第297話
いつもありがとうございます!
先輩とは久々に色んなことを話しました。
たとえ電話での話だけでも久しぶりの先輩との会話は本当に楽しくて仕方がありませんでした。
その中で最も盛り上がった話題は
「実は私、先見たんです。みもりちゃんとゆりちゃんの歌。」
断然ここのご当地アイドルで私達の大切な後輩ちゃん達の「フェアリーズ」のライブでした。
誰か撮った「フェアリーズ」のライブ動画がネットにアップされていつの間にか先輩のところまで流れていてその動画で二人の本当の姿に触れることができた先輩。
先輩は感動すぎてもう涙まで出ちゃったくらいだそうですが私にもその気持ちは分からないものでもありませんでした。
お二人のライブは今も本当にすごかったと思います。
二人共、あんなにキラキラで一生懸命になって歌ってもう本当に感動しちゃって。
特にただ自分が面倒を見てあげようと思っていた虹森さんがあんなに真剣で楽しそうな顔で歌っていたことは今まで芸能界で生き延びてきた私ですら大きな衝撃として感じたくらいです。
まるで初めて先輩のライブを見た時のような初々しくて懐かしい気持ち。
私は今日初めて生で見た「フェアリーズ」のライブですっかり彼女達のファンになってしまったのです。
でもまあ…
「さすがに緑山さんの方はちょっとヤバかったんじゃないですか…?なんか目がこううっとりしていて観客のことを全く気にしていなかったっていうか…」
「あはは…まあ、ゆりちゃんはいつだってみもりちゃんのことしか見てないんですし…」
私、あれほど観客のことをガン無視するアイドルなんて初めて見ました…
あまりにも眼中になさすぎてむしろすがすがしっていうか…
さすが緑山さんってところなんですがよくもあれでアイドルが続けたものですね…
先輩はもちろんそんな緑山さんのことも可愛くて大好きって言ってましたが…
でも何故か私と会長の「Twinkle」の舞台の動画は先輩のところに届けなくて最後まで私と会長の話題までは至らなかったのはちょっとだけ名残惜しいって感じでした。
他に記念館のことやエメラルド様のこと、虹森さんと緑山さんの両親やお家のことも私は目一杯先輩に話して先輩もまた自分の今日一日のことで私との話を続けてくれました。
夜空の星の数ほどたくさんの話をした私と先輩。
でも何故先輩が私にそんな話をしたのか分かりませんでした。
「好きです。うみちゃん。」
夕食の後、突然私の携帯に掛かってきた先輩からの電話。
その電話で私はあれだけ聞きたがっていた先輩からの「好き」を本人の口から聞くことができたのですが
「なんでこんな時に…」
ご覧の通り私はその一言でこんな遅い時間までまんじりともせず悩み続けているのです…
私がどんなにアピールしても
「えへへ♥私もうみちゃんのこと大好きです♥」
っといつも天然っぽく反応するだけの先輩だったのに
「私はうみちゃんのこと、ずっと好きでした。」
今日の先輩はいつもと違った真剣で真面目そうでその声が余計に決まっちゃって…
なんかこう胸にズバって刺さるような、バキュンって心を貫かれるようなとにかく今まで一度も感じたことのないとても衝撃的な感覚だったので正直に自分でもどんな反応をしたのかあまり覚えてありません。
ただ思考が停止されて何も思いつかなくて壊れたロボみたいにめっちゃどもってしまって自分でもなんてアホみたいな反応だろうと思ったくらいに恥ずかしかったのはちゃんと覚えています…
自分は先輩のことになるとアホと言ってもいいほど馬鹿正直になっちゃうんですからきっとあのどんくさい天然の先輩だって私の慌てさに気づいたんでしょう…
正直に言って今死ぬほど恥ずかしいですよ、私…
でも先輩だってただ私を混乱させるためにそんな大事なことを電話で話したわけではありません。
それもまた先輩の決心による心からの一言であることを先輩のことをずっと慕っていた自分にはよく知っていました。
先輩はよく笑ってよく人に懐くちょろくて頭の中がお花畑みたいな人ですがただ誰かを喜ばせるために好きって話をする人ではない。
先輩の好きはいつだって愛に満ちた心からのものだったのです。
だからこそ私は困惑しました。
あんなに真剣で心が込められた先輩の「好き」は初めてでしたから。
正直に言って告白かなっと思っちゃったくらいでした。
「まあ…でも先輩のことだしそんなわけないか…」
