第309話
いつもありがとうございます!
その翌日、1年の教室は大騒ぎになりました。
「なにこれ!?もしかしてペアリングなの!?」
「おめでとう!二人共!」
私とゆりちゃんが付き合うことになったという噂があっという間に広まり、クラスの皆は私達の交際を心から祝福してくれました。
「本当に良かったです!緑山さん!」
「やったじゃん!」
「ありがとうございます。」
前から私達のことを応援してくれた前原さんも、野田さんも本人達より喜んでくれて
「おめでとう、虹森さん。」
「えへへ…ありがとう…」
今やすっかり学級委員長と認識される高宮さんもやっと実った私達の絆を祝福してくれました。
でも私は皆からの祝福の言葉がほんのちょっとだけ照れくさい気分だったのです。
「おめでとう、虹森さん。」
「緑山さん、嬉しそうね。」
普段あまり話したこともない子達までそうやって話を掛けてくれてなんだかすごく注目されているようでそれがなかなか慣れなくて。
多分皆普段から私達のこと、特にゆりちゃんのことがずっと気になっていたようです。
「だって虹森さんってば全然受け入れてくれないんだもん。緑山さんがどれだけあなたのことを見ていたと思う?」
「丸一日だって見てた時もあるんだよ?」
「そうそう。なんか目で「こっちですよ、みもりちゃん…」って念みたいなやつまで放ってて。」
え。なにそれ。怖っ。
やっぱり皆年頃の女の子だけあって色恋沙汰がめっちゃ好きなんですね…
もう自分達だけでワイワイしてますし。
なんか私達だけが注目されまくってすごく目立ってあまり落ち着かない気持ちなんですが
「幸せにしてあげなよ。大切な幼馴染なんでしょ?」
やっぱり皆からそう言われるのはそんなに嫌な気分ではなかったのです。
でもそっか…私、皆に気づかれるほどゆりちゃんに好かれていたのに全然分かってくれなかったんだ。
いや、まったく気づいてなかったって言ったらそれはウソになるでしょう。
「私、みもりちゃんのお嫁さんになりたいです。」
あの誕生日のこと以来、すっかり私のことが好きになったゆりちゃんは私によくそう言ってました。
「他の人は嫌です。みもりちゃんがいいです。」
真っ直ぐに自分の気持ちをぶつけてくるゆりちゃん。
そんなゆりちゃんに気持ちにはとっくに昔から気づいていましたがおじさんの言った通り私達は女の子同士ですから。
もし自分のせいでゆりちゃんが周りから変な目で見らたらどうしようって。
多分それに抵抗があってゆりちゃんのことをただの大切な幼馴染だと思っているようにしていたと思います。
「でも緑山さんならさほど気にしないと思うんだけどね、それ。」
「それを言ったらどちらかというとむしろ虹森さんの方が被害者なんだよね。」
「だって緑山さん、いつも「みもりちゃん♥みもりちゃん♥」モード全開だし。」
確かに…
ま…まあ、要はあれです。
どうせ自分も好きだったらもっと早く言ってあげたら良かったってこと。
そうしたらきっとゆりちゃんだってもっと自分の青春を楽しんでくれたかも知れないという小さな悔いがいつの間にか密かにこの胸にできたのです。
「でも今まで気づいてあげられなかった分、いや、それ以上で私が幸せにしてあげるかなね。ゆりちゃん。」
「ど…どうしたんですか…?みもりちゃん…?」
そしてその一言で教室はもう一度大騒ぎになってしまったのです。
「前原さん。お姉さんから妹によろしくお伝えくださいって頼まれてね。」
「あら、そうだったのですか。ありがとうございます。」
っと土日ずっと私達に付き合ってくれたかおるさんのことを妹の「前原栞」さんに伝える私達。
頼もしいかおるさんのことは妹さんにとっても自慢の姉だったらしいです。
「かっこよかったですよね、かおるさん。自分も将来あんな大人の女性になりたいです。」
「だろうだろう?しおりんは可愛いんだけどかおるさんはすっごくかっこいいんだよね?」
「ムムム…それってお姉様より私の方がずっと頼もしくないということですか…?」
「え?別にそんなつもりじゃないんだけど…」
っと自分と姉のかおるさんのことを比べているような野田さんにほっぺを膨らませて不満を表している前原さん。
なんだかどこかで見たような光景ですね、これって…
「みもりちゃん、ちょっといいですか?」
っと授業が始まる前に少し行きたいところがあると私を教室から連れ出してどこかへ向かうゆりちゃん。
「緑山さん、積極的ー」
「エッチなの?絶対エッチなんだよね?」
「ぜひ見学させて欲しいものね。」
っと皆は半分く羨む口調で私達をからかいましたが
「エッチなら昨夜10回はやりましたから。」
その一言で皆は言葉も失って何も言い返せなかったのです…
「エッチしたいんですか?みもりちゃん。」
「…私、昨日もう許してってゆりちゃんに泣きついてたの覚えてる…?」
朝っぱら何の話をしているやら…
ゆりちゃんって不思議なほど私の気持ちの良さそうなところばかり攻めまくって…ってこれ以上は教えませんから…!
