第221話
インターネットが壊れてしまったせいで少し遅れてしまいました。誠に申し訳ありません。
久々のことりちゃんの姉のすずめちゃんのご登場です。
最初は「蛍」って名前でしたが妹の方とあまり合わなかったので変えることにしました。
鳥が大好きです。個人的に犬や猫は怖いんですが鳥はめっちゃくちゃ好きです。特に鴨と雀が好きです。
可愛くて美味しくて本当好きです。将来飼えればいいなっと思っています。
いつもありがとうございます!
「ひ…久しぶり…お姉ちゃん…」
「来たね、ことり。」
気まずい空気。
久々の再会にも関わらずその姉妹の間に漂っている空気はいささか硬直していた。
「ごめん…ちょっと予定があってそっちによってきたんだ…」
予定時間より遅く到着したことを謝る妹。
だが妹は姉に本当に謝るところはそこではないということをよく知っていた。
「いいよ、別に。お姉ちゃんも来たばかりだから。まあ、いいからそこに座んなよ。」
「あ…うん…」
のどかな街角のカフェ。第3女子校に入学したばかりの頃、毎日その店で時間を過ごしていた自分にとってかけがえのない居心地の良い場所には間違いはなかったが今日の空気は一味違う堅苦しくてもどかしい苦味を帯びていた。
「何にする?」
っと丁寧にメニューを見せる姉。
だが妹の精神はのんびりお茶会の時間を楽しむところではなかったので
「こ…ことりは水でいいよ…」
適当にお冷を頼むことにした。
「そうね。お姉ちゃんもコーヒーとか牛乳とかは苦手だし。せっかくだから夕飯でもしようかな。」
っとカレー大盛りを頼む姉のことにますます膨らむ不安感。
きっと何か言いたいことがたくさんあるはずなのにこんなにも平然としている姉のことがどうしようもなく不安な妹は一先ず席に着くことにした。
「夕食まだだったんだね、お姉ちゃん…ファミレスとかが良かったかな…」
「ううん。なんかことり、最近人目が多いところは苦手なのかなってね。」
「お姉ちゃん…」
まるであのセシリアのように心の底でも覗いたような口調。
双子の間で何か通じているものではあるのかなっと改めて自分の姉の洞察力に驚いてしまう妹であった。
本音のことを言うとその通りだった。
うみとのこと以来、彼女は誰かに自分のことが見知れるのが苦手になった。
姉のおかげで外には知られたことはないはずだが時々自分の後ろから誰かがその話をしているのではないかという気分になってしまった。
皆のスターだった自分があれほどのことをやらかしたということを誰かに知られるのが怖かった。皆をがっかりさせ、夢を壊してしまうのが怖かった。何より姉ほど大切な友達のことを傷つけたことを誰にも知られたくなかった。
その故、彼女は自然に人の群れから距離を取るようになってしまった。
現役時代には誰よりも目立ちたくて人々の前ではしゃいでいた自分のはずなのにそれが全部嘘と感じられるほど彼女は自分を閉じ込めてしまった。
誰かと話す口数が減り、どこへ行っても変装をしなければならなかった。それでも安心ができなかったので自然に外出の頻度をだんだん減らすことになった。
食事は全部出前やコンビニ、一日中やることなんてテレビを見たり寝ることしかなかった。
姉の根回しで入った第1の「Silence」の広報係の仕事も、芸能界への復帰も全部放り出していた自分。
第1に入ってから数ヶ月後、彼女は完全に廃人になってしまった。
みらいの家で居候させてもらってから少しましになったが未だに人の目の付くところは避けたい。姉はそこまで全部見抜いていたのであった。
「お待たせいたしました。」
マスターからサーブしたカレー大盛りとチョコミントアイス。それは前にこのカフェに通っていた頃、彼女からよく注文していたものであった。
「え…?これは頼んでませんでしたが…」
だが水だけでいいと言った注文とは違ったものが自分の前に出されたことに少し戸惑ってしまう彼女は何かの間違いではないかとマスターの方にその再確認を申し込んだ。
「サービスでございます。」
そんな彼女の話に穏やかな顔でアイスをそっとおく年配のマスター。
よく手入れしたおしゃれな髭が渋くて和やかに感じる彼の答えに
「あ…ありがとうございます…頂きます…」
彼女は心を込めて感謝の気持ちを現した。
久しぶりに店に来てくれた彼女のことが嬉しかったのか、それともただ彼女が疲れているように見えたからなのか、彼は自分からサービスのアイスを出した理由について一言も言わなかったが彼女は彼のそういうそっとした気遣いを感謝しながらぜひそのアイスを受け入れることにした。
