第318話
いつもありがとうございます!
「そうだったね。」
先輩の話が終わった時、少し考え込むようになった結日さん。
いつも目を閉じているから普段何を考えているのか分からない人ですがそれでも先輩は彼女のことを親友と認めました。
そして私は
「うん、分かった。皆には内緒にしておくよ。」
その理由をなんとなく分かるような気がしました。
「百花繚乱」、特にあの速水さんの耳にこの話が入ったらきっと大騒ぎになってしまう。
だから今は隠密に行動した方がいいと判断した結日さんは今の話をここだけにしておくことにしてくれました。
でも彼女は確かにこう言いました。
「二人のこと、よろしくね?」
彼女達のことを心配しているのは私達だけではない。
結日さんもまた同じ学校に通っている生徒として、そして「百花繚乱」の団長として彼女達のことを心から心配していたのです。
それと同時に私達ならきっとうまくやれると信じてくれた。
彼女がただの女誑しの変態ではないということが分かった時、私は彼女のことを見直すようになりました。
「どうして先輩が結日さんみたいな変な人と友達になったのかちょっと分かった気がします。」
「えー?そうかなーというか今ちょっと傷つく話してない?」
っと照れる結日さん。
こういうところもちゃんとあるんだなって改めて彼女のことを再認識した私は
「だってみらいちゃん、おっぱいめっちゃ大きいじゃんー私、おっぱい大好きだしー」
この人を絶対先輩のところに近づかせてはいけないと心に誓ったのです。
「ところでここでどうやって赤座さんに会うんですか?」
っとここまで来たのは良かったけどこれからどうすればいいのかを聞く私に
「あ、それはですね。」
先輩の視線はなぜかここのオーナーである謎の仮面の2年生の方に向かったのです。
「お願いします、荒沼さん。」
「承知いたしました。」
そして予め赤座さんから連絡を受けて協力を約束した荒沼さんは
「よざくら先輩、お願いします。」
早速今回私達の案内役となった3年生の「世・桜」さんを私達に紹介しました。
「お待ちしておりました、皆様。今回皆様の案内役を務めることができて光栄の至りと存じます。
ここの副委員長を務めまさせて頂いております。
「世・桜」と申します。以後お見知りおきを。」
っと中から現れた白い髪の毛の少女は挨拶と共に丁寧に自分のことを紹介しました。
荒沼さんと同様、何も感じない植物のような感覚。
他の部員とは違った少し変わったお面を被って鼻の下を全部隠した彼女は紫色の不思議な色の瞳で私達のことをじっと見つめていました。
「彼女は「陽炎」唯一のテレボート能力者です。皆様を指定ポイントまで無事にお送りする任務で今回の案内役として選ばれました。」
「テレボート…」
なるほど。赤座さんがどうしてここに向かうように先輩に指示を頼んだかようやく分かりました。
「テレボート」、つまり転移能力は極稀のレアケースで少なくとも私は第1女子校の校長である「夜咲仁穂」様を除けば一度も会ったことがありません。
一応「事象能力」の一つとして分類されていてそれだけ十分話題になると思いますが大半の「事象能力」がそうしているように彼女もまた表に自分のことを出さないようにしているらしいです。
最も「陽炎」の副委員長という立場上そう簡単に自分のことをさらすわけにはいきませんからなおさら私達に彼女のことを知る余地なんて微塵もありませんでした。
「まあ、テレボートと言ってそんなに都合の良いものばかりではありません。」
っと自分の能力は世間の認識と違ってそんなに良いものではないということを予め言っておくよざくらさん。
彼女は自分の能力にはいくつかのルールがあってまず自分が言ってみたことのない場所には行けないと説明しました。
「必ず自分の目で確かめて触れた場所であること。
瞬間移動ということに異存はありませんが事前に指定ポイントを設定しておく必要があります。」
彼女は自分の能力をテレボートより「帰還ポータル」と言いました。
なぜそのような能力になったのか、それを聞いた時、私達は「事象能力」に関する大きな手がかりを掴むことができたのです。
「私の母は病に冒されていました。そんな母が心配で私は毎日一刻も早く家にいる母の元に駆けつけていきたいと思いました。」
病気にかかったお母さんのことがいつも心配だったというよざくらさん。
豊かな家ではなかったので学校に行っている間、お母さんのことを見守ってくれる人がいない。
そんなお母さんのことがあまりにも心配で一刻も早くお母さんのところに走って行きたかった彼女は心からこう願ったそうです。
「もっと早くお母さんのところに。」
そしてその強い思いが「ハイド・アンド・シーク」という名前の能力として発現した時、彼女は「事象能力」の秘密を解くことができました。
「「事象能力」は強い思い、つまり「願い」によって目覚めるものです。」
***
「そうだったんですわね。」
赤城さんと中黄さんの今までの話が終わった後、私達はよざくらさんから聞かせてもらった「事象能力」のことを彼女達に話すことにしました。
