第284話
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「虹森さん達、もう行っちゃったんですが大丈夫なんでしょうか。」
久々の再会。
でもこれと言った会話もせずいきなりどこかへ飛び出てしまった虹森さんと緑山さんのことにもしやエメラルド様が寂しい思いでもしたらどうしようと心配になった私。
私は何度も彼女の気持ちを確かめなければなりませんでしたが
「ええ。大丈夫です。だってあの二人のことですから。」
どうやらエメラルド様は思ったより彼女達のことを深く理解しているようでした。
「あの子達は今までずっとお互いのことを支え合ってきましたから。きっとこちらのことより優先したことがあるのでしょう。
まあ、結局その仲に自分が入ることができたのはすごく残念だと思いますが。」
っと軽く笑ってしまうエメラルド様。
彼女はあの二人の絆こそ誰にも割り込みのできないとても固いものだと言いたいように私にはそう聞こえました。
私達は今エメラルド様の事務室で小さなお茶会をやっています。
山に包まれた館内の光景が一目できるとても眺めのいい部屋で出してくれた和菓子よ緑茶もすごく美味しくてなんだか落ち着きますね。
かつて激戦地として何度も戦闘を繰り返したというこの町。
今こうやってその全体を見ているとあの頃の地の記憶が蘇ってくる気がして今でもその激突の歴史を感じる。
私は今、こんな風に私達が当たり前のように享受している平和こそあの時、たくさんの人々がその犠牲で平和の大切さを世界に届けてくれたからだと思います。
「今日、ここに来て本当に良かったです。」
私だけではない。
会長ならきっとここの歴史の意味を私と一緒に感じてくれるはずです。
「妹からよくお二人さんのお話はよく耳にしています。お二人共、「神社」の仕事も、「教会」の行事もよくお手伝いしてくれていつもありがとうと。」
「巫女様がですか?」
「ええ。」
巫女様って以外にお姉さんにそういうのよくお話するんだ。
いつも真剣で真面目そうな顔をしてますからあまり甘えたりするタイプには見えなかったのに。
まあ、シスターだっていつも真面目なんですが巫女様ってなんというか抜かりのない人みたいにしゃきっとしてちょっと気難しい人っぽいんですよね。
「ああ見えても本人は結構気にしているんですよ、そういうの。今は少しマシになったんですが昔はいかにも鬼委員長ってキャラで姉妹以外は誰も話を掛けてくれなかったんですから。
「青玉」の方はもう少しゆるくて丸っこい性格だから大丈夫だったんですが「紅玉」は同じ巫女達にもあまり相手してもらえなかったので私はそれがずっと心配だったんです。」
本当に人工的に作られた「アンドロイド」なのかっと疑わしく思われるほど豊かな感情。
人の姉が妹のことを案ずるようにエメラルド様もまた妹の巫女様のことをずっと気にかけていたのです。
私はそんな彼女の憂いを自分で治めてあげたいと思いました。
「大丈夫です。シスターと同じく巫女様だって皆にすごく頼られてますし皆との仲もいいですから。
たまに生徒達とお茶会もやっているようですし。
まあ、皆が帰ろうとしたら「も…もうちょっといいんじゃないですか…」ってすごく残念がる顔をするのはそろそろご遠慮願いたいんですけどね。なんか皆、すごく困ってるし。」
「ふふっ。ああ見えても割りと寂しがり屋さんですから。ルビーは。」
妹の可哀想な顔を想像しながらほっとした顔で微笑んでしまうエメラルド様。
でも巫女様のことを私やお姉さんが心配していたように
「ですがルビーだってあなたのことをすごく心配してますから。」
私もまた彼女から心配されいました。
私は彼女に何の話について話しているのかすら自分の口で聞かなかった。
その理由は誰よりも自分が一番知っているはず。心当たりなんていくらでもある自分がいる。
私はただ黙って彼女の話を聞こうとした。
「あなたがどのような理由でああいうことをしたのか大体は把握しています。
でもそれだけが理由ではないはず。ルビーはあなたのことをそう推測しています。」
ことごとく何もかも全部知っているような冷静な表情。
でも抗えないその美しさに私はまた目を奪われてしまう。
巫女様と同じ顔をしたエメラルド様は既に私のことについてできるだけの推測を全部導き出していました。
「私もそう思います。人の心というのは科学や魔術的な方法で計れるものではない。私達のような高性能の機械でさえ人の心を完全に読み取るのは不可能です。
特にその中でも「狂気」というものには絶望的にまで打つ手がないです。」
「狂気…ですか。」
今私の膝には疲れて少し休みを取るために目を閉じた会長が眠っている。
でも私はそんな会長にも気づかれないほど決して自分の動揺を表には出しませんでした。
「人の心を狂わせてやがて破滅に陥れてしまう狂気。この世界はその感情に振り回されて何度も滅びかけてきました。
そして私も、私の妹達もその狂気の発散に必要な道具に過ぎなかった。というのも否定できない事実です。」
悔いはない。ただそれに抗えなかった自分の非力さに胸が苦しいだけ。
彼女はその「罪」という名前の足かせを心にかけて長い時間を苦しみの中で生きてきました。
「どうか「狂気の奴隷」には成り下がらないでください。どんな理由であれあなたにはあなたの人生を生きる権利と資格があります。