でも残念ながら自分は思ったより冷静で先輩のことを知り尽くしていました。
先輩にそういう気は多分ないと心のどこかでそう感じている自分がいる。
ぶっちゃけに言って一瞬心が折れてしまうほどがっかりしてしましたが
「でもあんなに真剣な先輩…やっぱり好きかも…」
アホな自分はいつの間にかそれが本当の告白だったらどれだけいいんだろうと今もドキドキしています。
ただの気休めでもいい。お世辞でもいい。
私は先輩が私にそう言ってくれたことに今までの苦しい時間が報われたような大きな幸福感を感じ、感謝するようになりました。
でもその一言までの決心は突然やってきたのではありませんでした。
「私、速水さんから全部聞きました。うみちゃんがどんな思いでこんなことをしてきたのか、どれほど苦しかったのか。」
先輩は今日、私が繰り広げたこの醜い派閥争いの全貌を全て知るようになってたのです。
「そういえば確か今度の週末に何か親睦会とかそういうのがあるって聞いたような…」
薄らな記憶の中から思い浮かぶ親睦会の存在。
「百花繚乱」の実権を握っている速水さんと彼女と付き合っている世界屈指の大手企業「灰島」の一人娘である灰島さん主催の社交パーティー。
全部活の重役を集めて話し合いの席を設けるという主旨で前々から計画されていたその会については既に把握済みでした。
現在魔界側の勢力を率いている「合唱部」などの大型部はもちろん体育系の弱小部や他の部活の部長、副部長並の生徒達を灰島さんの別荘に招いて誤解を解き、わだかまりを解消するという主旨で計画されていた親睦会。
当然私宛にも速水さん直々の参加要請が届いたのです。という速水さん本人が直接話に来たんです。
「どう?青葉さん。来てくれるのかしら。」
私だけを呼び出して参加の意向を聞いた速水さん。
彼女はこの親睦会において一番の壁は私であることを既に見抜いていてなんとしても私をその親睦会に参加させたいと思っていました。
「忙しいのなら顔を出すだけでいいの。青葉さんが来てくれれば皆だってきっともう一度考え直してくれるはずよ。
まだ引き返せるわ。だからー…」
なんとしても今の学校をどうにかしたいという気持ちが伝わってくる真面目な目。
真っ直ぐで優しい速水さんの目は一緒に最初からやり直そうと語りかけてくるように切実な眼差しを私に向けていましたが
「ごめんなさい、速水さん。私にはできません。」
結局私に彼女の気持ちに応えることはできなかったのです。
彼女はまだ引き返すことはできると話しましたが既に自分のせいでたくさんの生徒達が傷ついてしまった。
好きな部活もできず、頑張ってきた努力も報われないようにしてその挙げ句世界ごと分けて学校を分裂させた。
皆が嫌な思いとして辛くて悲しくだけの記憶で輝かしかったはずの青春を汚してしまった。
そうさせたのは全部先輩のためにそう仕向けた自分のせいで自分はこのことにはっきり責任を取らなければならない。
私は誰もこんな私のワガママを許しくれるはずがないとそう思い込んで彼女からの誘いを断ったのです。
でも速水さんは強かった。
「そう言うと思ったわ。青葉さんなら。」
彼女の目にもはや以前のような迷いは少しも残っていなかったのです。
「私はもう迷わないわ。もう大好きな人達が傷つくのは嫌だから。」
っと私から離れる時の彼女が言ったその一言がまさかあんなにも胸に刺さってしまうとは思いもしませんでした。
そんな彼女のことにふと心のどこかで大きな屈辱を覚えるようになった私は
「ええ…!?あ…青葉さん…!?」
少し彼女のことをからかってあげることにしたのです。
「な…なんで壁ドンなんて…!?」
「大声出したら他の子達にバレちゃいますよ?速水さん。」
もう教室に戻ろうとする速水さんをまず壁の方に追い詰めて腕でドーンと壁を叩いて足を止める。
いきなりふっかけられた私の行動に当然速水さんは真っ赤な顔になってドタバタ慌てるばかりで実に可愛かった。
その反応がもうちょっと見たくなった私は昔やったイケメン役のことを思い出してもう少し彼女にちょっかいを出すことにしました。
「速水さん、なんか最近いいですね。なんだかすごく女の子っぽくなったというか。」
「わ…私、そこまで可愛くないと思うんだけど…?」
淡々過ぎる恋人の灰島さんのおかげで普段こういうことに慣れなくて免疫が全くない速水さん。
