第259話
ブックマークいただき誠にありがとうございます!
最近ぐんぐん伸びまくってとても気分がいいです!
この調子でガンガン頑張っちゃいますのでこれからもどうぞよろしくお願い致します!
もうすっかり春めいてきましたね。
韓国にも桜が開き始めました。
皆様はお花見しましたんですか。私はまだ見に行ってないんです。
こんな天気が続いたらいいですね。
いつもありがとうございます!
「弟くんって優しいのね。」
「なんすか。急に。」
急に言われるようになった私からの褒め言葉に少し戸惑う三屋さんちの弟くん。
自分達の出番があるにも関わらず事前に言い合わせたように客席の後ろの方に集まって全員の中、私は隣の三屋さんの弟くんと少し話をすることにしました。
「先の話、本当は二人のことを励ましてあげたかったんでしょ?」
「あ、それっすか。」
大分私のことに馴染んできたか割りと普通に話している弟くん。
それを見た弟くんの婚約者である
「うわぁ…まさるくん、青葉さんと普通に喋ってる…」
「神宮寺蕾」さんは驚きを禁じえませんでした。
夕日に染まったような赤みの柿色の髪。それを三つ編みに編み上げて清純さを更に増してすごくいい感じ。
茶色の目には柔らかくて温かい優しさがいっぱい詰まっていてあえて詮索しなくても彼女がとても良い人だということが分かりました。
緑山さんと同じく神界と人界のハーフである彼女は弟くんと一緒にバンドをやっていてなんとドラムを担当しているそうです。
両親はプロのゴルファーで業界で結構有名な人らしいです。
ちょうど三屋さんちのお父さんの趣味もゴルフで最近は神宮寺さんちの弟子入りしたという話。
そしてその娘さんもまたジュニア選手権で入賞したことがあるすごい人で今もゴルフを続けている。
そういえば灰島さんって趣味がゴルフだったっけ。紹介してあげたら喜ぶのかしら。
バンドを始めたのはたまたま公民館で趣味クラブでバンドの募集をやっていてそれを彼氏の弟くんと一緒に参加したのがきっかけ。
それ以来すっかりハマっちゃって今まで続けているという彼女の話はとても初々しくて面白いものでした。
彼氏の弟くんは小っ恥ずかしい顔でただ頭を掻きながら神宮寺さんの話を聞くだけでしたが
「まあ…そういうことっすよ。」
「えへへ。また照れちゃてー」
彼女はそれがたまらないほど可愛いようです。
まるで御伽噺の主人公でも見ているような羨望の眼差しの神宮寺さん。
彼女は昔私の公演を見たことがあってそれで私のファンになったらしくて私がそれをまたすごく嬉しく感じました。
「あなたのことなら姉ちゃんからかねがね聞きましたから。まあ、生はさすがにたまげましたが。」
「だからすぐ慣れちゃったわけか。まあ、その方が私も接しやすくて助かるけどね。」
っとあまり他の子達みたいな反応を見せない理由を説明する弟くん。
彼は小学校の時、他の国で留学したことがあってその時私のような有名な人と会ったことがあるそうです。
「同じ小学校に通っていた奴らが殆ど名前だけでも有名な名門ばかりでしたから。結構慣れてますので。」
「そうかそうか。」
父が元陸軍大将だったゆえ有名人と触れ合う機会が多かったという弟くん。
緑山さんもあの時に会ったたくさんの出会いの一人だったと彼はそう回想しました。
「あいつの両親はうちの父さんの弟子みたいな人達でしたから。よくうちに遊びに来ましたが正直に言って初めから最悪でした。」
っと呆れそうに笑ってしまう弟くんのぎこちない笑みから感じ取るただならぬ苦労。
弟くんの不幸は虹森さんが初めて遊びに来たあの日から始まったと話しました。
「ちょっとだけいたずらをしただけです。初めて見る子だったし友達になりたいなって思って。」
小さな虹森さんを連れて緑山家と一緒に普段お世話になった三屋家に挨拶しに言ったという虹森さんの両親。
当時「フェアリーズ」の活動で虹森さんは街中では有名人だってのでその子と友達になりたかった弟くんは今になってやってはいけないいたずらを彼女に仕掛けました。
「その年頃の男の子って変に髪の毛とか触ったりするんじゃないっすか。後ろで虹森の髪の毛に触ってびっくりさせたんですよ、俺。そうしたら…」
何かトラウマでも蘇ってしまったのかどんどん顔色が悪くなってくる弟くん。
