第223話
最近どんどん投稿が遅れております。誠に申し訳ありません。ここ最近職活も行き詰まってしまい、勉強や執筆も捗らなくて随分へこたれております。
焦れば焦るほどいい作品が書けなくなって…速やかに元の状態へ引き返そうとしていますので勝手なことですがもう少しお待ちいただきたく存じます。
それでもいつも楽しんでくださる皆様のおかげでまた勇気を出します。
いつもありがとうございます!
「もう10時ね…」
学校で出発してから大分時間が経った後、携帯で時間を見た時、そこで示している現在の時刻は夜の10時をちょうど超えているところでした。
「着いたらお父さんがお出迎えくれる予定です。日付は変わるんですが。」
「私は全然大丈夫だから気にしないで。仕事の時はもっと遅かったりしたから。」
って何の問題もないと向こう側の私を見て微笑む青葉さん。
青葉さんはむしろこういう時間こそ考え込むのに最適だと自分なりにこの深夜の時間を楽しもうとしました。
「私、仕事で家にも帰れなかったこともたくさんあったからね。ロケとか結構あったし。でもそれが終わった後の帰り道にこうやって夜の街を眺めるのはなんだか不思議な気がして結構好きだったんだ。色々考えられたから。」
「すごいですね…」
っと久々の思い出を振り返す青葉さん。
そういえば昔バラエティー番組とか結構出たんですよね?奥地探検とか。
「よく覚えてるね、虹森さん。あの時は散々だったわ。虫も多くてなんか体調まで崩れちゃって。あ、でも奥地っと言っても比較的に安全なところだったから。地元民の皆さんもすごく優しくて不思議な人達だったし。大体本当に危険なところだったら世界政府から許可も出でないしね。」
「ゴーレムの森」や「影」、紛争地域の「シビル・ウオー」、「大家」の私有地。
これらは全部世界政府から「1級危険区域」と分類され、一般人から近づくことは厳しく禁止されています。
入って生きて戻れる確率が極めて低いこれらの地域は関係者以外の出入りは例外なく全員禁止で特に過去「伏魔殿」と呼ばれた「影」はその存在を口にすることすら禁句になっているほど徹底的に闇に葬られています。
それに引き換え青葉さんは自分が行った奥地というのはちゃんと会話もできてインフラもきちんと揃えている普通な人里っと私を安心させてくれました。
「今はもうそういう類の奥地はないかな。知られるところは殆ど知られているしよほど危険な場所じゃなければ人が住んでいてある程度話も通じるし。その以前に未確認の地域には世界政府が行かせないからそんなに心配することはないよ。」
「そ…そうですか…」
っと平然と青葉さんは言いましたがゆりちゃんと私は割りとその「1級危険区域」に通っていたことがあってなんだか複雑な気分です…
それにしてもやっぱり面白いですね、青葉さんの業界のお話は。
実家まではまだ3時間は残っているんですがこのペースならすぐ着いちゃうかも。
「あ…」
ふと思い出す数日前のこと。
これって青葉さんのお仕事の話の影響でしょうか…私はなぜか数日前の偶然部室に訪れたある少女のことを思うようになりました。
可愛い。それ以外の表現は見つからないほど愛らしくて可愛かった赤い髪を持った小柄の少女。
弾ける笑顔、そして親しくてゆるい性格はどこを行っても好かれそうで思わずその豊かな親近感を羨んでしまう。
でもその瞳の中に秘めている青い寂しさを見透かした時、私は彼女から隠している彼女の本当の気持ちを気づいてしまいました。
一見小学生と思われるようなその少女は大事にしまっておいた私の記憶から飛び出したような私が知っているあの頃の姿で突然私の前に現れました。
でも私は彼女のことを誰にでも話せませんでした。
彼女と直接関係がある青葉さんは当然として先輩にも、ゆりちゃんにさえ話さなかった私は彼女のことについて相談ができませんでした。
下手に話してしまったら悪い結果になりかねませんから私は自分の言動についてもっと気をつけなければなりませんでした。
でも彼女は自分のことを特に気にしなくてもいいと言いましたが私がこうやってまたアイドルをやるきっかけに彼女の影響が少なからぬありましたから。
先輩は今も彼女のことを同好会の大切な後輩だと思っているし彼女自身も同好会の皆を大切に思っていますから。
だから私はなるべくこのことを皆が幸せになれる結果に導きたいんです。
そのためにはこの問題とちゃんと向き合わなければならないと思ったりはするんですが…
「ん?どうしたの?虹森さん。」
うう…やっぱり言えない…!
