第290話
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初めての出会いは最悪でした。
「はい、ゆり。こちらはみもりちゃんです。仲良くしてくださいね?」
お母様のお知り合いの娘。
サラサラな黒髪に包まれたその小さな女の子は爽やかな新緑の目で真正面からずっと私のことを見つめていました。
「こ…こんにちは…!私はみもり…!ゆ…ゆりちゃんと友達になりたい…!」
恥ずかしがりながらきちんと自分のことを紹介しつつ、私と友達になりたいという意思を表す小さかったみもりちゃん。
なんという可愛い生き物なんでしょうと今はその可愛さに全力で震えている自分ですがあの時の私はそんなみもりちゃんのことを
「いいえ。私はあなたと友達になる気はこれっぽっちもありませんから。」
っときっぱりと拒んでしまったのです。
「お前は誇り高き「緑山」家の子だ。その名にふさわしい交友関係を持つことを常に心がけておけ。」
「はい、お父様。」
っと子供の頃からずっと私に「緑山」家の女の子として普段の生活から取り締まるように躾けたお父様。
今思えばそれはただ
「お前は誇り高き「緑山」家の子だ。その名に恥じらわないようにみもりちゃんの嫁として常に尽力を尽くしなさい。」
っとみもりちゃんの婚約者としての頑張りなさいという話ではなかったと思います。
って何「自分好みに解釈している」って顔をしてるんですか?ぶっ殺しますよ?
とにかくそんなお父様からのご指示を従うために私は自分の友達は自分で選ぶと決めつけていてあの時のみもりちゃんからのお友達になりたいという純粋な気持ちを拒絶してしまいました。
もし今の自分があの場にいたら
「可愛いみもりちゃんになんという不躾な口の利き方ですか?悪い子にはこうです!」
っと思いっきり過去の自分のお尻でも叩いたはずですがあの頃の自分はどうやら自分よりずっと弱そうで一見何の取り柄もなさそうなみもりちゃんは自分の友達としてふさわしくないと思っていたようです。
あまりにも頑なに拒む私のことを怖がるようになったみもりちゃんはそれ以来あまり私に話を掛けて来ませんでした。
お母様の取り成しで何度も話し合いのチャンスはあったんですが
「ほら、みもりちゃん。ゆりちゃんに挨拶しなきゃ。」
「う…うぅ…」
この間のことですっかり私のことを恐れるようになったみもりちゃんはいつもお義母様の後ろにべったり付いているだけで私と目も合わせようとはしなかったのです。
それがますます情けなく見えてたのか
「別にいいでちゅわ。私だってあんな子とお友達なんかになりたくないんでちゅから。」
「コラ!お止めなさい!」
私はみもりちゃんのことを更に追い詰めてそんな私達のことをお母様はすごく心配しました。
幼稚園の中でもずっと一人ぼっちだった私。
「ゆりちゃんっていつも怒ってるから怖いー」
「いつも喧嘩してるしあまり近づかない方がいいかも。」
「お母さんが言ってたけどゆりちゃんは隣町のすごく偉い人の娘だって。」
「だからあんなにワガママで自分勝手なんだ。」
既に幼稚園の悪童として名高かった自分は仲間達から避けられる問題児。
同年代の男達はもちろん大人の先生達ですら制御できない悪ガキの私のことを他の父兄達はすごく煙たがっていてあの頃にはもう転園の話も出ていて
「見てみて。ゆりちゃん、また一人でグラウンド独り占めしてる。」
「でも誰も相手にしてくれないからいつもあそこに座っているだけだし意味とかあるのかな。」
「裏庭で遊ぼう。」
気が付いたら自分は一人だけのグラウンドの上に立っていました。
涙が出てくるほど苦しい孤独感。
皆は私に殴られないように常に距離を取っていて誰も一緒に遊ぼうとは言ってくれませんでした。
「ゆ…ゆりちゃん…一緒にボール遊び…しない?」
たった一人、
「あなた…」
将来自分が全てのものを捧げたいと思われるようになるその黒髪の女の子を除けば。
「一緒に遊ぼう…?」
あの時だって特に私のことが平気なわけだったのではありませんでした。
みもりちゃんは問題児の私のことをすごく怖がっていてずっと私のところには近づかなかったんですから。
