第317話
いつもありがとうございます!
「陽炎」。
「絶対中立」を掲げて独立で活動する謎の組織。
一応「百花繚乱」や「Scum」のように生徒会に所属している組織ですがたとえ理事長であっても彼女達に口出しするのは許されません。
彼女達を動かせるのはあくまで「中立」。
普段どこで何をしているのか誰も知らない。
彼女達に会えるのは年に一度の生徒会長選挙のみで構成員全員が何らかの方法で身分を隠しているため身元の特定はできない。
「百花繚乱」、「Scum」と一緒に学校の兵隊ではあるが
「ようこそ。「百合の花園」へ。」
その実体を確かめた時、私は選挙の時以外、彼女達が普段何をしているのかを知るようになりました。
「この人が…」
先輩が私達を連れて行ったのは「合唱部」の部室から少し離れたところにある「陽炎」の部屋でしたがまさかそこで
「お初めにお目にかかります。私が当クラブのオーナー、「荒沼蘭」と申します。」
私は初めて「陽炎」の頭領、「荒沼蘭」さんに会えるとは全く思いもしなかったのです。
青目の深緑色の髪の毛。
全く心理状態が読めない微妙な音声。
殺気も、圧力も感じない。まるで植物を見ているようななんの変哲もない気分ですがだからこそぞっとしてしまう。
身長は私とほぼ同じくらいですがこの下面の女は明らかに速水さん以上の強さを持っている、ただそれだけはなぜか体で実感できました。
立会人を生業とする「荒沼」家の噂はこの星に住んでいる人なら誰もが知っているほど有名です。
「荒沼」家が立ち会ったことには信じられないほどの信用が付き、誰もが認めざるを得ない。
それ故にあの世界政府さえ大事なことには必ず「荒沼」家の人による立ち会いの下で行っています。
もし相手が契約を破ってしまった場合、「荒沼」家は地の果てまで追いかけて必ず取り立てる。
最も契約破棄の時点で契約を破った相手はすべての信用を失って社会から抹消されるから誰もが「荒沼」家の前では誠実な行いを強制されます。
その「荒沼」家の現当主が今私の前にいるこちらの「荒沼蘭」さんというわけですが
「当クラブ「百合の花園」は皆様の恋を全力でサポートいたします。」
どうやら私はまたとんでもない変人に会ってしまったようです…
「あれ…?ここってどこか見覚えがあるような…」
ここに来てからずっと何か気がかりでもあるのかむしゃくしゃな顔で頭を抱えている虹森さん。
でもこの怪しげなクラブのことが気になるのは虹森さんだけではありませんでした。
「みもりちゃんもですか?変ですね…実は私も同じですよ…」
っと自分にも同じ違和感があるという緑山さん。
彼女は
「こういう場所があると会長も、副会長も一言も話さなかったんですもの…」
っと生徒会としてもこういう場所は知らないと言いましたが
「それなのになぜか私、ここを知っているような気がして…」
なぜか一度ここに来た覚えがあると自分の記憶を手繰り寄せました。
それについて荒沼さんはなんの説明もなかったのです。
ただ
「ええ。私もお二人様のことは今日初めてお会いしますので存じておりません。
ただこうなるのも運命だったかも知れませんね。」
っと二人の訪問を心から喜びました。
「当クラブは恋に悩んで胸を焦がしている少女達を応援し、全力でサポートすることを目的にしております。」
っと急にクラブの紹介を始める荒沼さん。
彼女は先代にはなかったここ「百合の花園」を作ったのは自分でありこのクラブの目的はただ純粋に女の子でありながら女の子が好きなことで悩んでいる女の子をサポートするためと説明しました。
まさに名前にふさわしい活動目的だと思って
「どうしたんですか?うみちゃん。」
私の視線は自然と先輩の方へ向くようになりましたが
「…絶対キスのこと気にしてない…」
どうやら天然の先輩には何も感じられないようでただひたすらの失望感だけを抱くようになった自分だったのです。
まあ、私のことは置いといても活動自体は立派なことだと思います。
このご時世自分のことだけで手一杯で他人のことに構っている余裕なんて全くないのに彼女達は自ら誰かの力になるために頑張っている。
少なくとも私なんかよりはずっと学校のためになっているだと私は心からそう思っています。
荒沼さんのことは今日初めて知りましたがそんなに悪い人ではないと心のどこかでむしろ尊敬までしていたその時、
「あれ?今日はなんかお客さん多いね。」
「ゆうなちゃん!」
この学校で一番健全ではない人物の登場によって私のここへの認識は一変するようになりました。
「百花繚乱」「団長」。
「雷の槍」の「壱の型」である「一閃」しか使えないことにも関わらずその「一閃」だけで「勇者」の称号まで授けられた優れた剣士。
真っ白な「百花繚乱」の制服を着て紅に染まった華やかな金髪を靡かせながら刀を振るう彼女の姿はまさに王子様でしたが
