第289話
いつもありがとうございます!
「みもりちゃん…?入りますね…?」
ドアの向こうから入らせてもらってもいいと聞くゆりちゃんの声。
一瞬ビクッとした私は
「あ…!うん…!いいよ…!」
少し緊張でこわばって体の姿勢を正してどうぞ中に入ることを勧めた。
「はい…じゃあ…」
っとそっとドアが開けて
「えへへ…ど…どうでしょうか…」
そこから入場してきたのは
「ゆりちゃん…きれい…」
いつか見たウェディングドレス姿のゆりちゃんでした。
純潔で秀麗な純白の姿。
降り注ぐ月光に照らされて銀色に輝いているその姿はかつて二人一緒に夢見たおとぎのあるお姫様の花嫁姿のようにとてもきれいで美しかったのです。
ベールの中でチラッと見せつけられる嬉しいような、それとも少し照れくさいような初々しい笑顔のゆりちゃん。
きれいな純白の手袋とニーソ。そして百合花の形で作られた髪飾りまで。
栗色の髪もこうやって三つ編みにして結びあげていてレースのいっぱい付いた真っ白なガーターの形のドレスはもうあんなに透き通っていて心が洗われそうー…
「…ってそれってウェディングドレス…なの?」
「ま、まあ…」
ドレス…というよりこれって勝負服とか勝負下着と言うべきなのでは…!
ウェディングドレスの要素なんて色や生地、ベールしか見当たらないしこんなのもう下着と当然じゃん…!
全然ドレスでもないしこんなに肌とか丸出しだから…!レースで隠したつもりだけど全部スケスケで中身とか全部丸見えだし第一どう見てもこんなの勝負下着にしか見えないって…!
「じ…実は高校入学のお祝いとして頼んだものなんです…高校生になると今度こそみもりちゃんのお嫁さんになるって…」
もう入学から準備してたのかよ…!
「へ…変でしょうか…?」
「いや…変っていうか張り切り過ぎっていうか…」
不安そうな顔で今の自分の姿を何度も確かめるゆりちゃん。
その美しさに一点の偽りもないと私はそう確信しています。
「でもJKが着るにはちょっと大人っぽいというか…」
「そうでしょうか?前のみもりちゃんのウェディングドレスとそう変わらないと思いますけど…」
一緒にすんな!
ド…ドレスのことはもういいです…本人さえ良ければそれでいいですしせっかく私のために着てくれた勝負下着…じゃなくドレスですから…
まったく納得できませんが…
「クリーム、塗ってないんだ…」
「ええ…今夜だけはありのままの自分をみもりちゃんに受け止めてもらいたくて…」
そしてその準備が私には既にできていることもゆりちゃんはまたよく知っていました。
去年、あの「影」という世界から負ってしまった数々の傷口。
それを誰にも見せたくなくて特殊なクリームを使ってずっと傷口を隠してきたゆりちゃんは自分にはもう女としての魅力はないと言いました。
鍛え抜いた極限の体と15歳の少女のものというにはあまりにも酷い傷。
でも私はその全てが自分と関わっていることをよく知っていてそれさえ愛してあげられました。
「よいしょっと…」
部屋に入ったそのまま自然と私の隣に腰を掛けるゆりちゃん。
ベッドの上が若干浮いて元に戻るほどのほんのちょっとだけの揺らぎでしたが
「と…とうとうこの日が来てしまったのか…!」
私の心は前例が見つからないほどバクバクの大行列でした…!
「ふぅ…」
寄り付いたゆりちゃんから吐き出される生暖かい息。
凝縮された濃厚な百合花の香りとゆりちゃんの体臭にもうこんなに胸がいっぱいになって頭がぼんやりするほどです…!
