第252話
遅くなって申し訳ありません。
体の調子が悪くてまたしばらく休まざるを得ませんでした。
お待ちいただいて恐縮でございます。
急に寒くなりました。
北極からの寒さだと聞きましたがまさにそうかも知れないと思わせるほどの寒さです。
皆様もお体に気をつけてください。
いつもありがとうございます!
「じゃあ、今日からことりちゃんには私と一緒に生活してもらうわ。」
っといきなり飛びかかってきたあい先輩からのすごい提案。
「え…?ちょっと…」
さすがに私はそれについて色々聞かざるを得なかったが
「黙っていてごめんなさい…ことりちゃん…」
どうやらこの話はとっくにあい先輩と先輩の間で約束されていたようだった。
先輩達の話はこうだった。
去年のことの首謀者である私がうみっこと関わりがある先輩の家で居候していることを誰かに知られてしまったら先輩を囲んだ色んな人達に迷惑が掛かるっと。
何よりうみっこにだけは絶対私のことを知られたくないとあい先輩はそう話した。
でも…
「絶対戻るから!」
私…この間、あのうみっこに先輩の家で暮らしているってこと、全部話しちゃったから…
先輩の家で居候していることをうみっこに正直に言ったのは今も後悔しない。
私はうみっこに自分の覚悟を見せたかったしうみっこならきっと分かってくれると思ったから。
まあ、頭では
「先輩と同棲!?なんで赤座さんが!?抜け駆け!?ずるいわ!!」
っと思ったかも知れないが。
実際やりそう。
あの時は何の話も交わさずそのまま別れちゃったけどうみっこなら私がこのまま大人しく退かないってことは分かってくれたはず。
それほど私は本気だった。
うみっこに謝って先輩に謝ってあい先輩に許しを請う。
そして会長や学校の皆にもちゃんと謝って自分の過ちを認め、許してもらいたい。
その後のことなんて一度も考えたことがないほどこのことに私、「赤座小鳥」は今までの全てを賭けているほどこの件に必死の覚悟で臨んでいた。
もう二度と役者に戻れなくてもいい。
これからずっと後ろから指を差される人生になってもいい。
私はただ皆に謝りたい。
その一心でお姉ちゃんからせっかく入れてもらった学校まで飛び出した。
もし最後までうみっこに、皆に許してもらえなくても私は今後の人生を反省と懺悔の気持ちで送るつもり。
ただ一つ、心残りと言ったらもしその時が来てしまったらもう二度と私は先輩に会えなくなるということ。
どうやら私はうみっこと皆に謝りたいと思っていたほどの本気で先輩のことが好きになってしまったようだ。
「いや…」
だから今はこのままがいい。
今まで通りに先輩と一緒にいたい。
「私はやっぱり先輩と一緒の方がいいです…」
ただそう思って私は先輩の袖をグイグイと引っ張り出しながらわがままを言うようになってしまった。
「わ…私はいやってこと…!?」
ガーンって音が聞こえるほど思いっきりがっかりしてしまうあい先輩のことはすごく気の毒だけどやっぱり私は先輩がいい。
先輩といると心がポカポカしてすごく安心できる。
お風呂に一緒に入ってくれて一緒いアイスを食べてくれて眠るまでギュッとしてて頭をなでてくれる。
お母さんの記憶は全くないけどきっとこういう存在だろうという先輩への確信まで待っている私。
まるで巣の中でぴよぴよ泣いている小さな雛を全力で守ってくれる大人の鳥さんのように私を抱きしめて安心させてくれる先輩のことが好き。
この気持ちはまさに「愛」だと私はいつの間にかそう感じていた。
「あい先輩が嫌ってわけではないです…ただ私はもう先輩んちの子ですし今から「マミー」を変えることはできないっていうか…」
「ことりちゃん…」
もうすっかり甘えん坊さんモードに入った自分のことを少し恥ずかしく感じる気持ちはあるがそれだけ私は今の先輩と別れたくないということであった。
まだ先輩のことが本気で好きになったとは言えないが少なくとも今の私にとって先輩はお姉ちゃんと同じほどの大切な人ということには間違いない。
だから今はそっとしてくれたらいいって…
って…
「こ…ことりちゃん…」
なんか先輩…すごく潤っているな…
「私…そんなことりちゃんの心に気づいてあげられなかったんですね…」
なんかガチで泣いている!?