「どうしたの?皆でエッチでもしにきた?」
彼女はこの学校で一番ダメな側の人であることを私達はよく知っていました。
女であれば生徒だろうと教師だろうと何でも食い尽くす女誑し。
男より親しくなりやすい点を最大限に利用したたちの悪い「勇者」様。
この辺で「結日優奈」の名前を知らない女の子なんて誰一人存在しないと私は確信を持って言えます。
「あれは遺伝です。父さん譲りの。」
っと妹の「結日優気」さんは不甲斐ない姉で申し訳がないと言わんばかりの顔をしていましたが
「でも心配する必要はありません。別に都合よく連れ回していながら遊んでいるつもりではありませんので。
ああ見えてもちゃんと責任は取ってますし一応皆に迷惑がかからないように自分でも結構気を遣っています。」
どうやら彼女には姉に対する信頼みたいなものがあるみたいで私はちょっとだけほっとしました。
「父さんはクズでしたが姉さんは違います。「人竜」は繁殖力が衰えていて姉さんと私以外の子供はいませんでしたが女絡みの事件が途絶えたことがなかったんですから私達はずっと苦労しました。
毎日変な女が家に押しかけて大暴れして。
姉さんにとって一緒に遊んだ女性はただ保護するべきの妹のような存在で私とあまり変わりはない。それだけは私が保証できます。
もちろんそういう女癖は将来のためにもちゃんと直してもらいたいですが。」
っと未だに姉に対して不安を抱えている妹の結日さん。
信じてはいても心配になるのは仕方がないようです。
「珍しいね。ゆりちゃんとみもりちゃんはともかくまさかのみらいちゃんとうみちゃんまでここに来るとは。」
「…なんの意味です?それ…」
っと虹森さんは今の発言に不満を表しましたが
「結日さんにとって今の私と先輩は虹森さん達の関係に見えてるんだ…」
私は今の結日さんの視線を想像しながら一人でこっそり喜んでしまったのです。
「ゆうなさんこそどうしたんですか?というかここのこと知っていたんです?」
生徒会である自分ですら把握してなかったここの存在をもう知ってたのかと結日さんに聞く緑山さん。
でもそれに対した答えを私達はここのオーナーである荒沼さんから聞くことできて
「彼女は当クラブの設立の立役者の一人です。」
「いっぱいエッチできる場所があるのは色々都合が良いからね。」
ここが決してただの親睦を図る健全な場所ではないということがたった今判明されました。
でも結日さんが今日ここに来たのは割とちゃんとした真っ当な理由があったからでした。
「実はうちにも色々事情があってね。もうすぐ「交流の日」だしそのための準備とかの業務もあるから。
それにー…」
っと他に何か話しかけた結日さんは
「いや、これは良いや。別にみらいちゃん達には関係ない話だし。」
口を閉じて先っぽまで出たその話を元に飲み込んでしまいました。
「後でゆりちゃんにちょっと聞きたいことがあるけどいい?」
「ええ。構いません。」
っと後で自分の部屋で「交流の日」も兼ねて警備や他の詳細について色々話したいという結日さんは会長と副会長の不在によって事実上の生徒会トップである緑山さんに予め打ち合わせの約束を取りましたが
「結日さん…なんか隠している…」
それが周りの私達に気を遣った上の嘘であることを私はその一瞬で見破ってしまったのです。
鼓動、心拍数、眼差しのゆらぎなどの些細な仕草から相手の心理状態がほぼ完璧に読める私に今の結日さんが皆に嘘をついていることを見抜くのは造作もないこと。
ただその詳しい内容を知らない限り、むやみに首を突っ込むわけにはいかない。
何よりこれ以上速水さんに迷惑はかけたくない。
そう思った私は今はひとまず様子見することにして自分の行動を制限、速水さんのことをもう少し信じてみえようとしました。
彼女は優秀。
少なくとも私が知っている人の中では指折りの怜悧な人で責任感や正義感も強い。
それにあの灰島さんが傍についていればある程度の無茶は許されるはず。
だから今の自分はただ目の前のことに集中して他の組織達より早く赤城さんと中黄さんに会って彼女達の身の安全を確保すること。
そう自分のやるべきことを選別し、優先順位をつけることで私はもっと効率よく動ける。
だから自分の行動に迷いがない。
振り向くことも、後悔することもない。
ただそうやって自分の意志を、信念を貫けばいい。
それこそが私を幸福に、自分が描いた理想のエンディングに導いてくれるはずだから。
「エッチでもないならむしろみらいちゃん達はどうしてこんなところに?」
「あー…それは…」
結日さんは私達に特に用事もないのになぜここに来たのか早速その理由を聞き、それについて一応この中で一番年長者である先輩は一度私達と目を合わせた後、
「私達はこれから赤城さんとかなちちゃんに会いに行きます。」
心を決めて彼女に本当のことを話したのです。




