第286話
遅くなって大変申し訳ございません。
初投稿からそろそろ3年を迎えようとしているんですが最近では前より色々あって投稿のスピードが少し劣ってしまった気がします。
ですがめげずにこれも乗り越えてみせますので何卒よろしくお願いいたします!
いつもありがとうございます!
その後、私はエメラルド様に館内をご案内頂きました。
ここの戦争記念館ではこの地で起きた激戦と戦争の傷跡を乗り越えた人々の歴史を因んで覚えてもらうための記録を取り扱っています。
激しい戦い。その中でたくさんの人々がその命を失い、この土地は死の町に変わってしまった。
山も、森も全部燃えてしまってとても人の里には見えなかった戦線の町。
その絶望の果で触れることができた「神樹様」の奇跡。
町の人達はお互いと助け合ってもう一度この町に活気を吹き込みました。
その中で古い昔からこの土地の地主として蟠踞していた古い歴史を持った軍人家計の「緑山」家は町の人達に積極的に協力し、ついに町は輝かしい復活を成し遂げました。
「神樹様」の「愛」と「共存」という精神、そして戦争の残酷さと人々のくじけない心。
その全てを直接肌で感じることができるこの場所は私は実に有益で素晴らしいところだと思うようになりました。
それに
「青葉さん!あそこ、見てください!カモさんがいます!」
ここって自然に近くてあんなに会長も喜んでくれて本当に楽しいですね。
「会長ー走ったら危ないですよー」
「カモさん!美味しい餌あります!こっちおいで!」
もうあんなに燥いじゃって。
体はあんなにボインなのに精神だけが子供の時に戻ってしまったせいか単なる体の大きいお子様にしか見えませんね。
「セシリアちゃん、青葉さんのことを随分懐いてますね。あの頃にはあまり人に懐いたりはしなかったのに。」
「え?そうですか?」
思ったより私のことに懐いている会長のことを珍しいと思ったのか少し昔話をしようとするエメラルド様。
彼女はかおるさんとビクトリア女王のこともあって何度も会長に会ったことがあるそうです。
「ええ。人見知りが結構激しくて私と初めて出会った時だって挨拶を交わしてくれなかったんです。
いつもビクトリアちゃんともう一人の姉の後ろに隠れているだけだったのにあんな風に他人に懐いているのは初めて見ました。」
っと地味に驚いているエメラルド様のその話に私は何故か先輩のことを思い出してしまいました。
会長にとって最も大切な先輩。
そんな先輩と出会えたことで会長の中で何かが変わったのではないかと。
そう思ったら私はその同時に少し惨めな気分になってしまったんです。
どう見ても自分なんかが入れる余地なんていなそうに見えて…
「結局私はここに来ても先輩のことばかりだな…」
そう呟いた私は話題を話題を変えるために
「かおるさんからも聞きましたが会長ってお姉さんのビクトリア女王のことを結構懐いたらしいですがそれって本当なんですか?」
っとエメラルド様の覚えている会長のお姉さん、ビクトリア女王のことを聞くことにしました。
「世間では女王とセシリアちゃんの仲があまりよくないとか言ってるんですが二人共別にどこにもある普通な姉妹ですからそれは誤解とも言えますね。
むしろビクトリアちゃんの方が末の妹のことが大好きすぎて仕方がないくらいですから。」
「あ、それかおるさんからも聞きました。なんでも見ているこっちがドン引きさせられるほどのシスコンだと。」
「かおるちゃんったら幼馴染のことをシスコンだなんて。
でもまあ確かにその通りかも知れませんね。」
クスッと笑っているエメラルド様は本当に妹さんの巫女様とシスターにそっくりだったので私は姉妹っていうのはすごいなと思ってしまいました。
いくら同じモデルで作られた同規格のアンドロイドとはいえここまで同じ顔だなんて。
そういえば巫女様、たまにお姉さんの話をしましたよね。
「とんでもない世話好きで面倒くさい人です。シスコンと言ってもいいほど妹達のことに熱心でたまに勝手にこちらの記憶にアクセスして来るので本当に困りますから。
私達は「神社」と「教会」の関連者だからそれに関する未発表の研究資料も多いというのに勝手に閲覧して
「ルビちゃん、この論文にはルビちゃんの可愛さが全然載ってないんです。お姉ちゃんとしてボツにせざるを得ませんね」とか言って。
私、もうすぐ退役なのに「ルビちゃん」ってあり得ると思いますか?青葉さん。」
っといつも自分のことを子供扱いするお姉ちゃんへの愚痴を並べた巫女様。
でも
「もう。本当困ったお姉様ですから。」
私はなんだかそんな巫女様の表情から満更でもないような気がしました。
妹の「黄玉」様がいなくなってから自分を追い詰めるようになったという巫女様のことを姉のエメラルド様とサファイア様はすごく心配してたそうです。
年が一番近くて他の姉より自分を頼ってくれた一人しかいない妹を姉として最後まで守れなかったと自分を責めてしまう彼女のことをお姉ちゃん達はずっと気にかけていました。
姉として妹のことを心配する極自然な感情。
私は彼女達のことを何の変哲もないただの普通な姉妹と思いました。
「本当はエメラルド様だってすごいシスコンですけどね。」
っと思った私は彼女には気づかれないほど静かに笑ってしまいました。
でも私にはやはり理解できなかったんです。
「もうすぐ全てが元通りになります。だから安心してください、青葉さん。」
