第321話
遅れてしまい大変申し訳ございません。新人賞の準備で前の方から検討していて少し遅れてしまいました。
皆様の応援のおかげでまた新人賞にチャレンジすることになりました!今度はちゃんといい結果を出したくてすごく張り切っています!
結果が出せなくても書くのは楽しくてこれからも続けていきたいと思います!
そういうことで今回も何卒よろしくお願い致します!
いつもありがとうございます!
事件は私達が赤城さんとかな先輩に会ってから数日後に起きました。
「なるほど。あのお面野郎の仕業だったのか。」
私達から詳細を聞いた理事長さんはまた厄介なものが関わっていたなと少し困りそうな顔で現状を把握しました。
彼女は以前保安局に勤めていた頃からドクターのことを疑っていたらしいですが結局尻尾を掴むことはできなかったそうです。
「あの男は慎重で用心深い。保安局局長の頃、彼のことについて内密に調べようとしたが結局何も分からなかった。
記憶を読み取ることも、彼の目的を突き止めることも。
それだけあの男は自分の秘密に対しては徹底的だった。」
そんなドクターが今更あんな目立つ行動を取った理由。
理事長さんはその理由についてかな先輩こそドクターにとって一世一代のチャンスかも知れないと推測しました。
千載一遇のチャンス。
ここがドクターにとって正念場に違いないと理事長さんは元世界政府保安局局長らしい鋭い推理力を働かせました。
「あの頃はおそらくそこまで欲しがる能力がなかったのであろう。
彼女の能力については報告を受けたから大体は知っている。あれは今までなかった規格外の力。
悪用されたら「大家」や「Nature」などの組織には比にならないほどの災害になることにはまず間違いない。」
すでにかな先輩の「ザ・ハンド」について知っている理事長さんはその能力の恐ろしさもまたよく把握していました。
彼女はその危険性は裏世界の覇王である御祖母様の「大家」や極端環境団体「Nature」以上だと評価しました。
その時、私達は赤城さんが聞いたというドクターの「金色のリセットボタン」の意味が分かりかけてきたのです。
「あれは間違いなく「ザ・ハンド」を利用してこの世界を破滅に陥れようとしている。」
世界をあるべき姿に戻す。
そのために何としてもかな先輩を手に入れなければならない。
その目的を果たすことさえできればドクターはいかなる手段も厭わないと理事長さんは元保安局局長として確信していたのです。
「私が知っているのはドクターの過去のほんの一部だがそれだけ彼がどのような残酷な人間なのかは十分推測できる。
あの男は捕虜を改造して生物兵器にしたり体内に爆弾を仕込んで帰らせた後にふっとばすゴミ以下の人間だ。
相手が軍人であろうと、民間人であろうと彼には関係ない。彼の興味はただ実験材料になれるか、自分にとって得となるかだけだ。
あの鉄の体に人の心は欠片も残ってない。
正直に言おう。私はあの鳥のお面を被ったいかれた男のことが大嫌いだ。」
っとドクターへのむき出しの嫌悪感と敵意を晒し出す理事長さん。
高貴な黄金の瞳の中に映っているひたすらの悪への凄まじい憎しみに私は一瞬で背骨が凍えてしまうような感覚に包まれましたがその同時に少し安心もしてしまったのです。
やっぱりこの人は正義の味方なんだと。
彼女はもはや現役の「神様」ではなくて今の「神様」とも仲が悪いから時々彼女のことを時代遅れの崩れとけなす人もいるらしいですがそれでも彼女は遠い昔、寮長の紫村さんと一緒に一度この世界を救った大英雄であることを私は改めて分かるようになったのです。
「だがこれと言った証拠がない限りこれは憶測に過ぎない。だから私は今から魔界の「赤城財閥」に向かう。そこでナターシャと一緒にこれからの対策について考えて行動する。
二人の救出を第一として優先し、ドクターの逮捕も視野に入れよう。」
っと早速どこかにいくつかの電話を回した理事長さんは早速旅支度をして
「私がいない間、代わりに妹がここに来る。普段何を考えているのか全く分からない腹黒みたいなやつだが仲良くしてくれ。」
その言葉だけを残して午後には早速魔界へ向かいました。
理事長さんは分かっていました。
事態が一刻を争っていること。
自分が知っているドクターなら目的のためであれば手段は選ばないということを。
もし一歩間違えてしまったら手遅れになることを。
そして理事長さんの嫌な予感が当たってしまうことをその時の私達はまだ気づきませんでした。
「君達はしばらく待機だ。あの二人に特に親しんだ関係である君達は真っ先に疑われやすい。
学校の敷地付近には結界が張られていて外から覗くことはできないが油断は禁物。
実際我々は今までの平和に気を抜いていて「ザ・ハンド」のことをドクターにバレてしまったのだからな。」
中学校に入ってから赤城さんのところには「赤城財閥」の特殊部隊である「メルティブラッド」が付かなかったのですが今まで特に問題はありませんでした。
