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皆で仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!  作者: フクキタル
第5章「夢と茸」
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第265話

いつもありがとうございます!

「え…?うみちゃんからの電話…」


その時、先輩の電話の方に掛けてきた一本の電話。

発信者はなんと絶対向こうから先に電話してくれさそうなうみっこだった。

しかも


「ビ…ビデオ電話…!?」


私ともやったことがない顔合わせのビデオ電話という手段を選ぶとは。

うみっこにしては随分大胆な行動ということに間違いはないと私はそう思った。


どういう風の吹き回しかはまだ知らない。

うみっこのあまりにも唐突な行動に


「ど…どうしましょう…!ことりちゃん…!どうして急にうみちゃんからお電話が…!しかもビデオ電話だなんて…!」


当然戸惑うばかりでどうしたらいいのか怪しまれるほどうろたえてしまう先輩。

私はまず


「大丈夫ですよ、先輩。落ち着いてください。」


慌てている先輩を落ち着けて


「ほら、ゆっくり出るんです。別に詐欺電話ってわけではありませんから。」


そのままうみっこの電話に出るように誘導した。


会長から聞いた話によると去年、同好会を抜けてからのうみっこは先輩との繋がりを全て自分の手で遮断したそうだ。

理由は大抵予想がつく。

これから変わってしまう自分から先輩のことを守りたかったのか、それともただ自分の決心を守りたかったのか。もしくはどちらもかも。

でもそれは逆に先輩のうみっこへの片思いをよりこじらせてしまうだけの結果しか招かなかった。


そんなうみっこがなんで急に自ら先輩へのビデオ電話なんかを掛けてきたのか、


「うみちゃん…?」


その答えはすぐ分かることができた。


緊張した顔でうみっこの電話に出る先輩。

でもその画面の向こうに映っていたのは


「これは…」


名の知らないあるアイドル達のライブ映像だった。


制服風の可愛い衣装。

帽子とブーツ、手袋まで完璧に備えたその衣装は私にふと去年の懐かしい思い出を呼び起こしてくれた。

うみっこと違って正式部員でもない私にも着ることができたキラキラの衣装のことは今もはっきり覚えている。

もう一度着てみたらいいなと思ったことはあるが今になってはそれもただの儚い希望にすぎないと自分自身で分かっている。

お腹を丸出しにしているのがちょっとハードルが高そうだがそれを着ているこの子達はもはやそのことも全く気にしていないようにただひたすら輝いてステージの上で一生懸命歌っていた。


