第233話
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「お…大きい…」
「ここがすみれちゃんのお家…」
予想を遥かに超えた大きさに口が閉じないほど驚嘆してしまう先輩。
でもそれは私も同じ感想であった。
「私…すみれちゃんとは高校生の始まりからの付き合いですけどお家に来るのは初めてで…いつも「灰島」のホテルで遊んだりしましたから…」
「しかもここってただの学校に通うための別荘なんですよね…?さすが「灰島」…」
あの「灰島菫」さんと1年からの交友関係を持っている先輩でさえ一度も見たこともない屋敷。
でも私はどうしてあの人が先輩をここに招待しなかったのかなんとなく分かってくるような気がした。
「だってこんなの、絶対迷子になっちゃうから…」
入り口から感じられるただならぬ空気。
私は灰島さんが先輩のために実に正しい判断をしたと思ってしまった。
この辺りの土地を全て買い取って作ったという巨大屋敷。
それはまるでテーマパークを思い出させるほどの凄まじい大きさを見せつけていた。
どこまでも広がっている果てしない庭。
そのお花畑に包まれた真っ白な建物はまるで御伽噺に出るお姫様の城みたいに雄大で孤高な威容を放っていて私はうっかり自分がそれなりに財力のある家の娘ということまで忘れてしまった。
「赤座組」の娘として不足なく育てられてきたつもりの私だが
「さ…さすがにこれは…」
やはり「灰島」の前ではまともに相手すらされてくれないということを改めて思い知らせられた。
「すみれちゃん…こんなお姫様の宮殿で住んでいたんですね…」
「ははっ。初めて見る方々は皆そうおっしゃいます。」
後ろの座席でまだ驚きを抑えられていない先輩の話にここまで私達を車で送ってくれた「灰島」の社員の「野田」さんは特に珍しいことではないと話した。
でも一番珍しかったのは野田さんが今は殆ど絶滅した「獣人」の人ということであった。
「しかしまさか「獣人」の方と出会えるんだって…」
せめて私は初めて見た。
仕事で色んな人達と出会ってきたつもりの私だが今まで獣人は一度も見たことがなかった。
「山羊の一族」。大きな体と角、そして黒くて長い毛。
黄色の瞳を光らせて今ちょうど玄関を通ったその人のことを初めて見た今朝にはあまりにも驚いたすぎて思わず大声まで出してしまった。
人間に近い「人獣」とは違って頭部のところは完全な獣の山羊の形をしている獣人のことは不慣れの私にとっては衝撃の極みのものだった。
なんか違和感があるっていうかとにかくここんとこ一番ショックなことだった。
「だ…ダメですよ、ことりちゃん…!人のことを見てそんなに驚いたら…!」
「あ…!す…すみません…!」
先輩はそんな私の失礼極まりないの行動のことについて注意をして私も直ちに自分の行動について彼にちゃんと謝ったが
「いえいえ。もう慣れたことですのでお気になさらず。」
彼は思ったより純朴な笑顔で私の無礼をそのまま流してくれた。
「今は大分ましになりましたが私が小さかった時はもっとひどかったんですからね。驚くところか石を投げたりいきなり殴られた時もありまして。」
「た…大変でしたね…」
「まあ、その頃は仕方なかったと思いますがとにかく随分苦労しました。」
二十年前、「犬神」と呼ばれる「獣人」の首領「狼の一族」の男による世界各地で行われる大規模のデモ活動。
彼の目的は「獣人」の世界政府からの完全独立と自治権の保障だった。
だが過去の世界政府に向けたテロ行為によって「罪の一族」と烙印を押された「ゴーレム」と同じく獣人もまた何回の過激な活動によって要注意種族として目を付けられていたので世界政府はその行為を世界を脅かすテロ行為と見做し、速やかに鎮圧作戦に開始した。
彼の活動は人々の獣人嫌いを招いてしまい、はびこらせてしまう最悪の結果を生み出してしまった。
「獣人はすぐ鎮圧され、幹部級は全員死刑、些細な繋がりでも存在する人は一人残らず刑務所に送られました。当時は獣人の皆は彼に賛同していたので関係のない獣人は誰もいませんでした。私の父も彼に協力してたので私が大学に行くまで刑務所で一生を送られたんです。ですが肝心な「犬神」という男だけは捕まらず生き残ってて世界政府は今も彼を追っています。」
既に世界政府は彼の身内の居所は把握していたが彼は自分の家族のところには一度も会いに来なかった。
「最近は生きているのかすらあやふやっという声も出ていますが私は彼に生きていて欲しいです。今私がこうやって正常の生活が営めたのは彼の声があったおかげです。やり方は過激でたくさんの人達が死にましたが彼のおかげで獣人の地位は過去と比べ物にならないほど向上されたというのは確かな事実です。父上もたとえ牢獄の生活はすこぶるひどかったでも彼のことを心底から尊敬しているとよくおっしゃいました。」