「大家」などの組織の関係者は殆どが身元不明の未登録者で見つかったら即身元の確認を要請されるから堂々と街は歩けない。
だから特に危害を加えようとする人物も、脅威もありませんでした。
日光以外は彼女の平穏な日常を脅かすものはほぼ全無と言ってもいいほど今の時代は平和だったのです。
だから赤城さんに護衛の「メルティブラッド」が付く必要がなかったのですが私達の日常を脅かす脅威はまだいくらでもあったことを私達は今回のことで学んでしまったのです。
一番まずかったのでかな先輩が不用心にうっかり能力を外に出してしまったことですがそれについて赤城さんも、私達も誰一人先輩のことを責めなかったのです。
「かなちゃんは赤城さんの傍にいて安心したんです。だから気を抜いてしまったんですが逆に言うとやっぱりかなちゃんにとって一番安心できる場所は赤城さんの傍だということです。」
っと改めてお二人の絆の深さが分かったという先輩の話に私達は全員同意せざるを得ませんでした。
でもピンチであることは変わらない事実。
そのことについてゆりちゃんは
「一番恐ろしいのは内部の脅威です。結局世界政府は見える敵しか気をつけてなかったということです。」
っと少し自嘲的な口調で今まで世界政府が取ってきた脅威に対する対処について語りました。
世界政府に勤めているお父さんを持つゆりちゃんだからこそ味わわせられる苦い現実。
私達は気をつけるべきなのは「大家」のような反社会組織や災害だけではないということを再び認識するようになったのです。
その後、理事長さんは魔界へ向かい、早速「赤城財閥」の総帥である「赤城」家の現当主、赤城さんのお母さんの「赤城ナターシャ」さんに会って早速二人の救出作戦に取り掛かりました。
今のドクターなら抗争を起こしても必ずかな先輩のことを確保しようとするはず。
だから隠密行動として慎重に、そして迅速に取り掛からなければならないと理事長さんはそう言いました。
実際理事長さんと赤城さんのお母さんの指示の元で計画は着々と進んでいって明日にでも赤城さんとかな先輩を迎えに行けるように万全を期しました。
世界政府内にいるドクターの側近に気取られように密かに保安局まで取り込んですべての準備を整えた理事長さん。
私達を二人のところまで運んでくれたよざくらさんは理事長さんからの伝言を自ら直接二人に伝達、二人に救出作戦のことを教えたのです。
最初は絶対抗争を起こすと思ったお母さんが理事長さんと一緒に救出作戦を用意していたという話を聞いた時、赤城さんはすごく驚いたらしいです。
冷製で合理的でも一族、特に血族である身内のことになるとがむしゃらに力で解決しようとしたお母さんが理性を失わずに慎重に動いている。
手段は誤らなくてもよく目的を失ってしまう吸血鬼の本性を見事に克服した赤城さんのお母さん。
お母さんと理事長さん、そしてよざくらさんのような多くの人々のおかげで赤城さんは自分と赤座さんが頑張って集めたドクターに関する情報をうまく使えばドクターと話し合うこともできると希望を抱きました。
そうやって事がうまく運ばれて全部解決できそうでした。
満月の夜。
蒼白の月が夜空に浮かんで地上を照らしたある日の夜。
今を生きているすべての者の寂しさ、苦しみ、痛み、悩みを宥めてくれるような優しい月光の下で血のお祭りは始まったのです。
「大変です…!みもりちゃん…!早く起きて…!」
夜中に慌てて寝ていた私を叩き起こすゆりちゃん。
よほどのことがない限り、あまり慌てたり焦ったりしないゆりちゃんのことだからこそ私はその血の気が引いた真っ青な顔を見て事態の深刻性に一瞬で気がついてしまったのです。
「急襲です…!先を越されてしまいました…!」
そしてゆりちゃんは私に服を着替えさせて寮の前に待機していた車まで連れていきました。
一秒の遅れも許さない緊迫さ。
先ほど感じたゆりちゃんの手先から伝わる震え。それは決して今起こっていることがただごとではないということの反証でした。
私はこんなに焦っているゆりちゃんを今まで一度も見たことがなかったので、どうすればいいのかただ困惑していましたが、ただ一つだけはっきりと分かることがありました。
それは、今から自分が見る現実は決していい状況ではなく、私たちにとって絶望的であるということです。
だからこそ私は取り乱れた自分の心を保つため、そしてゆりちゃんの心を保つために、ゆりちゃんの手をギュッと握ってしまったのです。
「二人共!早く!」
そして私達のことを呼ぶ青葉さんの声に車に身を乗せて私達は血に染まってきた夜中の道路を走り出しました。
「ー「黄金の塔」の関係者は今回の事件を「Dogma」による明らかなテロ攻撃と見做し、厳重且つ迅速に制圧する意向を表明しましたー…」
その時、車のラジオから流れてくるニュース。
そのニュースを聞いた途端、私はようやく何が起きたのか分かるようになってしまったのです。
不安と嫌な予感が交差する夜の街。
その先に何が待っているのか私達は自分達の目で確かめなければならなかったのです。




