第253話
遅くなって大変申し訳ありません。
ひどい体調が何日も続いています。
鼻は思いっきり詰まって声もまともに出ない。
熱はありませんが息ができなくて頭がぼんやりします。
でも仕事を休めるわけにはいきませんから出勤。
病院にも行ってきましたがなかなか治らなくて困っています。
改めて体調管理の重要性を知らされてしまいました。
皆様もお体に気をつけてください。
いつもありがとうございます!
あの日、結局あい先輩は計画の詳細までは皆に教えなかった。
「今日はただ皆で楽しみたいの。」
っと詳細は後に各自に伝えると言うあい先輩。
後で知ったことだがあい先輩は今日この親睦会のために自ら他の部のところへ言って自分の考えを伝えたらしい。
最初は皆だって困惑していた。
当たり前だろう。あい先輩は今回の派閥争いを主導した最重要人物。
そんなあい先輩の方から和解を申し込むなんて何か裏があるとしか思えない。
だが
「「灰島」の名に掛けて約束する。あいはもうこれ以上の戦いはしたくない。だから力を貸してくれ。」
彼女と付き合っている灰島さんの一言で皆あい先輩のことを少しだけ信頼したらしい。
「灰島」は世界有数の大手企業。
その息女であって「Vermilion」の部長として学校中から尊敬されている彼女の一言は正しく鶴の一声として皆の心に作用した。
「灰島」の影響力。
それは一国にとどまらず「黄金の塔」や「大家」のような組織に立ち並ぶほど大きい。
「鬼」はこの星で最も優れた種族の一つとして武力やら財力やらもう他の種族達がどんなに足掻いても手が届かない領域に達している。
かつて「人食い」と呼ばれた史上最凶の「青鬼」、「影風」一家が彼らの後ろについていて「灰島」の「赤鬼」はその一家を後ろ盾として支援する。
吸血鬼の「赤城財閥」が独自的に運用している特殊部隊「メルティブラッド」と同じ脈を通じているとそちに詳しいお姉ちゃんから聞いたことがある。
その役を神界では我々「魔法の一族」、つまる「魔法少女」が担っていたらしいが同じ魔法少女と言ってもその偏差値は大分バラバラだから私にはあまりしっくりこない話。
実際私はちょっとした回復魔法だけしか使えなくてそれに引き換えお姉ちゃんは「帝王」と呼ばれたお父さんの後を見事に引き継ぐ、むしろお父さんさえ超えてしまうほどの歴代最強の魔法少女だった。
きっと持って生まれた魔力の大きさも、魔力回路も私とは根本から違うんだろう。
いくら「赤座組」が廃れかけている組織だろうとも評議会のジジイ達は私のお姉ちゃん「赤座雀」の桁外れの力だけは心から恐れていた。
幸い鬼は世界政府の積極的な協力者でありあまり世界に向けて害を与える気はない。
「赤鬼」の「灰島」は古代からその怖そうな外見とは違って人のためになりそうなものを作っていた鍛冶屋の人で他の種族とも友好な関係を保ってきた。
それに対して人間とほぼ同じ外見を持っている「青鬼」の「影風」は同じ鬼である「灰島」以外いかなる種族とも関わりを作ろうとしなかった。
今は大分時間が経ち時代の変わりに伴って少し変化があるそうだが二人の関係はあまり変わってないらしい。
何よりその二人の鬼の集団が奉っている親玉である「酒呑童子」が「灰島」の方針に何の異論も出してくれなかったから今の平和が成り立てられたとお姉ちゃんはそう話した。
「ことりちゃんは物知りさんですね~可愛い~♥」
っと一体どこから萌え要素を感じたのかまた私にくっついてくる先輩。
ご機嫌そうで何よりだと私はそう思っている。
「こ…ことりだってお姉ちゃんから教わったものですから…そんなに大したことでは…」
「そうですか。いつか会ってみたいですね。ことりちゃんのお姉ちゃん。」
っとまだ会ってもないお姉ちゃんへの期待感を膨らませる先輩に
「絶対先輩に私の家族に会ってもらおう…!」
私はそう思うようになった。
「それはそうと…」
「どうしたんですか?ことりちゃん?」
っとふと周りの光景を不思議そうに眺める私に何かあるのかなっと聞く先輩。
特に何があるっというわけではないのだが今のこの光景、なんだかすごく変な感覚…
ただそう感じただけだった。
今日この親睦会に集まったたくさんの第3女子校の生徒達。
「シンフォニア」や「Scum」、「百花繚乱」などの大型部はもちろん体育系や文化系、趣味系などの弱小部に至るまで。
各自の部を代表する人達が何人もこの親睦会に参加して
