第246話
いつもありがとうございます!
ここ「百合ヶ丘商店街」は私の実家からすぐ近くにあるこの町で一番の商店街です。
新鮮な野菜と魚、美味しいお肉。
毎日仕入れた美味しくて新鮮な食材が手に入れて私達の食事はここから始まると言っても過言ではないほどここは私達の生活から欠かすこともできない場所であり、たくさんの思い出がいっぱい詰まっているかけがえのないところなのです。
「ゆりちゃん。何にする?」
「ん…どれも美味しそうで迷っちゃいますね…」
学校が終わったら毎日ゆりちゃんを送ってあげるために通り過ぎていた街。
ここで私とゆりちゃんはよく精肉店で一緒にコロッケを買いました。
夕方の沈んでゆく日光が染み付いた香ばしくて美味しそうな匂い。
それに惹かれた私達は自然にそっちへ足を運んでお互いのコロッケを選び合いました。
「私はチーズ入りがいいかな。」
「あら?みもりちゃん、チーズが食べたいんですか?なら私のチーズを食べてくださいよ♥」
「何言ってんの!?」
っと戯れ合ったり
「ゆりちゃんのカレー味、美味しそう。私のと一口交換しない?」
「いいんですか?じゃあ、できるだけみもりちゃんの唾液、付けておいてくださいね?♥」
「だからなんで!?」
っとお互いのコロッケを食べさせ合ったりする有り触れた日常。
それだけはない。
「今日「私達の町」で私のみもりちゃんが皆さんにご紹介するお店はどこなんですか?♥」
「きょ…今日はここの西村さんのとんかつ屋さんを皆様にご紹介したいと思います…!」
「フェアリーズ」として活動した大切な日々。
「お母さんー私、夕飯はハンバーグ食べたいなー」
「えー?お母さん、今日は魚食べようとしたのにー」
「なんでぇー」
「あははーお父さんはどっちでもいいかな。」
家族皆で買い物をしたり、ハロウィンやクリスマスイベントに行ったりする何気なくても楽しくていっぱい笑った大切な日々。
そんな毎日を私達は心から愛し、そんな私達のことをこの町もまた愛してくれました。
そして今それを思い出させてくれたこの場所こそこの町の象徴であり、魂ということを私はよく知っていました。
皆が笑顔でいられる温かい町。
私は多分そういう場所が好きで作りたかったんじゃないかと今こうやって自分に問いかけてみます。
ここから離れたのはたったの数ヶ月にすぎないのに一体何なのでしょう…
ただ普通に戻っただけなのにもう胸がこんなにぐっとしてなんだかすごく懐かしくなっちゃって…
まるで眠っていた何かが目覚めたような気がして…
この気持ち…どうかゆりちゃんにも一緒に感じて欲しいって私はそう思い…
「ええ…なんかむにっとする…」
「それはスライムってやつです。会長。」
「そういえばよくこれでみもりちゃんと遊んだりしましたね。こう顔に乗せて「みもりちゃんのぶっかけ♥」とかで。」
「え…なにそれ…怖っ…」
全然分かってもらえませんでした。
私がちょっと感想しながら目を離した間にいつの間にか道端でおもちゃとかが出るガチャを回している皆。
薫さんからもらったお小遣いを早くもこんなところで使っているんですね、会長さん。
ダメですよ?もっと大切に使わなきゃ。
ってまた変な遊び方教えてるんだ、ゆりちゃん…
「まあ、いいじゃん。会長、こんなに喜んでいるし。」
っとすっかり会長さんのことを甘やかしている青葉さん。
彼女はこれも地元経済にとってためになると私を納得させようとしましたが私、ちょうどここで小学生の時にもらったお年玉を全部使っちゃってお母さんからめっちゃ怒られたことがありますから。
おかげでゆりちゃんとネズミランドも行けなかったし。
だからお金はもっと大切に使って欲しいです。
そういえばこれもここに来てから思い出したことですね。
なんだかここに来てからどんどん懐かしい記憶が蘇ってきてちょっと宝探しみたいな気分かも。
「そういえば虹森さんって緑山さんにあまり経済的なこととか頼らないんだよね。前にも黒木さんと二人でバイトもしてたし。」
「あー…ウェディングドレス試着の…」
っとこの前のゆりちゃんのためにクリスちゃんと二人でこっそりドレス試着の時のことを思い返す青葉さん。
あの時は青葉さんにも、赤城さんとかな先輩に大変お世話になっちゃいましたね。
もちろん一番の功労者は何から何まで一緒にしてくれたクリスちゃんでしたが。
あの時はやって本当に良かったってそう思いました。
だって花嫁姿のゆりちゃんはとてもきれいで幸せそうだったしすごく喜んでくれたから。