何よりその歌声は去年の皆で一緒に笑って頑張った時の記憶を取り戻してくれるようにとても温かくてぐっと胸に響いて何故か心が痛くなる気分だった。

きっとその楽しい日々を自分の手で壊してしまったという良心の呵責ってやつかも。


でもそんな私と違って


「す…すごいです…」


心から感動している先輩のことを私はすぐ見つけることができた。


初めてうみっこのことを知った時の喜び。

自分と同い年の子が皆の前で一生懸命自分の演技を披露し、歌うことに感動した私が彼女と同じ歩むことを夢見、目指した。

きっとその時と同じくらいのときめきを今の先輩も彼女達を見て感じていると私はそう確信した。


胸が弾けそうな高ぶり。

目に宿ったキラキラがその全てを物語っているように今の先輩は実に嬉しそうだった。

うみっこはただ大好きな先輩に小さくても大きなプレゼントを先輩に見せたかったかも知れない。


「でもこの子って…」


確かに素敵なライブ。

でもその舞台で歌っている子は私も以前会ったことがあるいつかの黒髪の「マネージャーちゃん」だった。


一度見た人の顔はよほどなことでは忘れない。

ましてこんな可愛い子の顔なんて忘れるわけがない。


先日理事長に呼ばれて学校に行った時、ただの気まぐれで寄ってみた同好会。

そこで会ったのが今年新しく入部したマネージャーちゃんだった。


きれいな新緑の目。

瞳の奥から爽やかな森風が吹いてくるようなその黒髪の女の子は私のことを知っているにもかかわらず私のことを普通に接してくれた。

私がこの学校で何をやらかしてしまったのか全部知っているのに先輩とあまり変わりないようにしてくれて私は彼女のことが随分気にいるようになった。

まるで私の中から探しているような、人のいいところだけを見ようとするような…


そう。私はあのマネージャーちゃんは実に先輩に似た人だとそう感じていた。


「アイドル…だったんだ…」


そして私は彼女のことについてとてつもない誤解をしていた。


決してマネージャーではなく彼女自身も同好会で先輩と一緒にアイドルに一生懸命励む立派なアイドル。

後で先輩から聞くところによると彼女は筋金入りの元ローカルアイドルでクリスちゃんの憧れだそうだ。


「私がアイドルになろうと決めたのは全部みもりちゃんと緑山さんのおかげです。」


っと「みもり」という名前のマネージャーちゃんと彼女の幼馴染である「緑山百合」さんに人一倍の感謝の気持ちを表すクリスちゃん。

それはいかにもお姉ちゃんへの私からの気持ちと等しい感謝だと私はそう言い切れると思う。

同時に私は今後彼女への「マネージャー」っていう呼び方を改める必要があると判断した。


「こんな風に歌えたんですね…みもりちゃんとゆりちゃんは…」


先輩さえ彼女達の歌を一度も聞いたことがないようにすっかり夢中になっている私の先輩。


「はい。みもりちゃんと緑山さんは本当にすごいアイドルなんですもの。」


そしていつの間にかこっちに混じって私達と一緒に彼女達のライブを堪能しているクリスちゃん。

彼女は子供の頃、療養先で偶然出会うことができた彼女達を見て自分もアイドルになってみようという夢を見たと話した。


「久しぶりですね。「フェアリーズ」のライブ。」


懐かしいような、それとも少し寂しいような。

そんなちょっぴりした複雑さが混ざり合った顔でマネージャーちゃんの「フェアリーズ」のライブから目が離せないクリスちゃん。

それでも彼女はやっぱり久しぶりに大好きな人達のライブが見ることができて嬉しそうだった。


「こ…これ、もしかして虹森さんですか…!?」

「あら。可愛い。」


そしてクリスちゃんの友人のまつりちゃんとあい先輩を含めてあっという間に周りに人が集まってやがてここに集まった全員にマネージャーちゃんが元アイドルだったことが知らされた。


中には


「あ!「フェアリーズ」だ!私、この子達、知ってるよ!」

「私も子供の時、見たことあるかも!」


彼女達の活動のことを相変わらず覚えている人達も確かに存在した。


「すごい…!別人みたいです…!」

「本当だわ。でもまさかあの緑山さんまでアイドルだったなんてね。」

「…っていうか緑山さんって大丈夫なんですか…?」


っと皆が舞台の上でまるで別人のように立派なアイドルとして入れ替わったマネージャーちゃんに感心しているところ、ふと何か気にかかることでもあるようなまつりちゃんの話に皆の視線が彼女に向かった瞬間、


「緑山さん!顔!」


全員その場で固まってしまった。


一目で分かるほどただならぬ視線。

うっとりした惚れ顔と震える体。まるで胸の底から炊きあがってくる高ぶりを抑えきれないと言っているように全身を振らせている明らかに不審な栗色の長い髪の少女。

彼女こそ現在この学校における3人の狂人の一人、名家「緑山」の次期当主である「緑山(みどりやま)百合(ゆり)」だった。


その鬼気迫った顔はまさに取り憑かれた鬼神の執念。

やがて目には怪しいハートまで浮かんで自分と息を合わせて歌っている幼馴染の女の子を見つめている彼女のことに我々は身振りを起こしてしまったが


「ゆりちゃん…とても幸せそうな顔をしてるんですね。」

「…はい。とても…」


何故か先輩とクリスちゃんだけは彼女のものすごい顔のことにすごく微笑んでいた。


周りの皆は「どこが…?」って顔でドン引きしていたが私はそういう愛情の執着ってやつは何故か分からないものでもないから私はそんな気持ちを隠さずありのままで出せるような彼女のことがふと羨ましくなる気もした。


「アイドル…か。」


可愛い衣装。明るいダンスと元気な歌。

地上に舞い降りた瞬く星である彼女達に憧れない女の子なんてこの世には多分いないだろう。

私だってちゃんと夢見たことがある。

こんな元気づけてくれる歌を聞かれたら誰だってその気になるのは無理ではないだと思うから。


でもできなかった。

色々理由はあったが一番の理由はお姉ちゃんのことと自分の心の問題。

第一、私のために何もかも全部放棄したお姉ちゃんにお姉ちゃんがあんなにやりたかったアイドルを自分がやりたいって言い出せなかった。

お姉ちゃんのことだから私のことを相変わらずサポートしてくれるはずだがきっと一人で悲しむんだろうと私はそう思った。


その次の問題。

大体私はいつだって自分が目立つために振る舞っているだけで誰かのためにとか考えたこともない質だ。

マネージャーちゃんの歌を聞いた分かった。

私には彼女のように皆に力を吹き込んだり、元気づけたりする歌は無理だってこと。


結局私は私一人のことしか考えてない勝手でワガママな人に過ぎない。

だから自分の人生でそういうのは無しだと思い込んでいた。


でもそこで余計な悪癖が起きてしまった。


「みもりちゃん…ゆりちゃんもすごいです…」


もう私のことなんてすっかり忘れて彼女達に夢中になっている先輩のことを見てふと胸がざわめいてくるのを感じた。

もし先輩が私への興味を失ってしまったら私は先輩という今の唯一な居場所を失ってしまう、そう怖がっていたかも知れない。

何より先輩を取られてしまったという決して愉快ではない気分に心を走らされて余計な張り合いを抱いてしまった。


札付きの負けず嫌い。

今までどんな相手でも舐められないように実力で叩き潰してきた私は「やられればそっくり返す」「赤座組」の精神をしっかと受け継いたことを自ら証明してきた。

唯一の敗北はうみっこのことだけでうみっこのことを生涯のライバルと定めた。

だから自分の行動に責任を持つことができる。

自分の手で犯してしまった過ちは自分でケリを付け、償うべきだとそう信じてやまない。


先輩のその顔を見た瞬間、マネージャーちゃんは優しい後輩ちゃんから一気にライバルに変わった。

本人達にその気がなくても悔しいのは悔しいのだ。

先輩をそんな顔にさせたのが私ではなく、まして会長やうみっこでもない自分がマネージャーって思っていた1年生だったのがよほど悔しかったと思う。


だから私はそう言ってしまったんだろう。


「こ…これくらい…!ことりだって練習すればすぐできます…!」


その一言で私は


「じゃあ、ことりちゃんは今日から私と一緒に「ホワイトノイズ」のメンバーね?」


強制的にあい先輩の全校生仲直り大作戦の一大プロジェクトに参加されることになってしまった。

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