なんかその後のこととかすぐ想像できるのは私だけなのでしょうか…
「生まれて初めてでした。あんなにボコられたのは。」
しかもそれが同い年の女の子だということは弟くんのプライドにかなり大きな傷を残してしまいました。
「父さんは何も言ってくれなかったし自分からぶちのめしたくせに姉ちゃんに言いつけやがって姉ちゃんからもボコボコにされて…手加減とか全くないっすよ?あの筋肉ダルマ達…」
「あはは…」
彼女の前で自身を持って言い切ることではないとは感じていますが
「あはは!まさるくん、悔しがりすぎー」
この話、どうやら神宮寺さんにはもう何度も話したような反応ですね…
「良くもみもりちゃんの体に手を出しやがって…!殺します…!私がこの手であなたのことを直々に殺して差し上げましょう…!」
「ちょ…ちょっとゆりちゃん…!」
って感じで自分の首を締め付ける緑山さんとそれを必死に止める虹森さんのことを今もはっきり覚えているという弟くん。
子供の頃から陸軍特殊部隊「Ultra」の軍人だった母に自らの願いで格闘術と戦いの技術、そして「緑山」古武術を教えてもらった緑山さんには到底敵わなかったという弟くんの悲しみがこんなにもどっしりして…
そういえば昔は今より言葉ではなく手が先に出てしまう人だったといつか虹森さんが…
「あんなやつが結婚相手だなんて冗談じゃねえっす…父さんが勝手に決めつけて…」
本気で嫌がっている…
でもあの時、以外に本人の弟くんより反対したのが姉の「三屋優」さんだったという話は結構面白いものでした。
「まあ、姉ちゃんは筋金入りの「フェアリーズ」オタですから。きっと俺なんかにあいつのことを任せられなかったんでしょう。」
「ああー…なんか分かるような気がする…」
先の調子じゃ絶対こう抗議したんだろう…
「ダメ!ゆりちゃんは絶対みもりちゃんと結婚するんだから!」
って感じで。
いや、実際言ったそう…
でもやっぱりそういうのって本人達も嫌なんですね。
親が勝手に決めつける許嫁とか。
まあ、そりゃそうでしょう。そこに本人達の意思なんて全く入っていませんから。
私だってそういうのはやっぱり好きな人とやるべきだと思いますしちょっとだけ欲を言えばドラマや映画みたいな運命的な出会いが欲しいなって…
ってまた先輩のこと考えている…ダメダメ!先輩のことは今はなし!
「途中で向こうからなかったことにしてくださいって要請したからいいものの危うくあんな筋肉ダルマと結婚するハメになるところでした…」
っと心底今の状況に胸をなでおろす弟くん。
でもこんな話、婚約者の前でやるにはちょっとまずくないかしら…
余計な修羅場にならなきゃいいけど…
「ダメじゃん、まさるくん。女の子に向けて筋肉ダルマとか言っちゃ。」
っと少し気にかけていた私の心配と違ってあまり気にしてないような神宮寺さん。
実は彼女は緑山さんと虹森さんのことを今日初めて見るらしいです。
家の事情で中学校の時この町に引越してきたという神宮寺さん。
彼女は二人とは別の学校であの時は弟くんもあの二人との繋がりがなかったそうです。
「俺は小2の時留学でしばらくここから離れてました。姉ちゃんから「フェアリーズ」の活動中止のことは聞きましたがあえて会いに行くほど親しい仲でもありませんでしたから。」
そんなわけで彼女にこの町のアイドルである「フェアリーズ」のことも紹介しなかったという弟くんと
「本当なんですよーいつも会いたいって言ってたのにまさるくんったら全く紹介してくれなくて。」
それに水臭いって気持ちを表す神宮寺さん。
でもそれにはそれなりの理由があったらしいです。
「姉ちゃんから聞きました。きっと何か良くない理由で止めさせられたんじゃないかなって。
あいつら、いつも「フェアリーズ」のことはすげぇ張り切ってたし。
だからあえて古い傷をほじくり返すようなことは控えた方がいいんじゃねぇかって。」
「でも会いたかったもんー」
っとやさぐれている彼女のことを宥めるための理由を話してくれる弟くんはやっぱり優しい人です。
「それで?初めての感想はどうなの?神宮寺さん。」
「感想…ですか。」
そろそろ慣れてきたところなのかしら。私に話をかけられてもあまり動じなくなりましたね。神宮寺さんって。
