第228話
遅くなって大変申し訳ありません。ここ一週間体調を崩してしまい、思いがけない休息を取ることになりました。お待たせしてしまい改めて申し訳ありません。
ブックマーク1名様誠にありがとうございます!
登場人物であまり男の人を立たせてないのでなんだか新鮮ですね。
これからもどうぞよろしくお願い致します。
いつもありがとうございます!
家に帰る道。車の中で眺める見慣れた景色は久しぶりに帰ってきた私のことをいつもの笑顔で迎えてくれました。
川を挟んだお父さんのちょっぴり古いワゴンはどことなく懐かしいエンジン音を立てて夜の道を走っている。その中から眺めるとびとびとした人家の明に細やかな寂しさと同時にどことなく心の安静を感じて閉まった私は
「やっと帰った…」
っと故郷との再会を喜びました。
「みもりが向こうに行ってから2ヶ月経ったのかな。早いね。」
運転席から隣の私にそう話したお父さん。
たったの2ヶ月か…そう言われたらあまり時間とか過ぎなかったかも…
でもお父さんは私とゆりちゃんの帰りがすごく嬉しかったようです。
「そうね。みもりとゆりちゃんがいなくなってお父さんも、お母さんも寂しかったから。もちろんゆりちゃんちも二人にずっと会いたがったんだ。」
「そうか。」
そう言われたらなんか安心…皆、私達のことをちゃんと想ってくれたんだって思って…
「もちろんよ。何だってみもりも、ゆりちゃんも父さん達の宝物だから。」
っと言ったお父さんの顔を見た時、私はお父さんがすごく懐かしくてなんだかほっとしたような顔をしていることに気が付きました。
去年、私が御祖母様のところに連れられた時、誰より自分のことを責め、恨んでいたお父さん。
お父さんは自分の「大家」の血を私に受け継がせたことをずっと後悔していました。
「みもりが帰ってくれてお父さん、本当に嬉しいよ。」
でも今はすごく安心している顔のお父さん。
私はお父さんのこういう和やかな笑みが大好きでした。
後ろの皆は長旅の疲れで家に着くまで少し寝ていて起きているのは護衛の薫さんだけ。
そのおかげで私は久々にお父さんとじっくりお話ができました。
「でもまさかみもりとゆりちゃんがまたアイドルを再開するとはね。」
「へ…変かな…?」
この歳になってまだ昔のことを未練として引きずっている私を往生際が悪いって思ったらどうしようって心配することもありましたがそんな私に
「良かった。みもりにまたアイドルができて。」
お父さんから言ってくれたのはただの安堵の言葉でした。
「お父さん、実はずっと悩んでいたんだ。結局みもりが小学校の時、アイドルを止めさせられたのはお父さんのせいだったから。」
御祖母様の命令によって私とゆりちゃんのアイドル活動は挫折されてしまった。
そのことにお父さんはとてつもない責任感を感じていました。
「だってあの時のみもりは元気で本当に楽しそうに見えたから。お父さんはみもりにもう一度アイドルをやって欲しかったんだ。」
でも自分のせいで全部台無しにさせてしまったと思っていたお父さんは私にまたアイドルをやって欲しいとなかなか言えませんでした。
またそんなことが起きてしまったら今度はただ傷つくだけのことで済まないってことをお父さんはずっと恐れていました。
「それに去年はついにあんなことまで起きてしまったから。お父さんの血筋のせいで今まで散々ひどい目に遭ってきたみもりにどうしても顔向けができなくてね。でもまたこうやって前へ進んでくれてお父さん、すごく嬉しいよ。さすがお母さんの娘だね。」
頻繁な怪我にも諦めず選手生活を続けてきたお母さん。
最後のオリンピックで金メダルを首にかけたお母さんは私達の誇りでした。
お父さんはお母さんのそういう屈しない精神力こそ一番の強力な武器だと言い、尊敬していました。
でも私はそれはお母さんにだけではなく、お父さんの中にもちゃんと存在していると思います。
