第303話
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「久しぶりだな。スズメ。」
「先生…」
彼女はお姉ちゃんにとって特別な人であった。
「バカなことは止めろ。スズメはまだ中学生だ。この前までは小学生だぞ?
そんな子にお前らはなんて荷物を背負わせるつもりだ。」
中学校に入ってまもなくいなくなったお父さんの後を継ぐと言い出したお姉ちゃん。
それに「黄金の塔」のジジババ達は大喜びだったが彼女だけは最後まで反対の主張を曲げなかった。
全身を包み込むボリューミーの白髪。
眼鏡の向こうから荘厳な雰囲気を放つ黄金の瞳。
腰に生えている真っ白で大きな羽と相まってその姿は正しく天使様。
神界の女の子として生を受けた子であれば誰でも彼女の存在に憧れ、いつか自分達も彼女のような素敵な天使となって空高く飛び上がるという夢を見る。
私も、お姉ちゃんもきっとそうだった。
ただひたすらお姉ちゃんの未来を案じてたった一人で「黄金の塔」評議会全員と戦った優しい人。
お姉ちゃんは彼女のことをいつも「先生」と呼んで懐いて憧れていた。
初恋と言ってもいいほどお姉ちゃんにとって彼女、第3女子校の理事長「朝倉色葉」の存在は特別であった。
たとえ彼女が敗れ、強制的にお姉ちゃんの「赤座組」承継の件が評議会と
「あんなババアなんてちっとも怖くないのだ。」
評議会長、「鍛冶屋の神」、「黄金の神」と呼ばれるあのお方によって承認されてお姉ちゃんの未来が塞がってしまっても彼女へのお姉ちゃんの想いに何の変わりもなかった。
理事長、いろは様はそのことをずっと気にかけていたがお姉ちゃんの口から彼女のことを恨む言葉なんて一度も出たことがないことを私はよく知っていた。
お姉ちゃんが組織のボスになってから一度も連絡したことはないと聞いて実際今のお姉ちゃんを見ると本当に彼女との再会が久々であることは分かる。
でもそんな尊敬のいろは様がすぐ目の前にいるのにも関わらずお姉ちゃんの視線が真っ先に向かったのは
「や…やぁ…!皆…久しぶりね…!本当…!☆」
あえて平気そうな顔で私達に挨拶してくる第3女子校生徒会書記、「ルル・ザ・スターライト」の方であった。
いつ見ても不思議なシアン色の髪。
その髪を常に両方に巻き上げてお気に入りの大きなお団子を作って星屑のようなつぶらな瞳で皆を魅了してきた「ファンタジースター」と呼ばれた「Fantasia」のメインダンサー。
背は私とそう変わらないくらいの低めだが私と違ってこんなドでかい肉をつけている彼女は俗に言う「ロリ巨乳」らしい。
「大事なのはバランスだっつーの…」
っと私は密かに自分の心で乏しい自分の胸を弁護したがそれがただ虚しくて儚い悲しき自己慰安に過ぎなかった。
とにかく生徒会の彼女が理事長と一緒にファミレスで食事をしていること自体はそう珍しくもないかも知れないが
「ルルさんってこんなキャラだったっけ…?」
大事なのは彼女が今理事長に向けている目線が尋常ではないということであった。
「なんかちょっと見ない間、すっかりメス化しているね…あんた…」
っとドン引きした顔で彼女のことを見ているお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんの態度に彼女は何も言い返せず、ただパフェの中を長いスプーンで掻き回しているだけであった。
お姉ちゃんとルルさんがどういうわけで知り合いになったのか、聞きたいことは山積みだが今重要なのは情報を得ること。
昨日のあい先輩とのこともあって頭の中がごちゃごちゃになっているがきっといろは様だって今の学校の状況を思わしくないと思っているはず。
この状況を打開するために私達は理事長とルルさんと話し合う必要があった。
「まあ、良いではないか。とりあえず座り給え。何か頼みたいのなら遠慮なくなんでも言ってくれ。」
「良いんですか?デートのはずじゃ…」
ありがたくなんでも奢ってやるといういろは様のお言葉に甘えて一応相席することになった私達だったがどうも先輩は自分達でデートの邪魔をするのではないかとずっと気になっているらしい。
実際誰がどう見てもデートにしか見えないしあのルルさんがいろは様を相手にあんなに乙女心がいっぱい詰まった視線を向けているから。
でもそんな彼女とは違って
「とんでもない。私は教育者なんだぞ?
