第247話
皆様メリークリスマスです!
と言ってもクリスマスって今日気づいたばかりなんですが!
ひどく寒い日です!皆様お体にはお気をつけてください!
来週はいくつかの面接がありますので少し投稿が間に合わなくなる可能性がありますのでご了承お願いします!
それでは楽しいクリスマスをお送りください!
いつもありがとうございます!
カプセルの中で光っているプラスチックの指輪。
一見なんの特別さも持たずただのおもちゃとしてその中で引かれるその時を待っているだけのちっぽけなおもちゃ。
でもその小ささは私とゆりちゃんの大昔の古い記憶を呼び覚ますに十分でした。
「わぁ!ゆいちゃん!その指輪、可愛いね!」
「えへへ~そうでしょう?お兄ちゃんがくれたんだよ?」
「いいなー私も欲しいよー」
小学校1年。
ある日、クラスメイトの子が指に挟んできた小さなプラスチックの指輪がクラス全員の注目を集めたことがありました。
細やかで可愛い形に子供達は目を奪われ、この辺りでは商店街のガチャでしか手に入れることができないという珍しさと相まってそれはあっという間にクラスの流行となってその頃、私達の一番トレンドになりました。
でも何より子供達の心をときめかせた
「この指輪、「引いたら願いを叶えてくれる」ってお兄ちゃんが言ってた。」
そのゆいって名前の少女からの一言でした。
ただ愛妹を喜ばせたかっただけかも知れない兄の善意の嘘。
でもそれがかえって子供達の渇望を加速化させるようになったのです。
今覚えれば多分100円ショップなんかでも売っていたかも知れません。
でもランダムという要素によるさらなる刺激。
そしてどうしても自分だけのオリジナルが手に入れたいという人間特有の性質と「願いを叶えるくれる力」というとびきりの特典がどうしても欲しかった子供達はお小遣いがすっからかんになるまで毎日そのガチャを引くようになったのです。
「指輪…」
そしてその頃のゆりちゃんは誰よりもそのおもちゃを欲しがっている子でした。
今もたまにそういうところありますがゆりちゃんって意外に迷信とかおまじないとかよく信じたりしますから。
幼いゆりちゃんがその指輪のことをどれだけ欲しがっていたのか今更言う必要もないのでしょう。
「指輪…」
なんとしても手に入れたいもの。
ゆりちゃんはその頃から街では有名なお嬢様でしたがお父さんが厳しい方だったのでその頃はあまりそういうことにお金を使わせてもらえなかったんです。
おばさんにおねだりしたらきっとガチャをまるごとかってくれたと思いますがどうやらその「引いたら」ってところがずっと引っかかってたみたいでなかなか苦戦していたと私はそう覚えています。
ノートに「指輪」って文字をたくさん書いたり、一日中その指輪を持っている子を羨ましくじっと見てたりとにかくゆりちゃんなりに結構胸を焦がしていたと思います。
そんなゆりちゃんのために私が取った特段の決断。
それはコツコツ貯めておいた貯金箱を開けることでした。
今覚えれば結構大金だったんです。
ゆりちゃんとネズミランドにも行きたかったしお父さんにも、お母さんにも何かプレゼントがしたくて好きな駄菓子も見放して貯めてきた大事な貯金でしたから。
でも私にとってゆりちゃん以外に大切なものはなかったんですから私は家に帰って躊躇もせず貯金箱を持って百合ヶ丘商店街に駆けつけました。
私は焦っていました。
まもなく例のガチャから指輪がなくなるって噂が出回っていましたから。
だから後先も考えず回しました。
回して回して回しまくってゆりちゃんが欲しがっていた小さなプラスチックの指輪を引くため私は手がしびれるほどガチャを回しました。
カプセルを開ける度にそこから飛び出してくれのが目当てのものではな他のものだったらがっかりした気持ちに焦る気持ちまで載せられて早くも絶望って感情を覚えるようになりました。
抜け殻みたいなカプセルが積み重ねるのを見ていると気が遠くなる気分でしたがここで諦めるわけにはいかない。
