第278話
いつもありがとうございます!
「今日は楽しかったですねー」
帰りの車の中、今日の親睦会のことを心ゆくまで堪能したように満足に満ちた表情をしている先輩。
自分が用意したパーティーというわけではないがここまで満足してくれたらさすがに嬉しい。
私はひっそりとあい先輩に感謝の気持ちを抱くようになった。
「ことりちゃんはどうでしたか?楽しかったんですか?」
っと私にも今日の感想を聞く先輩。
「はい。とても。」
私はそんな先輩にありのままの感想を聞かせるだけであった。
車の窓から見える夕暮れ。
日はもうあんなに傾いているがこの胸にはこんなにも充実な決意だけがいっぱい詰まっていて名残惜しいという気持ちにはなれない。
私は今変わり始めた状況にこんなにもワクワクしていた。
「そうですか。良かったですね~」
そんな私を見て満面の笑顔で満足する先輩。
いつもニコニコして見ているだけで心がポカポカにする気楽で不思議な人。
でも…
「実は私、未来から来た「未来人」なんです。」
やはり私は先輩の先の言葉が忘れらなかった。
あい先輩の話が終わった後、先輩は
「私と友達になってください、速水さん。」
自ら手を差し伸べてあい先輩と友達になった。
誰とも仲良くできるお得意の性格。誰とも心を打ち解け会える頼りになる人。
うみっこ以外はいつも上辺だけの仮初めの交友関係しか築けなかった私とは大違いの先輩は既にあい先輩の心にも入り込んでいた。
でもそんな性格を持っても皆は先輩のことを煙たがっていた。
特待生だとかうみっこや会長みたいな人達に好かれているからではなく何か本能的な部分で周りの皆は先輩のことを遠ざけていた。
そしてその理由が先輩の素性に関わるものであることを私は先の話で知るようになってしまった。
「詳しい事情は話せませんが私は遠い未来から来たここでの人ではないということだけははっきりと言えます。」
一点の偽りもない真っ直ぐで真剣だった先輩ともしかしたら私達は今、この時代において一番のとてつもない秘密の一つに触れているかも知れないという考えに伴った衝撃に
「ええ…!?ちょっ…ちょっと待ってよ…!桃坂さん…!」
さすがに戸惑いを抱えて慌て始めたあい先輩。
あい先輩はまず先輩のそのような真顔が一番調子狂うって先輩を阻止したが
「大丈夫です!速水さん!マミーは皆の味方ですから!」
逆に更なる勢いで迫ってくる先輩を食い止めるのは無理だったそうだ。
きっと色々聞きたいことがいっぱいあったんだろう。私だってそう。
先輩が本当に未来から来たかそれとも単なるファンタジーマニアで自分のことをそんな風に設定したかったかは重要じゃない。
先輩はいつだって真面目な人で何より真剣にうみっこのことや今までの話をしているあい先輩のことをバカにする人ではないから私達はいつの間にか先輩のことを「未来人」と考えるようになっていた。
でも本題に入る前に先輩はまず自分にはこの時代に害を与える悪意はないということを明かした。
「私がここに来たのは大変になった未来の残酷な結末を防ぐため。私は速水さんも、うみちゃんも、ことりちゃんや皆が大好きだからこの世界を守りたいです。」
私は子供の時、お姉ちゃんから自ら自分のことをいい人って言う人は特に気をつけなさいと教わった。
でもあの時の先輩のその話を間近のあい先輩も、隠れて盗み聞きしていた私も信じざるを得なかったのは確かな事実であった。
なんとなくそんな気がしたということしか言うようがない。ただそう感じただけ。
何より
「先輩…私のことを大好きって言ってくれるんだ…」
先輩がそう言ってくれたのが嬉しすぎてそのことを嘘にはしたくなかった。
ん…私って思ったよりちょろいなのかな…
「私はいわゆる「要員」です。まあ、末端に過ぎないしょうもない底辺のものなんですが…」
