第220話
最近少し勇気を失った気がしてほんのちょっぴりブルーな気分になっています。
多分自分を囲んだ色んな状況に疲れているのではないかと思いますがやっぱりここで挫けるわけにはいかないと思って何度も自分を奮い立たせようとしています。
アイデア絶賛募集中です!何かいいことがございましたら遠慮なく教えて頂きたいと思いますのでどうかよろしくお願いいたします!
いつもありがとうございます!
「実家に…ですか。」
「うん。そうだよ?」
急に生徒会室まで訪ねてきた青葉さんから聞いたのはみもりちゃんから提案した今週の里帰りでした。
「二人共最近色々あって疲れているから。いい気晴らしになると思うんだけど。」
「気晴らし…ですか。」
外から見ると私はそんなに疲れているように見えているんでしょうか…だったらもう少し身の立ち振舞に気をつけた方がいいかも知れませんね…
青葉さんが気づいたってことはきっとみもりちゃんだって感じているっということですから…
でも私の方から見るとみもりちゃんの方がよほど無理しているんですから…
「虹森さんも、緑山さんも絶対休憩が必要だよ。そういうところじゃないって言うかも知れないけど「急がば回れ」って言葉もあるから。せっかく虹森さんから誘ってくれたからここは思い切ってゆっくり休もう?」
私があまり行きたくないっというオーラを出しているからでしょうか…青葉さん、なんとか私のことを誘おうとしているんですね…
まあ、実際実家に帰ることに相当のためらいを感じているんですが…
「いいと思いますわ。あなた、ここんとこずっとわたくしのところばっかりについていましたから。気持ちの切り替えも重要なことですわ。」
隣で一緒に青葉さんの話を聞いていた副会長もそう言いましたが私は何故かその提案に気安くうなずくことができませんでした。
特に帰りたいわけではありません。私はこの前「12家紋」の当主会議で一度帰ったことはありますがみもりちゃんは入学以来一度も帰ったことがないのでぜひご家族と合わせてあげたいっという気持ちは確かにあります。
でも今の私のことをお義母様とお義父様が見たらどう思われるのか…
「そ…そうだったんだ…ゆりちゃんはもううちの子のことが好きじゃないのね…」
「ま、まあ…ゆりちゃんももう大人だから…でもいい友達としては仲良くしてくれるかい…?」
っときっとすごく悲しまれてしまうのでしょう…
そして私達のことをただの仲良しの幼馴染と思われるかも知れません…
私のことを信じてみもりちゃんのことをお任せくださったのにその期待に応えられなかった…私はそのことが怖くて怖くてどうしようがないんです…
お二人様のことをがっかりさせてみもりちゃんを悲しませてしまった自分が憎くて憎くて…
「そんなに心配することはないと思うな。虹森さんの両親なら緑山さんのお悩みのことも一緒に考えてくださると思うし。」
「そ…そうでしょうか…」
「っていうかその呼び方、めっちゃ引くわね。」
まだ合ってもなかったのにまるでお義母様とお義父様のことを知っているように確信に満ちた顔で私のことを安心させる青葉さんでしたが彼女はなぜか私のみもりちゃんのご両親に対する呼称があまり気に入らなかったようです。
でも確かに青葉さんの言う通りかも知れません…お二人様共私のことをすっごく大切にしてくださるんですから。
失望より心配するお二人様のことを描けないほど今の私は随分弱っていました。
「あの虹森さんの両親なんだから。きっとすごい人格者なんだろうね。」
そう言っている青葉さんはもしかすると今の私よりみもりちゃんに関する全てのものを信じる力が強いかも知れないっと私は改めて今の自分の情けさを痛感してしまいました
「分かりました…私もご一緒させてください…」
「うん。虹森さん、すごく喜ぶはずだよ。実は虹森さん本人から緑山さんに直接話して欲しかったけどなんか自分から誘うと緑山さんが断ってしまうかも知れないって心配しててね。代わりに私が言ってごめんね?」
「そうだったんすね…」
みもりちゃん…そんなことまで気にしていたんですね…
みもりちゃんのために頑張らなきゃって思っているくせに逆に気を使わせてしまうなんて…不甲斐ないです、本当…
「虹森さんなりの思いやりってやつではなくて?」
