第263話
いつもありがとうございます!
「すごいです!ことりちゃん!」
「えへへ。大したことじゃないですから。」
宴もたけなわ。
初めてはギクシャクしていた他の部員達もそろそろいい感じでお互いに話をかけてみたりありきたりの日常会話を交わしてみたり著しい進歩を成し遂げたその姿に先輩は
「やっぱり皆がニコニコするのはいいですね。」
ただ微笑ましい笑みを浮かべるでけであった。
この親睦会のことを「合唱部」は既に把握している。
何と言っても「Scum」は「合唱部」の一番の取り巻きでうみっこの兵隊だし他の魔界関連の部だって大半がうみっこに従っているから。
もしあい先輩の方に灰島さんが付いてなかったなら魔界の子達がこの親睦会に参加することなんて断じてなかったと私はそう確信している。
未だに魔界出身の子達はこの場が少し気まずく感じられているようだがそれでもまずこの親睦会に参加してくれただけでも大きな進展だとあい先輩はそう話した。
「皆青葉さんのことを気にしているのはよく知っているわ。でも青葉さんなら絶対私が説得してみせるから。」
一度だけでもいい。
たった一度だけでも皆の心を確認することができればきっとその次に繋げられると自分の本当の気持ちを皆に自ら明かしたあい先輩。
いくら灰島さんの一声があったとはいえ多分皆の心を一瞬でも動かしたのはあい先輩の飾らないありのままの本気だったと私はそう思う。
「は…速水さんって本当きれいですね…お肌も真っ白でスタイルも良くて…さすがモデルさんは違うっていうか…!」
「あら、ありがとう。皆だって可愛いよ?今度皆で一緒に買物でもどうかしら。」
「いいんですか…!?じゃあ、ぜひ…!」
「ずるいわ…!私だって速水さんと…!」
「まあまあ、皆で行くんだからそんなに焦らないで。」
いつの間にか一人ずつあい先輩のことを含めて神界の子達にも話を掛ける魔界の子が増えて親睦会はいい感じでうまくまとまってきた。
予想通りあい先輩は魔界の皆にも大人気。
まあ、当然だ。あい先輩は子供の頃から誰にだってすぐ好かれていつも中心になる人だったから。
それにあい先輩は私と一緒に何度もモデルの仕事もやって学校内ではさり気なく人気があって密かにファンもいっぱいついている。
子供の頃から新体操をやってきて体のバランスもすごくいいし自己管理も徹底的でそういうところがまた憧れてしまう。
その上何と言っても「水の剣」の正式後継者の「黄金の塔」のお姫様だから人気を呼ぶ要素くらいいくらでもある。
先程皆に灰島さんと付き合っているって全部話したのに皆そういうことはあまり関係ない自然とあい先輩と話していてなんだかほっとする気分。
あい先輩は神界の子達だけではなくたくさんの魔界出身の子達にも声をかけ、徐々に皆の心を開いていった。
趣味の話、学校生活の話、色んな話を皆とたくさん話し合うあい先輩は以前のピリピリとした雰囲気じゃなくどこにもある普通なJKそのものだったので私はそのことに地味に驚いてしまった。
「あい先輩…あんな顔もできたんだ…」
そんな当たり前なことすら改めて思うほど私はあい先輩の笑顔を長い間忘れていたようだ。
でも…
「速水さんってなんか「アイちゃん」に似たような気がしますね。知ってますか?ネットアイドル「アイちゃん」。」
「そ…そうかしら…?」
ある魔界の子からネットアイドルの「アイちゃん」に似ているって話を聞いた時だけはあい先輩は一瞬何故かものすごく焦って取り乱してしまった。
私にさえ名前くらいは知っているネットアイドル「アイ」。
最近ネットでかなり話題になっている彼女は歌やアニメやドラマのシーンの再現演技などの配信で地道にネット上で人気を得ている。
私も一度だけ見たことはあるが素人はいえ確かにいい演技だったと思う。
発声もいいし感情の表現力もなかなか。何よりうみっこ並の歌唱力が特に目立つ人だったと覚えている。
本人は自分のことを役者志望だと言いたがうまく磨ければきっと成功できると私はそう感じた。
役者といえば確かにあい先輩のお母さんって元女優さんであることを思い出す。
私がデビューしてからは忙しくてあまり会えなかったが私個人的には「先生」と思っている方である。