私は必ずゆりちゃんを笑顔にするんだ。
その一心でガチャを回した私の周りにはいつの間にかご近所の子供達が集まって
「次は出る!頑張れ!」
「頑張って!みもりちゃん!」
群れを作って私のことを応援してくれていました。
そしてそろそろ所持金が尽きる頃になって開けたカプセルの中から
「出た…」
待ちわびていた商品が出た時は皆私一緒に大声で喜んでくれました。
夕暮れの光に照らされてキラキラと煌く虹色の小さな指輪。
その小さな喜びを手のひらにギュッと握りしめて
「ゆりちゃん…喜んでくれるかな…」
私はゆりちゃんの笑顔を思い描きながらゆりちゃんちの方へ向かって夕暮れの川辺を走り続けました。
***
「ごめんなさいですわ。休日まで付き合わせてしまって。」
「ううん。なな一人じゃ大変だし。」
生徒会の仕事でかなの週末まで返却させてしまったことを気に病むなな。
だがかなはむしろななとの二人だけの時間が嬉しそうにただ
「それにななと一緒にいられるしね。」
そうやって笑うだけであった。
それがまたと途方もなく嬉しくなったななだったが
「ほ…本当そういうところですわ…」
高ぶる喜びをかろうじて抑えつつただほっぺを真っ赤に染めていた。
「ん?何が?」
「だ…だからそういう天然っていうか…もういいですわ…」
だがかなのそういう面もななは愛してやまなかった。
「終わったら一緒にお出かけでもしない?一緒にカラオケでも行きたいしなんか美味しいものも食べたいし。
それになな、最近ずっと働き詰めじゃん。私、無理してないかなって心配だよ。」
「そこまで心配しなくてもいいのに。わたくし、忙しいのが気性に合いますし。」
生徒会長のセシリアが記憶を失ってから数日。
その間、生徒会の指揮を執るようになったななは自ら週末も返却して生徒会の仕事に励んでいるがそこがまた無理してないかと心配になったかなはその手伝いをするため、自分も生徒会室へ向かうことにしたのであった。
「後輩達に負担をかけたくないっていうのはご立派だけどやっぱり無理は良くないよ。」
「元々「吸血鬼」は長年の夜をたった自分達だけで過ごしてきましたから。長くて寂しくてやることなんて一つもない真っ暗な夜。きっとそういう退屈なことが嫌いな性質がわたくしにも継がれたのでしょう。忙しいのは嫌いではありませんわ。お母様もそういう方ですしお父様だって…」
っと言いかけたななはふと出てしまう父のことに少し憂鬱な気分になってしまった。
吸血鬼の権威のため、そしてこの世界の安寧のため世界政府の最たる協力者として昼夜を分かたず働いた父。
だが長期間に渡る日光の過度な露出のため、彼は二度とベッドの上から起き上がることすらできない体になってしまった。
手伝う人がなければどこにも行けない体の父だが彼は自分の行動に悔いはないと娘にずっとそう伝えてきた。
「お父様はこうおっしゃいましたわ。ななが楽しく、幸せに生きることができたからそれで満足と。」
そして彼にそのような確信をもたせたのがかなの存在であった。
かなが娘の傍にいてくれたこそやっと笑うようになり、そして生きる意味を見つけられた。
それだけで彼は自分がやっていたことが決して無駄なことではなかったとそう思うことができたのであった。
だが娘である自分には父のそのような姿が心苦しく感じられるのは仕方がないことであった。
たとえ父の行動に誇りを抱き、正しいと思っているとしても娘として愛する父との時間がもっと欲しくなるのはやむを得ないことであった。
「じゃあ、今日は久しぶりにおじさんのところへ行こうかな。」
そしてその気持ちをよく分かっていたかなは今日はななの父がいる病院へお見舞いに行くことにした。
「いいんですの?遊びたかったのでは…」
自分に気を使って遊びたいという気持ちを少し畳んでおくかなのことが気にかかるようななな。
だがかなはななには久しぶりに父との時間を作ってあげたいと思っていた。