まあ、内緒にしてたせいでちょっと揉めたこともありますがそれも乗り越えて今の私達がいるんですから。
でも正直に言うとお金の方ならやっぱり結構かかりました。
「だってドレスレンタル料って思ったより高かったから。クリスちゃんが出してあげるって言ったけどやっぱり私、そういうの良くないと思うし。」
ドレスのレンタル料だけではない。
ヘアメイク料金も別だった会場を収めるのも手一杯だったから。
たまたま空いた会場があって安くもらったから良かったものの危うく借金までできてしまうところでした。
「店長さんがアンドロイドだから全然安くもらえなくてちょっと苦労はしたけどその分ゆりちゃんが喜んでくれたから私はいいかなって。ゆりちゃん、めっちゃきれいだったし。」
「みもりちゃん…」
こういうのちょっと変かなって思ったりはするんですがどこにも渡したくないくらいきれいだったから。
あの時だけは夜中まで皿を洗ったりあの大きなホールを掃除したりした苦労なんて一気にふっとばされちゃうくらいでした。
ゆりちゃんの笑顔がまた見られて本当に良かったと思います。
それってきっとただ楽な道を選ぶだけでは得られない満足感もあるからではないかといつかクリスちゃんは私にそう言ってくれました。
ゆりちゃんも、クリスちゃんもお金に困りのないお嬢様達ですが私はできるだけ自分の力でやりたいとそう心得ています。
だって私がまだこの世に生まれる前のお父さん、お母さんはもっと大変でしたから。
「大家」から抜け出してお母さんとの結婚を決めたお父さんは友人であるゆりちゃんのお父さんが住んでいたこの町で定着するために大変な思いをしました。
妊娠中のお母さんのために昼には重い荷物を運び、夜にはお勉強。
お母さんが市役所で働くようになってからは生まれた私の育児まで担っていたお父さん。
お父さんが忙しくなった時はお父さんが私を連れて市役所に行きました。
「御祖母様はお父さんとお母さんの結婚をすごく反対しました。でもそれも乗り越えて私をこの世で生きられるようにしてくれましたからそんな私がただ自分の都合で楽な道を選ぶのはちょっと違うんじゃないかなって。」
それにゆりちゃんやクリスちゃんにお金なんかで迷惑かけてくないし自分に必要な程度なら自分でなんとかできると思いますから。
まあ、こんなこと言っても私だってまだお母さんからお小遣いもらってるし単に大人ぶりながら自己満足しているだけかも知れませんけどね。
「だから緑山さんもあまりお金のこととか虹森さんには言わないんだね。ちょっと珍しいなと思ったよ。だって緑山さん、虹森さんのことにはすごく献身的になっちゃうから。」
「ええ。みもりちゃんはとても強い子なんですから。そんなみもりちゃんに自分のエゴだけを押し付けるような野暮なことなんて私には到底できないんです。」
いや…ゆりちゃん、結構私に押し付けるって…パンツ見せてくださいとか、腋舐めさせて欲しいとか…
というわけで私はほんの少しですが自分がちょっとだけ強くなったような気がします。
お父さんとお母さんの苦労に比べたらちっぽけなことかも知れませんがこうやって一つ一つ小さいことから積んでいけばいつか自分の将来のための糧となり力になると私はそう信じています。
「すごいですね。虹森さんは。」
「はい。とても偉いよ。そうでしょ?緑山さん。私も見習わなくちゃ。」
「えへへ…ありがとうございます…」
っと私のことを褒めてくれる会長さんと青葉さんの言葉に私はただ照れくさく頭をかくだけでした。
「はい。私の自慢の花婿ですから。」
でも一番喜んでくれたのはいつだって私の自慢の花嫁であるゆりちゃんでした。
「しかし今どきにカチャなんてちょっと懐かしいですね。」
っと今度は自分の方からガチャに興味を見せる私。
いくら大人ぶってもすぐこういうことに興味津々なっちゃうところを見るとやっぱり私ってまだまだ子供ですね。
まあ、分かってはいますけど…
久しぶりに見るカチャのことについ心を惹かれた私は最近の中身も昔とはあまり変わらないことに気づきました。
スライムやミニカー、こまみたいなおもちゃからヘアピンやビーズの腕輪みたいなアクセサリーまで結構揃ってますね。
どれも彩って可愛くて目移りしちゃいますー
まるで宝箱でも見ているような気分で思わず一度回したくなっちゃうんですよねー
その中で私の目についたのは
「この指輪…まだあるんだ…」
私とゆりちゃんの思い出の中で眩しく輝いてるある指輪模様のおもちゃでした。