表向きには手の届かない深窓のお姫様ぶっているくせにこんな初な反応とは。
実に新鮮で面白い。
意地悪な自分は困っている彼女のことを見てただそうやって面白がっているだけでした。
「わ…私、そろそろ戻らなきゃ…!」
っと私から離れようとする速水さんの顎を指で軽く持ち上げて顔を寄せて彼女と視線を合わせてくる自分。
その辺で速水さんはもうほぼノックダウン状態でしたがここんとこ速水さん、少し生意気ですから。
せっかくの機会ですしこの際、ちょっとだけからかってあげてもいいんじゃないと思った私は
「私、聞きましたよ?速水さんって私のファンですって?」
「そ…それは…!」
勢いをましてどんどん彼女のことを攻め崩していきました。
「どうです?私、最近速水さんのことにちょっと興味ができちゃってもうちょっとだけお互いのことを知り合ってみません?
もちろん灰島さんに内緒で。」
「で…でも青葉さんには桃坂さんがいて私にはすみれちゃんが…!」
っとさすがに先輩の名前が出た時はチクッと良心の呵責みたいなものを感じてちょっと後悔しちゃったんですけど…
「速水さんって本当にきれいですね。髪もこんなにサラサラでお肌だって真っ白で。」
「こ…これ以上はダメですっ…!わ…私には…!私にはすみれちゃんが…!」
なんで敬語?
「青葉さんのことは好きで憧れてますけど…!こういうの、やっぱりいけないことっていうか…!」
だからなんで敬語?
「青葉さんは私の憧れ…でも私にはすみれちゃんが…」
「ちょっ…!速水さん…!?大丈夫ですか…!?」
でもまさかあそこで気を失って気絶とかありえないでしょう…
どんだけ耐性ないんですか…速水さん…
「先が思いやられる…」
っと自然と自分なりに彼女達のことを心配するようになったのはまた別の話。
後で調子に乗りすぎましたってちゃんと謝りはしましたが…
「わ…私にはすみれちゃんがいますから…!私の愛を試さないで…!」
その後、なんか妙に避けられているような気がしますよね…
灰島さんからも
「青葉。そういうのマジで勘弁して欲しい。」
って文句を言われましたがあんな真顔の灰島さん、初めて見ましたからちょっとビビっちゃいましたよ…
元々顔も怖い人なのにもう目がこう死んだ魚みたいであんな顔で凄まれたらさすがに…
でもまあ、
「あの二人、ちゃんと相思相愛しているんだな。」
やっぱり私はなんとかうまくやっているみたいでほっとしたのです。
私は特に親睦会の参加について反対しなかったです。
何人かの子達が意見を尋ねにきたのですがその度に各自の判断に委ねるって言って実際結構の数の生徒達がその親睦会の参席したらしいです。
既に合唱部の副部長や「Scum」の副部長の結日さんも参加したことを確認していてこれについてなんと言うつもりはありません。
これもまた例の「部活潰し」のために必要なことでそれが少し早まっただけですから。
あそこで何か大きな変化が起きたと速水さん達はそう思い込んでいるはずですが
「私の勝ちですよ、速水さん。」
それは大きな勘違いだと私はそう確信していました。
今まで誰にも見せなかった私の能力。
私の考えを読むことができる会長以外は先輩はもちろん赤座さん、両親ですら知らないその力を使って私はこの醜い争いを最後までしっかり成し遂げると覚悟を決めています。
「もう誰も止められません。速水さんにも、大人達にも。」
っと私は歯を食いしばってまた自分の迷いから目を背けてしまいました。
でもまさか速水さんが先輩本人に本当のことを話してしまったとは。
いつか先輩に全部打ち明けてくるとは思ったんですが速水さんにとって先輩は最後の最後に引く奥の手で切り札だったのでこんな時期に仕掛けてくるとは思えなかった。
さすがに義理堅い速水さんとしても最悪の場合は自分の立場も丸投げにしてなりふり構わないと私だってそう予想していましたが…
それだけ速水さんは私を止めるに本気だったのです。
「まあ、全部想定内でしたから対処できますけどね。」
でも全て自分が考えておいたシナリオのうち。
私は速水さんという人の性格から習慣、危機対応能力、その全てを本人になりすまして完璧に知り尽くしている。
だから本当のことが知られたとしても私の決意は揺るがないということです。
ただ私は本当のことが知られて先輩がどれだけ苦しんでいたのか、それを考えた時はさすがに憂鬱な気分になってしまったのです。
