第283話
いつもありがとうございます!
「へえーここが戦争記念館か。」
自分は初めて来たと言う青葉さんの話。
最初の時はあまり面白がらなかったらどうしようと思いましたが
「いいじゃない。私、こういうのもすごく大事だと思うから。」
なんとか興味を持ってくれるようで安心しました。
ここはうちのお母さんが働いている戦争記念館です。
この辺りの全部が記念館の敷地になっていて一周するだけでも結構時間がかかるほど相当な規模を誇っているこの町の数少ない名所の一所なんです。
神界と人界の境界で大戦争の時、激戦地となったこの町は代々この地に根を下ろしている「緑山」一族と町民達の粉骨砕身の努力でやっと人が暮らせる町として生まれ変わりました。
たくさんの人が亡くなりましたがそれ以上新しい命が生まれその意志を紡いていく。
それを繰り返しながらより良い町を子孫に残すための努力を惜しまなかった結果、今こうやって私がこの町の「町っ子」としていられるようになったのです。
そして大戦争の悲しみや歴史、その全ての足跡を覚え、称えるために作られたこの戦争記念館となります。
私はこの場所に大きな誇りを持っていました。
「虹森さん、またガイドさんになってるー」
「うふふっ♥可愛いです♥」
ってつい昔の癖が…
「と…とにかく精一杯楽しんでください…!青葉さん…!会長さん…!」
「ええ。もちろん。」
ここは昔「フェアリーズ」のことに興味を持って町にお越しいただいたお客様に私達が案内する有名な観光スポットで町巡りには欠かせない場所なんです。
ここで戦った戦乱の歴史をより生々しく間接ながら体験できてとても有益なところなんです。
それだけではないですよ?
ここは大と森に囲まれてとても自然と親しい場所で中には川まで流れていてカモさんや動物さん達にもよく触れ合うことができます!
うちの町でカモさんはとても縁起が良い吉の存在でそれをモチーフにしたゆるキャラもあります!
名前は「白玉ちゃん」って言ってこの土地の守り神である「白玉姫命」様の名前から取って来たんです!
あ!ストラップやグッズもイベント物販スペースで販売してますしネットでも売ってますからご興味あれば…!
「虹森さん、町の宣伝、熱心だねー」
「うふふっ♥可愛いです♥」
はっ…!
でもここの記念館は他の記念館にはない特別なものがもう一つあります。
他所の記念館だってすごく良かったし勉強することもいっぱいで得るものもいっぱいでしたが
「あら。みもりちゃん、ゆりちゃん。おかえりなさい。」
ここには他の記念館にはいないここだけの特別な案内係さん、
「あ!「緑玉」様!」
「アンドロイド」の「緑玉」がいるんです。
現在現役として運用されている全「アンドロイド」にとって母たる存在であるフロートタイプ「モデル・リボン」。
その中で長女として最も早く実戦運用されたのがこちらのエメラルド様です。
緑色の染まった長い銀髪。
樹木の香りがするようなその溢れる自然さにまるで大自然に包まれたような爽やかで胸が晴れていく気分に浸ってしまう。
豊富な感情がいっぱい込められている透き通った目はたとえそれが人工的に作られた光学レンズであろうと私達とそう変わらない豊かな感情を感じさせてくれる。
体のあっちこっちが欠けていてもその人は子供の頃からずっと見てきた依然とした和やかな表情で私達をずっと見つめていました。
「お久しぶりです。二人共。」
予め連絡を受けて私達のことを待っていたというエメラルド様。
会うのがあまりにも久しぶりでなんだかちょっと感動したかも。
「はい!お元気ですか?すみません…あまり連絡取らなくて…」
「いえいえ。みもりちゃんにとっては大事な高校生活ですしさぞ大忙しのでしょう。」
久々の正装姿もすごくきれいなエメラルド様。
その大人っぽさには子供の頃からずっと憧れてましたよね。
奥ゆかしいっていうかしとやかっていうか…
「ゆりちゃんももうすっかり一人前のレディーですね。もうこんなに大きくなって。」
「うふふっ。離れてから3ヶ月も経ってないのに大げさですよ、エメラルド様。でもありがとうございます。」
誰にも親切で優しくしてくれるエメラルド様のことをゆりちゃんもよく懐いていてほどエメラルド様は私達にとってはすごく親しい方なんです。
でもそんなエメラルド様に今日はどうしても紹介してあげたい人達がいて今日だけは私達のことより彼女達のことを優先して欲しいって思って早速私は青葉さんと会長さんのことをエメラルド様に紹介しました。
「あ!こちらはいつもお世話になっている同じ学校の先輩の「青葉海」さんと「セシリア・プラチナ」生徒会長です!あ、こっちは会長さんの護衛役の「前原薫」さん!