「んー…そうですね。」
少し考え込む神宮寺さん。
「私、お二人さんの中で何か運命的なものを感じます。」
そんな彼女から私に渡してくれた答えは少し変わったものでした。
篤実な「教会」家系である彼女は少し宗教的な観点で自分が初めて触れた「フェアリーズ」の鑑賞のことを私に説明してくれました。
「「神族」と「魔神族」は本来同じ根から始まった同根の存在と言われています。
これは「神樹様」による世界統一以来に学系で発表されたことなんですが実際青葉さんが通っている第3女子校の理事長「神族」の「朝倉色葉」様と第1女子校の校長である「魔神族」の「夜咲仁穂」様は本当の姉妹のように仲がいいんです。」
有名な話。
実際うちの理事長のことを夜咲校長は「お姉様」って呼んでいて理事長も彼女のことを「うちの妹」って呼んでいる。
私は「神社」の家系ですがそれはあまりにも有名な話なのでよく知っています。
私は実際お二人様との食事会に誘われて会ったこともありますね。
彼女の言う通りにお二人様は本物の姉妹と言ってもいいほど仲がすごく良かったと覚えています。
「私は「フェアリーズ」の虹森さんと緑山さんを見てそれほどの奇跡を感じました。」
でもそれは初めて聞く話でした。
まるで疑いの欠片も見当たらないという確信に満ちた話。
神宮寺さんは虹森さんと緑山さんを結んでいる絆を「神話」と言い切ったのです。
あまりにも大きなスケールでしっくりこなくてもおかしくもないのになぜでしょう。
私は今の彼女の話こそまさにお二人のことを一番うまく物語っているとそう感じてしまいました。
それは誰にでも邪魔されない不可侵の領域。
その奇跡に私は思わず全身を慄いてしまったのです。
「まあ、よそから見たら絶対頭おかしいストーカーにしか見えないけどな。」
そしてそれを「ストーカー」という一言でまとめてしまう弟くんの話に思わず同意見を送る私でした。
でも弟くんがその時の緑山さんから得たのはただの屈辱感と敗北感だけではありませんでした。
「まあ、私的にはそういうところが憧れだったっすけど。」
弟くんは緑山さんのそういう一直線でブレない強い心がずっと羨ましかったとあの時の心情を私に話してくれました。
「情けないって思われるかも知れませんが緑山のそういうところ嫌いじゃなかったんです。
あいつは女としては全然ダメダメなんですが志だけは高くてすごいやつでしたから。」
虹森さんのことだけには誰よりも強い確信と信念を持っていたという緑山さん。
それに感化された弟くんは自分もいつか自分の心が正しいと思うことに没頭できる、最後まで自分の意思を貫くことができる人間になりたいと思いました。
そしてチラッと自分の婚約者を見た後、わざわざ目をそらす彼のことを見て私は気づいてしまったのです。
もしかすると弟くんが神宮寺さんと少し早めに結婚を決めたのはあの時の緑山さんと同じ気持ちになれたからではないかと私はそう感じました。
本人は恥ずかしくてあまり言わないようにしているようですけどね。
「ブレない心か…」
今の自分には備えてない心構え。
先輩のことが大好きで先輩にアイドルを続けて欲しくて自ら皆の公共の敵に回った私。
でも好きって気持ちを最後まで貫くことができなく、気持ちを伝える勇気がなくててやがて先輩から離れてしまった情けない私。
それを虹森さん達に埋めて欲しくて、ただの自己満足のために彼女達のことに協力している私はもしかするとこの中で一番卑怯な人かも知れませんね。
「人のことを言える立場ではないな…私も…」
そう思った私は寂しそうな笑みで自分の心をごまかしてしまいました。
「でもあいつ、なんかしょぼくれて腑抜けな顔をしているんですから。大人しくてそれはそれでいいですがやっぱりなんか癪ですね。そういうの。
まあ、簡単に言って昔の知り合いのよしみってやつです。」
っと自分が緑山さんと虹森さんのことを励ましたのはただの気まぐれに過ぎないと先のことをまとめてしまう弟くん。
でも私はそういうところがきっと神宮寺さんが弟くんとの婚約を受け入れた決め手だと思います。
「あ、始まります。」
そしてその同時に始まる伝説のライブ。
でも私はそのライブでいつか見た夕日のある路上ライブの時と同じ気持ちを覚えてしまいました。




