第295話
結構寒くなってきましたね。皆様も風邪を引かないようにお体には十分お気をつけてください。
いつもありがとうございます!
「あ、これ小学校の時の虹森さんと緑山さん?ちっちゃくて可愛いー」
「これは運動会の時の写真ですね。ゆりちゃん、何事も一番じゃないと気が済みませんからこういうイベントすごく張り切ってたんですよね。」
「楽しそうですね。運動会。」
夕食の後、皆で部屋に集まってお喋りタイムを持つことにした私達。
私達は特に虹森さんと緑山さんの思い出がいっぱい記録として残っている「思い出の部屋」で二人で築き上げてきた時間を遡って振り返ることに夢中になっていました。
部屋全体を先程の戦争記念館みたいな「みもりちゃん記念館」にしてその思い出をいつまでも大切にする。
二人で過ごしてきた時間の名残やあの時の気持までしっかり記録しておいたこの部屋には実際すごい数の虹森さんと緑山さんに関するものがいっぱい保管されていてその愛情の大きさを間接ながら感じることができます。
「フェアリーズ」頃のグッズ、写真や映像などの記録物、そして
「あ、これ、もしかして虹森さんのランドセル?」
「スカイブルー色ですね。とても可愛いです。」
「ええ…!?」
もはやなかった方がおかしいと思われる虹森さんの私物。
ここはもう「みもりちゃん博物館」と言っても過言ではない場所です。
私は緑山さんのその一筋の真っ直ぐな心には確かに尊敬の念を抱いているんですが
「でもなんで全部密封されているの?しかもどれもこんなギッしギッしの魔術密封…」
「あー…それは臭いとか汗が抜けないようにするためですよ…
例えばこちらのマイクには未だに子供の頃の私のつばとか付いているままです…
まあ、大切にしてくれるのはすごく嬉しいしゆりちゃんのそういうところ、可愛いなって思いますから別にいいですけど…」
「そ…そうなんだ…」
さすがにそこはちょっとドン引きって感じでした。
普通の密封とは違ってあの時の時間そのものを停止させ、固めて半永久的に保存する魔術密封。
でも毎度掛け直さなければならない面倒臭さと毎年定期的なメンテナンスが必要でその度かなりの金額が発生するから私達のような庶民には真似することもできないお金持ちならではの保存技術。
それを緑山さんはもう十年以上、しかもこんなに大きな部屋何個分の私物に施しているということです。
「うわぁ…なにこれ…「みもりちゃんの初ブラ♥」って…」
「うん…全然可愛くない…」
そしてその全てが自分の私物であることにそれなりに複雑な思いをさせられてしまう虹森さんだったのです。
この尋常ではない部屋でも以外にまともなものもあったんですがそれが今私達が一緒に見ているこのアルバム。
今少し席を外している緑山さんと虹森さんの姿を撮って集めたこの思い出箱にはあの頃の二人の愛情がいっぱい詰まっていて見ているだけで心がこんなにもポカポカしてくる。
私は小学校の頃から芸能界に入り、ずっと忙しい生活を送ってきたのはこういう思い出が殆どなくてどれも新鮮なものとして感じることができたのです。
特に学校のイベントや自分には知らない青春の1ページがたくさん見られてとても充実な時間だったのです。
「これは先の商店街なのでしょうか。」
「はい。スタンプラリーで町のあっちこっちを見て回るんですよ。これは私とゆりちゃんがちょうど商店街に着いた時の写真ですね。多分次の目的地は公園だったと思います。」
「っていうか緑山さん…「みもりちゃん大好き♥」って書いたTシャツ着ているんだけどこれ自作グッズ…?」
「あはは…でもまあ、可愛いじゃないですか…?」
変わってないな…あの頃から…
幼稚園卒業式や小学校の入学式。
運動会、夏休みの海、クリスマスパーティーから誕生日パーティー。
一部は自分にもやったことがありましたが大半は自分にない思い出。
自分には赤座さん以外の同い年の友達がいなかったのでこうして友人と同じ場所で同じ時間を過ごしたことがない。
赤座さんと友達になってからは少しマシになったけど二人共高校入学まではすごく忙しくて周りは全部大人だったからこんな思い出を作る機会も、時間も、環境も圧倒的に足りなかった。
だからこうやって間接ながらも他人の思い出に触れて想像を膨らませるのはすごく好き。
「いいな。こういうの。」
見ているとふとちょっとだけ悲しい気分になる。
今頃だったら自分もきっと大好きな先輩と写真の二人のように楽しくて幸せな思い出を一緒にいっぱい作ったはずなのにどうしてこんなことになっちゃったのかなと。
もしあんなことが起きなかったなら私だってきっと先輩と一緒にー…
「先輩…?」
その時、自分にかかってきたある人の電話。
その発信者を確認した瞬間、
「ちょっとごめんね?」
私は外へ出て、
「…はい、もしもし…?先輩…?」