いつの間にかポロポロの涙を出しまくっている先輩!
桃色のふわっとした長い髪の毛に覆われてメソメソ泣いているその姿はまるで聖女のように清らかで純粋にも見えるほど美しくて初々しいものでしたがいくらなんでも泣くのが早い!
「そうでしたよね…ことりちゃんのマミーは私でしたよね…?マミーなら最後まで守ってあげるべきでしたよね…?」
「な…泣かないでください…!先輩…!」
っとなんとか泣き始めた先輩をなだめようとはしたが
「わ…私…本当はことりちゃんと離れたくないです…」
もう溢れてきた涙はそう簡単に治められるものではなかったようだ。
その同時に聞かされた先輩の本音。
それはまた私に皆からの視線が向けられるきっかけとなりましたが率直に言ってやっぱり嬉しかったんです。
先輩はきっと親のような心で私のことを案ずるだけで決して恋愛感情ではない。
それは私だけではなくうみっこや会長に対しても同じだろう。
でもそれでいい。
先輩にも私が先輩に対して持っているこの切なくてもどかしい気持ちを持ってもらいたくて先輩の傍にいさせて欲しいわけではない。
私はただ今はもう少しでも先輩との時間を増やしたいと思った。
先輩は3年生。
今年で卒業したらもう一緒にいられない。
でも一番怖いって思ったのは
「ことりちゃん…?」
いつか先輩が私達の傍からいなくなってしまう。
そう感じた自分の直感であった。
自分の後ろにくっついている私を見て少し戸惑ってしまう先輩。
私だってあまり人前では甘えたりはしないし恥ずかしくいって気持ちは同じ。
それほど私が先輩と別れたくないということであった。
「行かないで…ママ…」
そして私は先輩の弱点を何から何までことごとく知り尽くしていた。
「こ…ことりちゃん…!今なんと…!?」
「バキュン」って音が聞こえるほどどストライクで先輩の胸に刺さった今の言葉。
私のことをじーっと見つめているこの信じられないという目で私は確信した。
「これならイケる…!」
っと。
「私…ママと離れたくない…ママと一緒がいい…」
うるうると嘘泣きまでしながら考える暇も与えず先輩を責めまくる神界最高の役者の一人である「赤座小鳥」の演技。
自分で言うのも何だが演技なら得意中の得意。
大体私は音楽特待生のうみっこと同じく芸術特待生として第3に入学したから。
それに私は歌も多少の嗜みは心得ている。
お姉ちゃんはいつも
「ことりは本当に名前通りのきれいな声なんだね。小鳥さんのさえずりみたい。」
っと私の歌声を褒めてくれて私も皆の前でよく歌ったものだ。
忙しくてあまりカラオケも行かなくなったが今は割りと先輩とつるんで通えるようになった。
先輩と一緒にカラオケに行って一緒に歌うことは最近の私にとって楽しみの一つとして定着するほど楽しい。
先輩は
「でもいいんですか?ことりちゃん…声とかでバレたりするのでは…」
っとすごく心配したが
「大丈夫ですよ、先輩。」
私はうみっこと違って自分の名前で出された歌なんて一曲も持ってなくてそもそも本格的にこの業界に取り組んでから誰の前でも歌ったことがなかったから私の歌声なんて誰も知らない。
バラエティー番組とかで何度のオファーはあったが私の方からことごとく断ったということは結構有名な話。
歌が嫌いってわけではない。
ただ少し気に病むことが一つ存在するだけ。
それは私よりもっと芸人がなりたかったお姉ちゃんのこと。
お姉ちゃんは私がうみっこの公演を見て芸人を目指す以前からその業界で働くことを夢見た人だった。
