第257話
いつもありがとうございます!
「えええええ!?」
「ま…まあ…」
いきなりの結婚の知らせに驚いてしまう私のことに少し恥ずかしそうに頭を掻くまさるくん!
そんな私のテンプレな反応がドストライクだったみたいなゆうお姉ちゃんは
「みもりちゃん♥驚くのも可愛い♥」
思いっきり抱きついてほっぺをスリスリこすりつけました。
「まさるくん、結婚するんだ…」
小学校以来初めての再開。
そこで言われたのはまさかのまさるくんの結婚。
まだもうちょっと先のこととはいえまさるくん見ないうちに大人っぽくなっちゃったかも…
「おめでとう。」
「おめでとうございます。まさるくん。」
「あ、うん。ありがとうな。」
私と元許嫁のゆりちゃんのお祝いに照れくさく笑ってしまうまさるくんの笑顔が今日はまして大人みたいに見えます。
ゆりちゃんも、まさるくんも今になってはあの時のこととかもうすっかり忘れているようです。
良かった…
「ふーん?虹森さん、今ほっとしたんでしょう?」
その時、耳元の至近距離から脳内に直接突き刺さってくる甘い囁きに
「うわぁ!?青葉さん!?」
びっくりした私は仰天しながら後ろを方を振り向きました。
そうしたらそこには
「私、見ちゃったな~虹森さんの可愛いところ♥」
何かすごく面白いことでも見つけたって言っているような青葉さんが私に向けてニヤニヤしていました。
鳥肌が立つほど魅惑的な声…
うわぁ…まだゾクゾクしている…
これこそまさに魔性の声…
って重要なのはそこじゃなく…!
「か…可愛いところって…何のことでしょうか…」
「とぼけても無駄よ?今緑山さんの三屋さんの弟さんへの反応が薄いのを見てほっとしたんでしょう?やっぱりまだ気にしていたんだ。」
っと私のことを勝手に見透かして洗いざらい私の心を暴き出す青葉さん。
勝手に除かれるのはちょいとムカッとしますが言っている全部が言い返せない正論ばかりで結局黙っているしかようがありませんでした。
全く気にしてないってわけではありません。
あの時は私もゆりちゃんも子供だったから分かってなかったかも知れませんが私とゆりちゃんは同じ女の子ですから。
今普通にまさるくんと話し合っているゆりちゃんを見ていつの間にかこういうモヤモヤが胸のそこから生まれてきました。
本当はゆりちゃんはようやく昔のおじさんが言ってた現実にたどり着いたんじゃなかったのかなって。
あ、もちろんゆりちゃんの心は取り戻したいと思います。その決心にはこれっぽっちの偽りもありません。
でもちょっと不安になったんですよ。
もし私が取り戻した私へのゆりちゃんの気持ちが普通な幼馴染の女友達だったら…って。
まあ、それはそれで健全で望ましいとは思いますが私はやっぱりゆりちゃんにだけには特別な人になりたいと思いまして…
だから今のゆりちゃんの反応を見てほっとしたっていうか…
「…まさるくんなんて会わなきゃきゃ良かった…」
「なんか急にひどいことをいうな…お前…」
っとわけも分からなく私に罵られたまさるくんはまさにわけわかんないって顔をしましたが残念ながら私は結構地味に本心だったのです。
「でも良かったんじゃない?緑山さん、あまり弟さんに興味なさそうだし。」
「だといいですけどね…」
って…!
「うふーん?やっぱ気にしてるじゃんー虹森さんー」
「ち…違う…!違いますって…!」
さりげない誘導質問…!
こういう時ばかりずるいんですよね…!青葉さんって…!
それになんかうざいよ…!この人…!
