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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第5章「夢と茸」
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第325話

遅くなって申し訳ございません。

仕事と新人賞、連載を同時にするのはやっぱり大変ですね。

ですがこれからの2ヶ月、めげずに頑張ります!


いつもありがとうございます!

「ここは娘の好きな場所だった。」


その男はこう言った。


「私はあの子のことを思い出すと必ずここに来る。」


自分はただ娘のことを思い出してここに来ただけで、決して何かを企んでいたわけではない。


「だがどうやらあの子は今度こそ父の傍に戻ろたいと思っているようだ。」


でもここで私達に会ってしまったということはまさに運命の導きであり、今度こそ父の傍に戻ろたいという娘の意思が働いたと。


「私は運命を信じている。」


そしてそれこそ神の思し召しだと彼は自分の行動を正当化した。


よざくらさんによってあの神界の村から人界にあるスカイタワーまで運ばれた私達。

それは私達が寝ていた間に私達の身に危険が迫ってきたということで、よざくらさんがその危険から私達を守ってくれたことを意味する。

でもまさか吸血鬼の私が夜の時間にこれほど気を抜いてしまうとは。


「随分鈍ってますわね、わたくしったら。」


私はいつの間にか気が弛んでいた情けない自分のことを省みるようになったが、


「でも問題ありませんわ。今のわたくしならあなたに絶対負けませんから。」


以前と違ってここの全員を確実に殺せる力と覚悟ができている自分はここで決着を付けることにした。


その鳥のお面を被った大男は決してスカイタワーで待ち構えていたわけではない。

私達に会ったのは単なる偶然で、それ以上も、以下でもない。

よざくらさんがドクター側の内通者という可能性もあったかも知れないが、多分それは違う。


会長が「神眼」で考えを読むように、あの青葉さんが鼓動などで心理状態を予測するような芸当ができる者がいて、我々吸血鬼は「血の記憶」という技でそれに似たようなことができる数少ない種族。

よって私は一度だけ、念の為によざくらさんに協力を求めたことがあったわけだが、


「当然な段取りです。私は常にお二人様の近くにいる者ですので、用心するに越したことはないでしょう。」


彼女は嫌がることもなく、すんなりと自分の腕を差し出してくれた。


吸血鬼は弱点が多くて、なるべく他人を信じない。

疑り深い性格は吸血鬼という種としての悲しき習性。

読み取ったのは、ただたった一人の女の身で切り盛りしながら自分を育ててくれた母への愛情と赤座さん姉妹への尊敬心のみ。

私は彼女の潔白を信じて、私達の身の安全を委ねることができた。


だからこれは単なる偶然。

認めなくはないが、彼の言う通りに皮肉な運命の一瞬かも知れない。

彼のあまりにも強い意志が働いて、運命が私達を巻き込んでしまったとも取れるだろう。

それでも私達は生きることを諦めず、抗い続ける。

きっとそれこそ私達を未来へ導いてくれるのだから。


「いい目だ。生きようとする戦士の目。」


っとこの期に及んでまだ生きようとするのかと、私達への敬意を表するその男はほんの一瞬だけ、私達の命を取りに来た死神ではなく、私達を認めて、正々堂々向き合うべきと思う戦士のように見えた。


初めて私達の前にその男が現れた時は正直になんと言えば良いほど混乱してしまった。


「なんということだ。」


よざくらさんの伝言の通り、まず自分たちの安全を確保するために静かに動いていた私達は真っ先にスカイタワーの避難階へ向かった。

あそこなら他の場所より頑丈にできていて、万が一の場合にも籠城などの形で対応できる。

私一人だけではドクターの「フォールアウト」といういかれた私兵には勝てないが、こっちには「荒沼」家の「呪いの王」と「ロシアンルーレット」の紫村さんがいる。

彼女たちが到着するまでしのぎきればこっちの勝ち。

でも私はあくまで彼と交渉して、なるべく穏便にこの事態を収めたいと思っていた。


「あなたは…」


だから暗闇の中から町の夜景を虚しく、そしてどこか悲しく眺めている老衰の男を見た時も、先に撃たなかった。


年輪を重ねた白い髪とフサフサの髭。

顔に刻まれてた無数の傷は今まで彼がどのような人生を生きてきたのかを物語っている。

もうとっくに全盛期を過ぎたにも関わらず、大きい図体と全身にまとった凄まじい威圧感で周りの空気もどっしりと重みを帯びていて、その深みを持っている青い目には褪せることのない闘志が宿っている。


多分同年代でその男の素顔を見た人は誰一人いないだろう。

皆が本や新聞でしか見たことのないその男の顔。

それを自分たちの目で目視した時、私達はほんの一瞬だけ、これが本当に私達の命を狙って襲ってきた張本人なのかと思ってしまった。


あまりにも儚くて疲れた眼差し。

それを街の夜景に向けている彼の瞳の中にあるのは、ただ大切なものを取り戻したいという子供のような、下心のないちっぽけな一欠片の望みであった。


「驚いたな。」


先に口を開けたのは彼の方。

仮面越しの声とは違ったどっしりした渋い声に、私は一瞬、ほんの少しだけびっくりしてしまった。


「あのテレポート使いの能力が君たちをここに運んだのか。

幼いながら実にいい判断だ。」


っとここをテレポートの指定ポイントにしたのは実にいい判断だったとよざくらさんの選択は正しかったと称える男。

彼はこのようなポイントを何箇所か事前に調べておいたよざくらさんへの称賛を惜しまなかった。


「「陽炎」の副委員長は伊達じゃなかったな。まんまとやられた。

まさかあそこで心中するとは。」


でも自分の兵隊と一緒に死んだというよざくらさんの話をする彼に私は、


「動いたら撃ちますわ。」


これ以上、下手に口を開いたら頭をふっとばすと、銃を向けざるを得なかった。


「彼女に何をしました。」


まずは彼女の安全を確認しなければならない。

彼の言う「心中」という不穏な言葉から私はとてつもない嫌な予感を感じて、


「詳しいのは知らん。

向こうの「私」と通信が切れる前にその少女は確かに一緒に地獄へ行こうと言った。

何が起きたのかは全く映像がないから、私としてもぜひ教えてもらいたいところだ。

確かなのは彼女が深手を負っていたことと向こうの兵隊は全滅したということ。

あの状況で何が一番合理的な選択だったのかは、彼女ならよく知っていたんだろう。」


皮肉にもその予感がほぼ当たってしまったような気がして、しばらく立ち直れなかった。


私達のために命を捨てたよざくらさん。

そんな彼女を弔う時間も今の自分達には残されていない。


「なな…」


何よりも今の私にはかなを守らなければならないという使命がある。

私は泣き始めた彼女を私の後ろに隠して銃を向けたまま、挫けそうな心を叩き起こして話を続けた。


「なら心置きなくあなたを撃ち殺せますわ。

これからはこちらの質問に答える時だけに口を開くことを許可します。

誠実に答えた方が身のためですわ。」


もしよざくらさんが本当に死んだというのならこれ以上、交渉は不可能。

もう取り返しがつかない状況になったからこの男は決してこっちの話には乗ってくれないだろう。

それでも私は心のどこかでまだ彼と話をしたいと思っていた。


その甘さこそ早く捨てるべきであった。


もしあの時、


「話をしましょう。あなたのことを教えてください。」


私があんなことを言わなかったなら、


「かな…!かな…!目を覚まして…!」


彼女が撃たれることはなかったのに。

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