第244話
ブックマーク頂き誠にありがとうございます!
最近急に寒くなって少し風邪気味です。
皆様もお体にはお気をつけてください!
いつもありがとうございます!
「ママ活って…また変な言葉学んじゃって…」
「だ…だってネットで見たのよ…そういう応援方があるって…」
「それは状況によるものっていうか…とにかくママ活って単語は禁止。」
「まあまあ、二人共。お客様達の前だから。」
少し遅めのブランチをしながら久しぶりに家族皆で談笑の時間を持つ虹森さん一家。
最初の話題は虹森さんのお母さんであるすずこさんからの私への「ママ活」でした。
「で…でもお母さん…どうしてもうみちゃんのことが応援したいもん…」
「それはすごくいいと思うんだけど…っていうか娘の応援もしてよ…」
「もちろんみもりの応援も頑張るから…!」
なんだか久しぶりに会ったお母さんにいっぱい甘えているように見える虹森さん。
普段は結構大人っぽいことを考えたり皆の前ではしっかりしようとしているのにこういう時に限ってはあの虹森さんだってしょうがないお子様ですね。
「でもお母さん、みもりがゆりちゃんちと一緒にまたアイドルやるって言った時、すごく喜んでたから。おばあさんにも電話して泣いちゃったくらいだったし。」
「ええ…なんで皆の前で言っちゃうのかな…」
「え…?そうなの…?」
娘の虹森さんがまたアイドルを目指すようになったことがよほど嬉しかったようなお母さん。
でもさすがに娘さんに話すには少しお恥ずかしだったのようです。
「うん…まあ…みもりがアイドルを始めたのはお母さんの話がきっかけだったから…もうやらないのかなって思ってたけどまたゆりちゃんと一緒にやってくれてお母さん、純粋に嬉しかったの…」
「お母さん…」
照れ方も娘さんとそっくり…
思いっきり恥ずかしがってますね。虹森さんのお母さん。
親子だからこそむしろ言いにくかったかも知れませんね。
「だから頑張って。お母さんも、お父さんも応援するから。」
っと娘さんの頭を優しく撫でてあげるお母さん。
そんなお母さんの元気づけの手に虹森さんはただいつもの「えへへ…」って照れくさい笑顔でありがとうと言うだけでした。
「ゆりちゃんも頑張ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
そして虹森家のもう一人の娘さんにも欠かさず応援の言葉を伝える優しい義理の親さんでした。
心温かくなる微笑ましい光景。
この光景の中、私はふと去年のことを思い出してしまいました。
「うみちゃん!レギュラーおめでとうございます!」
「おめでとう。うみっこ。」
去年私が合唱部のレギュラーに選ばれた時、先輩と赤座さんで先輩の家でやったお好み焼きパーティー。
「ほらほら。マミーがたくさん作っちゃいますからいっぱい食べてくださいね。ことりちゃんもほら。」
「先輩ー作るペース早すぎですってばー」
私がレギュラーに選ばれたことがよほど嬉しかったような先輩。
テンションを上げて食べきれないほどお好み焼きを作りまくっていた先輩の姿が今もまぶたについているようです。
赤座さんの皿が空いたらすぐ新しいものを乗せちゃう先輩と先輩が乗せまくったお好み焼きを持て余して困っていた赤座さん。
あの時、先輩は微妙に赤座さんのことばかりかまっていて私はちょっとだけ剥れていました。
「私のお祝いなのに赤座さんばかり…」
っとかで。
今思えば先輩って周りから近づきにくいって思われる割に一度親しくなったら結構好かれやすいタイプだったかも知れません。
私はあの日の夕方の先輩の路上ライブを見て自分の全部だった仕事まで放っておいて先輩と同じ学校に入学したのに先輩はいつも私だけではなく会長や赤座さんともいちゃついちゃったりして私はそれがかなり不満でした。
人間関係において赤座さん以外は特に興味を持たない私が何故か先輩のことになったらやけにムキになったということ。
それが自分自身にも理解できない困惑なものだったんですが決して嫌ではなかった。
むしろあの時の私は今までの自分には知らなかった新しい素直な自分を見つけたような気がしてその環状を結構気に入っていたと覚えています。
「でもやっぱり先輩には私だけを見て欲しい…」
もちろんそれと別として私のことばかり気にしてくれないのはちょっと不満でしたけど。
「うみちゃん。デザートにチョコミントシャーベットを買っときましたから後で一緒に食べましょう?」
でもそういう細かいところまで気遣ってくれる先輩はやっぱり私の大好きな人でした。