「どうしたんですか?みもりちゃん。」
っと私に何かあるのかと聞くゆりちゃんのことに
「う…ううん…!何も…!」
私は子供っぽい嫉妬なんかを焼いてしまった自分のことが急に恥ずくなってそうごまかすだけでした。
「虹森さんって本当可愛いね~」
「みもりちゃん♥マジ天使♥」
そんな私のことを何故かこの二人はものすごく微笑ましい笑みを浮かべてずっと見つめていました。
「それで相手の方はどんな人…?」
場をごまかすためわざと話題を変えようとする私からの質問に
「あ、うん。同じクラスの子。」
携帯で写真を見せてくれるまさるくん。
っていうか妙に早くも嫁さんのことを紹介したいって顔っぽい…
写真に写っている同い年の女の子。
柔らかい赤みがそっと沈まれている柿色の三つ編みがとても可愛らしい彼女はまさるくんの中学校からの友達。
まさるくんと別の中学校に通っていた私達には知らない話ですがすごく可愛い子だと思います。
目からは優しさが溢れてきてそっとした笑みから親近感を感じ取れるほど心地よい温かさが滲んでいる。
お父さんみたいな軍人さんになるため自分に厳しい態度を取っているまさるくんとなんだかすごく相性良さそうでとてもお似合いのカップルだと思います。
軍人一筋だったまさるくんがバンドを始めた理由も彼女のおかげらしいです。
「なんか一緒に楽しいことでもやってみようって言われてな。まだ到着がちょっと遅くなっているんだけど今日一緒に歌う予定だし。」
「これが終わったら両家顔合わせのため直ちに会場に移動しなければならないから残念ながらお姉ちゃんとのお喋りタイムはまた今度かな。」
っとゆうお姉ちゃんは姉としてすごく張り切っていますが
「だからそんなんじゃないって。」
そのワードの重さがあまりにも身に余るようなまさるくんはもうちょっと軽い食事会って補充の説明をつけました。
「一応婚約っていうのはあっているけどまだそういう段階じゃないから。姉ちゃん一人で燥いじゃって。」
「ええー?でも「蕾」ちゃんのご両親と一緒にうちの家族が食事するのは初めてなんでしょう?だったらもうそれしかないじゃない。」
「だから違うって。」
「じゃあ、何なのよ。」
「しつこいな、本当。」
っと何度も諍いを繰り広げる仲良しの兄妹ですが確かにそれは両家顔合わせって言ってもいいかも知れませんね。
まさるくんは自分の口でそういうことをいう人でもありませんしそこまで進んでたのなら将来のことだって期待できそうです。
「もうすっかり大人だね。まさるくんって。」
「そうかな。でも別に大したことではないから。」
っと内心感心している私にそれほどのことではないと言うまさるくんの言葉。
私はその意味があまりピンとこなかったのです。
「うちの父さんだって軍に入った直後に結婚したから。お前達だって同じだろう?」
でもその次の言葉で私はまさるくんが私達に言いたいことが何なのかすぐ気づけました。
***
「あら?もうすっかり仲が良くなってきたんですね。ことりちゃんとクリスちゃん。」
「先輩…」
元のところへ戻ったらいつの間にかお手洗いから戻った先輩が私とクリスちゃんのことを迎えてくれた。
「いいですねーマミー、そういうの大好きですー」
ちょっとした間に随分仲良くなった私達のことに感心の気持ちを表す先輩。
満足しているようで何よりだ。
黒木さん…いや、クリスちゃんのことを下の名前で呼んでいるのは彼女の要望。
クリスちゃんいわく
「一応私は年下の後輩ですし良かったら先輩って呼ばせてくださいませんか?
もちろん先輩にも私のことはクリスって読んでいただきたいのです。」
っとこちらからにとっては多少おこがましいことを彼女は軽々と提案してきた。
もちろんいい。むしろこちらからそうさせていただきたと言いたいくらいだった。
彼女は名実ともに「太陽王」の血を受け継いだ正真正銘のファラオ。
「幻想王」という異名は決して伊達ではない。
この際、魔界の姫様である彼女と友好関係を築き上げておけば今後先のことから考えても諸々メリットが多いだろう。
っという下心もあったかも知れないが
「じゃあ、改めてよろしくお願いします。ことり先輩。」
本音を言うと私は素直に彼女のことが結構気に入っていた。
「ファラオ」という高貴たる身分にもかかわらず自分と同じ人として等しく接してくれる親密感。
私の話に耳を傾けて共感しつつ的確なアドバイスをしてくれる考えの深さ。
何より思わず洗いざらい本音を吐き出させてしまう魅力。
私は今日初めて出会った彼女にいつの間にか自分のことを何もかも全部打ち明けるようになっていた。
「なるほど。一緒にいるうちに好きになったと。」
「うん…まあ…」
じっくりと私の話を聞いた後、こくこくうなずくクリスちゃん。
彼女は私のこのような気持ちをあざ笑うことなく真剣に、そして深く共感してくれていて私はそういう真面目で優しい人が大好きだった。
「確かにみらい先輩って魅力的なんですよね。優しいしお料理も上手ですし。同じ女の子として憧れちゃうんですよね?