震える声で先輩の電話に出るようになりました。
***
「あら、みもりちゃん。青葉さんと会長は?」
「お帰り、ゆりちゃん。青葉さんはお電話と会長さんはお手洗い。」
「そうだったんですね。」
やっと部屋に戻ったゆりちゃん。
おじさんの次にはおばさんからの呼び出し。
ゆりちゃんは直にこの家の当主になる立場で色々期待されているからきっと伝えたいことがいっぱいあったのでしょう。
でも私はやっぱりただ親として娘のことが知りたいというもっと単純で明確な、そして優しい理由だと思います。
おじさんの場合はちょっと不器用でそれがちゃんと伝えないだけですけどね。
積もった話だっていっぱいありますしせっかくですからゆりちゃんにはもう少し家族との時間を大事にして欲しい気持ちもありますが
「あ、大丈夫です。なんかもう大人だけで飲み会を始めまして。」
どうやらいつの間にか大人の時間が始まったようです。
「お父様宛に「轟」という高級ウィスキーが贈り物として届きまして。知ってますか?みもりちゃん。」
「んー…お酒のことはあまり知らないけどね…っていうかうちのお母さんも飲むの?飲みすぎないようにして欲しいんだけど…」
お酒が入ったら愛情表現が過激になるお母さんのことがすごく気になるところなんですがまあ、先お父さんも来てますしエメラルド様もいるんですから大丈夫でしょう。
お父さん、お酒めっぽう強くて酔った姿なんて見たこともありませんしエメラルド様だって
「大丈夫です。私は他の姉妹達と違って酒にはよほど強いですから。」
っと飲み会ではいつも最後に立っているってお父さんから聞きましたからきっとなんとかしてくれるのでしょう。
かおるさんだって会長さんの護衛のために絶対飲まないって言ってたし。
「まあ、お母様はすごく惜しまれましたけどね。」
久々の後輩との再開に一緒に飲むことができなくてすごく残念がったというおばさん。
「え!?かおちゃん、飲まないんですか!?」
「アホか。かおるは今任務中だぞ。」
「そんなー…」
「ごめんなさい、先輩。お酒はまた今度で。」
そんなおばさんのことをおじさんはビシッと叱りましたがかおるさんはまた別の日に休暇を取ってくることを約束したらしいです。
お二人さんの深い絆が覗えるとても貴重な光景だったとゆりちゃんはそう言っていました。
でもお酒ってそんなに美味しいものなのでしょうかね。
「まあ、私にとってはみもりちゃんの唾液や汗の方がずっと美味しんですけどね♥」
「…なんでこっち見てるの…?」
どうやらお母さんの心配をしている場合ではないかも…
「でもこの部屋に戻ったのは随分久しぶりですね。全部あの頃のままでなんだかすごくほっとします。」
高校に入ってから初めてきた「思い出の部屋」。
ここもまたあの秘密基地のように私達の思い出がいっぱい残されたとても大事な場所なんですが
「みもりちゃんの小学校の競泳水着も、下着もあの時と同じで。」
「うん…全然可愛くないね…そういうの…」
主に自分のものばかりってことはさすがにちょっとあれなんですけどね…
「覚えてます?みもりちゃん。あなたにもこんなに小さかった時があるんですよ?」
でもあの頃の名残から自分が成長できた過ごしてきた時間を確かめるのはそんなに悪くないと私はふとそう思うようになりました。
今はもうこんなに大きくなって合わなくなった小さな服。
靴下も、履物もどれも全部ちっちゃくて今の自分には無理。
当たり前だと思います。私は今までの時間の中で着実に成長してきてあの頃に比べたらこんなに大きくなったんですから。
偶にはあの頃の記憶や感性を懐かしんだりしてまた一度だけでもあの時に戻ってみたいなと思ったりしますがそれがあったこそ私はここまで強かに育つことができたと思います。
そしてその時間の中、いつだって私の傍にいてくれたゆりちゃんに
「ありがとう。ゆりちゃん。」
私はすごく感謝しているんです。
「もうーどうしたんですか?みもりちゃん。急にありがとうって。」
突然なお礼に少し戸惑いを感じるゆりちゃん。
でも満更でもなさそうに
「私の方こそありがとうございます。ずっと私の傍にいてくれて。」
ほんのりした笑顔でお返ししてくれるゆりちゃんのことが私は大好きでした。
「体は大きくなってもあなたの優しい気持ちに変わりはありません。それだけはあなたのゆりが保証します。」
「うん。私もゆりちゃんのこと、そう思う。」
取り合った手から流れてくる強い気持ち。
それは変わらずあの時と同じ気持ちでいてくれたことに対する感謝の気持ちと
「でもいつまでもあなたを子供のままにはいさせませんから♥
今夜私があなたをもっと大人にして差し上げます♥覚悟してくださいね?♥」
私の成長を更に促してみせるという強い意志であることにまもなく自分は気づいてしまったのです。




