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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第5章「夢と茸」
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第275話

いつもありがとうございます!

「はじめまして。「欠片」。」


その一言で私は選択しなければならなかった。


「殺すか。」


もしくは彼女に交渉を掛けて今回の件について目をつぶってもらうのか、それともこちらに引き込むのか。


いつ、どこから私の存在に気づいていたのか聞く考えすらできないほど私は動揺していた。

既に自分の存在が他のものに嗅ぎつけられているのは分かっていた。会長にすらバレていた。

だがまさかこんな大物が自ら接続してくるとは思わなかったのが事実。

情けないがこれは間違いなく自分の落ち度が招いてしまったことだった。


「なんとかしなきゃ…」


っと思った私は先を越される前に向こうの部屋のこの女を始末することにしたが


「おっぱじめるのは勝手だが止めておけ。私は君と戦うためにここに来たわけではない。」


薄い木材の壁越しで彼女はまるで私が今何を考えているのか何もかも知っているような口調で私の次の行動を阻止した。


お互いの顔は見えないがこの向こうにはかつて「開闢」と呼ばれる百年前の大英雄の神様が座っている。

その狭い懺悔室で私ともう一人の神様はそうやって薄い壁を一つを間にして向き合っていた。


「それに私がたった一人で得体も知れない存在の前に現れると思うのか。」


連れがあるのか…よほど用心深い性格だな、この女…

さすが「開闢」と呼ばれた史上最強の「神族」の神様だ…全く抜かりがないとつくづく思う…


「私の妹、「夜咲(よざき)仁穂(にほ)」が学長に就任する前まで世界政府の情報局の局長だったのは知っているだろう。妹は君達「欠片」に大分興味があってな。

こうしなければ君とはまともな会話ができないと思ったからどうかこの無礼を許してくれ。」

「それってシスターもグルってことなんだよね…?