でも仲間はずれみたいなことは決してしたくなかったみもりちゃんは勇気を振り絞って私のことを遊びに誘ったのです。
「えへへ…」
気まずい笑顔。
でもその優しさのいっぱい詰まって笑顔はあまりにも輝いていて胸がこんなにもポカポカする。
その笑顔が見られた時、私はいつの間にか今まで感じたこともない安堵感を覚えてしまったのです。
でもみもりちゃんの大きな愛を受け止めるに
「ど…同情は要りませんから…!」
あの頃の自分はあまりにも器の小さい子供だったのです。
その頃、私は幼稚園に入ってからの初めての誕生日を控えていました。
家族や使用人さん達だけではない本物の友達との誕生日パーティー。
でも私は幼稚園での自分の日頃の行いをよく知っていたのであまり期待は持たないようにしていました。
「お友達、たくさん来てくれたら嬉しいですわね。」
「は…はい…」
お母様のことはがっかりさせたくなかったが無いものは無い。
誰も私の相手なんかやりたくないし私も彼女達に心から寄り添う自身はない。
とうとう訪れた誕生日。
パーティーに来てくれる友達のために張り切って自ら腕を振るうことにしたお母様とお忙しい時にわざわざ娘の誕生日をお祝いするためにお戻りになったお父様。
でも
「大丈夫ですか?ゆり。」
思った通りパーティーには誰も来てくれなかったのです。
豪華な料理。
華麗な飾り付けもイベントもたくさん用意されていたのに誰も来てくれない空っぽの会場。
使用人さん達はどうしたらいいのかウロウロしていて慰めてくださるお母様もまたなんと言えばいいのか迷っているだけ。
お父様は一度空けた会場を見渡した後、苦い表情でタバコを銜えて裏の方へ行かれてしまった。
「知っていたのに…誰も来ないって知ってたのにこんなにも惨めな気分になるのは何故なんでしょう…」
自業自得であることは承知の上。
でもいざそれが現実として訪れた時、幼かった私の心を目の前の事実を受け入れられなかったのです。
湧いてくる寂しさと惨めな気分。
必死に堪えようとしても結局溢れ出してしまう涙。
あの時、私は初めて今までの自分を後悔してしまったのです。
その時でした。
「お…遅くなってすみません…!まだやってるんですか…!誕生日パーティー…!」
息を切らして会場に現れたお義母様。
残業で少し来るのが遅かったとおっしゃったお義母様は
「ごめんね、ゆりちゃん。遅くなって。お誕生日おめでとう。はい、これおばさんからのプレゼント。」
誕生日のお祝いと私のために用意したプレゼントを私に渡してくださいました。
開けた箱の中身は可愛いお洋服で私のためにお義母様が直接仕立ててくださったものだそうでとにかくとても嬉しかったのです。
何も貰えないと思ってたし何より誰かが来てくれたのがすごく嬉しくて。
たとえクラスの誰かではなくても私のことを祝ってくれる誰かがいるのは素敵なことなんだと思っていたその時、
「ほら、みもりちゃん。ゆりちゃんにちゃんと渡してね?」
会場に来てくれたのは彼女だけではないということに気がづいた私。
「お…お誕生日…おめでとう…ゆりちゃん…」
あそこには今まで散々自分がバカにしてきた黒髪の少女が手作りのプレゼントを私の方に向けて差し出していたのです。
いい出来とは言えない手作りの髪飾り。
仕上げも、裁縫も雑すぎてお店のものに比べたらほぼゴミと言ってもいい粗雑なプレゼント。
それはお義母様に手伝ってもらって私にプレゼントするためにみもりちゃんが一生懸命作ってくれた人生初の友達からのプレゼントでした。
「こ…これ…もしかして私のために…?」
「うん…でもうまく作れなくて…」
自分から見ても決して人にあげるものではないと思っているのか、恥ずかしさと申し訳なさを隠しきれてないあの時のみもりちゃん。
まるで「こんなものでごめんなさい」と言っているようなその顔にふと私は今までの自分がこの子にどれだけ酷いことをやってきたのか気づくことができました。
「お手のその傷…ひょっとして…」
「あ…!な…なんでもないから…!これは…!」
慌てて後ろに両手を隠すみもりちゃん。
でもその時の私には確かに見えていました。
その小さい手をいっぱい埋め込んだたくさんの傷。
それが見えてしまった時、
