第279話
遅くなって大変申し訳ありません。
先週からの体調不良で体の調子が多少良くないため、不本意ながらしばらく投稿を休むことになりました。
週末までは回復して通常通り行きますのでご了承願います。
熱さが尋常ではありません。
お体には十分お気をつけて健康管理に細心の注意を心がけてください。
いつもありがとうございます!
「まさか一緒に優勝だなんて…」
「まあ、そんなこともあるんだよ。お疲れ様。虹森さん、緑山さん。会長もお疲れ様でした。」
っと爽やかな笑みでお互いの健闘を称える青葉さん。
青葉さんは久しぶりのステージが本当に楽しかったそうです。
町興しの一環として毎年行われる自慢大会。
優勝賞品は商店街や地元の企業、役所から提供される日常生活のための用具や用品で歴代最多優勝者は昔アイドル志望だったうちのお母さん。
地元ではあまりの優勝回数によって「魔王」という大層なあだ名で呼ばれたお母さんはこの大会で優勝することで家計の足しになるものをもらってきました。
バイトもしっかりこなしつつ育児も頑張ってくれたお母さん。
お母さんはいつも私のことを町が育てくれた「町っ子」っと言ってその気持ちを忘れないでっとその感謝の心に刻み込むようにしました。
だから私にとってこの町は、この自慢大会は一段と特別に感じられたのです。
その気持ちにちゃんと恩返しがしたくて始めたロコドルの活動「フェアリーズ」。
でも町内では私達はいつも特別扱いされて今まで一度もこの自慢大会にただの参加者としての資格でエントリーしたことがありませんでした。
参加するのはいつも中盤のスペシャルゲスト。
だからいつかお母さんみたいに自分達の実力で大会に参加してお母さんと同じステージで優勝したいなと思うようになりました。
「でもあの大会でまさか青葉さん、会長さんと一緒に優勝するとは…」
大会は大盛り上がりの大盛況の大成功でした。
「フェアリーズ」のカムバックステージ、青葉さんと会長さんの「Twinkle」の初ライブ、まさるくんと彼女の神宮寺さん達のバンド演奏や参加者達の演技まで楽しめる公演がいっぱいで本当に楽しかったのです。
最後の優勝発表の時、審査委員の満場一致で
「優勝は「フェアリーズ」、そして「Twinkle」の共同優勝!おめでとう!」
私とゆりちゃん、そして青葉さんと会長さんの優勝が同時に決まった時はもうびっくりしちゃって。
まあ、実際青葉さんと会長さんの歌は本当にすごかったし私達だって久しぶりのステージ、一生懸命歌ってましたから結果はそれなりに納得していますが。
「地元民と言っても審査には厳正なのね。全く贔屓していないところが逆にすごかったよ。」
「そ…そうですね…」
っと青葉さんは審査委員達の審査に対する厳正さに内心感心しているようですが
「でも審査委員にうちのお母さんがある限りそんなことは絶対ありませんから。」
まさかその審査委員に家にいるはずのお母さんが審査委員として現れるなんて…
「ふんすっ!」
なんかすごくドヤってましたし…
「嬉しかったんでしょう。私達のことも、青葉さんと会長のことも。」
「そ…そうかな…」
確かにゆりちゃんの言う通りかも知れません。
お母さん、青葉さんのことも、会長さんのこともすごく好きだし。
何より私とゆりちゃんのことをすごく大切にしてくれるんですもの。
だから私達がまた歌えるようになったことが嬉しくてたまらなかったと思います。
まあ…
「かわいい!かわいいよ!うみちゃん!」
娘として母のそういうオタクぶりはどうかと思いますが…
「クッソ…タイミング、悪すぎんだろう…」
優勝できなかったことにすごく悔しがるまさるくん。
「まあまあ、楽しかったからいいじゃん。優勝、おめでとう。虹森さん。」
そんなまさるくんを一生懸命慰める彼女の神宮寺さんでしたが彼女との初参加のイベントでなんとしても優勝したかったというまさるくんは
「次は絶対勝つ…」
静かに次のリベンジを決意したのです。
「まさるくん、ギター上手だったね。」
「はい。そこそこ良かったです。」
っとまさるくんの健闘を割と素直に称えるゆりちゃん。
見ないうちに随分男前になったまさるくんのことをゆりちゃんは改めて見直したと言った時は一瞬ガーンとしましたが
「でもみもりちゃんの方がずっとかっこいいですから。」
ゆりちゃんはいつだって私のことを自分の第一にしてくれたのです。
青葉さんと会長さんの方は…まあ、あえて言う必要もないほど大人気でした。
「サ…サインください…!」
「退きなさい…!私が先よ…!」
「押すなって…!」
ステージから下りた青葉さんと会長さんに会うために皆が殺到したせいで客席はもう阿鼻叫喚の地獄を思い出させるほどめっちゃくちゃだったんです。
そのせいで会長さんがびっくりしちゃって一時危うい状況にも遭いましたが
「皆さん、危ないですから順番に並んでくださいね。」
「こちらにお並びください。」
こういう状況にすっかり慣れている青葉さんと会長さんの護衛役のかおるさんのおかげで皆無事に青葉さんと触れ合うことができました。
特に神界に近いこの町での会長さんの人気が超すごくて…
「え…?私達だってアイドルなんですけど…?」
って思われちゃうくらいで…
でも皆も会長さんの状態のことを知っていてそれ以上むやみに近づいたり話を掛けたりはしませんでした。
「応援してます!セシリア様!」
「頑張ってください!」
っとただ心を込めてありのままの応援の言葉を伝えるだけの皆に会長さんは
「あ…ありがとうございます…」
小さな声で今の自分にできる精一杯の返事をしたのです。
「私、優勝賞品で牛肉もらうの、久しぶり。地元の祭って感じでいいよね、こういうの。」
「私は初めてでとても楽しいです…!」
っと優勝賞品の高級牛肉にそれぞれの感想を述べる青葉さんと会長さん。
商店街で用意してくれた大事な商品に喜んでくれて何よりです。
後で知りましたがお母さんが私達にこの大会のことを言わなかったのはただうっかりしたわけではなく前から考えていた計画らしいです。
「だってみもりがまたゆりちゃんと喧嘩なんてしちゃうから。だから何かのイベントで仲直りさせちゃおうって的な?」
っとどうしても仲直りさせたかったというお母さんの素直な親心には頭が上がりませんが
「でもまさかうみちゃんとセシリア様を連れてくるとはお母さん、全然思わなかったわー
みもりのおかげでいいもの見れたし。」
さすがにここは怒るところなんですよね?