「おじさんだっていつも病院でやることなんてあまりないから退屈じゃないかなって。たまにお父さんがおじさんのところへ行くけどやっぱりななが遊びに来たら絶対喜ぶよ。」
っと自分だけではなく父のことまでちゃんと気を使ってくれるかなの気持ちがよほど嬉しかったのか
「あなた…」
ななの満月のような瞳は既にそっと潤っていたのであった。
「それにおじさん、めっちゃ面白いじゃん。ダジャレとか好きだし。」
「まあ、お母様はくだらないっていつもそうおっしゃっていますが。それに最近も病院のナースの方々にちょっかいを出されているようですし。」
「あはは…相変わらずだな…おじさん…」
元「赤城家」当主のななの父。
だが彼は毎度「仲良くなりたいだけさ」と言いながら周辺の女性達を煩わせる癖がある少し軽めの男であった。
「で…でもおじさんっておばさん一筋じゃん?ちょっと寂しがり屋さんだけだって…」
「まあ、そうですわね。実際「血の記憶」でもそう感じ取りましたし。それでもお母様はまだご安心できなそうですが。」
吸血鬼の特殊な意思疎通の一つである「血の記憶」。
それは血の中に刻み込まれている相手の意思を血を吸収して判明、解析、把握する吸血鬼にだけにしか使うことができない特殊な技で遠い昔言語を持たなかった吸血鬼が後代に自分達の意思を継がせるために使った吸血鬼のみの言語体系であった。
セシリアのような特殊な技術がなくても相手の心を知ることができる吸血鬼だけの技であったが彼らは公式的に世界政府から他人への直接的な吸血が禁じられているため、今ではあまり使われてない古い意思伝達の道具にしか思われなかった。
「吸血鬼は特に血液型を選びませんが使うためには異なる血液型に対する耐性もちゃんと鍛えなければなりませんしある程度の訓練も必要ですから今に至っては使える吸血鬼も本の一握りに過ぎませんわ。」
「へえーそうなんだー」
「おまけに吸血は禁止されているし使うためには相手との合意も必要ですし。その上、今は昔とは違ってあらゆる種族達の血が混じっている時代ですから。わたくしのような「純血種族」ではない種族が対象となれば正確度も非常に低くなりますから使うのに一苦労ですわ。」
だが血の純度が高ければ高いほど正確度は飛躍的に上がる。
ななの母はその特性を利用して夫に会う度にそれを利用して主人の心を毎度確かめていた。
「おばさん、本当におじさんのことが好きなんだな。まあ、一目でもそういう感じだけど。」
「ご自身に厳しいほどお父様のようなゆるい方がご必要となられるのでしょう。まあ…わたくしも同じだと思いますが…」
っとちらっとかなの方を見るなな。
ななは多分自分もそういう気性も受け継いだと思い込んでいた。
そこで生まれる一つの疑問。
かなはふと今頭の中から思いついたその疑問についてななに質問をすることにした。
「そういえばなんで私には使わなかったの?その「血の記憶」ってやつ。」
深い意味はない。ただ少し気になっただけ。
「え…?」
だがななにとっては意外のところを突っついてくる質問ということには間違いなかった。
「そ…それは…」
明らかに答えることを躊躇するなな。
考えもしなかったかなからの突飛な質問にななが困惑していることが歴々とした頃、
「無理して答えなくてもいいよ…!なな…!別にどうしても答えが聞きたいってわけではないから…!ちょっと気になっただけだし…!ごめんね…!?変なこと聞いちゃって…!」
かなはななから困っていることを悟って自分の無神経さを責めながら今の質問をなかったことにしようとした。
だがどうしても消すことができない疑問。
ななはなぜ有効な手段を持っていながらも自分と別れていたその長い時間を一人で苦しんでいたのか。
だが以外にその答えはあっけないほど簡単であった。
「だってずるくないんですの…そういうの…」
ななはただプライド的に「血の記憶」を使うことがどうしても容認できなかっただけであった。
