第313話
遅くなってしまい大変申し訳ございません。
最近前より頭痛がひどくなってあまり進めることができませんでした。
明日から病院に通おうと思います。
特に病気ではないと思いますがおそらく不眠症が原因ではないかと。
すぐ元気になってきますのでこれからもよろしくお願い致します!
いつもありがとうございます!
社長のすずめさんは私にこう話した。
「どうやらドクターは思った以上に例の彼女にこだわっているみたい。」
思った以上の異常事態。
大戦争以来特に妙な動きを見せなかったドクターの様子が尋常ではないと彼女はそう言った。
「どうしてもななちゃん達の在り処を探すためにマスコミまで利用してデタラメの噂を流そうとしているみたい。
何でもななちゃんが警察と治安ドローンを襲ったって話らしい。」
自分の目で確かめた限りあれは紛れもなく捏造した偽物。
おそらく私をはめるためにドクター側から裏で何か細工をしたんだろうと彼女は現状をそう読んでいた。
「未だに記事に出てないのはななちゃんのお母さんがなんとか防いでいるおかげだけどそれもそんなに長くは持たないと思う。
警察の上層部にはドクター側の人が何人かいて最終的に警察はドクターの肩を持つことになるだろう。
ドクターは自分のことを正義の味方だと名乗っていて確実に彼女を手に入れるその最後まで本性は表さないからそれまでは世界政府もグルだと思ってた方がいいよ。」
この件にはすでにお母様を含めた我が「赤城財閥」と警察、ひいては公権力の体表である世界政府まで関わっていてもはやドクターだけとの戦いではなくなっていた。
幸い「Dogma」の社長の十三さんがこの件について「Dogma」にはなんの悪意も持っていないことを明白に表明し、「赤城財閥」への積極的な協力を約束したおかげで「Dogma」という強力な敵の方には一旦一息つくことができたがそれでもまだ安心するには早いと私はそう判断している。
息子の十三さんと違って父のドクターは狂った思考の持ち主、つまり狂人。
この先何をやらかすのか全く見当がつかないから怖い。
これからはもっと慎重に行くべきと私は今一度心を引き締めるようになった。
「十三さんとドクターがグルである可能性もあるから今はできるだけご家族との連絡も取らなかった方がいい。
苦しいけど今は堪える時だからどうか分かって欲しい、ななちゃん。」
「ええ。わたくしは大丈夫ですわ。」
っと当分の間自分を含めて彼女のことも家族にも知らせないようにと何度も念を押したすずめさん。
彼女は思ったより今の私達の境遇のことをずっと気にかけていた。
「その代わり血液と生活に必要なものは全部こちらで用意してあげるから心配しないで。
まずは今日の分ね?」
っと彼女が私に渡してくれたのは真っ赤な液体入りの袋。
それは私の生活において絶対欠かせない人の血液であることを分かるまでそんなに時間は掛からなかった。
鮮明な深紅色の新鮮な血液。
それを見た瞬間、私は思わずはしたなく生唾を飲むようになってしまった。
そして気がついた時、
「あ…!」
私は周りのことを全く気にせずいつの間にかそれに手を出していたのであった。
「ご…ごめんなさい…つい…」
まずはちゃんお礼を言ってからではないかと自分を咎めた私はたった今の無礼を謝罪したが
「ううん。私達だってななちゃんとあまり変わらない身だしそんなに気にしないで。」
すずめさんも、そして妹の赤座さんも極自然な反応だと今のことをそのまますんなりと受け入れてくれた。
「私達みたいな魔法少女だってななちゃんみたいに外部から食事以外のエネルギーを取る必要があるから。
だからもし同じ状況だったら私達もそうしたと思うよ。」
「だって赤城さん、この前いっぱい血流したしここに落ち着くまで一度も血液補給できなかったんでしょ?
私達だって魔力がないと生きられるし。」
吸血鬼も、魔法の一族、つまり魔法少女も外部から別のエネルギーを取る必要がある種族。
魔法少女にとって魔力が欠かせないように我々吸血鬼にとって血液は生存することにおいて何より大事なエネルギー源。
でもこのご時世直接的な吸血、及び魔力吸収は固く禁じられてため吸血鬼は指定された施設で血液を受け取り、摂取することになっている。
血液は全て献血によるもので必ず関連機関の監督が必要とされる。
当然赤城さんとすずめさんのような魔法少女も自分のエーテル体を維持するために関連機関から魔力の供給を受けている。
ただ「大家」や「Family」などの裏の組織によって裏マーケットにも血液などが流れていて今でも社会に大きな被害を与えているのが現実であった。
私は尻尾を掴まれることを恐れてずっと血液を取りに行かなかったがそれもそろそろ限界を迎え、正直なところ今まで感じたことのない空腹と欠乏感を感じていた。
「大丈夫?なな…顔色が悪いよ…」
当然その影響は徐々に体にも表れてきてそのたびに彼女は私の顔色をうかがってずっと心配そうな顔をしていた。
「確か吸血鬼って血液型とか関係ないんだよね?腹の足しにしかならないけどこれ、よかったら飲んで。」
っと自分を指を噛んで傷口を作って私に自分の血を摂ることを勧めた彼女。
そのいきなりの行動に私はびっくりして傷がひどくなる前に手当しようとしたが
「じゃあ、ななが舐めてよ。」
彼女は私に舐めて欲しいと自分の指を出したのであった。
「ええ…?ちょっと…」
当然私は初めてのことだったゆえどう行動すればいいのか戸惑うようになったが
「じゃ…じゃあ…」