あなたの周りにはあなたのことをあなた自身よりも大切に思ってくれる人達がたくさんいますから。」
その言葉を最後に彼女はこの話題についてこれ以上何も話さなかったのです。
ただ私のギュッと握って
「どんなに苦しくても挫けてはいけない。諦めてはいけない。
立ち向かって乗り越えた時しか次の景色は見えないのです。」
心から私の前途を祈ってくれるだけでした。
「ルビーはあなたのことを尊敬しています。だから道を誤らないでください。
もしも何一つ分からなくなったら私達に、あなたのことを愛している人達に頼ってください。
一人ではダメでも一緒ならきっと道が見えるはずです。あなたならきっとうまくいくと私はそう信じています。」
それはまるで同じ記憶を共有する妹の巫女様が私にずっと言いたかったことを代わりに話してくれているような、そういう感覚のものでした。
温かくてひたすら私のことを案じて話してくれる大切な話。
でもそれを素直に受け止められない不甲斐ない自分。
私の心は今も迷いばかりの幼い子供のままだったのです。
そして私はその夜、改めて分かるようになりました。
「うみちゃん。」
エメラルド様から話した私自身より私のことを大切に思ってくれる人。
その人は何一つ変わることもなく
「好きです。」
私のことをずっと大切にしていたということを。
***
「朝倉色葉」。
元世界政府保安局局長であって今は私が通っている「世界政府付属第3女子高校」の理事長を努めている遠い昔、一度だけこの世界を救ったと言われている「開闢」の名を持った「神族」。
神族に選ばれるまでは教師を目指して勉強熱心の優等生で実際成人になってからでも教師資格を取得し、教鞭を執って長い間生徒達を教えてきたらしい。
それ故、未だに彼女のことを「先生」と呼んでいる人が多い。
豊かな銀髪。チャームポイントの赤いメガネの向こうから光っている冷血な黄金の瞳は知的ながらもものすごい野性味と迫力が溢れ出ている。
腰の辺りには神族らしく大きな羽もついているが彼女いわく「飛ぶのは疲れるから」って感じでもう何年も使っていないらしい。
「神罰」という名前の槍と「空間置換」の能力を自由自在に使いこなせている正真正銘の化け物。
全盛期の時は時間を司る妹の「魔神族」「夜咲仁穂」でさえ相手にならなかったほど圧倒的な力の差を見せつけたらしい。
でもその頼りになる性格とクールなルックスがまたいいと言っている子達も結構いるそうだ。
そして私はそんな彼女を見て
「この人の子供…欲しい…」
私は本気で彼女の子供が欲しいと思われるようになった。
こういう思いになったのはつい先のことで今から少し時間を遡って語らせていただく。
「どうだ?ここの庭は。シスターの丹精が込められたご自慢の庭だ。」
「き…きれいじゃない…?」
懺悔室から出て何故か理事長と教会の庭を散歩するようになった私。
その時は自分の正体が彼女にバレたということが分かった正直あまり愉快な気分ではなかった。
そっちは戦う意志はないと言ったがどこまで信用してもいいのか私には何一つ保証がない。
しかも今の私は随分弱っているから向こうが本気になったら全部防ぎ切れるのかすら怪しい。
私には「超越体」から授かった使命と自分なりの目的があるからそれを果たすまではなんとか力を温存したい。
だから無益な争いは避けたいのが本当の気持ちだがいざとなったらやっぱりここで始末するしかない。
私は本気でそう思っていた。
そんな私の覚悟を嘲笑っているように
「毎年ここではたくさんの教会式の結婚式が行われてな。私の妹もここで結婚したのだ。」
どうでもいい日常会話だけを続けている彼女のことに私は少々拍子抜けの状態となってしまった。
でも気を抜くわけにはいかない。まして相手は「開闢」と呼ばれる生きている決戦兵器だから綻びを見せたら何をされるのか知らない。
そんな私からの警戒心に気づいたのか
「少し休もうか。君も座ったらどうだ。」
会場の端っこにあるベンチに一緒に座って一休みすることを提案する理事長。
座るという選択肢以外のものを持ってない私はそのまま彼女の隣に腰を据えたわけだが
「背…高いね…」
近くで見た理事長の美しさに改めて目を奪われてしまうようになった。
大人感丸出しというか足も身長もこんなにスラッとして確かに普段のJK達とは別の生き物みたい。
しかも胸だってこんなに大きくて…
同じ神族なのにあの小さな神様はあんなにちっこかったのに…本人に聞かれたら絶対怒るやつだからあえて言わないけど…
「それになんというか…」
やっぱりこっちの方がしっくり来るな…正しい神様っていうか…
きれいな銀色の髪と純白の羽が相まって何も言わずとも聖なる雰囲気が漂っている。
夕暮れの光に照らされて高潔で純潔に輝いている彼女のことが眩しすぎて…
見た目だけではない。
彼女は人々を守って導くために選ばれた存在。
破壊でしか何も産めない私達とは大違いの優しくて頼もしい神様。
そんな彼女のことを見た時、私はふと自分のことをすごく褪せて残酷な存在にしか感じられなかった。
そう思っているうちに彼女はふと私にこういうことを聞いた。
「君は何のために動いている。」
っと。
それには確かな答え、信念を私は持っている。
でも私は何故かその質問にうまく答えなかった。
「君はまだ迷っているな。」
彼女からそう言われるまでに。