ってわざわざ言わなくても知ってますよね?」
っと私が連れてきた特別な来客のことを心から歓迎してくれるエメラルド様。
エメラルド様はわが町にやってきた世界的なスーパースターの訪問を心から喜んでくれました。
「ええ、だってお二人共、すごく有名な方で私も大ファンなんですから。」
っと青葉さんと会長さんの方に一歩近づいて正式な挨拶を交わすエメラルド様。
「はじめまして。「緑玉」と申します。世界的な大スターとして名高いお二人様にお会いできたことを光栄です。お二人様のご訪問を心より歓迎いたします。」
そんなエメラルド様に青葉さんも身のこなしを慎んで丁寧な自己紹介をしました。
「こちらこそあの大英雄のエメラルド様のお目にかかることができて大変光栄に存じます。
いつも妹さん方にはお世話になりっぱなしでふつつかなものですが何卒よろしくお願いいたします。」
ビジネス感丸出しの初対面。
でも青葉さんのエメラルド様への尊敬の念だけは私にもはっきりと伝わってきたのです。
「大英雄なんて、もう百年も前のことなんですしどちらかというと私はぶち殺すのが主な仕事でしたから。」
っと自分は軽い冗談のつもりであるエメラルド様ですが彼女は本来人間以外の種族の壊滅のために運用された兵器、特に人間の拠点防衛が主な任務でした。
全てのアンドロイドを制御、統制する統合制御システム「オーバーロード」の居場所を変更し、最も彼女に近づくことができる唯一の存在である彼女は「オーバーロード」の防衛を最優先にして威嚇要素を片っ端から排除してきました。
その時、つけられた「緑の悪魔」ってあだ名は他の種族にとって恐怖の象徴となって長い間恐れられました。
でも「大英雄」って呼ばれ始めたのは「神樹様」によって戦争が終わってからです。
エメラルド様は「オーバーロード」の意志を継いで誰よりもこの世界の平和のために働きました。
救世主「光」が身を捧げて顕現させた「神樹様」がもたらした終戦直後の平和は多少不安定でしたからそれを安定させるためには皆の努力が必要でしてそれに誰よりも取り組んでいたのがエメラルド様です。
自ら武器を捨てて人々の平穏な生活のために先頭に立ち、平和の必要性を主張したエメラルド様。
エメラルド様の献身のおかげで私達はより固く結ばれることができたのです。
宗教界に努めている妹さん達とは違って政界で直接活躍したエメラルド様。
あの時の平和に対する真剣な想いは今も揺るぎなくずっと引き継がれています。
「でも私はやっぱり歌で人々を結ばせるお二人さんの方がすごい思いますから。」
っと青葉さんと会長さんに少なからぬ尊敬心を表すエメラルド様。
彼女は力ではなく歌で世界を変えていくお二人さんのことを心から畏敬していました。
「かおるちゃんも本当に久しぶりですね。元気でした?」
「はい。おかげさまで。」
っと今度は会長さんの護衛で来たかおるさんに今までの安否を問うエメラルド様。
そんなエメラルド様にかおるさんは相変わらずのドライな顔を向けましたが
「ふふっ。本当に何年ぶりなんでしょう。相変わらずお変わりないようで安心しました。」
どうやら久しぶりに会ったエメラルドへの嬉しいって気持ちは抑えきれなかったようですね。
「やっぱりお二人共、お知り合いだったんですね。」