「良かったね。きっとことりが可愛いからくださったんだよ。」
「そ…そうかな…」
っと姉はそう言ったが本当は少し複雑な気分だった。
「実はこれ…うみっこが好きだったんだ。」
いつも二人で食べたアイス。スーッと清涼感とその後の優しい甘みが大好きっと言ったその子のこととそれを一人で食べるようになった時の気持ちを思い出させてしまうそのアイスのことを素直に喜べないのは今の自分が疲れている証拠だと彼女は呆れそうに笑ってしまった。
「そうか。」
カレー一口を口の中に入れながら今の妹の苦い笑いをじっくりと察する姉。
「でもせっかくマスターから気を使って奢ってくださったから。ここは美味しくいただきましょう。」
だがそんなことより妹とにはただそのアイスを美味しく食べて欲しかった。
「あのね、お姉ちゃん…」
「ん?」
そわそわしながら食事中の姉に今日の呼び出した理由について聞く妹。
不安な顔色を見るとやはりある程度は予想しているね、そう思った姉はいつものように予め考えてきたことを単刀直入に話すことにした。
「学校、何で辞めちゃった?」
っと聞いた時、姉は自分の妹が実に困っている顔で自分から目をそらしていることを気づいてしまった。
震える眼差し。そしてなんと言えばいいのか迷いばかりの唇。元俳優とは思われないほどのその素直な反応はつい笑いが出てしまうほど丸見えていた。
だが姉は笑うことも、咎めることもなく落ち着いてやっとまた通えるようになった学校を妹が自分の足から出たその理由を聞くことにした。
「…やっぱり知ってたんだ…」
「まあねえ。そこの「勇者」様とちょっと知り合ってね。」
「あ…「希」先輩ね…」
「野呂井乃希」。第3には「Scum」の「紫村咲」があれば第1には「Silence」の「野呂井乃希」ありっという話があるほどこの世界ではかなり有名人である。
種族は「人形」。さきと同じく百年以上この世をさまよっている魍魎と言われているが実際彼女は第1の「Silence」の壱番隊隊長であり世界政府の「勇者」としてその長い時間を人々を守るために過ごしてきた。
当然世界政府からも大変信頼されているが
「お姉ちゃんとは仕事のことで知り合ったんだ。っても詳しいことはことりにも話せないけどね。」
その実体は元「影」の「地獄」の一人で何十年前までは「鬼丸」と呼ばれる鬼の「影風凜花」と共に「影」帝王としてその裏の世界を支配していたものであった。
当時の異名は「ジョーカー」。今は少し無口で大人しくなったが当時の彼女は「狂人」と呼ばれていたほど「影」の化け物中でも異常として扱われていた。
彼女が「影」から身を引いた以来、「影」の人間が彼女に接することはほぼなかったが最近突然「影」から姿を消した「覇皇」「ガイア」の件で彼女との接続ができたことりの姉、「冥官」「赤座雀」はその時、彼女から妹のことを全部聞くことができた。
「心外だね、ことり。勝手に学校辞めちゃった挙げ句、なんにも言わないなんて。お姉ちゃんがことりのことをあそこに入らせるためにどれほど苦労したか分かってるの?」
「だ…だってお姉ちゃん、絶対怒っちゃうじゃん…」
「怒るのに決まってるでしょ?」
っとあえて「プンプン!」って顔で妹のことを睨むちっちゃい姉のすずめ。
だがそう簡単に言えなかった気分もまた分からないものでもなかった。
「まあ、ことりは子供の時からお姉ちゃんのこと、めっちゃ怖がっているもんね。」
双子とはいえ明らかに違うレベル。ボスの父の「魔力回路」を受け継いだ姉の雀は常識はずれの化け物達が集まっている「影」から組織のために戦っている存在。
それに比べて自分は大した回復もできないくせにほんの少しだけでも力を使ったらすぐへたばってしまうポンコツの魔法少女。
その差がどれほどの距離を持っているのか強いて言わなくても体で痛感しているのは妹の方だった。
「それにお姉ちゃん…すぐ説教しちゃうし叱っちゃうし…それにいつもことりのこと、子供とか、アホとかひどいことばかり言うから…」
「仕方ないじゃん。ことり、まだまだこんなにちっちゃいし頭も悪いから。」
「ほら、やっぱり…!っていうかお姉ちゃんだってちびのくせに…!」
「あははっ。この口か?この口がお姉ちゃんのことをクソガキって言ってるのか?」
「いたっ…!いたったったから…!っていうかそんなこと、一言も言ってないじゃん…!」
っと生意気な妹のほっぺを思いっきり引っ張り出す姉。無論そんな姉のことを口ではないが心ではそう思っていた妹は黙って姉の成敗を受けるしかなかった。
