第320話
いつもありがとうございます!
赤城さん、そして赤座さんの話を全部聞いてからようやく全貌が掴めそうになった私達。
二人からの話を合わせてまとめると赤城さんと中黄さんは大手企業の「Dogma」の設立者の一人である「ドクタードグマ」、通称「ドクター」に追われていてその原因が中黄さんの右腕にある「消す」という結果だけを導き出すことができる「事象能力」である「ザ・ハンド」にあるということ。
赤城さんは彼が「ザ・ハンド」を利用して何かよくないことを企んでいて赤城さんの予想が正しければ彼はこの世界をもう一度混乱に陥れようとしている。
それはまさに「神樹様」による平和への反逆。一度滅びかけたこの世界にとって最も脅威的な行為に違いない。
このことが証明できたら「赤城財閥」とドクターの間に抗争が起きる前にドクターを押さえられる。
今の状況ではドクターにもみ消される恐れがあるため、確かな証拠を押さえて確実にドクターを確保しなければならない。
「確実な証拠が出たらさすがに世界政府も動かざるを得ません。
いくらドクターであっても極刑は免れられないでしょう。」
世界政府はテロなどの多くの人々の命を脅かす極悪行為については死刑判決を行っていてもしドクターが本当にそういったテロ行為を企てていたのなら一生刑務所から出られないか、それとも更生の余地がないと判断した世界政府によって処刑されるかどちらかになるのでしょう。
「別にドクターを絞首台に立たせる気はありませんわ。ただ彼の目的は何なのか、より平和的で答えを見つけてこの問題を解決したいだけですの。」
っと最終目的は決してドクターを捌くことではなく、ともにより良い未来へ行くことであることを予め明かしておく赤城さん。
彼女は自分達の目の前の保身だけではなく、もっと先のことまで考えて行動していたのです。
でもそれには絶対な条件が付いていることを私達は皆知っている。
何があっても、どんな理由であっても中黄さんに、皆に手を出さないこと。
もしそれが守られなかったら
「なら殺すまでのことですわ。」
その先に待っているのはただひたすらの滅亡のみであることを私は一瞬見た赤城さんの鬼気迫った眼差しから察することができたのです。
これはあくまで最悪を想定した時の話。
それだけの覚悟が彼女にはすでにできていたことに私達は皆よく知っていましたが
「大丈夫です!だって私達が赤城さんとかな先輩のことを守りますから!」
決して彼女が考えているような最悪の結末にはさせないとまるで私達の気持ちを代弁してくれるように自身に満ちた虹森さんは必死の覚悟の赤城さんにそう宣言したのです。
「だって赤城さんも、かな先輩も私達の大切な仲間ですもん!」
「あなた…」
赤城さんが「赤城財閥」の跡取りだとか、中黄さんが医者家計の人だとかのメリットには関係ないひたむきの優しさ。
それをいつもめげずにぶつけてくるから私達は彼女のことが好きなのかも知れない。
騙し合って騙されるいびつな世界の中、彼女はそうやって私達にありのままの、ありったけの気持ちを明かしてくれて
「本当…先輩にそっくりなんだから。」
私は彼女の輝かしい真心こそ自分の大好きな誰かさんにそっくりだなと思ってほんの少しだけ笑ってしまったのです。
「もう♥みもりちゃんったら頼もしいんですね♥」
「あ!ずるいですよ!先輩!」
そんな虹森さんのことをただ可愛がって抱きつく先輩でしたがその真剣な気持ちだけはちゃんと分かっていると私はそう思います。
「私も…!私も守って…!みもりちゃん…!」
「ど…どうしたの…?ゆりちゃん…そりゃもちろんゆりちゃんのことも守るよ…?」
「本当ですよね!?」
その後、くどく絡んでくる緑山さんを落ち着けるのに一苦労でしたが
「ええ。ありがとうですわ。」
「ありがとうーモリモリー」