なぜ今彼女達に「事象能力」について伝える必要があったのか。
それは今回二人をこんな目に遭わせたのが大手企業「Dogma」の設立者の一人である「ドクタードグマ」であって彼の目的が中黄さんの「事象能力」、「ザ・ハンド」であることが分かったからです。
彼はいきなり私兵を連れてきた二人のことを襲ってその上に中黄さんのことを攫おうとした。
「ドクターはこう言いましたわ。そっちの「リセットボタン」をよこせっと。」
「リセットボタン…」
目的も、なんの説明もなくいきなり赤城さんの大切な宝物を奪おうとしたというドクター。
鳥のお面を被った黒尽くめの格好をした彼はまるで遠い昔の医者のような姿であったと赤城さんは彼の外見をそう説明しました。
何人かの大男達を引き連れて突然彼女達の前に現れたドクターは早速男達に攻撃の指示を出しましたが
「幸い時は夜中で夜明けまではかなり時間がありましたわ。きっとわたくしのことをかなり侮った上での行動だったと思われます。」
夜に限って超人的な力を発揮する吸血鬼の赤城さんのおかげで二人はなんとかドクターから逃れることができたそうです。
そして当時捕らえられなかった二人を掴むために赤城さんが警察を襲ったというデマを流したドクターの卑劣な行為に私達は全員憤慨せざるを得ませんでした。
なんとかドクターから逃れることはできたが行くところがなかった赤城さんと中黄さん。
その上、戦闘中怪我を負った赤城さんと中黄さんの足は著しく遅くなった。
踏んだり蹴ったり朝日まで登って急がなければ命が危うい。
体力も気力もどんどん減ってきた絶体絶命のピンチ。
その時、そのピンチから救いの手を差し伸べたのが
「な…何よ…」
今回私達を彼女達の元まで導いてくれた赤座さんだったのです。
今回の一番の立役者と言っても過言ではないほど赤座さんは二人のために、そして私達のために体を張ってくれました。
彼女は怪我人の二人を安全な場所まで連れて行って匿ってくれて身の安全を確保してくれました。
その上、「赤座組」の関係者であるよざくらさんに協力を求めて私達を赤城さんと中黄さんに会わせてくれて私達はこうやって二人の無事を確認、再会することができたのです。
そのために赤座さんは「陽炎」の頭領である荒沼さんに見返りとして何らかの契約を結んだらしいですが詳細については未だに不明のまま。
その点について先輩は何か変な条件でも押し付けられたのではないかと心配しましたが赤座さんいわく
「大丈夫ですよ、先輩。割とまともなやつですから。」
荒沼さんはあんな変なクラブのオーナーの割にまともな人で決して不利な条件ばかりの違法契約ではないということを予め言っておきました。
「よざくらさんは「赤座組」の関係者ですが動くためにはまず荒沼さんの許可が必要で彼女は快くその許可を出してくれたんです。
私はそれにちゃんと報いたいです。」
っとすべての責任は自分が取ると自分の行動になんの悔いも、躊躇も持たなかった赤座さん。
そんな赤座さんを見てふと私はどことなく彼女の市尻しい成長を確かめたような気がしました。
それはきっと先輩との生活と共に彼女の内面から起きた認識の変化、そして生まれつきの優しさが相まって起きた化学反応だと心のどこかでそう思ってしまう自分だったのです。
「願いによって目覚める能力…ですか。」
ドクターの目的はただ一つ。
「消す」という行為と結果だけを導き出すことができる中黄さんの右手「ザ・ハンド」。
間違いなくドクターは彼女の力を何らかの計画に利用しようとしているのです。
そのためにデタラメの噂を流して赤城さんと中黄さんを追い込んで今もその行方を探っている。
下手に世界政府側にこっちのことを知らせたら先にドクターの方から何か仕掛けてくる恐れがある
私はどうして二人がこんな目に遭わなければならないのかと悔しさに歯を食いしばってしまいましたが
「大丈夫。私にはなながいるから。」
「ええ。私達のことでしたら心配いりませんわ。」
こんな絶望的な状況であっても二人はなおお互いを励まし、支え合ってより強く生き抜こうとしていました。
揺るがない絆。
世間の険しい風当たりにも決して二人は取り合った手を離さない。
そうやって華麗なバラと元気なひまわりは二人だけの庭を築いていたのです。
「そこでこれからのことなんだけど。」
そして誰よりも二人のことを守ってあげたかった彼女。
赤座さんの円の赤い目に宿った優しさに私はもう一度彼女の強い意思を確かめることができました。
赤座さんとの再会で聞いた彼女の最初の一言。
それに込められていた真心と本気。
「二人も、皆も全部私が守るから。」
私は矛盾だらけの自分と違って自分の優しい心に、信念に素直に従いながら輝いている彼女のことを本当に眩しく感じたのです。
あの時、中黄さんが何を望んであんな能力に目覚めたかは分かりません。
でもそれが何であろうと間違いなく大好きな赤城さんのためであることを私達はもう分かっていました。