あまり売れる俳優さんではなかったがその真っすぐで見ている人達を引き込む演技力は本物だった。
何より先生の歌は神界最高と言っても過言ではないほど美しくてきれいだった。
あい先輩が小学校に入ってまもなく引退されたが今も目を閉じたら先生の演技と歌をすぐ思い出せるほどこの胸にきちんと残っている。
その先生の娘さんだけあってあい先輩もまた歌がすごく上手だったがあい先輩はめったに人前では歌わなかった。
自分のせいで舞台から下りられた先生のことを気にしていると思われるが詳しいのはあい先輩以外誰も知らない。
私があい先輩の歌を聞けたのも子供の時、一度だけ。
確か私が転んで膝を痛めた時だったっけ。
手当はしたけど痛みにずっと涙が止まらなくて。
あの時は回復魔法も使えなかったしまだ子供だったから今考えても子供としては自然な反応だと思う。
そんな私のためにあい先輩が一度だけ歌を歌ってくれてそれがあまりにも心地よかった私はすぐ泣くことを止められた。
一見懐かしくて可愛らしい一頃の思い出だと思われるがその後、
「痛いの痛いの飛んでけー」
あい先輩が私の膝にチューしてくれて
「うう…なんか恥ずかしい…」
改めて思い出すとやっぱり恥ずかしい記憶…
でも言われてみれば確かにちょっと似てるかも。
二人共ものすごい巨乳だし声とか仕草とか被るところ結構多い感じがする。
まあ、さすがにコスプレやエッチな服もこなしているアイちゃんと違ってあのあい先輩にそういうのを着れる度胸はないか。
「た…たまに言われるけどそんなに似てるのかしら…?配信見たことはあるけど私にはピンとこなくて…」
「似てます似てます。だよね?」
「そうそう。確かに声とか雰囲気とかちょっと似てたかも。」
「まあ、有名人に似てるって話はちょっと照れちゃうけど…」
あい先輩だってあんなに楽しそうだし別に悪いとは思いませんがあい先輩、なんであんなに嬉しそうなんだろう…
まるで初めて外で私のことをファンに気づいてもらったような顔…
そんな感じてあい先輩や他のところは結構いい感じになってきたが
「石川さんだ…」
「こわ…」
さすがに筋金入りの魔界嫌いのこんごう先輩にはあまり話をかけてくる子はいなかった。
一目で分かるほど魔界の子達と話したくないとオーラが漂っているこんごう先輩のところには誰一人近づこうともしない。
こんごう先輩は今も魔界のことが大嫌いであい先輩の決定に積極的に従う気もなかった。
無理ではない。
森を燃やされ、「神樹様」顕現以来魔界、特に「鬼」の「灰島」と腐れ縁だった「ゴーレム」の中でもこんごう先輩の家は代々その首長を務めてきた家系だから。
いくら好きなあい先輩の頼みであろうと昨日今日で受け入れることなんてそう簡単ではないはず。
でもたった一人、そんなこんごう先輩と唯一普通に話ができる子があって
「先輩。これ、すごく美味しいです。」
それはクリスちゃんの友人である「炎人」の「火村祭」ちゃんはであった。
尖った性格のせいであい先輩やゆうな先輩と違って同じ神界の子達にもあまり不人気がなかったこんごう先輩。
顔も悪くなくて美術界では天才と言われる先輩がそのトゲトゲでよくキレる性格でこんごう先輩はいつも一人だった。
でもそんな先輩に気兼ねなく近寄って普通に話しているまつりちゃんの存在は先輩をもう一人にはさせないって感じがしてなんだか心がすごく和む。
私も先クリスちゃんから紹介されたが彼女は心温かくて人を労る心を持ったとてもいい人だってことを私は一目で分かってしまった。
「あい先輩と灰島さんもいいけどこっちはこっちでなかなかいいかも…」
そして私はその二人の仲でから何か起きそうな予感がした。
そんな中で意外に皆の目を惹く遊戯があって
「皆、とてもいい子なんですね。」
それは私の動物達を引き寄せる技であった。
会場から少し離れたところで口笛を吹くと
「わぁ!小鳥さんがいっぱい!」
「すごいです!」
あっちこっちから飛んでくる小さなお友達。
皆近くから飛び集まって屋敷地に勝手に住み着いた山鳥さん達であった。
ちょうど身を隠す木もいっぱいあるしも周りは全部森で庭や川も流れていてこの子達のとっては住みやすい地形かも。