二人は自分達のためにそう言ってくれる彼女のことに心から喜んでいました。
「まずはしばらくここで身を隠しますの。そのままドクターの方から諦めてくれたら楽ですが。」
「まあ、何を企んでるのかは分かんないけどそう簡単に諦めたりはしてくれないんだろうね。」
だからしばらく身を隠して可能な限りドクターに関する情報を集めてドクターの交渉、それともなんとか世界政府がドクターを逮捕せざるを得ない状況を作り出す。
無論本当にドクターにテロを起こす意図が見つかった場合、処罰は避けられないがそれでも交渉の余地はあると赤城さんはそう判断しました。
「もちろん危険因子は払っておきたいですわ。
でも彼の研究が多くの人々を助けた事実は否めませんし、実際彼のアンドロイド技術のおかげでその生命を続けることができたこともあります。
お父様も同じ医療員としてドクターのことを尊敬しているとおっしゃいましたわ。」
本来「Dogma」は軍事技術の開発のために建てられた企業ではなく、あくまでアンドロイド技術を利用して多くの生命を助けるという崇高な目的で作られた会社です。
共同設立者のドクターとドクターの婿さんである「Will」さんは両方共に元医者でドクターはWillさんの大学の時の恩師だったそうです。
でも戦争中愛娘さんを失い、唯一の理解者であったWillさんまで何者に暗殺された後、ドクターは明らかにおかしくなりました。
ドクターは極端の戦争狂となって人体実験などの非人道的な行動を躊躇なくやらかしてしまうほどの悪人に成り下がりました。
戦争後、彼は自分の過ちを認め、謝罪して初心に戻って人々のための研究を始め、損傷した人体を機械に入れ替わる人工器官研究の分野の一番の専門家になりました。
過程はどうであれ彼の業績と何十万人の命を救ったという結果は称賛に値すると赤城さんはそう言っていました。
だからこそ知りたい。
なぜあのような行動をしなければならなかったのか。
なぜそこまでして中黄さんのことを求めているのか。
でも赤城さんのその疑問に対したドクターからの答えを我々聞くことは一切ありませんでした。
その後、赤城さんと中黄さんとの短い出会いを無事に終えた私達は学校に戻ってこのことを念の為に理事長と相談、密かに二人の救助作戦が計画されました。
理事長はこのことを聞いて即「赤城財閥」へ向かい、そこで赤城さんのお母様で元「赤城」家の当主である「赤城ナターシャ」さんと合流して世界政府の保安局に接続して今後の対策を練るつもりだそうです。
「大丈夫。君達は心配しなくてもいい。ここからは大人達の仕事だ。」
っと君達は何も気にせず普段通りに勉学に励みなさと理事長はそう言いました。
「確かにあれは狂人だがまだこの社会の一員として残っている間には善良な市民を演じざるを得ない。
そう簡単に仕掛けたりはしないだろう。」
っと言った理事長はその翌日、「赤城財閥」のある魔界へ向かいました。
その代理として理事長の妹さんである第1女子校の校長、「魔神族」の「夜咲二穂」さんが来て学校はまた人騒ぎを起こしましたがあの時の騒ぎなんて
「なにこれ…」
今自分が見ているものに比にならないことを私は断言できます。
「これからななちゃんとかなちゃんの救出作戦を始める。」
目標はドクターとドクターの私兵部隊「フォールアウト」による作戦名「ブラッドツリー」に赤城さんが殺される前に私達が一足早く彼女達を確保して保護すること。
「赤城さん…絶対助けるから…」
そう覚悟を決めた私達は赤城さんと中黄さんの救出のために「Scum」の部長「紫村咲」さんを中心に組織されたタスクフオース 「カナナ」とともに血の雨が降り続けているスカイタワーの中に突入しました。
赤城さん達と別れてからわずか一週間、一体二人のところに何が起きたのでしょうか。