「先輩ーことりのはないんですかー?」
「もちろんありますよ~はい♥ことりちゃんの大好きなマミーのミルク♥」
「全然違いまチュン!」
っといつの間にかボタンが落ちてはだけた胸を赤座さんの方に見せびらかす先輩とそんな先輩に難色を示す赤座さんのことを見て私は本当にこの学校に来て良かったと思ってしまいました。
赤座さんは外では明るく振る舞っていても中では一人で背負っていることが多い子でしたから。
人に見下されないように、天下りの芸能人って言われないようにいつも自分を追い詰めていて私はそれが心配でしたが先輩と一緒にいる時の赤座さんを見ているとその心配さえただの杞憂に過ぎなかったということになってしまう。
そんな赤座さんが今はあんなに笑っていてそれを見て私は先輩との出会いに心から感謝しました。
一緒にご飯を食べて何もない話題で話し合って笑い合って。
何の特別なところもない、ちょうど今の虹森さんのご家族のことを見ているような景色。
私はそんななにもない毎日を心から愛していました。
今はもう戻れない当たり前だった日々。
でもその大切さは今もこの胸にちゃんと残っている。
先輩が残してくれたこの温もりの欠片は私が死ぬその瞬間まで私の心で生きているんだろう。
私はただふと少しだけ寂しくなった時、それを胸の引き出しからそっと出してたまに見るだけで十分。
虹森さん、私はだからこそあなたの大切な毎日を守ってあげたい。
あなたには私みたいにはなって欲しくないから。
大切な人達と笑い合っていつまでも幸せに暮らすこと。
それが私が望んだ最高の結末だから。
先輩に選ばれたあなたにはそれを享受する資格がある。
だからあなたはそのままの笑顔でいてね。
そう思った私はただ大切な人達に囲まれてとびきりの笑顔になっている虹森さんのことを目に焼き付けるだけでした。
「でもゆりちゃん、随分疲れたはずなのによくやったね。」
「それくらい平気です。ねぇ?みもりちゃん?」
「え?何が?」
でもその話題が食卓に上がった途端、私はすすっていた味噌汁をそのまま吹き出してしまいました。
「ええ!?青葉さん!?大丈夫ですか!?」
「うみちゃんの口に入った味噌汁…!」
「ええ!?そこ重要!?」
っと虹森さんは今にでも私の口から噴出された味噌汁を舐めようとするお母さんの反応にきっちりとしたツッコミを入れてきましたが重要なのはむしろそこじゃない…!
もしかして虹森さんのお母さんって寝る前の虹森さんと緑山さんのことを既に知ってたのでは…!
「まあ、この家、結構古いし防音とかあまりよくないですから…」
「でもうちでは割りとよくあったことですから気にしないでください。」
って何この家はゴキブリとかがよく現れますって感じで話しているんですか…!
「み…皆…何の話…?」
って本人は全く気づいてない…!
「みもりちゃんには知らなくてもいいです♥ほら♥あ~んして♥」
「あ…あーん…」
っと緑山さんから食べさせるウィンナーをむしゃくしゃな顔で食べている虹森さんを見ているとなんだか良心の呵責ってやつを感じてしまう…
これ…教えるべきなのでしょうか…
「でも女の子ばかりで食卓が華やかで嬉しいねーみもりとゆりちゃんが帰ってくれたのも嬉しいけどまさかこんな有名人達とただで飯が食えるなんてね。」
「いつもお父さんとお母さん二人だけだったから。こんなに賑やかなのは久しぶりかも。」
久しぶりに大勢の人数で食事ができてさぞごきげんそうな虹森さんのご両親。
有名人なんてちょっと大げさだと思いますが
「うみちゃん…♥うちの食事はお口に合いますか…?♥」
お母さんのあのうっとりした眼差し…
確かに私の存在はこの家の人達にとって有名人と認識されているようですね…
「はい。とても美味しいです。私の実家も定食屋だからこういう雰囲気の食事はとても嬉しいです。」
「そうですか?良かったー」
喜ぶ姿も娘さんとそっくり。
そんなに喜んでもらったらさすがにちょっと照れちゃいますが誰かの喜ぶ姿を見ることなんて私にも本当に久しぶりですから。
今日は虹森さんにも、そのご家族にも心ゆくまで喜んで頂きたいですね。
「セシリアちゃんもいっぱい食べてくださいね?」
「は…はい…」
今度は料理のお手伝いをしてくれた会長に話しをかける虹森さんのお母さん。
もう打ち解けたように私のことを呼ぶ時と同じく彼女はもう会長のことを「セシリアちゃん」って呼んでいました。
でもその呼び方が会長は結構嬉しかったようです。