っと副会長は素直に受け取りなさいっと言いましたが私はやっぱりその思いやりがどうしようもなく重く感じられました。
「でも本当に私と会長まで一緒に行ってもいいのかな。」
っとせっかくの里帰りに自分達まで一緒になったことについて申し訳がないっと言う青葉さん。
でも私はむしろ青葉さんと会長が一緒にいてくれて本当に助かったとそう感じていました。
今の私とみもりちゃん二人だけならきっとその気まずい空気が耐えられないと思って今度の里帰りのことを断ったかも知れませんから…
でもこの時期に里帰りとは。確かにいい気晴らしになりそうですね。少し田舎っぽいんですがこことは違ってすごくのどかで静かなところですから。
会長もああなった以来、精神的な疲労が溜まっていると思いますし色々考えたら確かにいいアイデアだと思います。
もし許可が取れたら「プラチナ皇室」の親衛隊「Judgement」から護衛は付くはずですがおそらく同じクラスの前原さんのお姉様である「前原薫」さんが私達と同行するはずでしょう。
「前原さんなら安心ですわね。あの人「Judgement」の局長の次ですわよね?ビクトリア様専任の。」
「よく知ってるね、赤城さん。」
っと青葉さんは驚いていますが彼女は神界では割りと有名人ですからそんなに珍しいことではありません。
それに彼女は元陸軍特殊部隊「Ultra」でお母様が軍にいらっしゃった時の後輩でもあったので私には個人的な交流もありましたから彼女のことは昔から知っていました。
前原さんが一緒に来てくれればお母様も喜ばれるのでしょう。
「そうなんだ。私はあまりそういうことには疎いし前原さんとはつい最近知り合ったばかりだから。」
「会長と一緒にお出かけした時のことですわね。」
「うん。一緒に映画も見て服とかも買ったんだ。会長がいなくなった時はまじで焦ったんだから。」
っとその日のことを思い返す青葉さん。
あの日はみもりちゃんが体調を崩して学校に来られなくなった日でしたから私もよく覚えています。
みもりちゃん、私の頭を撫で付けながらその愛しい声で
「何があっても私が守ってあげるから。」
っと私のことを守るって誓ってくれました。
細くてきれいな指。そして何より心安らぐ温もり。その温かい手で私のことを撫でてくれるみもりちゃんは私の全て。私の人生そのものでした。
みもりちゃんへの「アナタリウム」が崩れ、壊れて絶望していた私のことを相変わらず愛してくれたみもりちゃん。
私はこんなに無様でみっともなくなってしまいましたがそれでもみもりちゃんは私のことを自分の一番にしてくれました。
「みもりちゃん…」
なんとかみもりちゃんのことを喜ばせてあげたいと思ったのに私はせっかくのみもりちゃんの男装も素直に喜んであげられませんでした…
情けない…自分のことばかり考えて自分からでは何もしないくせにみもりちゃんには自分のことを諦めないでって一方的なワガママを押し付けちゃって…
やっぱり私は救いようもない臆病で卑怯者…
「緑山さん?」
「あ…!はい…!」
中から這い上がる負の感情に少し落ち込んでいたようですね…青葉さんから話を掛けてくれなかったなら私は…
すみません、青葉さん…
「まあ、色々大変だと思うから。虹森さんのことを喜ばせてあげたいと思っているのなら何か簡単なものからやってみるのはどう?」
「ど…どう分かったんですか…?」
「全部顔にダダ漏れですわよ、あなた。」
っと私に向かってそっと微笑む副会長。
なんかすごく恥ずかしいですね、この反応…
「本当婦婦揃ってそっくりだね。緑山さんと虹森さんって。」
「ええ。嘘も全然できなくてすぐ顔でバレて。」
「そ…そうだったんですか…」
私のことをからかうような副会長と青葉さんのことに少しほっぺが火照るような気がしましたがその「そっくりの婦婦」って言葉はそんなに嫌ではありませんでした。
まだ私にみもりちゃんとの共通なものが残っているっと思われてそれがとても嬉しくて…
「緑山さん、めっちゃ照れてるー」
「可愛いところもあるんじゃないですの。」
「ええ…!?」
「そういう反応もそっくり」っと青葉さんから言われた時はもう顔まで全部ほぐれてしまって普段なら絶対人前で見せない緩んだ顔まで丸出しにしていた私でしたが私は今の気持ちをちゃんと覚えることにしました。