でも騎士の爵位まで授かっていたお父さんが何らかの理由で行方不明、組織は崩壊寸前にまで追い詰められてその付け焼き刃としてお姉ちゃんが組長になった時、お姉ちゃんの夢は組織の代わりに壊れてしまった。
「黄金の塔」への上納金と組織の存続、そしてたった一人の双子の妹のために自分の人生を投げ捨てた可哀想なお姉ちゃん。
皆はお姉ちゃんにはかつて「帝王」と呼ばれたお父さんまで超えられる才能があるって言ったけど私はそう思わない。
お姉ちゃんはただ私みたいにテレビの中で誰かを喜ばせたいという夢を持っていた私と同じ顔をした小さくて可愛い一人の少女に過ぎなかった。
歌が大好きでいつか私と一緒に「双子のアイドル」としてデビューするのが夢だったと言ったお姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんの人生を質に取って役者になった私は物心がつく頃、だんだんお姉ちゃんの前で歌うことが辛くなって芸人がなった以来、誰の前でも歌わないようになってしまった。
でも最近こう思うようになった。
もし私が一派な人になってまた舞台に立つことができたら今度は自分からお姉ちゃんを導いてあげようと。
こんな気持ちになれたのは全部先輩のおかげだった。
ただ普通にカラオケを楽しんでいたかも知れない。
でもあそこで自分の身をもって体験した
「ことりちゃん!次一緒にやりましょう!」
先輩の輝きは言葉では語りきれないほど眩しくて尊いものであった。
先輩の歌を聞いていれば胸がぐーっと昂ぶってこちらまで一緒に歌いたくなってしまう。
その目に宿った愛しさと皆を大切に思っている優しさが歌にまで込められて先輩の気持ちが、先輩の心が流れ込んでくる。
心が癒やされて自分を囲んだ数多なトラブルや問題がちっぽけなものにしか見えない気分になるほど先輩の歌は私に勇気と希望を与えてくれる。
かつてうみっこが先輩の歌を聞いて仕事まで休んで第3への入学を押し切ったのがうなずける。
それほど私は先輩の歌に感動していた。
そこでふと思い浮かんだのは
「お姉ちゃん…」
私の大切な肉親であるたった一人のお姉ちゃんであった。
誰かと歌うことが、誰かの歌を聞くことがこんなにも楽しいことだったんだ。
歌で人は失っていた勇気を取り戻して溢れた希望をまたかき集めることができる。
きっとお姉ちゃんだってこんな存在になりたかったんだ。
その素晴らしさと楽しさを私はお姉ちゃんから取っていたんだ。
そう思った時、私はそのまま泣かざるを得なかった。
先輩はもう私だけではなく私達姉妹にとって大切な存在。
私は先輩のところでその恩返しとともに自分の成長を成し遂げたい。
だから
「お願い…ママ…ことりのこと、捨てないで…」
今は先輩の傍にいたい…!
相手役もない一人だけの一芝居。
でもその結果は
「も…もちろんですよ…!ことりちゃん…!だからもう泣かないでください…!マミーはここにいます…!」
呆れるほど成功的であった。
「本当…?本当にことりと一緒にいてくれるの…?」
「当然です…!私はことりちゃんのマミーですから…!」
今の言葉を何度も確かめる私にその回数だけ、いや、それ以上の確信の答えを聞かせてくれる先輩。
恐ろしいほどちょろい人だ。
「まあ、今のところ、一番適任者はみらいちゃんしかないか。」
「そうですね。」
っとゆうな先輩を含めた周りの皆もそう納得してきてこの話もそろそろ片付くのかなと思ったが
「だ…ダメよ…!そんなの…!」
どうやらまだ一人合点が行かない人もいるらしい。