っと先輩は決して自分はあい先輩やうみっこのような大した人物ではないと言ったが私は先輩のその話から既に気づいていたことがあった。
その底辺の先輩が原因となってうみっこがああいう選択をした。それだけは否めない事実。今までのあい先輩の話がその証拠である。
仮に先輩が本物の未来人としてもし先輩がこの時代に来なかったら今のような状況にはならなかったかも知れない。
でも同時にこう思ってしまう。
もし先輩がいなかったら…っと。
「考えたくもないよ…そんなの…」
そう呟いた私は今この世界に先輩がいてくれて良かったと心から思った。
「でもどうしてそんな大事なことを私に言ってくれるの…?それ、絶対誰にも話さなかったことだよね…?」
何故大好きなうみっこや会長ではなく自分に話すのかを聞くあい先輩。
どうやらあい先輩はこんなとてつもない秘密、言いふらしていいものではないということまでとっくに察していたようだ。
そんなあい先輩の予想は大体的中したが
「誰にもってわけではないでしょうかね。実はたった一人にだけ明かしたことがあります。
まあ、そのせいでもうセシリアちゃんにもとっくに知られていると思いますが。」
あいにく先輩にはあい先輩には知らないうみっこや会長ぐらいの大切な人がもう一人存在していたようだ。
それが自分ではないということは…まあ…正直に言ってあまりいい気分ではないけど…
でもやっぱり認めるしかないと私はそうやって自分をなだめる。
それはそうとまさか先輩が自分のトップシークレットをあい先輩にあっさりと打ち明けるとは。
あい先輩の人となりを疑っているわけではないが先輩はやや用心さに欠けるところがあると思われる。
実際あい先輩もそう考えていると思われるし。
でも先輩はそのようなことを全く気にしていないようにただ自分の意思を貫いた。
「速水さんは勇気を出して私に本当のことを言ってくれました。私も同じくちょっとだけ勇気を出しただけです。」
っとあい先輩の手をギュッと握って自分の大きな胸の方へ持ち寄せる先輩。
先輩は自分もあい先輩や私のような普通な人であることをあい先輩に知ってもらいたいと思っていた。
「これが私です。速水さんと同じただの人なんです。」
「桃坂さん…」
驚いた顔。
自分の手先から脈動している命の熱さにあい先輩は震えているように見えたが
「…正直に言って胸が大きすぎて分かりにくいわね…」
「ええ…!?」
ただ先輩のバカでかいおっぱいに驚きを禁じえないだけであった。
「大きいっていうのは知ってたけど直で見ると本当に私と同じ人なのかしらって思われちゃうわ…」
「ひ…人ですよ…!ちゃんとした…!」
思いっきり訴える先輩。
でもあの大きさはもはや人ではない何か別の生き物のものであることを私達は皆知っていた。
「じゃあ、速水さんが自ら確かめてください!」
「確かめるって一体…ってええ!?」
何をどうやって確かめるっていうのっと聞く前にあい先輩の前で思い切り胸を開ける先輩!
い…一体何を…!?
「私と速水さんはもうお友達ですから!だからマミーにいっぱい甘えてもいいです!」
なんという堂々とした顔…!
思いっきり入った先輩の心の中にある「マミースイッチ」!
先輩の「マミーモード」はあの「幽霊少佐」と呼ばれるあのあい先輩を相手にもブレることなく全力全開で走り始めた!
「大丈夫です!子供の世話をしてあげるのはマミーの役目ですからこれっぽっちも恥ずかしいとは思いません!さあ!」
「わ…私…!別に桃坂さんの子供じゃないんですけど…!?」
すごい勢いでグイグイと迫ってくる先輩にありったけの困りさを示すあい先輩…!
今まであんな風に接してきた人がなかった故、どう対処したらいいのか相当困惑していたあい先輩だった。
「怖くないでちゅよ♥いい子いい子してあげまちゅから♥」
っと戸惑っているあい先輩に向けて大きく腕を開けて先輩…!
ついに始まった先輩のなだめる作戦…!あの赤ちゃん扱い、結構やばいよ、絶対…!
