第269話
面接は終わりましたがぶっちゃけて言うと明らかな就職詐欺でした。
詳しい内容は書けませんが採用通知と全く内容が違っていてあまりいい仕事ではありませんでした。
とても落ち込んでいるんですがなんとか立ち上げないと思っています。
いつもありがとうございます!
「そういえばあいちゃんってみらいちゃんと話したこと、あまりないよね?」
「何?急に…」
突然変な話題で話を始めるアホ団長。
どうやらこいつはあいとあの桃坂さんの距離を縮めてあげたいようだ。
「すみれちゃんとのことを初めて私達に知られた時の後、二人でなんか話したこととかある?」
お節介なやつ。自分のことじゃなければそっとしておけ。
知り合ってからこいつはずっとこうだった。
親父の働きのおかげで未だに「黄金の塔」の地位を保っている私と「黄金の塔」次世代のトップであるあいはもちろんこいつも割りと私に親しく接してきた。
「ねぇ、こんごうちゃん。知り合いの子がこんごうちゃんのファンなんだけどサインとかもらえる?」
って感じで好き勝手に友達づらしやがって。
妹の方は生意気で年上への敬畏が全く無いから癪だがこいつはこいつで厄介で鬱陶しい。
うざいくせにこいつは私の恋を一度も応援してくれなかったが最近こう思うようになった。
こいつはただあいのことを盲目的に従うだけだった私に本当の愛情の形が他にあるということを教えたかったのではないかと。
もちろん
「あ、こんごうちゃん。これ見て。昨日ホテルで撮った写真。いや、優等生達は感度がいいって聞いたけどまさかあんなに吹き散らすとは全然思わなかったよープシューって噴水みたいにさー」
っと他校の生徒にナンパした時の写真をドヤ顔で見せびらかされた時はこいつはやっぱりただのバカだと心底から思った。
「まあ、いいじゃない。それがゆうなの長所だし。」
っとあいはいつもこいつの肩を持ってあげるが私は自分に関わらない限り無闇に他人のことに首を突っ込んだりはしない主義だから正直こいつと分かり会えることなんて思ってもいない。
「あ…あるわよ…一度だけ…」
予想通り桃坂さんとはあまり話したことがないようなあい。まあ、分からないまでもない。
私だって彼女のことは割りと苦手な感じで結構近寄りがたい。
向こうからは
「あ…あの…!私、昨日石川さんの展示会に行ってたんです!すごく楽しかったんですよ!」
「あ…どうも…」
「これからも頑張ってくださいね!」
っとたまに部活会議とかで会う度にそう言ってくれるが正直にすごく気になるタイプには間違いない。
美少女というのは確かに認める。
サラッとした桃色の髪の毛はすごくふわふわでなんだか穏やかだし明るくて温かい母性愛溢れる性格が特に評判。
料理もできて成績もなかなか優秀。何よりあいの二倍の凄まじい胸はいかにも凶器と言うべきのものだろう。
音楽特待生だから音楽科ではかなり有名人だが何故か廃部寸前の同好会なんかに拘っている変人で生徒会長みたいな少数の友人以外はなんだか人付き合いが苦手そう。
彼女は3年生の間ではいわゆる「ハグレモノ」として認識されていた。
苦手なのは彼女の人としての出来ではなく中に秘めている何らかの巨大な力である。
身体能力も、特別な能力もないのは確かなのに私は何故か彼女に敵意や恐れを感じられない。
それどころかむしろ自分が背負っている全てを肩から下ろして何もかも全部彼女に心を委ねてしまいそうでそれがまた私を迷わせる。
親からの愛情を全く受けられなかった私でさえこんな気持ちにさせるとは。
正直に私は彼女の存在に少なからずの驚きを感じていた。
逆らえない圧倒的な力。だが決して腕力や屈服させる力ではなく愛情を持って相手の心を抱きしめて慰め、癒やしてくれる力。
おそらくあいが恐れているのはそういうことだろう。
あいは今まで何でも一人でこなしてきた。
「黄金の塔」の次の世代を受け継ぐトップとして、「黄金の神」に認められた次の王として常に最強を演じ続けてきた我々の「騎士王」。
誰よりも強く、誰よりも美しく居続けるために誰にも弱みを見せられない定めをあいは生まれた瞬間から課せられていた。
そんなあいにどれほどの負担がかかっていたのかきっと私達なんかには計り知れないだろう。
そのあいの重い荷物を肩代わりしたのがあのクソ鬼だったことが私は死ぬほど嫌だったが
「せっかくだし今日みらいちゃんとちゃんと友達になってみない?」
どうやらこいつは本気であいを彼女の友達にさせたいと思っているようだ。
明らかにあいは彼女に自分の本音を見せてしまうようになる事態を恐れている。
彼女の抗えない母性愛に自分の弱みを、油断を見せてしまったら二度とも元の自分には戻れない、最強を演じる自分を維持することができない。
あいはきっとそう思っている。
だがあいは賢明で強い私達の王。
変わるのは学校や他の生徒だけではないということをあいはとっくに知っていた。
「うん。やってみるわ。」