「ずるいって…」
呆れてしまうほど簡単な理由。
だがななのプライドの高い性格のことをよく知っていたかなはななならありえると思わず納得してしまった。
「なんかムカつくのではありませんの…あんなものを使わなければあなたのことが分からないというのって…」
「そ…そうなのかな…」
自分は正真正銘の純粋な人間。
もしななほどの吸血鬼が自分の血を持って「血の記憶」を使ったらその正確性は絶対的と言えるほど極めて高い精密度を示すはず。
自分の血なんてななならたやすく手に入れて「血の記憶」が使うことができたはずて二人の仲直りを望んでいた両親の協力があればななはいくらでも自分の心を知ることができた。
だがそんな都合のいい方法が使えることにも関わらずあえて回りくどくてお互いのことを傷つけ合う術をなな自ら選んだ理由。
それはただ「プライドが許さなかった」であった。
「赤城財閥」の気高い吸血鬼。
「赤城奈々」という少女はそういう生き方をしてきた。
「わたくしはあなたのことを自分の一族として迎えましたからあなたのことなら自分が一番分かっているつもりでしたわ…だからあんなものがなくても自分はあなたのことなら全部分かると思い込んで…」
あの時は「確信」と思っていた強い感情。
だがそれがただの「傲慢」ということだったのを知った時、胸の底に抱いていた熱い感情は「絶望」という毒に置き換わって自分を中から蝕み始めた。
どんなに藻掻いて、足掻いても抜け出せないどす黒い「自己嫌悪」という名前の闇。
全身に張り付いてどんどん闇の奥に自分を引きずり込むその感情にななは抜け出すことも、抗うことでできずただ沈み続けていた。
それでも自分のプライドはたとえ辛くても死ぬほど悲しくてもかなのことにだけはその能力を使わせてくれなかった。
「あなたに関しては世界一になりたい…ただそう思っただけです…」
そう言った時、ななは先よりずっと憂鬱になってしまった。
それを黙って見守っていたかな。
その目に映ったななのことに彼女からどのような気持ちを抱いたのか誰も知らない。
だがかなは
「あのね、なな。それ、今使ってみない?」
何故か彼女にその「血の記憶」を使って欲しいと言っていた。
「はい…?」
予想通り戸惑ってしまうなな。
一瞬今日のかなは本当におかしいと思ってしまう彼女であったが
「いいから一緒に使ってみよう?」
そう言っている真っ青な目の底からただひたすら輝いている真剣さに気づいた時、
「はい…」
ななは思わず分かったと頷いてしまった。
「ですが血がなければ使えませんしわたくし…そのためにあなたのお体に傷をつけるのはやはり…」
っとかなの体に傷をつけることに気が進まないと躊躇するなな。
そんなななにかなはそっと微笑んだ後、
「別に血なんかじゃなくてもなななら分かってくれると私は信じている。」
そう言いながらただそのきれいで可愛らしい唇をななの方に向けるだけであった。
「ちゃんと分かってね?私の気持ち。」
っとそっと目を瞑るかな。
その一瞬で彼女の意図が完全に把握できたななは真っ赤な顔になって慌てふためいてしまったが
「も…もちろんですわ…」
今はただ素直にかなの気持ちを受け止めてあげることにした。
温かくていい匂い。
ふわっとして柔らかくて滑らかで気持ちいい。
触れ合った時のその幸せの感触を言葉で全部表すのはきっと無理かも知れないだがこの気持ちだけは自分の中でしっかり残したい。
そう思った時、ななはそれ以上自分の中から込み上げてくる高ぶりを抑えきれなくなってしまった。
のどやかなある午後の土曜日。
たまたまそこを通りかかるある生徒はその日のことをこう話した。
誰もいないはずの生徒会室から聞こえる少女達のあえぎ声。
ふと気になってそろっとそのドアを開けて中を覗いた時、中には二人の少女が汗をたっぷり垂らしながら体臭が満ちた部屋の中でお互いの名前を叫びながら失っていた時間を、愛情を取り戻していたと。