一応ここの理事長だし自分の生徒とそんなことするわけないだろう。」
その乙女心に全く気が付かなくてその気持ちに応えてあげないいろは様のことを見た時、私はこう思った。
「あ、これって絶対相手だけ苦労するやつだ。」
っと。
そしてそれは会長も、うみっこも、そして私も先輩をおいて全く同じことをやっていると。
「ぷく…デートじゃないの…?」
「当たり前だろう。私は今日今後のことについて話したいって言われて出ただけだ。」
「ふーん…デートじゃないんだな…まあ、別に良いけど…」
「相変わらず鈍いですね…先生…」
そんないろは様の反応に思いっきりほっぺを膨らませて自分の不機嫌さをアピールするルルさんといろは様の筋金入りの分からず屋ぶりに感服するお姉ちゃん。
この人、こんなに素直に反応したりする人だったのかなと思ったその瞬間、
「いつの時代もヒーローは悪役があってこそ存在できるのよ。」
突然脳内から響いてくるある声の存在に私は一瞬その場に固まってしまった。
朧気に破片としてわずかに記憶の隅に残っているその声は確かに私にそう言った。
顔も、正確な音声も覚えてはないがその声に飲み込まれた自分はその後、その声が言った「悪役」となってうみっこを破滅した。
たとえ自分がうみっこの「ヒロイン」になれなくてもこれでうみっこが元に戻してくれれば私はそれで十分。
「な…なんだろう…今のこの記憶…」
その時、私は少しずつ意識の沼から浮かび上がってきた今まで沈んだ記憶にほんの少しだけあの時のことを思い出すことができた。
はっきりとは言えないが確かに自分に声をかけてきた人がいてその人の誘いにそそのかされて私は何人のガラの悪い子達と意気投合し、うみっこを追い込んだ。
まともな学校生活ができないくらいうみっこをいじめた私達。
そしてそんな状況でも私を攻めるどころかただ沈黙で一貫したうみっこ。
私はそんなうみっこの視線がこれ以上ないほど苦しかった。
その記憶が突然無意識に浮かび上がった時、私は凄まじい吐き気を感じてすごく気持ち悪くなったがなんとか気をしっかり取り直した私は
「ふぅ…」
一度深呼吸をした後、いろは様の向こうに座る先輩の隣に腰を下ろした。
「どうしたんですか?ことりちゃん…なんか少し顔色が悪いような…」
「い…いいえ…なんでも…」
急に顔色が悪くなったと私のことを心配してくる先輩。
せっかくの楽しい時間を台無しにしたくなかった私はここはひとまず先輩を安心させるのが良さそうだと判断してあえて平気そうな顔を取り繕ったが
「本当に大丈夫ですか?やっぱりちょっと疲れたんでしょうか。
ほら、マミーがギュッとしてあげますから元気出して。」
「ちょっ…ちょっと先輩…!」
こんな大勢の前でまた抱き抱えてくる先輩に慌てる本音を出さざるを得なかった。
一体何がトリガーとなってこんな嫌な記憶が再び頭を上げてきたのかは分からない。
ただこれだけは本能的に確信していた。
「これは間違いなく兆し…」
きっとここから何か始まるという確かな予感。
予言と言ってもいいほど私は強い確信に包まれていたのであった。
「相変わらずバナナのことなら目がないんですね…先生…」
っとお姉ちゃんはテーブルをいっぱい埋め尽くしているバナナ系のスイーツのことを呆れた顔で見ていたが
「でも美味しいだろう?バナナ。」
いろは様のバナナに対する凄まじい執念を再確認した後、バナナの話はもう止めることにした。
「ことりちゃんは何にします?ここのお子様セットとか良さそうですね。」
「子供扱いしないでくださいよ…!先輩…!」
「私はこっちのお勧めのスペシャルディナーがいいかなー」
そして一瞬の迷いもなく自分達のメニューを決めていくお姉ちゃんと先輩。
ちなみに私はお子様セットに付いているヒヨコさんの食玩に釣られて結局先輩の言うことに従うことにした。
「見れば見るほど本当にそっくりだな。」
まもなく頼んだ料理が出て私達が食事を始めた時、ふといろは様が自分の前にいる先輩を見てそうつぶやくことを私は聞き逃さなかった。
見上げたそこにはただほのかな笑みと懐かしそうな目で嬉しそうに食事をしている先輩を眺めているいろは様がいて
「ひびき。」
その目があまりにも悲しかった私は何も言わずにただ黙って自分の前の食事に集中しているふりをしてしまった。
「さてどこから話せばいいやらー…」
それから食事が終わる頃、そろそろ本題に入ろうとするいろは様。
彼女はまず一番大事な話をしなければならないと言って静かに隣のルルさんのことを一度見た後、やっと心を決めたように私達に彼女のことをこう話した。
「彼女は宇宙から来た。」
昨日の先輩の正体やらあい先輩のことやら色々あったから正直に言って何が来ても驚かない自身があった。
でもその馬鹿げたとてつもない話を聞かされた後、その場にいた私達はしばらく言葉を失うようになった。
いろは様の顔はあまりにも真剣で真面目だったのでなんと言い返せばいいのか言葉すら見つからず、ただ時間だけが過ぎていく。
そこで初めて口を開けたのは
「じゃ…じゃあ…!私は未来から来ました…!」
何故か張り合う気満々の自称未来人の先輩であった。