「ダ…ダメですよ…!あい先輩…!あれ、まともに食らったら…!」
でも決して私の叫びはピンチに瀕しているあい先輩には届かない。
私はあくまであの場面を見てきた小鳥さん達から話を聞き伝えているだけで自分がその場にいたわけではないから何のアドバイスもできない。
っというかこの小鳥さん、話し上手すぎ…!
「ママ…♥ミルク、頂戴…♥」
言わんこっちゃない…!!
何しれっと先輩の胸に飛び込んでくっついているんですか…!?あい先輩…!?
「速水さん♥本当に素直で可愛いですね♥お肌もこんなに真っ白で柔らかくて♥」
そして先輩は何自然と授乳しているんですか…!?もう…!
私が現場に到着した時、
「どうでちゅか♥マミーのお乳、おいちいでしゅか♥」
「うん…♥美味しい…♥」
そこには先輩のあのでっかい生乳にがっついて一生懸命吸い込んでいるあい先輩と
「そうでちゅか♥いっぱい飲みましょうね♥」
思いっきりスイッチが入っている先輩が新しい扉を繰り広げようとしていた。
って先輩の乳輪、でっか!
「ママの乳…♥大好き…♥」
木の後に私が隠れていることにも気づかないほど無防備状態となって先輩のおっぱいに夢中になっているあい先輩。
あの桜色のきれいな唇を先輩の乳首に当てて一生懸命吸い続けているあい先輩はこう…なんというか…
…結局なんと言えばいいのか最後まで思いつかなかったがとにかくすごく珍しい光景だった…
…っというかあい先輩、先輩に甘えるの、今日が始めなのにもうあんなに気に入っちゃったんだね…
「うふふっ♥もっと甘えてもいいですからね♥」
そんなあい先輩のことをそっと自分の中に抱え込む先輩。
でもその時の私はその二人のことを決していやらしいとかだらしないとかそういう乱れた感じには受け取れなかった。
「ママ…」
自分を抱きかかえている先輩の中に更に潜り込むあい先輩。
ただひたすら純粋に誰かの温もりと安堵感を得るためと思われるあの時のあい先輩のそのような行動は何故か本当の赤ん坊のように私にはそう見えていた。
凛々しくて堂々とした我々の憧れ。女の子なら誰でも思い描く理想のお姫様。
私達、神界の女の子達にとってあい先輩はそのような人だった。
強くて正しくて誰にも優しい世界一の少女。
透き通った「ムーンライトシルバー」の髪の毛がとてもきれいで神界を代表していつでも先頭に立って私達を導いてくれたたった一人の「聖女」。
でもあのあい先輩ですら弱くなる時が、人に頼りたりと思う時があるということを先輩が全部見抜いていた。
「ずっと一人で抱え込んで頑張りましたね。大丈夫です。速水さんはもう一人ではないですから。」
なだめる手。
まるで心の痛みも慰めているようなその温かい手にあい先輩はすっかり心を先輩に委ねてしまった。
「ありがとうございます、速水さん。でももう一人で全部背負わなくてもいいです。私達が傍にいますから。私が、すみれちゃんが、ことりちゃんや皆がいますから。
だからもう一人で全部解決しようとなんてしなくてもいいです。」
先輩はただ今まで一人で頑張ってきたあい先輩を慰め、労って、休ませたかった。
いつも自分に対して厳しく振る舞いながら取り締まり続けているあい先輩のことを先輩はずっと気にかけていた。
人目の付かない陰からたった一人でどれだけ苦しんで悩んで泣いていたのか。
その感情の重さはきっと私なんかには到底計り知れないものだろう。
それを知っているからこそ先輩は今度は自分も一緒にあい先輩の肩の荷を担おうとした。
その同時にあい先輩の負担が減るように今まで抱え込んでいた苦しみを全部自分に打ち明けて欲しいと思っていたとあの時、先輩の目を見て私はそう確信した。
愛に満ちた愛おしくて温かいそのきれいな目を…
その後、私は静かにその場から離れた。