「うみちゃんが私に歌を歌わせるために皆との争いを仕組んだということは分かりました。
実際私はうみちゃんと皆を仲直りさせたくてアイドルを続けたのです。」
未だにどちらの側にもついてない部は生徒会を除いて灰島さんの息が掛かった「手芸部」と「Vermilion」、そして先輩の同好会だけ。
色んな種族の子達を集めてただ好きなことに夢中になって楽しく歌える良さを皆に知ってもらおうとたった一人で廃部寸前の同好会のことを続けました。
実際中黄さんと赤城さん、虹森さんと緑山さんが加わった同好会はかなりにぎやかになって少しずつ話題になりました。
部員だけではなく「百花繚乱」や「Scum」、他の子達との交流もあってどんどんその友好の輪を広げていて先輩は私があそこにいた時よりずっと笑えるようになりました。
「皆を仲直りさせる」という共通の目標があって部員達と一丸となってひたむきに頑張れる彼女達のことを見て私は嬉しくてちょっぴり寂しい思いをしたのです。
もし自分も一緒にあそこにいたらどれだけ楽しかったんだろうって。
今になってはただの虚しい願望に過ぎないということが分かっていてもその羨んでしまう気持ちだけには嘘をつくことができなかったのです。
「ありがとう、うみちゃん。うみちゃんのおかげで私、ずっと頑張れたんです。」
先輩はそれも含めて自分のために頑張ってくれた私の努力と気持ちにありがとうって言ってくれました。
「でもね、うみちゃん。」
でも先輩が伝えたかったのはただのお礼だけはありませんでした。
先輩が本当に私に伝えたかったこと。
「それじゃダメだと思います。」
それは
「だって今の私の傍にうみちゃんがいないんですから。」
私がいなくなってからずっと先輩が感じてきた寂しさ、
「うみちゃんだってきっと寂しかったと思います。」
そしてその時からずっと感じてきた自分の気持ち。
今までずっと目をそらしてきた先輩への気持ちをその本人から言われた時の気持ち…
あの時、自分がどう感じたのかは覚えてません。
ただ私は先輩に何も答えられず、息を潜めてちょっとだけ泣いてしまったのです。
「あぁ…やっぱり先輩は先輩のままでしたね…」
って。
あんなにめっちゃくちゃなことをやらかした私のことを全てのことを聞いた上でもなお気にかけて思いやってくれる相変わらず優しい人。
緑山さんが虹森さんの変わらずに自分のことを愛しているのが大好きなように私もまた先輩のそういう優しいところを心から愛していました。
「会いたいです、うみちゃん。会ってたくさん話し合いたいです。」
そして今度こそちゃんと私と向き合いたいと言ってくれる先輩のことを自分が依然として愛していることに改めて分かるようになったのです。
でも私はまた先輩の気持ちには応えられませんでした。
巫女様やエメラルド様、速水さんみたいに色んな人達がまだ引き返せると言ってくれて先輩もこんなに私のために頑張っているのに自分はどうしても一度決めた決心を変えることができない。
自分の巻き添えにしてたくさんの子達を巻き込んで皆に嫌な思いをさせてしまったから自分はこれに自分なりの責任を取らなければならないから。
何があってもここで立ち止まるわけにはいかないから。
でもその瞬間だけ、
「大丈夫です、うみちゃん。私が最後までうみちゃんの傍にいますから。」
私はその一瞬だけまたやり直そうという先輩からの話に自分の心が揺さぶられてしまったことに気づいてしまったのです。
でもそれ以上、先輩との通話を続ける自身がなかった臆病の自分は
「ごめんなさい、先輩…虹森さんと会長が待ってますから…」
またそうやって先輩から逃げてしまいました。
まだあんなに私のことを思って手を差し伸べてくれた先輩から私はまた背を向けてしまったのです。
「はぁ…」
とっくに眠っているはずの時間なのにまだこうやって寝付けず寝返りを打っている。
「これも全部先輩のせい…」
でも今自分を一番悩ませているのは
「好きです。うみちゃん。」
やっぱり初めて聞いた先輩からのその一言でした。
その一言が嬉しすぎてどうしても何度も何度も思い出してしまう。
今だってこうやってー…
「大好きです、うみちゃん。私と結婚してくださいませんか?」
「は…はひぃ…私、先輩に嫁ぎますっ…」
ってなんか嬉しすぎて脳が勝手に記憶を捏造し始めたんですけど…!?