もしお父さんが間違っていることから目をそらして、全部諦めてそのままあの家の全てを「正義」だと受け入れてしまったら私はアイドルところかお父さんとお母さんの子には産まれられなかったんでしょう。
産まれたこともなく、アイドルにも、ゆりちゃんや皆と出会うことにもできなかったかも知れない。
あの家より外はもっと素敵で温かさで溢れていることを教えてくれたのは全部お父さんが勇気を出してあの家から出てくれたおかげ。
私のお父さんの勇気に敬意を表して
「あはは…そこまで言われたらちょっと照れるかな。でもありがとうな、みもり。」
お父さんはそうやって少し照れくさい顔で笑うだけでした。
皆が大好きで皆の笑顔が大好きで皆の力になりたいって思える子に育てたのは全部温かくて強い気持ちを持っていたお二人さんが私の親だからこそです。私は私のことをここまで育ててくれたお父さんとお母さんがとても誇らしくて大好きです。
「でも大変だろう?アイドルって。お父さんにはちょっと分からない分野だけど。」
家に着くまでもう少し私の学校からでの生活のことが聞きたいって話を続けようとするお父さん。
お父さんはこうやっていつも私のことに耳を傾けてくれてお母さんもお父さんのそういうところが好きだったのではないかと私はそう思います。
「大変…だけど楽しい。ゆりちゃんも一緒でいい先輩達もたくさんいて毎日が楽しいよ。」
「そうか。そういえば後ろのお嬢さんと同じグループの人がいたっけ。」
これは多分赤城さんのこと。
電話で何度も話したことがあったからそういうことにちょっと不慣れのお父さんだってちゃんと覚えているようです。
「うん。歌もすごくお上手できれいな人なんだ。ちょっと完璧主義でびしっとしたところがたまに怖いけどもう一人の幼馴染の先輩のことが大好きな可愛いところもあってね。」
「あはは、そうか。みもりと同じだな。」
えええ!?お父さんから見ても私そう!?
そういえば赤城さんの時は大変でしたね。
いきなり発現した能力のせいでかな先輩との誤解ができてしまった赤城さんとそんな赤城さんとの仲直りしたかったかな先輩。
二人の仲はちっとも縮まずお互いのことから離れ合うばっかりでそれに加えて学校まで辞めようとかな先輩のことに赤城さんも、私達も驚愕を禁じえませんでした。
でも私達の頑張りと赤城さんが勇気を出して先輩のこととちゃんと向き合ってくれたおかげでお二人さんは無事に仲直りができました。
「今は赤城さんも、かな先輩も元通りになっていつも一緒なんだ。喧嘩なんてしちゃったこともすっかり忘れていて。」
「良かったね。」
赤城さんのことだけではない。
後ろの青葉さんのことや会長さんのこと、クリスちゃんのこと、そして大切なゆりちゃんのことも。入学してからずっと大変なことで前途多難なことばかりですけどそれでも私はまたアイドルになれて良かったと思いました。
「だってあの時は頑張りもせずに辞めちゃったから…」
でも今は頑張ればできるってことを私は今までの経験で学びましたから。今も大変でこの先ずっと険しい道が続いてもあの時の二の舞いはしたくない。
皆のため、そして自分のために私はアイドルを続けたい。
私は本気でアイドルということに取り組んでいました。
そんな私の覚悟を聞いてお父さんは
「…成長したな、みもりは。」
っとそっと笑ってくれました。
「人って簡単に諦められないものがあるからな。」
そう言ったお父さんの一言は私に色んなことを考えさせました。
「諦められないもの…」
まるで私の心でも見抜いてきたような言葉。
お父さんはこうやってたまに人の心を貫く寸鉄のような話で色んなことを考えさせたりしましたが決して相手のことを見下したり舐めたりするわけではない、単に何かの大事なことを教えようとする意図と言うことをお父さんの娘である私にはよく知っていることでした。
それを聞いて私はふとお父さんの諦めらなかったものが聞きたくなりました。
「お父さんにもそれがあったからあの家から出ちゃったの?」
随分率直な質問。
