誰もが現状を受け入れられない。
私たちはただ、周りに血を撒き散らしてぶった切られている死体と、赤く染まった血なまぐさいスカイタワーを見上げているだけでした。
***
私は彼と分かち合えると思っていた。
本気で歩み寄ればきっとたどり着けると、この世界は遅くても、たまに間違えても最後の最後にはそうなるようにできていると、私がお母様から教わったのはそういうことであった。
「かな…!目を覚まして…!」
だが眼の前に残酷で理不尽な現実が押し付けられてしまった時、私はようやく分かるようになった。
「この世界は間違っている。」
彼の言ったその言葉の本当の意味を。
一体何が起きたのか、私の意識はそれについていきなかった。
私はただ何故か呼吸もせず、床に倒れている自分の最も大切な太陽のような一輪のひまわりを抱えてずっと、ずっとむせび泣いているだけであった。
「危ない…!なな…!」
私が覚えている彼女の最後の一言。
それに先に気づいたのは彼女の方で、彼女は自分の能力では私を守れないと分かって、身を投げて私に定められた危険から私のことを守ってくれた。
一滴の血も出てない奇妙な様子。
まもなく彼女の体から金属質の異物を発見した私はそれが狙撃用の弾丸であることに気づき、彼女がどのような危険から自分を守ってくれたのか、ようやく理解できたのであった。
「対吸血鬼用の血液凝固弾だ。
吸血鬼は血液さえ止めておけばひとまず安心だからな。」
反吐が出るほど淡々とした口調。
その大柄の無機質な老人は倒れている金色の少女とその亡骸を抱きかかえて悶えている私のことを、ただただコンクリートのような冷たくて重い目で、ほんの少しの惜しいという気持ちを込めて眺めているだけであった。
「一発でも撃たれたら即血液が固まって酸欠状態に陥りられて、命に危険が及ぶ。
何より自慢の血液を媒介にした能力が使えなくなる。
無論これは吸血鬼用だから普通な人間なんて撃たれる時の衝撃でほぼ死ぬ。
運良く、いや、運悪く即死しなくてもあっという間に全身に巡る薬剤によって血液が固まってそのうち死ぬだろう。」
そして今、自分の眼の前にその運の悪い時が現れたと、彼は心より嘆いていた。
「実に惜しい。これさえあれば世界は元の姿に戻って、私は再び自分の宝物に触れられたはずだったのに。
いかに正確にプログラムしたとはいえ、やはりこういう予期せぬ事態には対応しきれん。」
貴重な実験材料を失われたしまったと、人の心のかけらもない乾いた口調で自分の心境を語っているその男の姿に、私は生まれて初めて感じた他人に対した嫌悪感に五臓六腑がひっくり返るような、実に不愉快な気分に包まれてしまった。
「仕方ない。遺体でも回収ー…」
そしてそう言いながら私たちの方にその鳥の下面の男が一歩近づいた時、
「…ここから退場してもらいます…」
彼の体は空中で爆ぜて肉の片になってそのへんに落ちて適当に転がるようになった。
悲鳴を上げることもできず、自分に何が起きたのか認識させないほど一瞬でその場で爆ぜて単なる肉の塊になってしまった大柄の老人。
そしてそれがたった今目覚めた自分の能力によるものであることを、私は自分の身を持って分かるようになっていたが、
「かな…」
私はそんなことはどうでもいいと思って、ただ自分の哀願にも目を覚ませてくれれない、自分の最も大切な宝物を抱きかかえて何度もその名前を呟いているだけであった。
大切すぎて一度も呼んでくれなかった名前。
名前を呼んだらどこか飛んで行っちゃいそうだったから、その名前を呼ぶことすらままならなかった。
でもお互いの気持ちが通じ合うことで、ようやく自分と向き合う勇気ができた私は今日、ここで初めて自分の口で彼女の名前を呼んであげた。
その時に見られた、太陽のような燦々な満面の笑顔に、私は今自分がどれほど幸せなものなのか、その事実を改めて分かるようになった。
そしてその幸福を最後まで守る抜く努力をしなかった自分自身と、押し付けられた冷静で残酷な現実にありったけの怒りと嫌悪を抱くようになった私は、
「もう誰もここに入ることはできません…」
このスカイタワーを自分たちの城、一緒に最後を迎える棺桶にすることにした。
外には雨が降っている。
「「十一月の雨」…」
冷酷な世界のすべてを拒む、私たちを守る鮮血の雨が。