決して人に弱みを見せないあい先輩がせっかく先輩にありったけの自分を打ち明けているんだからそれ以上の邪魔は道義に反することだと思った私はそのままクリスちゃん達の元へ戻った。
だからそれからのことはよく分からない。
ただ確かなのは
「泣いてもいいです。大丈夫です。ほら、マミーとギュッとしましょう。」
あい先輩は先輩に抱かれたまましばらく泣いていたということ。
それを見た時、私は今日のことは自分の心だけにしまっておこうとした。
その後、親睦会は無事に閉会を迎えられた。
皆でいっぱい食べていっぱい遊んだ。
「私!赤座さんの大ファンなんです!デビューした頃からずっと!サインとかよろしいですか!?」
「ありがとう。ことりで良ければもちろんだよ。」
って感じで皆となかなか打ち解けるようになって自分でも得るものいっぱいの充実な一日であった。
「じゃあ、また会おうね。クリスちゃん、まつりちゃん。」
「はい!」
可愛い後輩ちゃんともお友達になれて何より
「今日は来てくれて本当にありがとう。ことりちゃん。これからも顔だけでもいいからたまに会ってくれない?」
自分があい先輩に嫌われているのではないということが分かって本当に良かったと思った。
洋館の入り口で帰りの車に乗る私と先輩を見送ってくれたあい先輩。
灰島さんと手を取り合っているあい先輩は夕暮れの紅に照らされて更に美して見えていた。
「はい。あい先輩でさえ良ければいつでも。」
っと別れの挨拶を交わした後、私は次に会うことを約束して灰島さんの大きな屋敷から足を運んだ。
「今日は楽しんで頂きましたか。」
「はい。とても。」
私と先輩を家まで運転して送ってくれるのは今日ここに来る時と同じ「灰島」に勤めている「野田」さん。
野田さんは今日のパーティーを感想を私達に聞いた。
「ははは。それは何よりです。すみれ様、すごく張り切っていらっしゃいましたから。」
「そうだったんですね。」
すっかり楽しんで頂いたという私達の返事に豪快な笑い声を立てる野田さん。
彼は何か困りそうなことがあったら遠慮なく言ってくださいと言った後、それから家に着くまで私達と色々話し合った。
「今日の夕食はどうしましょうか?ことりちゃん。」
そろそろ先輩の家が近くなった頃、今日の晩ごはんについて聞く先輩。
でも残念ながら私のお腹の容量は既に限界値であった。
「あんなに食べといてまた食べるんですか?ことりは明日の朝食もいらないくらいですよ?」
「ええ…!?それじゃ、まるで私が食いしん坊みたいじゃないですか…!」
めっちゃショック受けてる…まあ、実際先輩ってよく食べるし。
でもその時、私はこう思った。
「もし本当に先輩が未来人と言ったらいつか私の傍からいなくなるのかな…」
っと。
そう思ったら急に胸が寂しくなって涙が出そうに鼻筋がツーンとしたが
「ことり、やっぱり先輩の手料理がいいな。」
私はあえてその寂しさを目一杯抑え込んでいつものように振る舞うことにした。
先輩がいなくなるのはいや。いつまでもとは無理でもできるだけずっと私の傍にいて欲しい。
もし本当の本当に先輩がいなくなるのなら今の自分にできることは何か。
そう思った私がたどり着いた結論は
「ならせめて私とのこの時間を思い出として大切にしてもらおう。」
いつでも思い出せる楽しかった時間として覚えさせること。
私は先輩に私のことをずっと覚えて欲しくて今の先輩との時間をただ純粋に楽しむことにした。
何の変哲もない普通な毎日。その中から見つけられる大切な思い出。
私はただ私が感じているこの気持ちを先輩にもずっと一緒に感じてもらいたかった。
「分かりました。今日もマミーが腕を振るってみせますね。」
っと私の額にキスをしてくれる先輩のことが私は大好きであった。
私に自分の秘密を言ってくれなかったのか、うみっこや会長の次とか関係ない。
私は私のことを大切にしてくれる先輩のことをただただ愛しているだけであった。