そ…そういえば先輩ってそういうところあるんですよね…
「えへへー♥うみちゃん、大好きですー♥」
普段はあんな感じで可愛くて仕方がないのに
「はい。私に任せてください。」
偶に見せてくれるシャキッとしたイケメンヅラ…
あのギャップがたまらなくて私、自分でも抑えられないほど興奮したりして…
「青葉さん…?」
っと急に膨らみ始めた先輩への妄想にバタバタしていた私にまだ眠ってないのかと話を掛けてきたのは
「あ、会長。」
もうとっくに寝てたと思っていたお子様の会長でした。
「すみません。起こしちゃいました?」
「いいえ…なんかちょっと目が覚めちゃって…」
っとまだ眠気が敷かれている目を擦りながら少し私の方に体を寄せてくる会長。
どうやら私に少し甘えたくなったのではないかと思いますがもうすっかり私に懐くなりましたね、会長って。
体は先輩に引けを取らないほどボイン系なのに精神だけが子供に戻ってしまって前は会長が私の面倒を見てくれた感じだったらここ数日はすっかり私が会長の親代わりになっている感じでさすがにちょっと調子が狂います。
が私はこっちの会長だって可愛くてそんなに悪くはないと思います。
先輩ほどではないけどやっぱり頼られのは嫌ではないしこんなに懐いているんですから。
もちろん一刻も早く元に戻って欲しいという気持ちは嘘ではありません。
「本当可愛いですね、会長」
「ええ…!?青葉さん…!?なんでいきなり…!?」
っと私の唇が触れた自分の額を手で隠しながら慌てる会長。
「だって会長が可愛すぎてたまらなくなったんですもの。」
「ええ…!?」
チューだけで赤くなる会長、やっぱり可愛いですねー
「なんかスーンとして静かすぎてちょっと眠れないんですね…」
「そうですか?」
先まではにぎやかだった部屋なのに今は私と会長の二人しかいない。
虹森さんと緑山さんはここから少し離れた部屋で寝ているんですがさすがにこんな大きな部屋に会長と二人しかいないってことはちょっと落ち着かないんですね。
ベッドだってこんなに大きいし。
「じゃあ、私が眠れるように子守唄でも歌ってあげましょうか。」
自分のせいで起きてしまったと思って自ら会長への子守唄を提案する私からの話に
「本当ですか…?私、青葉さんの歌、聞きたいです。」
よろしければそうして欲しいとすごく喜んでくれる会長。
先輩とのことにまだ結論は出せず、未だに悩みに藻掻き続けている大変な状態。
でも私はこの瞬間だけは会長の安らかな眠りのために心を込めて歌い始めました。
夜中に静かに響く子守唄。
音は広い部屋の中を星屑となって散りばめられ、旋律は安らかな帳となって私達を包み込む。
でもその中で一番輝かしかったのは私の膝枕で心地よい鼻息まで吹かせながら眠っている
「スー…」
こちらの愛くるしいプラチナブロンドのエルフのお姫様だったのです。
でも会長は決して私のせいで起きたわけではありませんでした。
本当は会長だって悩みで眠れなかったのです。
「青葉さん…みらい…」
でもあの時、鈍い私は私と先輩の話を何もかも全部聞いていた会長の悩みに気づいてあげられなかったのです。
私と先輩の気持ち、そして自分の気持ちを天秤にかけて混乱の状態で更に悩むようになった可哀想な会長。
私はいつになっても大切な会長の邪魔者にしかならなかったのです。