でも私のこういう失礼な質問にも顔色も変えさずその質問にちゃんと答えてくれました。
「そうだね。お父さんは「神樹様」が作られたこの世界が好きだから。でもあの人にも、兄貴にも分かってもらえなくてね。」
多種族がお互いのことを分かり合って共に生きるこの世界のことを誰より愛し、憧れていたお父さん。でもお父さんのその理想はあの家から受け入れられない「邪道」のものでした。
「あの人は当然としても正直に兄貴から「そんなふざけたことを考えるのならこの家から出ていけ」って言われた時はショックだったかな。なんだかんだ言っても兄貴だけはお父さんの味方だと思ってたから。」
抱いてもしまった「平和」と「共存」という理想のせいでたった一人の兄弟であった兄、私の伯父とも背を向け合うようになった悲劇。
それでもお父さんはあの家から出てどうしてもこの世界に自分の全てを捧げて貢献したかったそうでした。
お父さんはそのことを決して後悔しなかったのです。
「兄貴はとても孝心深い人だったから。仮にも私達兄弟のことを産んでくれた人だからあの人の期待を裏切れなかっただろうね。例えあの人が間違っていてもね。」
少し寂しそうな目…
お父さんは今も伯父さんのことを慕っていることを私はふと気づいてしまいました。
「でもお父さんはあの人の理想にはついていけなかった。受け入れられなかった。人間だけの世界、全ての種族をねじ伏せて従わせる閉鎖的な世界。お父さんはそれがとても嫌だったんだ。」
急にザザザーってノイズを吐き出してきたラジオを消して私との会話に集中してくれるお父さん。
でもお父さんの次の話は私に今まで一度も話したこともない、まさにびっくり仰天の一言だったのです。
「実はお父さん、子供の時に助けられたことがあるんだ。異種族の人にね。」
お父さんのこの世界への憧れと敬意はあの時に始まったんです。
「曲がりにも「大家」の子だから昔は結構色々あってね。敵も多かったし。兄貴は強くて用心深い人だったけどお父さんは全然ダメだったから。」
本以外の友達は一人もいなかったという昔のお父さん。
でもお父さんは「大家」の子。「鉄国」という名前を受け継いだ子だったので毎日が危険極まりのない日々でした。
「小学校の頃かな。兄貴にも秘密にしてこっそり外までお出かけしたことがあるんだ。そこで誘拐されちゃってね。」
「誘拐!?」
「大家」の子として産まれた以上、危うい状況は常に付くこと。
その危なっかしい事実のことをお父さんの話から改めて思い知るようになった私は平然とした顔でおぞましい話をそのまま続けようとするお父さんを見てもう一度驚いてしまいました。
「犯人はまだ捕まってないんだけどその時、お父さんを助けてくれたのがお父さんと同じ人間じゃない他の種族の人だったんだ。」
今もはっきり覚えている姿。
拉致された自分を助けてくれた恩人のことをお父さんは昨日のことのごとく覚えているそうでした。
「街で車に乗せられて人目のないところに連れて行かれたお父さんをある女の人が助けてくれたんだ。背が高く、体の大きい女性。倉庫の中が暗くて顔はちゃんと見えなかったけど頭には角とかそれとも耳のような影があって一目で人間ではないってことが分かったよ。」
自分を救うためにたった一人で誘拐犯達と戦ったというあの女性は銃で武装した犯人達を相手に勇敢に立ち向かいました。
一歩も引くことなく犯人達から幼いお父さんを取り戻すために命がけで戦ってくれた彼女のおかげで無事に救出されたというお父さん。
どさくさで気切した後、目が覚めた時は彼女はもうお父さんの目の前からいなくなり、お父さんは街にある図書館のベンチで寝ていました。
「最後まで名前すら聞けなかったこととお礼が伝えられなかったのが今も心残りなんだ。目が覚めた時、あの人はもういなかったから。でもお父さんはあの時、分かってしまったんだよ。異なる種族でも人を愛し、慈しむ心は同じだってね。」