「みもりちゃんったらあんなに派手に吹き出して♥噴水なんですか♥」
「も…もういいから…!」
「噴水…!」
「さすが元水泳部…!」
今の関係あるの…?
「HRまでは戻ってきてねー」
っと高宮さんからの話もあってなるべく早く戻ってくる心得て私達。
ゆりちゃんの手に引かれて連れて行かれたのは
「クリスちゃんの教室…?」
この前まではあんなに嫌がっていたはずのクリスちゃんのいる隣のクラスだったのです。
「実はお土産を渡したくて。」
っと私に地元の名物「白玉ちゃんまんじゅう」の箱を見せてくるゆりちゃん。
ゆりちゃんとクリスちゃんはいつの間にかお土産まで交わす仲になっていたのです。
「結局昨日は会えませんでしたし食べ物だから早いうちに渡した方がいいと思いまして。」
「まあ、確かに。」
「それと…」
っと自分の指輪をそっといじるゆりちゃん。
「本当のことを言うと私達の交際を一番早く知らせたかったのは彼女でしたから。」
ゆりちゃんは私が思っていたよりずっとクリスちゃんに対して特別な思いを抱いているとことが私は分かるようになりました。
特に嫌味とかではない。
ただ私達のことを私達以上で愛してくれるクリスちゃんにちゃんと認めてもらいたいだけ。
それほどゆりちゃんは私達の交際にも、クリスちゃんのことにも本気だったのです。
そしてゆりちゃんのその真剣な気持ちが理解できた私は
「うん、分かった。一緒にやろう?」
ゆりちゃんと手を取り合ってクリスちゃんに今の私達のことを伝えることを約束しました。
「みもりちゃん?緑山さん?」
そしてついに現れたクリスちゃんに
「クリスちゃん。私達、恋人になったよ。」
私とゆりちゃんの交際のことを知らせた時、
「おめでとうございます。お二人共。」
クリスちゃんは今までの一番の笑顔で私達のことを祝福してくれたのです。
でもなぜだったんでしょうか。
「クリスちゃん…?」
私は私達自身より喜んでいるクリスちゃんの笑顔から果てしない寂しさを感じ取っていたのです。
「頑張りましたね。みもりちゃん。」
「え?あ…うん…」
っと私にいつもの笑顔を向けてゆりちゃんのために勇気を出してくれてありがとうって言うクリスちゃん。
でもその時、私はとてつもない不安に襲われてしまったのです。
このままでは二度とクリスちゃんに会えないような気がしてそれ以上その気持ちを抑えきれませんでした。
「じゃあ、私は神事があってここで失礼しますね。」
「分かりました。頑張ってください。」
っと私達に先に失礼しますって言って離れていくクリスちゃん。
「ま…待って…!」
そしてその時、思わずクリスちゃんの手を掴んでしまうゆりちゃんだったのです。
「緑山さん…?」
クリスちゃんも、そして一緒にいた私でさえも驚いてしまったゆりちゃんの突飛な行動。
でもゆりちゃんはあの時のことをこう説明しました。
あそこでクリスちゃんをそのまま行かせてしまったら二度と会えないようなそんな気がしたと。
「えっと…」
「ど…どうしたの…?ゆりちゃん…」
っと今のことについて説明を求める私とどう反応したらいいのか困っているばかりのクリスちゃん。
でもこの漠然とした不安感を言葉で語る自身がなかったゆりちゃんは
「あ…ご…ごめんなさい…」
結局わけも分からず取ってしまったその手を放してしまったのです。
「大丈夫ですよ。いつもの日課の神事ですから。」
「そ…そうだよ、ゆりちゃん…!クリスちゃん、お仕事のだけだから…!」
「あ…はい…分かってはいるんですがそうじゃなくて…」
でも私には一瞬ゆりちゃんがクリスちゃんの掴んだその手を手放してしまったことを後悔するように見えたのです。
自分でも混乱する今の状況。
そんなゆりちゃんに
「私は平気です。だから今の緑山さんには自分のことに集中してください。」
自分は何も気にしてないと話してくれるクリスちゃん。
「私はみもりちゃんが緑山さんの気持ちをやっと受けてくれて本当に嬉しいです。
私はお二人のことが大好きで誰よりもお二人の幸せを望んでいましたから。」
そう言ったクリスちゃんは今度は自分の方からゆりちゃんの手を取って
「みもりちゃんのこと、よろしくお願いしますね。やっと手に入れた幸せですもの。今度はちゃんと守り抜いてください。
それともう一度本当におめでとうございます。みもりちゃん。」
神官として、そして大切な友人として二人のことを心から祝福すると目一杯私達の幸福を心から祈ってくれました。
「はい…ありがとうございます…」
でもゆりちゃんの心に残った気がかりは相変わらずゆりちゃんに嫌な思いをさせていたのです。
でも私達はすっかり騙されてしまったのです。
「嘘つき…」
大丈夫だって言ったのに、全然気にしないって自分は平気だって言ったのに…
でも一番腹立ったのはクリスちゃんの苦しい気持ちに気づいてあげられなかった自分のことだとゆりちゃんはそう言いました。
「さあ、参りましょう。「勇者」様。」
だから私達は旅立つことにしました。
「魔王」を倒してこのふざけた世界からクリスちゃんの連れ戻すための冒険へ…