「みもりちゃん、もしかして緊張してます?」
っと今の気持ちについて聞いてくるゆりちゃん。
それにはちゃんと今時分が感じているありのままの気持ちを伝えなければならない。
何より今自分が感じているのはきっとゆりちゃんも同じく感じているものだから。
「うん…でもドキドキだけどワクワクもしてるから…」
っと素の自分を伝えた時、
「実は私もなんです…」
ゆりちゃんはいつものような和やかな笑顔で私の気持ちにちゃんと答えてくれました。
「うん、そうか…」
「は…はい…」
続くのは慣れない状況によるちょっとしたぎこちない空気。
でも先にその沈黙を破ったのは
「ゆりちゃん、おいで。」
ゆりちゃんに向けて思いっきり腕を開いて自分の花嫁を迎え入れようとする他でもない自分でした。
「はい。」
そして自分の中に抱きつかれるゆりちゃん。
そのガッツリした体の中に宿っている熱い体温に触れた時、私は改めて気づいてしまったのです。
「ゆりちゃん…こんなに小さいんだ…」
ゆりちゃんは私が思っているほど大きくなったのです。
今までずっと傍から守ってくれた大切な幼馴染。
その子は何でもできる完璧超人で力も強いとても頼もしかったんですが私はすごく大事なことを忘れていました。
いくら強くてもゆりちゃんは私とそう変わらない15歳の普通な女の子だって。
どんなに辛くても、苦しくてもゆりちゃんは決して私の前では弱いところを見せない。
自分は私にとって誰よりも強くて決して負けない人であり続けなければならないと自分の苦しみを徹底的に包み隠していたゆりちゃん。
そんなゆりちゃんのいじらしい努力のおかげで私はいつの間にかゆりちゃんならいつだって大丈夫だって心のどこかでそう思っていたかも知れません。
ゆりちゃんだってきっと泣きたい時が、誰か助けて欲しい時があったはずなのに私は器用に気づいて挙げられませんでした。
今まで自分が感じてきた大きいゆりちゃんは常に私の前では最強としているために演じられていたゆりちゃんで本当のゆりちゃんはもうこんなにか弱くて小さな幼馴染のゆりちゃんだった。
そう思いついた時、私はあまりにも自分が情けなくてちょっとだけ歯を食いしばるようになりましたがその同時にこう誓いました。
「ゆりちゃんはもう私が守るから。だから泣きたくなった時は、辛くなった時は私を呼んで。」
もう二度とゆりちゃん一人だけに背負わせないと。
私達は今日本当の意味で一つになったからこれからは二人一緒でどんな困難でも乗り越えてみせる。
それがゆりちゃんの今まで人生を、これからの未来を頂いた私の責務でありながら本望だから。
そう心の決意を固めている私の前に
「始める前にみもりちゃんにお願いがあります。」
ふと私に何かして欲しいものがあると急に改まるゆりちゃん。
そんなゆりちゃんが差し出した銀盆の上に置かれている2つの瓶。
それぞれの瓶にはピンクと緑色の液体が入っていてそれを見た途端、
「ゆりちゃん…これ、もしかして…」
とても不穏な予感を感じ取ってしまいました…
「お察しの通りです、みもりちゃん。これはそれぞれ前の意識が飛ぶほどの強力な惚れ薬とみもりちゃんのお股にオチンチ○が生える薬です。」
身も蓋もない…!
いつになく真剣な真顔…!
ゆりちゃん、本気で私にこれらを飲ませる気なんですよ…!
惚れ薬はもう経験済みである程度予測していましたがあれが生えるって何…!?
女の私じゃ足りないってこと…!?
っといきなり出された怪しげの薬達に戸惑っている私にこれらに至った考えの経緯を説明しようとするゆりちゃん。
ゆりちゃんは先昼のことからこれらのことが思いついたらしいです。
「先程みもりちゃんは「花嫁」としてのみもりちゃんを私にくれました。だったら今度は「花婿」としてのみもりちゃんを私にください。
そして私もまた「花嫁」としての自分をあなたに捧げます。」
でも正直理由を聞かされたと言って理解できないのは一緒でした。
「今夜私は何が何でもあなたの子を、私達の「みゆ」ちゃんを授かります。孕むまで絶対寝かせませんから覚悟してくださいね、みもりちゃん。」
「顔…!ゆりちゃん、顔めっちゃ怖いよ…!」
「あ、まさかと思いますがゴムとか付ける気でしたか?残念ですがそんなことは絶対させませんから。」
「そうじゃなくて…!」
何故こんなことになってしまったのか、それは時を遡って
「や…やっちゃった…」
数時間前、私が初めてゆりちゃんと体の交わり、つまりゆりちゃんと性交をした時の話をやらなければなりません。
***
あの時、秘密基地、私達は「ラブハウス」と呼んだあそこで発見されたのは
「タイムカプセル…」
子供の私達が遠い未来の自分達に残した未来へのプレゼントでした。
「こんなところにありましたね…」
「えへへ、まあねえ。」
絶対土の中には産めておきたくないって意地を張っていたゆりちゃんからの要請で結局この展望台のどこかに取っておくことにした大事な思い出。
ゆりちゃんは特にここの展望台のことが大好きだったのですごくうってつけの場所選びだったと思います。
「でも鍵がかかってますね…」
「あー…そういえばゆりちゃん、盗難防止とか言って鍵をかけておきたいって言ってたな。
でもどうしよう…鍵とか持ってないのに…」
ここは「緑山」家所有の私有地で私達以外は誰も来ないのにわざわざ手のかかった装置までしておくほどこのブリキ箱の中にはあの頃の私達の気持ちがいっぱい詰まっている。
それをもっと大切にしたかったというゆりちゃんの気持ちが改めて伝わってくるような気がしてたとえ鍵がかかっていてもその気持ちだけはちゃんと伝わるっー…
「まあ、別にいいですけどね。」
っと文字通りぐしゃっとあんなに頑丈そうな鍵をあっさりと握り潰して力づくで箱を開けちゃうゆりちゃん!