っというかあなた達にはもう「欠片」との接続を経験したことがあるということ…?」


っと聞く私に


「ああ。ある。もう百年も前でな。」


遠い昔のことを思い出す神様。

この星には既に私以外の「欠片」が百年以上の遠い昔にも存在していたようだ。


「私達が会ったのは憔悴な老人の「欠片」だった。しょぼくれて萎えてどこかとても疲れたような顔の男性の年寄。

彼は自分のことを「ハスター」と名乗った。」

「ハスター…」


私達にしたら百年なんて決して長い時間ではない。瞬きの瞬間さえ何百年、何千年、何万年がそのまま通り過ぎてしまう。

だが人間の形になってからはどうもその時の時間感覚がしっくり来なくなった。

毎日がゆっくり過ぎて暇でどうしようもなく退屈だった。

たまにこうやってゆっくり流れてゆく世界もいいなと思うことがあってこのままこの身の寿命を待つのも悪くないかも知れないと独り言で呟いた。


だがこの体はまもなく廃れて消えてしまう。人の言葉で言うと「死」という状態に入る。

私には時間ののんびりさを楽しむ時間も、死を待つ時間も与えられていなかった。


「ハスター」。見覚えのない名前。「欠片」は大概他の「欠片」との関係は持たない。

全ての「欠片」は一人残らず「超越体(オーバーマインド)」に支配に置かれて彼との精神回路だけを通して意思疎通を図っている。

今から「超越体」に彼のことを聞いても決して彼のことは教えてくれないだろう。

だが私がこの星に来る前に既に自分以外の「欠片」が存在したということは大きな発見に間違いない。


「君達「欠片」のことも、その親玉の「超越体」のことも全部彼から聞かせてもらった。」


思ったより深いところまで潜り込んでいる彼女のことに正直に驚かされた。

会長みたいな人の頭の中を覗ける能力も持てないのにここまで調べられたのは。

大したものだなと褒めてあげたいところだが今はそういうところじゃなさそうだから今度にしておこう。


「ハスターは自分のことを「監視者(センチネル)」と言った。同じ「欠片」とはいえそれぞれの役割分担はあるようで実に興味深い。」


「超越体」から分離された私達「欠片」には各自異なる任務が課せられる。

「監視者」は同じ「欠片」の中でもかなり「超越体」の側近と言える存在で私とは比にならないほどの重役。

理事長達はそのような大物と接続した経験があった。


「私が生まれた時はもうこの星は「神樹様」によって救われていた。彼の任務はその経過の報告らしい。

ハスターは救世主「光」の登場からその救援の神話を全て自分の目で確かめた当時の唯一の人物だった。彼は救世主「光」の姿をこう言ってくれた。

実に美しくて温かい女性だったっと。」


この時代で「神樹様」になる前の救世主「光」の姿を知っている人は誰もいない。

当時写真の技術は確かに存在していたが何故か彼女の姿は写真に写らず、それに関わる記録も一切存在しない。

ただ自ら3つの世界を紡ぐ「神樹様」になってこの世界を救ったという確実な証拠だけが残っている。

それだけでこの世界の人々は彼女のことを崇め、敬っていた。


「私達は彼の存在に実に興味があったが残念ながら彼の寿命は残りわずか。仲良くなる時間はあまりなかったがそれでも彼は割りと私達に友好的だった。

いつも山奥にこもっていてたまに行く温泉が好きでよくタバコを買ってくれっと頼んだちょうど今時みたいな年寄みたいな男だった。」


出会ってからちょうど1年に経った時、彼は理事長達にちょっとしたお土産をおいてそのまま消えてしまった。

実に客観的で実に合理的な、だが最後には感情的になって自分の命を早めてしまった彼のことに理事長は今も感謝していると言った。


「事情を話せば長くなるがここで言いたいのは私は決して君達「欠片」と戦いたくない。今この教会には私と妹以外にも知り合いのツワモノを何人か呼びつけているがそれはあくまで最悪の状況を防ぐためで決して君に危害を加えるつもりではない。」

「知り合いっていうならあの「紫村(しむら)(さき)」と「鬼丸(おにまる)」なんだね?結構準備万全じゃん。」


Scum(美化部)」の部長、「ロシアンルーレット」の「ゾンビ」「紫村(しむら)(さき)」、そしてかつて「伏魔殿(パンデモニウム)」と呼ばれた「影」の絶対王者「鬼」の「剣鬼」「鬼丸(おにまる)」。

私にはまだ本名すら知らないがあいつは確か理事長との知り合い。

まさかこの死にかけた宇宙人なんかを牽制するために百年前の大英雄さん達が揃うとは。


「マジ光栄じゃん☆」

「おかげさまで久しぶりに全員が集まった。礼を言う。」


変な女。

非常事態ということをよく知っている上でよくもここまで口が聞くものだ。


「ハスターは消える前にこう言った。「超越体」の目的は惑星から生まれるエネルギー源で宇宙の寿命を伸ばし、進化させることだと。

そしてそのエネルギーは自然現象から生まれるマナ以外にも星そのものに蓄積された歴史、例えば事件なんかに伴われる人の感情エネルギーなどでも得られるものでこの星は実に高いポテンシャルを秘めていると。

それはつまりこの星はいつでも狙われる可能性があるということだと我々はそう判断した。」


事情は大体分かった。

あのハスターというやらの「欠片」との接続で我々の存在にガン付けられた理事長達。

だが以外に理事長達より先に気づいたのて取り付いていたのは


「だが私達がこの件に取り掛かることができたのは全部セシリアのおかげだ。」


先日私が記憶をふっとばしてしまった会長の方だった。


「あの子は君のことを本当に信じていた。同じグループの「Fantasia」のメンバーとしてな。」

「会長が?」


なんだかすごく誇ろしいようなそれとも気にかかりそうな複雑な声。

理事長は本当はこういう仕事に自分の生徒が関わりを持つことが最初から気が進まなかったと正直に話してくれた。


「セシリア本人は私に教えを受けたことはないがあの子の姉も、親も私が保安局に入るまで皆私の生徒だった。直接教えたことはないがセシリアのことなら生まれる瞬間から全部見届けていて私個人ではそれに準じる愛着がある。」


あの小さくて人見知りのお姫様がよくここまで立派に成長できたものだと内心感心する理事長。

顔は見えないがどんな微笑みを浮かべているのか十分想像がつくものだ。


「子供がいたのならきっとこういう気持ちなんだろう。」

「子供…欲しいの?」


女なら極普通に持つ絶対的な愛。

ひたすら盲目的でただ温かくて誰よりも強くて優しいその愛を私達は「母性」と称え、崇めている。

生まれた子に感謝し、祝福して何かの見返りも求めるわけでもないただひたすらその子の存在だけを見つめる真理の形を私もまたかつてこの小さな胸に秘めたことがある。


この手からすり抜けてしまう数多な命。

いくら掴もうともがいてあがいても結局何もかも全部虚しく溢れてしまう。

そこで自分が選べるのは自分の心を殺す道しかなかったが結局生き物に対する慈しみの心だけはどうしても消すことができない私の本能だった。


その当たり前の本能を理事長は当たり前のように自分の理想に表していた。


「ああ。今はこんな死に損ないになってしまったが私は妹と違って本来若死になる予定だったからな。だから結婚もできなくて当然子供も持てなかったがやはりそういう生き方に憧れていたというのは否めない事実だ。」