っとその犬神という男に対する感謝と尊敬の気持ちを表す野田さんの顔は獣人の表情が読み取りきれない私にでもはっきり分かるほど鮮やかでありがとうって気持ちでいっぱいになっていた。
でもその気持ち…全然分からないものでもないかも知れないと私はふとそう思ってしまった。
他人のために、周りのために喜んで悪役を引き受ける人。私はそういう人達のことをたくさん知っていた。
くじけないヒーロー。泣かないヒーロー。いくら周りから罵られて指差しされても何度も立ち上がって皆のために戦ってくれるダークヒーロー。
私はそういう人達のことをたくさん知っていた。
「申し訳ありません。なんだか急に重い話をしてしまって。ですがすみれ様が皆様のことをお呼びになったのは多分それと同じ理由ではないかとおこがましいですが私はそう思います。」
「同じ理由…」
出かけの途中だった私達をマンションの前で待ち受けていた「灰島」の社員達。
その黒スーツの男達は大企業「灰島」の世継で先輩の友人である「灰島菫」さんのお願いで私達を迎えにきたと言った。
私には到底縁のない人。
でも先輩には彼女とのことで何か重要なことがあったらしくて先輩は二言もせずに車に乗った。
「ごめんなさい、ことりちゃん…ちょっと用事ができてしまって…」
私との約束が果たせなくなったことをすごくすまなそうな顔で謝る先輩。
でも私にはこの前、一人でこっそり学校に行った時に同好会の部室のロッカーの中で聞いてしまったあい先輩の話があった。
だからいくらでも理解できる状況だった。
でも…
「どうしてことりまで…」
私のことまで呼ばれたのは全くの予想外の状況であった。
結局ここに車で野田さんは私達に何も言ってくれなかった。何を聞かれても
「それはすみれ様から直接お二人様にお話しすることですので。」
っと野田さんは全然答えてくれなかった。
でもきっとそれほど重要な話だろうという直感を私は強く感じていた。
「ですがまさかあの伝説の女優さんの運転が務めさせていただけるなんて。光栄の至りです。」
急に今日私と出会うことができたことに大きな喜びを感じていると喜ぶ野田さん。
彼は昔からテレビでよく私のことを見ていたと話した。
「いやーこれは会社で自慢できるかも知れませんねー実は今日のことで会社でちょっとした揉め事があったんです。皆自分が行きたいって言って。」
「そ…そうなんですか…?なんか照れちゃいます…」
私の運転役を置いて会社で些細な神経戦が起きたという野田さんのその話は私を少し恥ずかしい気持ちにさせてしまったがそれ以上、私は皆がまだ私のことをそう思ってくれたことがどうしようもなく嬉しかった。
「結局くじ引きで私が務めるようになりましたが本当に運が良かったですねー実は娘が赤座様の大ファンでどうしてもサインが欲しいって頼まれて。あ、娘も第3に今年の1年生で入学しました。」
「ことりのファン…」
ファン…なんという響きだろう…
私はその事件以来、自分への自信を完全に失っていた。誰も私のことを好きにはしてくれないと思っていた。
でも野田さんの私のファンだという娘さんの話を聞いて私は少し胸がいっぱいになるような気がして
「そ…そこまで言われたら仕方ないですね~もちろんやりますよ~サインでも写真でもどんと任せてください!」
思わず昔の癖で思いっきり人前でドヤってしまった。
「久しぶりですね。こういうことりちゃん。」
「先輩?」
そんな私を見てほんのりした笑みを浮かべる先輩。
私はふと今の自分のことがすごく恥ずかしく感じられてしまったが
「もー♥本当可愛いですね♥ことりちゃんって♥」
っとそのでっかいおっぱいに強制的に私を埋め込む先輩のおかげでそれもそう長くは持たなかった。
「せ…先輩…!だからこれ普通に苦しいって…!」
「ことりちゃん、ふにゃふにゃしていい匂い♥ほらほら♥もっとマミーを感じて♥」
「た…助けてチュン…」
ふかふかで凄まじい乳圧。
もう私の頭が見えないほど私を埋めた先輩の胸の感触から私は先輩の胸がまた一回り大きくなったことに気づいてしまった。
まだ大きくなるのか、この人…怖っ…
窓の外から見える広いお花畑。
その中を横切って伸びている大きな道を辿ってついに私達を呼んだ灰島さんが待ち構えている城のような本館に差し掛かってきた頃、
「あ…あい先輩…!?」
私の目に入ったのは入り口で私達を待っている、今の私が一番怖がっている人の姿であった。