今もあの時のことを思い出すとあまりにも残念で心が重いそうだお父さん。
でもお父さんはあの人のおかげで命を取り留めることができたお父さんはその救われた命でこの世界への恩返しがしたかったそうでした。
名前も知らない他種族の子供のために命がけで戦ってくれたあの人の優しい決意を自分が受け継ぐことにしたお父さんはそれからそれを自分の使命だと決めるようになったらしいです。
「だからどうしても叶えたかったんだ。あの人が教えてくれたことを自分が繋げようっとね。そしてあの人が教えてくれた素晴らしい世界を未来の子供にも見せてあげようっと。」
「お父さん…」
「だからお父さんはみもりが皆のことをちゃんと見られるように育ってくれたことがすごく嬉しいよ。本当にありがとう。」
ありがとうって…って照れくさく笑ってしまう私でしたがその時、私はやっとお父さんが話した「諦められないもの」という言葉の意味が少しずつ分かってきました。
自分の全てを捨てても叶えたかったこと。周りからどんなに反対しても、阻もうとしても成し遂げてはいけないこと。
それは私の胸にもちゃんと存在するものでした。
私はいつかお父さんを助けてくれたあの人に自分からもお礼がしたいってそう思うようになりました。
アイドルも、皆のことも、そしてゆりちゃんのことも私が諦められない、そして諦めてはいけないこと。
今だってこんなに胸がざわめいて考えるだけでぐっとしてきて胸がいっぱいになっている…
お父さんは私のこの感情の大切さを教えてくれたかったんです。
「覚えてね、みもり。諦めちゃダメって思った時は何があっても諦めてはいけない。くじけそうな時も、屈する時も自分の大切なものを思って粘って頑張るんだ。それはきっとみもりが前へ進む力を与え、導いてくれるから。悩むことも、苦しいこともたくさんあるけど決して自分が信じていることに嘘をつくことがないように己を信じて前へ進むんだ。」
そしてそのためにお父さんとお母さんがついているって何度も私を励ましてくれたお父さんは
「あはは…お父さん、またなんか恥ずかしいことでも言っちゃったかな…」
ってぎこちなく笑ってしまいましたが私は今の言葉でお父さんの気持ちが少し分かった気がしてとても嬉しい気分でした。
私が知らなかったお父さん。そしてそのお父さんが教えてくれた諦められない大切なもの。
今の自分にそれが何なのか、その大切なものを守るためどう動くべきなのか。
果たして今の私はちゃんと分かっているのでしょうか。
そう思った時、私の目はいつの間にか後ろから寝ていたゆりちゃんの方を見つめていました。
さすがのゆりちゃんでもここまでの長い旅は披露が溜まるんでしょうか。
ここ最近あまり見せてくれなかった緩んだ顔で短い睡眠を取っているゆりちゃん。すやすやしている顔がとても可愛いです。
「うん…大丈夫だから、ゆりちゃん…」
そんなゆりちゃんを見て改めて何があっても絶対元通りにしてあげることを自分自身と約束した私は後ろにそっと手を伸ばしてゆりちゃんの栗色の髪をなでつけました。
サラサラで柔らかい触り心地。
私は今自分が見ているこの子こそ私の全てを掛けて守らなければならない第一の存在だと自分自身に何度も繰り返しました。
でもそれは多分私だけではなくゆりちゃんにも、青葉さんや会長さん、他の皆の心にもちゃんとある気持ちということを私は決して忘れませんでした。
その後、家に着くまでお父さんに学校での色んなことを教えてあげたかった私はそれからずっとお父さんとお話を続けました。
先輩とのこと、同好会のこと、クリスちゃんのことなど色々たくさんお話しました。
「あはは。面白い先輩達がいっぱいできて良かったな。お父さんも会いたいな。」
何より私はお父さんに私はもう大丈夫ってことを教えてあげたかったのです。
「あ、ちなみにあの時、図書館でお父さんのことを見つけてくれたのが今のお母さんだ。」
そして私は思わずお父さんとお母さんのラブストーリーまで聞くことになりました。