「い…いいえ…こんな夜中まで起きているのってなんだか久しぶりだなって…」
「そう?虹森さんは真面目さんだからね。関心関心。」
余計に目が合ってますます言い出しにくくなっちゃったかも…本当どうすんだよ、私…!
そんな感じで頭を抱えて悩んでいた私のところにちょうど来たのは
「会長、たった今お眠りになりました。」
「あ、緑山さん。お疲れ様。」
疲れていた会長さんを特別に用意された個室のベッドで寝かせてきたゆりちゃんでした。
「ごめんね、緑山さん。会長の面倒を見るのは私の役目なのに。」
「いえいえ。私も会長のご様子を見ておきたかったんですから。」
思わずゆりちゃんに会長さんの面倒を見てもらったことが気にかかる青葉さんに全然平気と言うゆりちゃん。
ゆりちゃんは会長さんの寝る姿を見て少しほっとしたとやっと一息ついたような安堵感を表しました。
「会長が記憶を失われた以来、あまり会話の機会がありませんでしたから。一時はどうなるかと思いましたがみらい先輩や青葉さんのおかげで大分周りのことを警戒しないようになって何よりです。」
「そうね。最初は赤城さんのことも結構苦手そうだったけど今は割りと仲良くしているから。」
私とのことでここ最近ずっと大変だったのにしっかりと会長さんのことまで気にかけていた優しいゆりちゃん。本当はゆりちゃんだって会長さんのことをずっと心配していたんです。
「私も今のところ似たような状況ですから…相身互いってものでしょうか…」
「そうか。」
でも会長さんが眠るまでずっとお話したおかげで少し勇気が出たと言うゆりちゃん。
ゆりちゃんは会長さんはこの状況を自分なりに乗り越えようと頑張っているってゆりちゃんにそう伝えたそうです。
「確かに誰のことも覚えられないのは辛いものです。でも会長はなんとか頑張って取り戻して見せるっと私にそうおっしゃいました。まだ手がかりは全くなくてどこから頑張ればいいのかすら分からないけど自分に今できることを精一杯やるっと私に一緒に頑張ろうって。」
「やっぱり強いね。会長って。」
「はい。私には真似できないくらい。」
っと私の方にちょっぴり切ない顔を向けるゆりちゃん。
その顔には会長さんの折れない心の強さを羨む憧れと自分の情けさを嘆く気持ちが混ざり合って私の記憶の中で誰より堂々で強かったゆりちゃんを一瞬儚くさせてしまいました。
でも私はゆりちゃんだけにはそんな顔はしないで欲しかったのです。
誰より強くてかっこよかった私の自慢の幼馴染。世界で誰より私のことを大切にしてくれて好きにしてくれたゆりちゃんは子供の時から私の誇りでした。
どんなに辛くて大変なことがあろうとも私のゆりちゃんにはいつもニコニコな笑顔でいて欲しい。
「そんなことないよ、ゆりちゃん。」
そう思ったこそ私はゆりちゃんの手をとってこう話しました。
「ゆりちゃんは弱くない。ゆりちゃんはとてもかっこよくて可愛くて強いから。私はそんなゆりちゃんにずっと私の傍にいて欲しいよ。」
「みもりちゃん…」
多分これでゆりちゃんの心に付いている凝りが解くことはない。
でも私はせめてゆりちゃんが自分のことを責めたり自分の価値を下げたりしないで欲しいです。
「だってゆりちゃんは私の大切な人だから。」
大変なことというのは十分分かっている。私だって今もどうすればいいのかただうろたえるだけですから。
頑張るって決めたはずなのに大変すぎて何からすればいいのかただ迷いばかり。
でも私はそんな時こそ会長さんが言ったとおりに今自分にできることを精一杯やるべきだと思います。
「私がゆりちゃんのことを守るって約束したから。だから一緒に頑張ろうよ。」
届いて欲しい。まだ私のことが好きにならなくてもこの気持ちだけは、この願いだけはゆりちゃんが分かった欲しい。だって今までゆりちゃんがそうやって私のことを支えてくれたから。
それはきっと私達が元の場所に戻れる道を示してくれるって私はそう信じている…って
「あれ見て!告白してるよ!」
「可愛い~」
えええ!?なんかすごく注目されている!?