色々ありましたがそれでもとても楽しかった商店街のイベント。得るものもいっぱいありましたし何より
「思い出したんです。あの頃の気持ちも、自分がどんな想いであなたのことを見守っていたのか、その時の自分が何を思っていたのか全部。」
ゆりちゃんが記憶を取り戻してくれたことが一番嬉しかったんです。
二人で一緒に歌った大切な曲。
その歌で私達のキラキラ輝いてた思い出を取り戻したゆりちゃんは私の手をギュッと握って
「もうあなたの傍から離れません。二度とあなたを悲しませたりはしませんから。」
っと二度と私に悲しい思いをさせないと約束してくれました。
それが嬉しくて嬉しくて泣きそうになった私はそのままゆりちゃんに抱かれて授賞式の前にもかかわらず思いっきり泣いてしまいました。
おかげさまで
「え?みもりちゃん、お目々、赤くねぇ?」
ウサギさんみたいに目が真っ赤になってちょっと恥ずかしい思いをしちゃったのです…
私にとってはゆりちゃんのことが一番でしたが確かにこのイベントで手に入れるものはもっといっぱいあったと思います。
一日限定ということにも関わらず桁違いの輝きを見せつけた青葉さんと会長さんの新生ユニット「Twinkle」の初ライブ、初めて見た青葉さんの本気と会長さんの気持ち、そして時間を越えた「フェアリーズ」の返り咲きライブ。
今日、この町はきっと今までなかった新たな奇跡を身を持って体験できたと思います。
このことはこれからも人々に伝われてどんどん広がっていくと私はそう信じています。
優勝もしちゃったしこれ以上申し分ないですね。
「さて、これからどうしようか?」
「そうですね。」
ステージのほとぼりがまだ冷めないうちにもっと楽しい思い出を作りたいという青葉さん。
そんな青葉さんと会長さんには最高の思い出を作ってあげなきゃですね!
「でもぶっちゃけに言ってここって普通なニュータウンでねずみランドみたいなアトラクションはありませんから。屋上遊園地ならありますが。」
「そんなに気にしないで。私と会長はあくまで休養が目的だからのんびりした方がリラックスできると思うから。
会長はどうですか?」
「私も大丈夫です…!遊園地は一度行ってみたかったんですが…!」
行きたかったんだ…
でも今の会長さんの精神は子供の時だから…そうか…この頃の会長さんは遊園地に行ったことがないんだ…
そう思われた時、私は少し憂鬱になってしまいましたが
「そうですか。じゃあ、学校に戻ったら一緒に行ってみましょうか。」
青葉さんは自然と会長さんと次の予定を約束しました。
青葉さんならきっと気づいていたんでしょう。
会長さんには子供になら普通にあるはずの当たり前のような思い出も一つもなかったということ。
もしかすると会長さんには私達には知らない、もっと重くて深い事情があるかも知れないとその時の私は薄く感じました。
でも会長さんはそんなことなんて全く関係なさそうなひたすらの無邪気な笑顔で
「はい!」
青葉さんから誘いを喜ぶだけでした。
もうすっかり会長さんの次の保護者になった青葉さん。
いつもは会長さんが青葉さんのお世話しているって感じでしたけどたまにはこういうのもありかも。
「みらいも一緒に行ってもいいですか?」
「先輩…ですか。」
でもさすがの青葉さんでも唯一の弱点である先輩の話には動じることしかできませんでした。
会長さんには悟られないほどの一瞬のためらい。
でも瞬時に顔色を正した青葉さんは
「ええ。先輩も誘って一緒に行きましょうね。」
自ら幼い会長さんの最高の思い出を自分で作ってあげることを約束しました。
「なら最初に記念館の方はいかがですか?みもりちゃん。」
その時、自分に向けたゆりちゃんからの一つの提案。
「町の観光としては少し地味なところもありますがこの当たりでは一番有名な場所ですからきっと気に入ると思います。」
その提案にただ純粋にこの町のことを青葉さんと会長さんに紹介したいという気持ちも当然存在していましたが
「それに私、あそこでみもりちゃんとどうしても一緒に行きたいところがあります。」
どうやらゆりちゃんは自分の記憶探しを私と一緒に続行したいと思っているようです。