「この前のコンクール、惜しかったね。」
「そっちこそもうすぐ入賞できたのに残念だったな。」
長い間の積もった話を解き放っている。
まだ少し気まずいって空気はあるがそれでもここから抜け出そうと思っている人は誰もいない。
私の目がそう言っているから私には分かる。
「あ…あの…!」
「あの…!」
同時に言葉が出てきて重なってしまう子達もいる。
「あ…!お先にどうぞ…!」
「いいえ…!そちらこそどうぞ…!」
その度にお互いに向けてぎこちない笑顔を見せつつ相手の方を優先する姿に思わず心が和んでしまう。
周りに振り回されて、上の者に従わざるを得なくて。
そういった言い訳を付けて本当の自分達の心から目を背けてきた彼女達はうみっこに謝ることを決めつけていた時の私のように目一杯の勇気を振り絞ろうとしていた。
あい先輩の本気が彼女達にも伝わったのか、会長のような能力を持ってない私には性格なことまでは分からない。
でも皆は知っていた。
自分達がやっていたことは決してこの星から教わってきたものと交わることもない、真逆のものであることを。
異なる世界。
お互いの価値観を否定し、交差することもなかった3つの世界を自分の身を捧げて紡いだ「神樹様」。
彼女の望みは二度とこういう悲しい喧嘩を繰り広げることではなかったことをここの皆はやっと目が覚めたように体として理解していた。
あい先輩はこのことについて
「大丈夫。これから一つ一つ直していけばいい。
喧嘩は誰だってするものでその分仲直りすれば何の問題もないのよ。」
っと自分の考えを率直に話した。
全くその通りだと思う。きっとそれこそ「神樹様」が教えたかった本当の真実だと私はそう思った。
「今までの蟠りが一気に解決できるとは思わない。でも肝心なのは努力する心でそのために私は尽力を尽くしてみせるわ。」
っとそのきれいな目で自分の覚悟を引き締めるあい先輩のことに私はどうして自分がこの人を憧れてたのか改めて分かるように…
「どうしたの?ことりちゃん。あ!もしかしてやっと甘えたくなったのかしら!
いいわよ!いつでもあいママに甘えなさい!」
私…本当にこの人に憧れたのかな…
私に向けて思いっきり胸を差し出しているあい先輩。
でもそんなあい先輩のことに私はとてつもない不安感を抱いてしまった。
あい先輩はいい人。
確かに他人のことを思いやる温かい胸を持っていてそれは住んでいる世界を問わないほど広くて優しい。
それは紛れもなくこの世界をよりいい方向に導いてくれるだろうと私はそう確信している。
でも問題はあい先輩の外側の問題であった。
それはあい先輩の両親でも、ましては評議会のジジイ達でもない。
「いいか?「赤座小鳥」。お前は我々の名に泥を塗ってしまったのだ。
お前のせいで世界政府に対する我々の立場は以前よりも更に悪化されてしまった。
お前の父や姉に免じてお前の処分はあいとそちらに任せる。
だが二度と私の目に付かないのが見のためなのだ。」
第3から退学にされ、評議会で行われた審問会が終わった後、私だけが呼ばれて入ることができたあのお方の部屋。
そこで私を待ち構えていたのは常に私達の世界を見守っている黄金の瞳の神様であった。
第3女子校理事長「朝倉色葉」様と同じく腰のあたりに真っ白な羽を付けている小柄の女の子。
でもその全身から放たれる凄まじい威圧感に私は一刻も耐えられずただ怯えているだけであった。
大きな金色のツインテールと黒いドレスがとてもお似合いだったその少女は全身を突き通すような鋭い目で机の上から私にそう話していた。
「黄金の神」。
あるいは「鍛冶屋の神」。
世界中のどんな武器でも自由自在に使いこなせると言われているその少女は私に二度と「黄金の塔」の名前を口にしないようにと言った。
「お前なんかのせいで「黄金の塔」の威信が落ちることなんて二度とごめんなのだ。
我々はいずれこの星の頂点に立つ存在。そのために今は耐えるのみなのだ。」
そしてその頂点の世界に私の存在はいらないと彼女はそう言い切った。
「もう下がれ。そして二度とこっちには戻るな。役立たずはもう必要ない。
お前は今まで通りに人前で愛嬌を振りまいて生きていけばいいのだ。
それがお前にふさわしい生き様であり、ちっぽけな幸福ってやつなのだ。」
そうやってあのお方の部屋から追い出されてしまった私は自分のことを二度と「黄金の塔」の人だと話せなくなってしまった。