事務室から出る時、エメラルド様が何故私にあんなことを言ったのか。
今の学校の状況は決して思わしいとは言えない。
だとしても私が現状を維持しようとしる以上、この状況が一気に動く可能性はほぼ皆無。
魔界関連の殆どの部は私の方針に賛同していて2学期になったら本格的に「部活殺し」を始めるつもりです。
全ての神界や人界の部も食い尽くして私達の下におく。
ここまで来て引き返すことなんてできないから。やるからには最後までとことん悪役をやり抜いてみせる。
それが私の生き様です。
でもそうなったらもうこうして会長や虹森さん達と一緒に遊びに行くこともできなくなるでしょう。
私は倒すべきの悪のボスになって皆に嫌われて疎まれて破滅に向かってただひたすら突っ張ることになる。
それでいいと心を決めたはずの自分なのに
「全てうまくいくはずです。」
エメラルド様のその言葉だけは何故か私の心に中で強く響いてしまいました。
「あそこの森をくぐり抜けると昔みもりちゃんとゆりちゃんがよく遊んでいた別荘が出るんです。」
人差し指で少し離れたところの森を示すエメラルド様。
大きな木の中に付いている道に沿って少し歩くと二人が秘密基地として使っていたというロッジがあるそうです。
でも管理人さんがいて「緑山」家の私有地であるため、一般人は立ち入り禁止になっていて許可も取らず勝手に入ってしまったら警察に捕まるらしいです。
「井上くんは娘のゆりちゃんのことも、友人の娘のみもりちゃんも大切すぎますから。
娘達のことに関しては特別に厳しいです。」
この当たりでは「若旦那」と呼ばれて尊敬されているという緑山さんのお父さん。
町の人達に困ったことがあったら必ず力を貸す方らしいですが何故か娘さんのことになると目がなくなるとんでもない親バカさんだそうでなんだかすごく微笑ましくなりますね。
「お父様ですか?とにかく厳しい方です。いつも「緑山」家の娘だからああいろこうしろと。
私にはみもりちゃんがいるのに私と一言の相談もせず勝手に結婚まで考えなさって。
それにいつも忙しくてあまり家には帰らず、帰ってもまともな会話すらやらせてくださいませんでしたから私の記憶ではただ厳しくて無口な父ってイメージばかりだったんです。
まあ、私達のことを愛してくださっているのはよく知ってますし私だってお父様のことを尊敬しているのですが。」
っと緑山さん、自分のお父さんのことをそう言いましたが私はただお父さんが愛情表現が少し苦手な方であるだけで決して娘さんのことを粗末に思っているわけではないと思います。
じゃないとさすがに娘のために森全体を立ち入り禁止区域にするはずがないでしょう。
「秘密基地と言ったらやはりロマンがありますね。どんな感じなんですか?」
誰にもそういう思い出一つや2つくらいはあるはずの秘密基地というワード。
私も実家の屋根裏を自分の秘密基地として使ったんすよ。
好きな俳優さんの写真やアルバムとかもおいて色んな空想を膨らませたものですね。
でもそんな私の埃っぽいしがない秘密基地と違って二人の秘密基地はずっとちゃんとしたものだったようです。
「そうですね。秘密基地と言っても立派な別荘なんです。湖がよく見えてとてもいい眺めのところです。
一緒にバーベキューもしてキャンプもして楽しかったんですよね。」
風呂や台所まできちんと用意されているという可愛いツリーハウスというエメラルド様の話にやっぱり金持ちってすごいなと思った私ですがやっぱり私のとはちょっと違った気がします。
秘密基地ってなんというちょっと雑なものでも構わないという自分の中でのこだわりがあるっていうか…
適当に毛布でも張ってその中をテントの感じで使ったりとかお父さんが作ってくれたちょっと荒削りだけど小さくて居心地の良いツリーハウスの中でお菓子を食べたりとか。
別荘ともなるとそれはもう秘密ではないような…まあ、本人達がそれでいいと言うのなら別にいいんですが…
「会長はどんな秘密基地がいいんですか?」
「秘密基地…ですか?」
っと秘密基地へのイメージを聞く私からの質問に
「んー…そうですね…」
ちょっと真剣に考え込む会長。
「まあ、こっちだってお姫様だから。」
っとどうせ緑山さんの別荘みたいなものが出てくるんだろうっと思った私ですが
「すみません…私、あまりそういうの、よく分からなくて…」
思ったより会長には子供の時の思い出がなかったようです。
子供の時、あまりそういう遊び方が知らなかったからその秘密基地っていうのがよく理解できないという会長。
会長は自分は普通の子ではないかも知れないと思ってすぐ落ち込むようになりましたが
「大丈夫ですよ、会長。あるじゃないですか。会長だけの秘密基地が。」
私はそんなに会長には既に立派な素敵な秘密基地があるということを教えてあげました。
日常とは違った新鮮で胸が弾む些細な非日常感。
完璧ではなくてもその中で私達は想像の世界に招待されて色んな夢を見ることができる。
短い時間の中で積み重ねる大切な思い出。
大人になって振り向いたあそこには今も小さかった私の夢と思い出が手を振りながら笑顔で迎えてくれる。
そのような存在を会長は既に持っていたことを私はずっと知ってました。
だって去年の私もまたその中で大切な思い出を作りたいと願っていましたから。
「今日のこと、後で先輩にちゃんと話してあげてくださいね?」
私はその大切な非日常感を会長だけに譲ることにしました。




