第258話
いつもありがとうございます!
久々の夢。
「超越体」の「欠片」である私達「調律者」には夢という昨日は付いていない。
だが
「ルル様…また遊ぼうね…?」
この絶望的なほど鮮明な光景はまさに夢と言うに他ならないものであった。
燃え尽きる大地。
空は暗闇に染まって狂気に包まれてひたすら滅びへ向かっている。
耳を裂けそうな人々の悲鳴。
その光景を眺めている私の目では血の涙が吹き出して眼の前の世界を赤く染めていく。
そしてとうとう自分の手から散ってしまう小さな命に自分の愚かさを呪い、運命を嘆く。
痛いという感覚はなかったはずなのに心が引きちぎれそうに痛くて仕方がない。
「起きて…!お願い…!」
泣きわめきながら何度もその小さな手を握りしめたが
「バイバイ…」
あの子は私にそっとした笑みをチラッと見せた後、そのまま眠ってしまった。
どこから間違っていたのかすら分からないほどの深く、そして重い悲しみ。
その悲しみに耐えきれなかった私の心は崩壊寸前まで追い詰められていっそ自分の存在にまで手を出そうとしたが
「止せ。」
脳内から直接聞こえたその声に結局死ぬことすら許されなかった。
「随分ひどい夢でも見たそうじゃないか。うなされまくってあんなに汗だくになるまでな。」
そんな私のことを珍しいという目で眺めている金髪の少女。
彼女の言う通りにひどい悪夢でも見たのか私の体はいつの間にか汗だらけになってソファーがびしょびしょになるほどぐっしょりしていて疲れを取るところかむしろ寝る前よりぐったりしていた。
自分でも分かりやすいほどものすごい状態。
「飲むのがいい。」
そんな私の前に彼女から渡されたのは一杯のお水。
「ありがとう。」
その水を一気に飲み干す私は喉の向こうから言葉では言い切れないほどの清涼感を感じつつ彼女に礼を言った。
目覚めの悪い夢。
何故今更このようなものを見てしまったか自分でもよく分からない。
だが重要なのは夢の内容より夢を見たという行為自体だ。
「それってまるで人みたいじゃん…」
そう。
最近の私は著しく弱まっていた。
自分で労って導くべきの存在である人のように。
ここ最近「超越体」からの指示は届いてない。
指示どころかこちらからの定期報告にも応じてくれない。
まあ、私は「欠片」の中でも異端みたいな存在だからもうとっくに見放されてしまったかも知れない。
それならそれでいい。むしろご都合だ。
「お前達は「調律者」。星が課せられた寿命を全うし、その中で生命体が生き延びるための環境を整えて星のバランスを取るのがお前達の仕事。
そうやって我々はさらなる高みに向かって進化し、宇宙は永遠の中でその歴史を続けられる。」
「超越体」はこう言った。
「だがそのために深く関与するのは控えろ。意思を持った生命エネルギーはこの宇宙の源に最も近い物質であり共存することでできる化学反応はさらなる進化の可能性をもたらしてくれるだろう。」
我々は決して神ではない。
人を作ることも、心を支配することもできないただの探求者であり探窟家。
宇宙の進化の手がかりを模索し、時には手を貸して彼らの意思の構築を促す。
そうやって得られるエネルギーでこの宇宙の維持と進化を成し遂げ、均衡を保っている。
「人は嫌いだ。野蛮で非常識で何をやっても非合理的で嫌いだ。
反吐が出るほど未熟で誰かを踏みにじらねば生きられない自分勝手なエゴ的な存在。
実に未完成で醜い生物ではないか。強いて言えば獣の方がよほどマシなくらいだ。
だがその意思に基づいた生命エネルギーは貴重な資源であり秘めたポテンシャルは極めて高い。
それ故に生かす必要がある。いい意思だろうと悪い意思だろうと我々にとっては同じものだ。」
だから余計な情を抱くな。私達は彼らにとってあくまで異種。何があっても自分の立場をわきまえること。
星の命運とともに廃れて滅んだこそ彼らはやっと自分の役割を果たしたと「超越体」は自らの身体から引き離した私のような「欠片」達にそう伝えた。
だが私は「超越体」が望んだ理想の「調律者」にはなれなかった。
夢で見た悪夢のような光景がそれを代わりに物語っている。
私は人の世界に潜りすぎていつの間にか「超越体」が最も嫌悪している人のようになりかけていた。
それってつまり力を失っているということ。
「欠片」は作られる時、「超越体」から授かった力で自分を維持する存在だからもらった力を全部消費したらもう自分を維持することは不可能になる。
人の「死」と同じ状態となって跡も残さず消えてしまう。
このままだとそう遠くないうちに私は消滅する。
そうなる前に私は自分の役目を果たさなければならない。
自分のやるべきことを知っているから私は「超越体」の意思に逆らわなく、「超越体」も私のことを好きにさせている。
今はそれだけで十分。
どうせ「調和」なんて上辺だけの綺麗事にすぎない。
結局人の上には同じ人しか立てない。ならより優れた種族、より優れた指導者が民を導くべきだと私は自分の方針をそう決めている。
どのみち誰かが誰かを支配する仕組みなら私が自分の目でそれを選ばせてもらう。
それができなかったから私は二回も自分の手で2つの世界を滅ぼしてしまった。
「しかしやはりなじまないものだな。今のお前の姿。」