一瞬で騒がしくなった列車内。その真中で私は人々の注目を浴びながらわけも分からない話を自分の幼馴染の女の子に語っていました。
「あ…ありがとうございます、みもりちゃん…でもそういった話はもう少し人の目がないところでやるのが良いのではないかと…」
っとこういう場所でそんな話は慎んだ方がいいとさり気なく助言してくれるゆりちゃん。
ってゆりちゃんまで真っ赤になっちゃってこれはもう本当に私が告白したみたいじゃん…!とりあえずごめん…!
「あははっ!虹森さん、真面目すぎだって!」
「ええ…!?」
そしてそんな私達のことを見ながら思い切り笑っている青葉さんを見た時、私の恥ずかしさゲージはマックスに達してしましました。
「青葉さんまで…!腹を抱えるほど面白かったんですか!?」
「全然!そんなことないから!あははっ…!どうしよう…!もう腹痛い…!」
そんなに面白かったんですね!今の私!
「も…もういいじゃないですか…!別にそんなに笑わなくても…!」
「あはは、ごめんごめん。そんなに怒らないで。可愛すぎたからつい。」
っとすねている私の機嫌を直そうとする青葉さん。
って全然謝っていないじゃないですか!
そんな青葉さんに私は後でジュースを奢ってもらうことで許してあげることにしましたが
「でもありがとうございます…みもりちゃん。」
そう言いながら口元にそっと笑みを浮かべるゆりちゃんを見た時、私はやっぱり話して良かったと思うようになりました。
「お隣、いいですか?みもりちゃん。」
「あ…うん!どうぞ…!」
っとそっと私の隣の席に付くゆりちゃん。
青葉さんの隣ではなくわざわざ私の隣…あ…もしかして私と顔を合わせたくないのかな…
確かにそれはそうかも知れませんね…ゆりちゃん、今色々大変だから到着まで私と顔を合わせて行くのはちょっときついかも…
それにこの前、自分勝手にキ…キスとかやらかしたわけだし…
やっぱり嫌だったかな…同じ女の子相手じゃ…しかも家族と同然な幼馴染の女の子にあんなことされたら…
「別にそういう理由じゃないと思うんだけどね、虹森さん。」
「何で!?」
この人、やっぱり会長さんみたいに人の考えが読めたりするんですか!?
「そういう類の特殊能力はないんだけど虹森さんって本当考えてることが顔から漏れるタイプなんだなってね。」
「な…なんかすごくちょろい人みたいな表現ですね、それ…」
まあ…結構言われるんですけどなんかムカつく…
前よりもう少し様子がおかしくなった私達を見て何か気づいたそうな青葉さんはそう言いながら隣のゆりちゃんにもうこう話しました。
「おまけに緑山さんも何か気にしている様子だし。」
「そ…そうですか…」
まいりましたって顔で少し困惑してしまうゆりちゃん。
今のはゆりちゃんにとって結構図星だったようにゆりちゃんは青葉さんに対して一言も言い返しませんでした。
多分ここんとこのゆりちゃんの様子についただけの話ではない。
青葉さんの目には既に私達の間に存在するもう一つの出来事が見えていたってことをその時の私は彼女から放たれる聡い視線から察することができました。
「え…まあ…」
「だから列車に乗る前からこの前よりギクシャクだったんだ。この前の男装事件の辺りからかな。いや、もうちょっと前からかな。」
やっぱりまじで鋭いな、この人…もう探偵とかそういうのをやった方がいいんじゃないですか…?
でもその後、私が一番恐ろしいと思ったのは
「やっぱりキス…かな?」
っとズバッと言う彼女の並外れの洞察力でした。