「お母さん、セシリアちゃんがこんなにしおらしい性格だったなんて全然知らなかったんだ。なんかテレビとかで見ると堂々としてかっこよくてまさに「女王様」って感じだったから。でもこっちのセシリアちゃんも可愛くて大好きー」
「きゃ…キャラなんです…キャラ…」
今の自分にはない記憶のことを話しているのに慌てたり不機嫌になったりする気配もなく自然に彼女と会話を続けている会長。
最近記憶を失う前の自分の話をすることを周りからタブー視していることに気づいた会長は今は一旦その話を忘れるようにしていました。
それどころか最近は自ら自分の過去と向き合おうとしています。
もう戻れないかも知れない記憶。
それを何度もほじくり返されるのがいかに辛いことなのか私ですら十分分かっているのに会長は決して自分の過去から逃げませんでした。
まるでなんとしても取り返したいものがあると言っているように。
私はそれを見て会長は記憶を失っても相変わらず強い人だなと感心する一方、ついその折れない心を羨んでしまったのです。
私なんてもう二度と戻れないと諦めているのに会長は辛いこととちゃんと向き合おうとしていてそれがどうしようもなくと…
だからこんなにも遠く感じているんでしょう。
私なんかじゃいつまで経っても会長に追いつけないって私自身がそう思ってしまったから。
でも会長。これ一つだけは覚えてください。
あなたがどんなに遠くなっても私はいつまでもあなたのことを愛しています。
だってあなたは私の人生の中で初めて現れた同じ相手をおいて競い合う恋敵であり私の全てを理解して最後まで味方になってくれる私の唯一の理解者ですから。
…ってなんか妙に告っているって感じになっちゃいましたね…私ったら…
今のはどうか忘れてください…お願いします…
「ところで今日の予定はどうなってるの?」
っと早くも話題を変えてしまう虹森さんのお母さん。
これ…自然ってところが結構慣れている感じですね…
「んーまずはゆりちゃんちに行っておばさんとおじさんに挨拶かな。それから青葉さんと会長さんと一緒にこの辺を案内して…」
「結構忙しいんだね。お父さん、今から学校に行かなければならないから車で送ってあげようか?」
「え?お父さん、学校行くの?」
「論文のことでね。」
新しい論文のことで土日も学校に行かなければならないという虹森さんのお父さん。
そんなお父さんのことを虹森さんは子供の頃からずっと尊敬していたと彼女は私にそう話しました。
学系では著名な歴史学者として名高い虹森さんのお父さん「虹森源之助」教授は元「大家」という多少危険な素性にも関わらずこの星の未来を後代に託すためにとたくさんの論文を書いてきました。
学系だけではなく宗教界でも有名な虹森教授のことを私も元巫女であるお母さんから聞いたことがあるほど彼の平和に対する真剣さはたくさんの人達から認められていてそれについて世界はもう教授の「大家」という出身を問わないようになりました。
誰より自分の仕事を愛して皆のために働いているお父さんみたいになりたい。
いつか私に話した虹森さんの話。
虹森さんが他人のために頑張れる人になったのは多分こういう優しい気持ちを親から受け継いだおかげかも知れないと私はそう思います。
「ううん。久しぶりだしもうちょっと歩きたいから。」
「そう?」
っと私達にこの辺のことをもっと見せたいという娘さんの話に「じゃあ、しっかり案内してあげてね」って話した後、虹森さんのお父さんは食事を済ましてそのまま大学へ向かいました。
私は本当に素敵で優しいお父さんだと虹森さんにお父さんのことをそう話しました。
「じゃあ、夕食前まではちゃんと帰ってきてね?ワンダさん、どうしても皆にごちそうしたいって張り切ってたから。」
「お母様がですか?」
どうやら今日の夕食は緑山さんの家で食べるらしいですね。
私的には虹森家の定食の方が気楽で落ち着きますが向こうはとてつもないお金持ちですから。
何が出るかちょっと楽しみですね。
「それじゃ食事も終わったところですしそろそろ行きましょうか。」
「そうね。あ、ちょっと待ってもらえる?薫さんが出かける時は声をかけて欲しいって言ってたから。」
「じゃあ、私は後片付けをしてますから準備できたら言ってくださいね?」
「あ…青葉さん…私も…」
っと私と会長が薫さんを起こしに行く間、虹森さんと緑山さんが食事の後片付けをすることにして
「既に準備はできております。」
部屋に入った私の前には既にお出かけの準備を済ました薫さんがむしろ私達の方を待っていました。