「ええ。かおるちゃん、ワンダちゃんのことがすごく好きで軍にいた時はよく遊びに来てくれましたね。」
ゆりちゃんちのお母さん、「緑山ワンダ」さんの軍人時代の後輩らしいというかおるさん。
かおるさんは会長さんのお姉さんで今は「ハイエルフ」の女王様である「ビクトリア」様と一緒にエメラルド様に会ったことがあるそうです。
「かおるちゃん、最近あまり遊びに来てくれなくてちょっと寂しかったんです。除隊して「Judgement」に入ってからはなおさら。」
「まあ、あいつ…じゃなくて女王の傍から離れてはいけないのが私の仕事ですから。」
そんなかおるさんのことを今は会長さんの傍に付き切りにしたのはあのビクトリア様直々の命令であることから考えるとやっぱりよく世間で思われるビクトリア様と会長さんの仲が悪いって話はただのでたらめな噂かも知れませんね。
「お…お姉様はいい人ですよね…!?」
っと自分には知らないビクトリア様のことを会長さんがお二人さんに聞いた時、
「もちろんですよ、セシリアさん。ビクトリアちゃんは清く正しく美しい王に相応しい誇り高きエルフなのです。」
「その通りです、お嬢様。直向きな妹思いで少し厳しいのですがあなたのことを心より愛しています。」
エメラルド様とかおるさんは笑顔でそう答えてくれました。
「立ち話もなんですからお茶でもいかがですか。夕方にはワンダちゃんのところからお迎えに来るはずですからお茶会の後は館内巡りをー…」
「あ、すみません。私とゆりちゃんはちょっと。」
青葉さんと会長さん、かおるさんと一緒に自分の事務室で些細なお茶会を開きたいというエメラルド様のお言葉はすごく嬉しかったんですが
「みもりちゃん…?」
私はゆりちゃんと二人っきりで他にやりことがあったのです。
「どうしたの?虹森さん。」
っと何か用事でもあるのかなっと聞く青葉さんと会長さん達には申し訳ないんですが
「すみません!私達、ちょっと失礼します!」
私はずっとゆりちゃんと一緒にあの場所に行きたいと思っていました。
「み…みもりちゃん…!ちょっと待って…!」
ゆりちゃんの手を握って走り始めた私。
そんな私に連れられながら少し戸惑っているゆりちゃんですが私は一刻も早くあの場所に行きたいともっと足を急がせました。
ここは古い歴史を持った戦争記念館。
そしてここの記念館を建てる時、その立役者として貢献したのが古きからこの地に済んでいたゆりちゃんちの「緑山」家でこの辺りの森や山は全部「緑山」家所有の私有地です。
「も…もしかしてみもりちゃん…私と同じことを考えてたんですか…?」
やっと私の考えを理解してくれたようなゆりちゃんの言葉。
ゆりちゃんもまた私と一緒にあの場所に行ってもう一度確かめたかったのです。
「緑山」家の財力と協力の下で無事に造られた戦争記念館。
そこからそんなに遠くないところの森には確かにありました。
「良かった…まだあったんだ…」
急ぎ足でくぐり抜けた森。
その森を抜け切った時、広がる大きくて清らかな湖があってそこから更に進んだところにある小さなツリーハウス。
かつてゆりちゃんがおじさんが勝手に決めつけたまさるくんとの結婚から逃げ込んだ私達だけの秘密基地。
私はここで私とゆりちゃんだけの古くても大切な思い出探しを続行したかったのです。