「ごめんなさい…ごめんなさい…みもりちゃん…」
私はそれ以上、湧き上がる涙を堪えられなかったのです。
拒んで見下していた私のことを許して受け止めてくれたみもりちゃん。
その日、私は自分を人として生きるようにしてくれたみもりちゃんを自分の生き甲斐にしたのです。
その後、私の人生は一変するようになりました。
「また一緒にいるよ、みもりちゃんとゆりちゃん。」
「本当仲良しなんだね。」
私はすっかりみもりちゃんの虜になってどこへ行ってもみもりちゃんに付いていくようになり、どんどん自分を変えるようになりました。
あまり喧嘩もしないようになって他のクラスメイトとも付き合いができるほど成長した私のことをお母様はすごく喜ばれました。
お父様も私にできた初めての友達であるみもりちゃんのことを実の娘のようにくださり、みもりちゃんは私達一家にとってかけがえのない宝物となってくれました。
あのままだったらきっと自分は今も傲慢の沼に溺れてずっと暗闇の中から一人ぼっちになって一生を寂しく送ることになってしまったのでしょう。
私は今も自分はあの時のみもりちゃんに救われたと感謝しています。
「お母さんーこれ何?」
「あ、それね?」
いつかみもりちゃんのお家に遊びに行った時、テーブルの上で何かを見つけたみもりちゃん。
「これはみもりちゃんとゆりちゃんが一生仲良しになって欲しくてお母さんが用意したプレゼント。」
それは市役所にお勤めになったお義母様が私達のために持ってきてくださった「婚姻届」でした。
「ここに二人の名前を書くんだよ?」
「結婚…!」
ずっとみもりちゃんのお嫁さんになるのが夢だった私にとってそれ以上の嬉しいことはありませんでした。
もう子供の名前も考えておいたほど本気だった私は早速みもりちゃんに名前を書き込むのをお願いしましたがいざ名前の記入となった時、私は少しためらいを感じてしまったのです。
幼稚園で二人でおままごとをする度にいつも母親役だった自分。
そんな私にたまには自分にもお母さん役をやらせてというみもりちゃんからの苦情があってそれが原因で一度みもりちゃんとの喧嘩を繰り広げたことがありました。
揉め事の途中、理性を失った私がついみもりちゃんを押して怪我をさせてしまった。
そしてそのことに大きな罪悪感を覚えるようになった私はそのまま幼稚園を出て隣町まで行くようになりました。
あそこで迷子になって近所の商人さんのお助けで無事に帰るようになった私を迎えに来たみもりちゃんが思いっきり抱きしめてくれて何度も何度も謝ったのです。
怒らせてごめんなさいっと。
その後、私達は無事に仲直りできていつもの生活に戻ることができましたが
「もしここで私がお嫁さんになりたいと言ったらまた喧嘩でもするのではないのでしょうか…」
お義母様が持ってきてくださった婚姻届の前で私はそうやってまたみもりちゃんと揉めることを恐れてなかなか自分の心を話せなかったのです。
「じゃあ、約束通りゆりちゃんが私のお嫁さんになってくれるんだよね?」
「みもりちゃん…?」
でもそんな私の気持ちを誰よりもよく知っていたみもりちゃんは何の躊躇もなく「妻」の方に私の名前を書き込んでくれたのです。
その時の気分はもう天にも昇るようなとにかくなんと言えば良いのか表現する言葉すら見つからないほどの幸せな気分だったので今思い出しただけで子宮が震えるような気がして…♥
「これからもずっと一緒にいようね?ゆりちゃん。」
っと私の方に向けてくれるその笑顔を見た時、私は決心しました。
「みもりちゃんは私が守ります。」
何があってもあなただけは自分が守ってみせると。
どんなに困難なことがあってもその笑顔は必ず自分が守り抜くと。
あなたはこのゆりが必ず幸せにしてみせる、何があっても立派な婦婦になって二人で幸福を掴み取る。
幼い頃のその気持ちは今も変わらずずっと私の心の中で生きています。
そして今、
「好き…!♥大好きです…!♥みもりちゃん…!♥」
「私のお嫁さんになって…!ゆりちゃん…!」
お互いの体を通してその時の愛情が伝わった時、私はやっと本当の意味であなたの女として生まれ変わることができたことを確信したのです。