「そ…そう?」
まだ頭がガンガンする。
脳内がしびれてもう吐きたいって気分。
彼女は今の私のことをただ外見的に不慣れなものだと感じているが私にしてはやはり今の状態でこの姿を維持するのは内的にかなり負担がかかるっという意味でどうも馴染まないものであった。
「でも会長の記憶を封じて緑山の心のリンクを妨げるのはさすがになかなか骨が折れるから。たまにこちらの姿に戻らないと体が持たない。」
「なるほどな。」
っと彼女は納得したようだが私は元の姿に戻ることはなるべく控えようとしているから今の自分があまり好きではなかった。
鏡に映った濃い目の青黒い神を垂らした長身の裸の少女。
髪に鏤められた輝きはまるで手の中で砕かれた塩の星屑。
うつろな目は決してこちらの世界を眺めているわけではない遥かな遠い時間の先を注視している。
だが体中既に崩壊を始めて欠けてきた銀河の破片はもう自分にはどうにもできないほど哀れで虚しい。
これこそ正しく死に向かっている「欠片」の形状。
重ねてきた罪に押し潰されている償いの業。
元の姿の方は思ったより崩壊が大分進行していたそうだ。
「やはり今の私に与えられた時間はそう長くはないようだな。精々来年…いや、今年ってところかも知れない。」
計画は最終章。
最後まで「魔界王家」や「灰島」のような魔界の有力者達をこの計画に巻き込むことはできなかったが餌は撒いている。
「そんなこと、どうでもいいのだ。」
そのうち、私が巻き込んだこいつが勝手にドンパチでもおっ始めてくれるだろう。
驕慢で傲慢の塊のように心底興味の欠片もなさそうな顔で私のことを眺めている大きな金髪のツインテールの少女。
黒いフリルドレスがとても似合って一見では普通なお可愛のゴスロリにしか見えないが彼女は私のことをただの道具や手段でしか考えてないとにかくいけ好かないやつには違いない。
椅子に座って黄金の剣の手入れでもやっているこいつはこちらの世界では「神様」と崇められている現役の「神族」だがこいつには元奴隷という痛い過去がある。
「神族」と選ばれる以前、魔族のある貴族の家に売られたことがあってそれ故に魔族に対する憎しみの大きさが半端ない。
今回の計画において協力者としては最もうってつけの逸材であることは間違いないと私はそう判断した。
こいつの狙いはたった一つ。
過去魔界に支配された屈辱の歴史を精算し、この星の新たな支配者になること。
ただし新たな王になるのは自分ではなく妹のように大切にしていたある少女。
彼女がこの星の新しい王になれればどんな協力も惜しまないと彼女は私に約束してくれた。
幸いにその少女もまた私が目をつけていた「サンプル」の一人で現在私が通っている第3女子校を支配している女王の一人。
やはり私の目に狂いはなかった。
「あいつが貴様が言った新たな王になるためなら私はどんな手を使う。
「プラチナ皇室」なんか世界政府なんか知ったこっちゃねえ。何もかも全部踏みにじってやるのだ。」
そう言い切った黄金の瞳の少女は私に向けて握っていた刀の先端を差し付けた。
「黄金の塔」評議会長。
二つ名「黄金の神」。
能力「黄金錬成」を利用して世界の全ての武具を召喚し、自由自在に使いこなせる正真正銘の怪物。
神族の中で一番強い神族と言われた全盛期の「開闢」、第3女子校の理事長「朝倉色葉」にも負けないくらいの彼女であればきっともう一度この世界に大きな混乱をもたらす事ができる。
「うん。約束する。」
私の能力「現象操作」はこれから起こるのことにしか干渉できない。
だが生きる以上、過去なんて振り返る必要もないただの過ぎた時間。
この力をこの星のためにどう使うのか、私はそれをよく知り尽くしていた。
今度こそ真の支配者が誰なのか、この星の皆が見定められるだろう。
これでこの星の歴は変わり、星の寿命まで皆は悩むこともなく、苦しむこともなく幸福に生きられる。
宗教は人を惑わして理性を麻痺させ、狂わせる。
物質的なものでしか生きられる未熟で未完成の生物はなおさら現実に目を向け、その理に従うべき。
他の「欠片」達がどんな方法を取っているのか私には関係ない。
私は二度とあの時のような間違いは繰り返さないように残り寿命の全てを捧げるだけ。
「じゃあ、ちょっと休んだから私はそろそろ学校へ帰らせてもらうね?」
「いつの間に…」
瞬く暇もなくいつの間にか子供の姿に戻っている私を見て驚きを隠せない黄金の神様。
私はいつか自分の手で抜けてしまった小さな命の顔をこれこそ今の自分だと強く信じていた。
だが私は知らなかった。
自分が自分の頭でこう思っているのも、皆が自分の計画通りに動いてくれるって信じているのも
「これで宇宙はまた新たな進化を迎える。」
全てが「超越体」が仕組んだことであることを。
その頃、私は理事長の頼みである仕事を引き受けていた。
「あ、ルルさん。ようこそ来てくれました。」
会長が入学から務めていた「教会」の仕事。
私の妨害で会長が記憶を失われ、それを肩代わりすることになったのが私で今日が記念すべき最初の日。
「今日はよろしくお願いします。」
でもこの「教会」のシスター「青玉」…
この人はなんだかすごく嫌な予感がする…