あ、歌もお上手ですよね。曲も作ってどれもすごくいい曲でした。」
っと先輩の高い女子力と音楽的な才能に憧れて
「それにとてつもない美少女で胸だったすっごく大きいし。私なんて到底まねできません。」
あのでかい乳を羨んで自分のものをそっと眺め比べるクリスちゃん。
「ク…クリスちゃんだって立派なんだからそんなに気にする必要はないと思うんだけど…むしろそれを言うのは私の方ではないかな…?」
「そうですか?」
そんな彼女のあざといと言ってもいいほどの行動にちょっとだけ引いてしまう私だったが
「でもそうよ!先輩って本当すごいなんだから!分かってるじゃん!クリスちゃんって!なかなか見込みある!」
先輩のことを褒められて鼻が高くなってむしろドヤッとなった私はあまり気にしないようにした。
そんな私に向けられるクリスちゃんからの微笑ましい笑みに
「ことり先輩って先輩のことが本当に大好きなんですね。」
「あ…うん…」
急な恥ずかしさを感じたりはしたがそれでも少しはさっぱりした気分だった。
こんな風に誰かと心を打ち明けて誰かと話し合うのはいつぶりなんだろう。
結局先輩の時は懺悔の告白だったし第1にいた時だってスズカ達にはあまり自分の話なんてしなかったから多分退学以来初めてなのかも。
ただ普通に話し合うだけのこと。
だがそれの単純でなんともないことがいかにも人の心を癒やしてくれるのか私は改めて気づくことができた。
そんな気分を少しでも長くしたくて
「クリスちゃんにも好きな人いるの?」
「私ですか?」
彼女との会話を続けようとした私に彼女は気兼ねなく自分のことを話してくれた。
「ええ。もちろんいます。とびきりの可愛い子が。」
「そうか。その人もどこの国の偉い人だったりするの?」
急に湧いてくる興味。
まあ、当然だ。彼女は何と言ってもあの「魔界王家」の「ファラオ」で私達とは住む世界が違う。
だからそんな人から好かれる相手のことに興味ができるのは自然なことであった。
「いいえ。普通な人間の女の子です。」
だが私の予想は見事に外れてしまった。
「私と一緒にアイドルをやっている子なんです。所属は別々ですがアイドルには誰よりも熱心で真剣なとても可愛い子です。」
「そうなんだ。」
嬉しそうなクリスちゃんの顔。
ただ相手のことを思い出しただけなのになんという幸せそうな顔なんだろう。
ふと私は他の人から見ると今のクリスちゃんと同じ顔をしていたかも知れないとちょっとした恥ずかしさを感じてしまった。
それからのクリスちゃんの恋話はそういうものと縁がなかった私にはなかなか衝撃的なものであった。
相手のことは一目惚れだったってこと。
相手の子は地元でアイドルをやっていたロコドルで自分はたまたまあそこで療養していたファンだったってこと。
そしてあの人に憧れて自分もアイドルになったこと。
どれもとても興味深くて初々しくて胸がキュンとする話だったが妙に初めてうみっこのことを知った時みたいなのは気のせいかな…
だがクリスちゃんの話を聞いているうちに私は薄く気づいてしまった。
「でもあの子には私以外の好きな人がいましてお二人はすごく仲良しさんなんです。」
今の彼女は
「到底私なんかが入り込む余地など見当たらないくらい。」
進むことも、
「子供の頃からずっと一緒だったんですから。」
諦めて引き返すことも、
「でも私もそんなお二人さんのことが大好きだしいつまでも見守りたいです。」
何もかも全部放棄してただあそこにとどまって心の中をさまよっていることを。
そう言った時、彼女はとても寂しそうに見えていた。
だが同時に私はまだ知らなかった。
まさか彼女が今回の事件の全貌を後ろから企んで操っていた黒幕が選んだ最後の駒だったということを。
そんなことも知らず私は何の慰めにもならないつまらない言葉で彼女のことをなだめるだけであった。