ゆりちゃん、すごっ!
っていうか盗難防止装置、全然意味なかったじゃん!
「はい、みもりちゃん。みもりちゃんが開けてください。」
「え?いいの?」
でも何故か自分ではなく私に箱を開けて欲しいと言うゆりちゃん。
普段こういうのは自分でやらなければ気が済まないゆりちゃんなのにっと少し珍しく思っていた私でしたが
「今度こそあの頃の私の気持ち、ちゃんと確かめてくださいね?」
まもなくその本当の意味に分かるようになった自分だったのです。
その好意を受け止めてやがて箱を開ける決心がついた私は
「じゃあ、開けるね?」
思いを切って蓋を開け、
「これは…」
ゆりちゃんと一緒にその中の中身を確かめるようになったのです。
眠っていたあの頃の匂いが箱の中から吹き出してきて放り出した幼い宝物が天井からの光に照らされて長い眠りから目覚める。
遠い未来の自分達が再びこの宝物に出会った時のことを思い描いて大切に詰まっておいた思い出は私達に優しくこう話を掛けてきます。
「おかえり。みもりちゃん、ゆりちゃん。」
っと。
その時の期待感と胸のいっぱいさをなんと表現したらいいのか今も言葉が見つからないままですがとにかく巡り会えたその祝福の出会いに私達は心から歓喜と感謝の気持ちを抱くようになりました。
箱の中にあるのは何枚かの手紙と子供の頃のおもちゃ、「フェアリーズ」のグッズ、いくつかのガラクタと
「「願いの指輪」…」
あの頃のゆりちゃんが欲しがっていた願いを叶えてくれるというおもちゃの指輪でした。
「こんなところにあったんだ、この指輪。」
あんなに欲しがってたのにまさか何年も誰もいない展望台の引き出しの中に入れておいたなんて。
そういえばゆりちゃん、結局この「願いを叶えてくれる」指輪に何もお願いしてませんでしたし。
ってそんな子供っぽい噂なんかを真に受けすぎるのでしょうかね、私って…
指輪と一緒に箱の中から発見できたのは「フェアリーズ」の時にもらったファンレターやグッズ、二人でよく一緒に遊んだ食玩のおもちゃなどでしたが
「あ!これ、見て!懐かしいねー」
真っ先に目を引くのはやはり二人で戯れで書いた「婚姻届」だったのです。
市役所でお仕事してたお母さんからもらった人生初の婚姻届。
そこに最初に記入したのは自分の名前と
「じゃあ…!私がみもりちゃんのお嫁さんになります…!」
何があっても私と一緒に名前を書きたいと言ったゆりちゃんの名前でした。
念を入れて丁寧に書き込んだ自分と私の名前。
あの頃のゆりちゃんの本気が今この婚姻届からうかがえる気分だったのです。
「ゆりちゃん、お嫁さんになりたいからって言って結局私がお婿さんになったよね。
そういえばおままごとの時もいつもそうだったっけ。」
「それで喧嘩したこともありましたよね。みもりちゃん、もうお父さん役は嫌だって。」
「えへへ…まあねえ。」
単なる子供の遊びのつもりで書いたはずの婚姻届。
それさえゆりちゃんはずっと一生の宝ものとしてこの箱に入れて大切にしてくれました。
話し合っているうちにどんどん蘇ってくる懐かしい記憶。
私達の胸はいつの間にかあの頃の記憶でいっぱいになっていました。
「じゃあ、今度はこちらのお手紙も一緒に読んでみようかな。」
「でもさすがにちょっと恥ずかしいですね。なんて書いたのか薄らと覚えているのが更に怖いというか。」
っと照れくさく笑ってしまうゆりちゃん。
でもそれは自分も同じ気持ちでしてだからこそゆりちゃんと一緒に見届けたいと思います。
「ゆりちゃん、字きれいだねー」
「うふふっ。みもりちゃんだってー」
ちょっぴり恥ずかしくても愛しい懐かしさ。