黄色、茶色、柿色、大きさもそれぞれの個性もバラバラだが昔から「魔法の一族」、「魔法少女」にはあらゆる動物達がよく懐いてくれた。
自然から得たマナをコアから魔力に変換してエーテル体を構成、維持している「魔法少女」にとって自然はもう一人の神。
私達は「ゴーレム」や「花人」と同じく自然をとても大事にする種族であった。
それ故、私達はいつでも自然のことを自分達のこと以上に思ってきた。
もちろんただ可愛いから好きという割りと単純な理由もあるが。
だが大戦争の時、森と野が全部破壊されて自然のマナを得られなくなった私達は生き残るため他人のマナを奪う方向を選び、効率よくマナを得るため集をなした。
後に「赤座一族」と呼ばれる「赤座組」の源流である。
終戦後、研究を重ねて外部からマナを受給する方法が開発されて命のやり取りをする必要がなくなり、世界法で居場所を失ってきた私達はそのまま徐々に衰退の道を辿った。
「黄金の塔」「円卓の騎士」の一人として「赤座一族」は汚れ役。
主に「掃除」や「片付け」「取引」などの仕事をやっていたがそれも今はままならない。
お姉ちゃんはいっそ自分の代で初めから全部改めようと思っているがもしそうなったら評議会への上納金を払えなくて「黄金の塔」から追い出されてしまう。
お姉ちゃんは私に何も知らなくてもいいって言いたけどやっぱり私はお姉ちゃんのことが心配で仕方がない。
…つい嫌なことを思い出してしまった。
自分の手の中で体をこすりつけている小さなスズメちゃんにふとお姉ちゃんのことを思い出してしまったようだ。
楽しい宴会なのにこんなことを考えてはいけないってのは分かっているがやっぱり私は気分が落ち着かない。
それに学校から追い出された時、森で飼っていた子達も連れていけなかったし。
後で学校に頼んで連れ出そうとしたが
「皆、心配しないで。赤座さんほどではないけど私がちゃんと君達の面倒を見てあげるから。」
っと私の代わりにあの子達の面倒を見てくれるうみっこのことを赤城さんから聞いたらどうしても連れて来れなかった。
多分こうしてうみっことの繋がりを一つでも多く残しておきたかったんだろう。
結局私はいつまで経っても中途半端でみっともない半人前の子供に過ぎないってことだ。
まあ、でもそのおかげで得られたものもあると思う。
「こ…ことりちゃん…!私もなでてみたいです…!」
だって今こうして私の傍に先輩がいてくれるんだもの。
再び知ることができた触れ合うことで生まれる人との温かさ。
そしてまたやり直すと信じる勇気。
それはきっと以前の私には知らなかったことだった。
舐められないため、心の底から人と距離を取っていた私に本当の気持ちで人と触れ合う方法を教えてくれた優しい先輩。
私にはまだ少し遠いような気がするが先輩と一緒なら私はきっといつかたどり着くかも知れない。
私はなんだかそんな気がした。
「ほら、優しくなでてあげてくださいね?」
っと私の手の中から自分の手に移ったスズメちゃんを不思議そうな目で眺めている先輩。
「あ…温かい…こんなに小さいのになんという温もりなんでしょう…それにこんなに強い鼓動だなんて…」
っとそっとスズメちゃんの体を撫で下ろしながら生命の神秘に改めて敬畏を表す先輩の方こそ体の大きい一匹のカモさんみたいだった。
「私もやりたいです!」
「私も!」
そして続いたのは皆からの鳥ちゃん達との触れ合いたいのリクエスト。
私はいつの間にか自分が「鳥さんと仲良し!ふれあいコーナー!」のパーソナリティになったことに気がついてしまった。
「わ…分かりました!皆が驚かないようにゆっくり…!まずは餌とかあげてやってみましょう…!」
皆の要望に私はいつか穴埋めでやったことがある動物番組の時の記憶を呼び戻して
「ここをこうなでるとすごく喜びます…!」
「あ!本当だ!すごく気持ちよさそう!」
皆にマンツーマンで鳥さん達の扱いを教えてあげた。
先まではずっと先輩の後ろにぺったりついていてあまり皆と喋れなかったから今の状況が少し恥ずかしくて気まずいって気分は確かにある。
先輩以外の人とこんなにいっぱい喋ったことはここ最近殆どなかったから。
でもそれ以上ちょっとだけ元のところに戻れた気がして私は心の底から今の時間を喜ばしく思うようになった。