お姉ちゃんは言わなかったが後で調べたことによると私のせいで「赤座組」の「黄金の塔」への上納金の金額は跳ね上がったそうだ。
私があのお方に目をつけられてしまって、そして「黄金の塔」の立場を悪くさせてしまってお姉ちゃんや組員達の負担が増えてしまった。
私の後始末としてあのお方がとてつもないお金を要求して…
だから私は怖い。どうすることもできないほど怖い。
もしこのことであい先輩があのお方に…「神族」「朝倉愛憐」様に睨まれてしまったらどうしようと…
この計画のためにどうしてもクリアしなければならない問題。
でも私はその問題を今までのどのような問題より大きな壁として感じていた。
評議会のジジイ達なんてただの傀儡。本命はあのお方。
彼女の願いはただ一つ。
「世界を取り戻す。頂点に立つのは我々なのだ。」
今の世界をありのままの姿に引き戻す。
そしてその元の世界で我々の神界がこの星の頂点に立つこと。
彼女は今の世界のことを心から憎んで恨んでいた。
理由は誰も知らない。
彼女の最側近で現在「ファントムナイツ」の団長を務めている「湖水の騎士」「ランスロット卿」ですらその理由は分からない。
「神族」の素性を詮索するのは特に厳禁されていてすなわち反逆罪として見做されて即逮捕され最悪の場合死刑までなりかねない。
それ故にその人の「神」になるまでのことは同じ神族を除いて誰も知らないようにすることを鉄則にするのが神族のルールであった。
それに受け継がれる「魔神族」や「酒呑童子」とは違ってこっちは選ばれて承る形で「神様」が決まるのだから次の神族が誰になるのか誰も予想できない。
もちろん彼女の次は既に決定されているが。
でも「神様」が皆あのお方みたいってわけではなかった。
せめて私が会った次世代の「神様」はそうだった。
「向こうに行っても今の気持ち、忘れないでね?ことりちゃん。」
私が第1での学校生活を辞めてこっちに戻る日、駅まで見送ってくれたその次の「神様」。
「青葉さんとちゃんと仲直りできるように私達も祈っているから。応援してる。」
っとその優しい手で私の震える心をなだめて励ましてくれたその温かさを今も忘れてない。
私は彼女のことを心から愛していて今も愛している。
「ありがとう…スズカ…私、ちゃんとやってくるから…」
「うん。信じてる。だってことりちゃんは優しくて強い子だから。着いたら連絡してね?」
っと私の背中を押してくれたその子は電車に乗った私が向こうに消えるまで手を降ってくれた。
もしこの計画のことがあの御方の耳に入ってしまったらきっと大事になってしまう。
あの御方に好かれているあい先輩の場合は特に私の時のように優しくには済まされないだろう。
最悪の場合「ファントムナイツ」は全ての地位を失って「黄金の塔」から追い出されてしまうかも知れない。
でも何故なんだろう。
「大丈夫。私はもう迷わないわ。」
今のあい先輩は恐れることも、怖がることもないような強い目を光らせていた。
もう誰も傷つけさせないという強い意志がこもっているきれいな目。
ただ恋人の灰島さんや自分の地位を当てにしているのではなく自分の信念と意思を貫く強い決意で自分の行動に正当性を与えているあい先輩のことに私はどうして灰島さんがあい先輩のことが好きになったのか少しだけ分かるようになってしまった。
箱の中で育ったように軟で時にはか弱そうにも見える私達のお姫様。
でもその心には決して折れない強い意志が打ち込まれていて外部からどんな圧力がかかっても一度決めたことを取り下げず最後までやり通す。
川に人が集まるようにどこまでも流れて周りに生命を与えて人を呼び寄せる広い心の持ち主。
たまにその行路を迷ったりするが自分の目的地を決して忘れず最後には必ずたどり着いてみせる強い人。
きっと灰島さんはあい先輩のそういうところが好きだったと私はそう思う。
そんなあい先輩のために今の自分にできることはなんだろう。
そう思った時、私はただ
「頑張って。あいママ。」
そのたくましい背中に抱きついてそう言うだけであった。
もちろん
「こ…ことりちゃん!?」
突飛な私の行動に驚いて
「どうしたのかしら…!?あ…!甘えたいのよね…!やっと私にも甘えてくれてるよね…?!
いいわ…!いくらでも甘えなさい…!ほら…!ことりちゃんの大好きなあいママのおっぱいですよ…!」
うざくするあい先輩のことに今の自分の行動を後悔してしまう私であった。