子供の自分達が未来への自分達に話したかったのは何だったのか、残してあげたかったのは何だったのか。
それを一緒に探して思い出への旅立ちを始めた時、私達はあっという間に懐かしさの海の旅人となっていました。
「この頃の私はこんなことを思ってたのですね。「みもりちゃん大好き♥」って。
今はとても恥ずかしくて言えませんが。うふふっ♥」
「え…?今も割りとちゃんと言ってくれていると思うんだけど…?」
お手紙を開いてその中から込められている気持ちを放り出して今の自分にその強い想いを伝える。
それぞれの伝えたかった気持ちがこんなにも溢れ出してきてこんなにも胸がいっぱいになって充満な想いにウキウキしている。
あの頃の純粋な気持ちは再び私達の中に眠っていた愛情を目覚まし、引き起こしてくれたんです。
その同時に私は
「未来の私達は今もアイドルをやっているんですか?」
ずっと忘れていた昔の自分の夢と出会うことができたのです。
「うん。もちろんやっているよ。だから心配しないで、昔の私。」
そう呟いた私はその一言に込められた素直な自分の気持ちにもう一度感謝することになりました。
きっと今の自分がいられるのはあの頃の気持ちが自分の中で変わらず存在してくれたからだと思って。
その後、私達はいっぱい手紙を読み合いました。
「みもりちゃんったらあの時は結構素直に好きって言えたんですね。どうして今はそんなに言ってくれないんですか?」
「ええ…?でもはずいじゃん…」
純粋だった私達。
「フェアリーズ」の活動のことやあの頃の思い、夢、色んなことに私達は触れることになりました。
自分の考えを振り返ったり、ちょっと恥ずかしいことまで蘇ったり色々ありましたがそれでもとても大切で充実な時間だったのです。
でもやっぱり一番忘れられないことは
「あ!これ、見てください!みもりちゃん!」
久しぶりの想い出さがしの真っ最中にふと一つの手紙をゆりちゃんが見つけ出した時のことです。
「何か見つけた?見せて見せてー」
「はい!」
また懐かしいものを一つ見つけ出したようなその嬉しそうな顔。
そこに耳を傾ける私にいつか自分が書いた手紙を読み上げてくれるゆりちゃんでした。
「「元気ですか?未来の私。今頃あなたはみもりちゃんと無事に結婚して幸せに暮らしていると思います。
今みゆちゃんは生まれましたか?今何歳ですか?きっとみもりちゃんにそっくりな可愛い女の子だと私はそう信じています。
これからも幸せな結婚生活を続けてください。応援してます。」」
あの頃の小さなゆりちゃんが今でも目に浮かぶほど生々しい内容。
私達はその可愛い無邪気さに一緒に笑い合うようになりました。
「ゆりちゃん、可愛いー!もうあの時からずっと思ってたんだー」
「うふふっ、そうみたいですねー」
ここに来て大分元の笑顔を取り戻せるようになったゆりちゃん。
自分でも手紙の内容が少し恥ずかしいように照れくさく笑ってしまったゆりちゃんは
「ごめんなさい、過去の私。それはもう少し先のことになりそうです。」
そう昔の自分に答えてあげて後、手紙を元の場所へ戻しました。
でもその言葉だけは何故か私の心にズキッと差し込まれるようになって
「み…みもりちゃん…!?」
気が付いたら私は既にベッドの上にゆりちゃんを押し倒した後でした。
「じゃ…じゃあ、今から作ればいいよ…!「みゆ」ちゃんのこと…!」
そして勢いでそう言い切ってしまった自分は
「みもりちゃん、先言ってましたよね?一緒に「みゆ」ちゃんを作ってくれるって。」
数時間後、一晩中ゆりちゃんに完膚なきまでに絞り出されるハメになってしまったのです。