一見小学生としか見えないほどの幼い外見。長く垂らした赤い髪の毛とコンパクトな体格はランドセルと黄色の帽子が非常に似合いそうだが本人はあまり気に入らないといつも文句を言っていたた。
「だってお姉ちゃんはこう見えても「赤座組」のボスだから。こんなんじゃ威厳がなさすぎるよ。」
「あ、確かに。」
一発で納得してしまう妹。それがまたムカつく姉はそんな妹の他のほっぺを引っ張ることにした。
「この前だって街を歩いていただけなのに近所のおばあさんが迷子かい?って保護しようとして…それになんか変なおじさんばかり絡んじゃうから本当嫌になっちゃう。死ね、ロリコンどもめ。」
「まあ、お姉ちゃん、どう見ても小学生の幼女にしか見えないから。」
「お前もだよ、ボケナス。」
妹のこういうところが本当にバカだと姉はこっそり嘆いてしまった。
「って結局何で辞めちゃったの?あそこの校長のばばあ、お姉ちゃん、超苦手なんだぞ?」
第1女子校校長「魔神族」「夜咲仁穂」。第3女子校の理事長「朝倉色葉」の妹でかつて「世界」と呼ばれた「神樹様」以前のこの星の支配者。
姉のいろはと同じく腰の辺りに黒い羽が生えている彼女は姉と同じく世界の人々から尊敬され、敬われているわけだが
「でもあのババア…なんか調子狂うから…」
「開闢」と呼ばれる姉より一段と気迫のある女性として恐れられていた。
「娘さんと違ってめっちゃ怖いんだよね、あのババア…」
「うん…顔はにこにこだけどね…」
彼女は自分の学校に通っている2年生の娘「杏樹」とは違って笑顔だけで人を屈服させてしまうほど凄味の溢れる神様であった。
「アンジュちゃん、ちょっと気難しいけど素直で可愛いのに校長は笑っていても何考えているのか全然分かんないからそれが怖いんだよ…」
「俗に言う「ハラグロ」ってやつね…」
双子の姉妹はその底知れない笑顔が本当の意味で恐れていた。
「でも校長は車いすがなきゃダメだから。」
「まあ、あれほど力を使いすぎると仕方がないかな。むしろとっくに死んでもおかしくないくらいかな、あのババア。」
だが彼女は自分が司っていた「時間」の能力を限界値以上まで使ってしまった反動で体の機能を大分失った。
車いすがいなければどこかに行くこともできない彼女は生活の全般を「スライム」メイドの「雫」に頼っている状態であった。
だが魔神族である彼女が自分の体のことも考えずにその力を使いすぎた理由に関しては娘であるアンジュすら知らなかったことだったので過去彼女に何があったのかは世界政府からも本当のことはまだ把握していなかった。
「お姉ちゃん、ことりのことをあそこに入れるためにあのババアに頭まで下げてお願いしたの。どうか妹をこの学校に通わせてくださいって。あの人、ヤクザとかマフィアとか大嫌いだから。ましてことりは前の学校から事故まで起こしたから最初は絶対ダメっていたけどお姉ちゃんが学校に何らかの形で貢献することを条件にしてことりの入学を許してくれたよ。」
未だにその条件はまだ実行されていないだがいずれ必ず向こうから取り立てるためにくるはず。
もしそれが組織に悪影響を及ぼすことになっても姉のすずめにはどうしても妹にだけには普通な学校生活を送って欲しかった。
「だからちゃんと説明して欲しい。ことりがお姉ちゃんのことを怖がっているのも分かるけどお姉ちゃんのことが大好きなのもよく分かっている。それはお姉ちゃんも同じだから。」
頭も悪くていつも問題ばかり起こしてしまうおてんば娘の妹。
だがそれでも姉は妹のことを心の底から愛していた。
たった一度でも憎んで、嫌ったことはない。双子の姉妹の絆はそれほど固くて変わりないものであった。
「ことりはお姉ちゃんの誇り、お姉ちゃんの生きる希望だから。ことりのことをいつもお姉ちゃんは誇らしく思っている。そんなことりがお姉ちゃんには騙して学校を辞めちゃった。初めては本当に腹たったけどきっと何か理由があると思ったからこうやって話を聞くためことりに会いに来た。」
「お姉ちゃん…」
「だからお姉ちゃんにちゃんと聞かせて?お姉ちゃんにお姉ちゃんが知らないことりの心を教えてね?」
っと妹の手をそっと包む姉の手。
その小さい手から伝わってくる大きな勇気は今までずっと一人で抱えていた心の凝りを解いてその小さな鳥の羽ばたきに力を与えた。
注ぎ込まれる温かい勇気に一人だけのか弱い藻掻きにはどんどん力がましていき、やがて背中を押してくれる風になってくれた。
「あのね、お姉ちゃん…実はね…?」
耳をくすぐる心地よい風。その風に身を任せた小さな鳥はまた新たな景色を見ることができるのか。