っと割りと淡々とした口調で本来自分に与えられる予定だった不可侵の概念である「死」を語る理事長。

彼女は自分の死について微塵の恐怖も抱いてないように至って自然で悠々そうに見えた。


「選ばれる「神族」は血縁で受け継がれる「魔神族」や勝ち取る「酒呑童子」とは違って早世になる。「魔神族」とは違って生まれてから「神族」になれるものは誰もいない。

それはアイレーンからも聞いたんだろう?」

「…やっぱり知ってたね…私と彼女との関係…」


どこまで優秀な妹なんだろうと思う瞬間。

理事長は既に私とあの小さな「黄金の神(ゴールデンカムイ)」との共闘関係まで把握済みだったが


「まあ、あいつならありえるな。」


彼女は決して自分の子孫を責めることなく、ただ静かに納得しているだけであった。


「アイレーンは自分の神界の神として役目を果たしているだけだ。責めるには及ばぬ。

むしろ神界から見れば私なんかよりずっと立派な神様だ。

だが直にあいつにも分かるんだろう。どちらかに偏った世界なんて民を悲しませるだけであることを。」


まるで私に話しているような口調。

私はとても彼女の教えに同意の念を抱くことができなかったが皆が悲しむ世界は少し嫌だなと思うようになってしまった。


「セシリアは決して君に悪気はないと言った。だから誰にも話さず自分一人で解決しようとしたが君に返り討ちされてああいう状態になってしまった。」


会長の記憶喪失。

それは確かに私の能力による会長の「心理支配(メンタルドミネーター)」の暴走にもたらされたもの。

今更それに良心の呵責に苛まされる気はない。

でもやっぱり会長が会長なりで自分に気を使ってくれたことには普通に心が痛い。


「この計画について知っているのは今ここに集まった私達と女王、そしてこの星の知性の集大成と呼ばれる「オーバーロード」だけ。本来あの子の身辺に何か起きた場合、自動的に私達が君を制圧する筋立てとなっていた。

ああ見えても筋金入りの妹思いでだからな、うちの若き女王様は。」

「「ビクトリア・プラチナ」…」


最後まで今回の星の救済計画に加えることができなかった「プラチナ皇室」の「ハイエルフ」達。

彼女達には明らかな世界との共存の意思があって決して誰かを支配できる種族にはなれないと私もそう判断したがまさかそのトップのビクトリアまでこの計画について知っていたとは。

一体どこからボロが出ていたか…


「セシリアがああいう状態になってから女王は怒り狂いになって即直属親衛隊の「Judgement」を招集、君への暗殺を命令した。」

「…ひどいシスコン…」


世間ではあまり「プラチナ皇室」の姉妹達は仲が良くないと思われているが実際は大分違う。

第1皇女のビクトリアは妹達とは違って純粋なハイエルフの血統だが腹違いの妹達が大切すぎて仕方がない筋金入りのシスコンだとエルフ達の間ではよく知られている。

実際私はその妹達の一人と知り合いでこれは彼女から直々教えてくれたことだから何よりも確実な情報である。

詳しい事情まで知らないがなんでも変装までして妹のライブには欠かさず見に行くという噂も…


でも最後には実行されなかった私への暗殺作戦。

そのことの内幕には会長からの私への信頼が作用していた。


「ーがこの間、セシリアの記憶を取り戻すための検査の途中、セシリアがそれを望まないということが判明できた。

だからこうやって君と話し合うため、私が君の前に現れた。」

「会長が望まない…?」


緑山にやった措置とは違って会長の記憶は明らかに能力の暴走によるもの。

いつの時代も「精神系」の能力は人の精神に干渉する強力な力だがそれは同時に使用者本人にも大きな負担がかかる諸刃の剣。

いつも副作用という刃先が自分にも向けられていて最悪の場合、使用者は全記憶を失われる可能性もある。

会長の状況こそまさにそういう絶望的な最悪と言えるものだったが


「あの子はああいう状況になってもなお、君のことを信じている。」


それでも会長は私に対してこれっぽっちの恨みも持っていなかった。


その時、私は初めて感じる不思議な感覚に少し戸惑っていた。

今までこれほど他人から信用されたことが一度もなかったため、そういう気持ちにはどう反応すればいいのか私にはよく分からなかった。

親たる「超越体」にも、自分が慈しんだ人類にもいつも求められたのはいつだって自分達を満たして欲しいという盲目的な欲だけで誰も私の心を満たしてくれなかった。

何より自分の話に耳を傾けてくれた人は一切存在しなかった。


なのに会長はああいう最悪の状況になっても未だに私のことを信じてくれて


「私は死に損ないの神の以前に教師だ。自分の生徒が悩んでいるのならその悩みに一緒に頭を抱えて悩んであげなければならない。」


っと向こうの部屋から出て


「少し歩かないか。」


私がいる部屋のドアを開けて私に向けて手を差し出す理事長は


「君の話を私に聞かせてくれ。」


初めて私の話すために耳を傾けてくれた。


大柄の高い身長。全身を包んだ豊富な白銀の髪の毛と眼鏡の向こうからひらめいている黄金の瞳が黒いスーツとマッチしてすごく大人びて落ち着いた印象を与える。

資料では何度も見たことがあるがこうやって直接で触れ合うのは初めてで私は少し戸惑ってしまったが


「…はい…」


結局私は彼女から差し出されたその大きな手を自分の手で握ってしまった。

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