やっと心を決めたようなあいは少し離れたところで赤座と魔界の姫君、
「あい先輩?」
そして私の「美術部」の唯一の見学部員である「火村祭」が集まっている方へ向かった。
「あ…」
最近すっかり意識するようになった火村のこと。
まさか去年個展で面と向かってお前らなんかの魔界の連中に自分の絵は見せたくなかったと偉そうに吐かしやがった相手が彼女のことだったとは…
あいのやつ、全部知っていたくせに良くも騙しやがって…
弱いいじめは嫌いだ。だからいくら魔界のことが嫌としてもあんな小さい子を、しかも自分のファンを泣かしてしまったことが死ぬほど恥ずかしくなった。
あの時はあんな流れで火村がなかったことにしてくれたが私はやっぱりきちんと謝るべきだと思っている。
魔界のことは未だに大嫌いで森を燃やして村の人達に焼け死なれたのは全部あいつらのせいだと思っているがちゃんと自分の過ちに責任を取らなければならない。
そう思っているが…
「なんでお前はそんなに楽しそうな顔をしてやがる…」
「んー?もしかして私のことー?」
どうしてこのアホ団長殿はこんなに面白いものでは見つけたという顔をしているんだ。
そして
「これは記事のネタに使えそうですね。」
この面白い獲物でも見つけた蛇のような表情の女。
こいつこそこの学校で最も敵に回してはならない人物の一人であることを私は誰よりも知っていた。
「畑蕗子」。
種族は「土の精霊」で「プラチナ皇室」直属親衛隊「Judgement」の元狙撃手。
極端環境運動組織「Nature」の傘下に入っている軍閥が巻き起こした世界最大の内戦地域「シビルウォー」で生まれた正真正銘の怪物。
極端人間主義の「大家」、世界最大規模の大犯罪組織「Family」と共に今の世界を脅かす存在である「Nature」はこの星を太古の姿に引き返すのが目的で人間主義の「大家」とはまた「全人類の絶滅」というおぞましいスローガンを掲げている。
そんな組織の息がかかった国で育ったこいつが今は私と同じ学校を通いつつ「Bullet」の部長をやっている。
それだけでこいつを敵に回してはならない理由には十分だが
「ひょっとしたら彼女にも灰島さんみたいに付いているのでしょうか。男根。」
一番苦手なのはこいつの心には迷いがないということだ。
力があるこそ持つことができる余裕とかではない。こいつはただ自分の興味以外な他のものには考える価値もないと本気で思っているとてつもなく根がこじらせまくっているやつであるだけだ。
あの生徒会の緑山と同じ類の人種だが明確な差があるとしたらこいつには少年兵として既に何人の命を自ら殺めたという過去があるってことだ。
「どうだっていいんです。自分が楽しくなければ誰が死のうとしても微塵の興味もありません。」
いつか私にそう話したこいつの目は明らかに「死神」の目であった。
幸いこの学校にはこいつが好むネタがそこら中に落ちている。なんせこいつは「女の子同士の恋」、つまり「百合」というジャンルに興味津々だった。
「最近「百花繚乱」の方に面白いもの…ことがたくさんあってすごく楽しみです。」
「ものっと言いかけたな、キサマ…」
っとのうのうと自分の本音をぶちまける畑。
体はそんなに大きいわけではないがこの蛇のような不気味な目とどす黒い髪の毛、そして全身から放たれる禍々しい空気は今でも焼け死んだ死体から生まれた亡者みたいでなんという気色悪い生物なんだろうとついそう思ってしまう。
こいつは自分のことを直属上官である「陽炎」の頭領「荒沼蘭」にしか言わないから何を考えているのか常に謎だらけだが一つだけ確かなのは
「そうなったらやっぱり石川さんがハメられるハメになるでしょうか。ハメだけに。」
こいつは明らかに私のことも自分の脳内のおもちゃ箱に入れてやがるということだ。
「あ~なんか分かる~こんごうちゃんって以外に「ネコ」の方っぽいんだよねー」
「まあ、「鬼」の女性は全員男根が付いていてその大きさも半端ないと言われますしああいうの打ち込まれたら頭がパーになっちゃうんでしょう。」
火村は鬼の親戚である「炎人」だがさすがに自分達の目で見たこともないのに好き勝手に決めつけるのはよくない。
私が言うのもあれなんだが
「じゃあ、もし付いているとしたらまつりちゃんの方が「タチ」って感じかな?」
「そういうことになるのでしょうか。まあ、実際あんな可愛い顔でめっちゃ好きそうですし。」
さすがにこいつらみたいな頭がおかしい連中に火村のことをああだこうだと言われたくない。
「お前ら、やめろ。本人の前ではないとはいえそれって明らかなセクハラだから。」
3年生になって何入学ばかりの1年のことをいじめているかと思わず咎めるハメになった私だが
「あ。もしかして石川さん、本気で彼女にあれが入っていることを願ったりしているのではないんですよね?」
「えー♥なにそれ♥不潔♥こんごうちゃんのエッチ♥」
やっぱりこいつらは私のことを完全におもちゃ扱いしていた。