瞬時に彼女の思いやりに気がついた私は今は素直にその気持ちを受け取ることにした。
「あはは!くすぐったいよー」
口の中にそっと彼女の指を入れて舌で傷口を包み込む。
少し舌を巻き付けて優しく舐めると慣れない感覚でくすぐる彼女が笑いを飛ばす。
その心地よい笑いに自分も一緒にうきうきになっていたが
「どう?美味しい?」
何より初めて味わう彼女の血の甘さに気が遠くなるくらいであった。
舌から初めて全身に広まる快感。
一滴だけでも触れた瞬間、舌が甘みに滲んで蕩けそう。
生臭いはずの人の血がこんなに美味しく感じられるとは。
それはまさしく赤みの密。至福の味というものはこれを言うんだろうと私はその事実に異論を付け加えなかった。
「ええ…本当に美味しいですわ…」
空腹のせいもあるがそれを差し置いても彼女の血は異常なほどあまりにも美味しい。
それはきっと彼女の私だけのために自分の血を与えたいという気持ちがいっぱい込められいることに違いないだろう。
少なくとも私はそう思いつつ、彼女に感謝の気持ちを表してその至高の味を思う存分楽しむことにした。
でも私が味わえたのはほんの微量の血液のみでそれ以上は彼女の命に影響が及びかねないため彼女から血液を摂るのはその辺にしておくことにした。
彼女は
「もう終わり?もうちょっと飲んでもいいよ?」
っともう少し摂取することを勧めたが
「いいえ。これで十分ですわ。ありがとう。」
結局私はその提案をとことん断ってそれ以上の吸血は止めることにした。
「いくらわたくし達が家族よりも近い存在だとしても直接的な吸血は法律的にNGですわ。
それにもしわたくしが理性を失ってあなたから必要以上の血液を吸い取ったら命に悪影響が及びかねませんし。」
「ええー大丈夫だよ、それくらい。だって私、ななのこと信じてるから。
それにー…」
っと言いかけた彼女はその爽やかな青い目で私のことを見つめてこう言った。
「私、なななら自分のこと、全部あげてもいいと思ってる。」
初めて会った瞬間から自分はこうなる運命であった。
あの時から自分のことはずっと私のものであったと。
「だからななも私にななのことを全部くれない?私はななとずっと一緒にいたい。」
生まれた日は違っても出会って死ぬその時まではずっと一緒にいたい。
その一言があまりにも嬉しかった私はその時、自分の全てに掛けて誓った。
「何があってもあなたはわたくしが守りますわ。」
っと。
その時、結界の条件の一つが達成された。
自分の命がけの覚悟、そして後は自分の夢、将来、未来すら投げ捨てるほどの渇望。
何より一番大事なのは理性がふっとばされるほどの深い絶望。
その3つの条件が満たされた時、誰にも破ることもできない吸血鬼の究極の結界、「十一月の雨」が完成された。
古から言い伝えとして「赤城一族」の吸血鬼によって継がれてきた伝説の話。
最後に発動したのは数百年前の大戦争の時で儀式を行ったのは我々の先祖、最後の「ノスフェラトゥ」と呼ばれる「赤城ジョージ」。
視界を埋め尽くすのほどの濃く血の霧と凄まじい血風。
そして空を真っ赤に染めて降り注ぐ血の雨。
その全ては盾になり、同時に剣になって外部からの侵入を徹底的に防いで敵を切り裂く。
難攻不落の要塞をそこに建て、その周辺を死の街に置き換える。
それこそまさに「赤い城」、一族を守る最後の盾。
私の先祖はそれを持って幼い吸血鬼の子供達を守り抜いて我が一族を存続させた。
すずめさんが私達の身の安全を保証し、約束してくれた日から数週間後、私はその赤い城を世界政府が平和の象徴として建てた3つの世界の堺が同時に見渡せる「スカイツリー」に作り上げた。
誰の侵入も許さない赤いバラの庭。
そこで私は冷たく死にゆく彼女の体を抱えていた。
すずめさんの援助でなんとか日常生活が営めるようになった私達。
私は血流操作で顔を化けてすずめさんの会社に毎日出勤、彼女は私に代わって家事全般を担当。
それぞれの役割分担を終えて私達は己の役割に最善を尽くしつつ、危うくても大切な普通の生活を続けてきた。
家族や学校の皆との連絡はできなかったがたまに赤座さんとすずめさんが遊びに来てくれて私達はなんとか自分達が社会から完全に引き離されていないということを再確認できて私はそれにずっと感謝して、彼女もまた今の生活にうまく慣れてきて今は大分安静を取り戻した。
何より今までの赤座さんに対する間違った認識を正すことができたのは大きな収穫であった。
「へえーミラミラの家で居候してるんだ。」
「意外ですわね。わたくしはてっきり彼女のことを苦手にしていると思いましたが。」
彼女の転校から最近までの話を聞いて今まで彼女がどんな生活をしてきたのかなんとなく分かってきた私達。
そして彼女が自分の過ちを認め、後悔していることと彼女自身に青葉さんを含めた学校の皆に謝りたいという意思があることが分かった私達は
「じゃあ、私達が赤座さんのこと、手伝うよ!」
「ええ。あなたには大きな恩恵があるんですもの。「赤城」家の娘として見過ごすわけにはいきませんわ。」
「二人共…」
少しでも彼女から受けた恩義を返すため、そして友人として彼女の力になるため快く彼女への協力を約束した。
その時、赤座さんはその場で泣いてしまったがそれが決して演技ではないことを私と彼女はあまりにもよく知っていた。
そしてその数日後、
「あ…赤城さん…!」
「かな先輩…!」
「副会長…!」
突然家に訪れた来客。
その懐かしい顔達を見た瞬間、私達はお互いの体を抱え合ってしばらく離れられなかった。