これはきっとみもりちゃんへの気持ち、ずっと私のことを支えてくれた「アナタリウム」を取り戻す道に繋がるかも知れないから…
「でも簡単なことっと言われても何をしてあげたらいいのかさっぱり分かりかねますね…」
「そうね。虹森さんって何でもすっごく喜んじゃうから逆にそれが難しいんだよね。」
っと以外のところから悩む心境を語る青葉さん。
でも確かにみもりちゃんは何でも本気で喜んでくれるからそこがつかみにくいです。
子供の時からずっと
「私の誕生日プレゼント?ゆりちゃんがくれることなら何でも嬉しいよ!」
っと散々悩まさられて…
今回のこともなかなかの難関になりそうです…
「でもそんなに難しく考える必要はないかも知れない。いきなり大きなことを考え出すのも無理があるからもうちょっと簡単なことから始めようよ。」
「っと言いますと…?」
「例えば手料理とか。」
確信ってわけではないんですが自分なりにはなかなかの名案だと思っているような青葉さん。
でも青葉さんがその答えを出したのはそれなりの理由がありました。
「虹森さんと緑山さんって前にはお弁当だったよね?緑山さんが虹森さんの分まで作ったやつ。」
「はい…よく分かりましたね…」
「いや…あなた達…2年生の教室から見ると割りとよく見えますから…」
「え…?そ…そうだったんですか…?」
っと2年生の間では割りと有名人だと言う副会長。
私とみもりちゃんがいつも一緒に昼食を取ったあの場所は実は2年生達の教室からも見られる場所だったということでした。
「あそこで一緒にいるの何度も見かけてね。でも緑山さんが虹森さんのことをずっと避けていたからここ数日あそこには虹森さん一人だったから。」
「べ…別に避けたわけでは…」
っと言い訳をつけるところの私でしたが決して青葉さんのその言葉を言い返すことができませんでした。
みもりちゃんの近くにいると私は自分も知らずにどうしようもない罪悪感を抱えてしまい、それに押しつぶされそうな気分になってみもりちゃんからわざと距離を取っていたのは紛れもない事実でしたから。
でも私がそんな態度を取れば取るほどみもりちゃんはどんどん寂しくなる…私はただ自分を守るために全ての痛みをみもりちゃんに押し付けていました…
ごめんなさい、みもりちゃん…私、そんな当たり前なことまで忘れてみもりちゃんを苦しませてたんですね…
「虹森さん、いつもお一人で適当にパンとかで食事を取りましたわ。あなたがいなくてもきっとあなたとの全てのことを守りたかったんでしょう。たまにわたくし達が一緒にしましたが虹森さんはあまり楽しそうには見えませんでしたの。」
「2年生達の間でもちょっと心配してたんだ。あの二人、すっごく仲良しだったのに何か喧嘩でもしちゃったのかなって。」
副会長は私のことを特に責めるつもりではないっと言ってくれましたがその話を聞いた時、私は胸が張り裂けそう痛くて惨めな気分でした。
みもりちゃんはあんなに私のことを大切にしてくれてその寂しさや痛みと向き合おうとしているのに私って子はただ逃げてばかり…
ああ…私って人間はどうしてこんなにも最低で最悪なのか…
「そんなに自分を責める必要はないよ。私だって先輩のことが苦手でずっと避けているじゃない。」
「そうですわ。わたくしだって前はあの人のことをずっと拒んでいましたから。」
っと思い切り落ち込んでいる私のことを慰めてくれる青葉さんと副会長のその話は私に皆もそうだったんだっという気休めを与えましたがそれでも私はみもりちゃんに申し訳が立ちませんでした。
私がみもりちゃんのことを避けて生徒会室でこっそり食事をしていた時、あなたは私との場所で苦くて寂しい食事ををしていたと思うともうこんなにも胸が痛くて…
「私…決めました…!」
そこで今の自分が何をするべきなのかやっと気づいた私は今週の里帰りの時、列車の中でみもりちゃんが食べる最高の駅弁を作ることにしました。
「未だにみもりちゃんのところに近づくのは大きなためらいを感じます…みもりちゃんの目を見るだけで胸がずたずたにちぎれてしまう気分ですから…でも一人で私との場所を守っているみもりちゃんのことはもっと苦しくて辛いですから私は私なりに頑張ってみます…!少しでもみもりちゃんに喜んでもらいたいから…!」
そしてその一歩として決めたのが青葉さんから頂いたアイデアの手作りの料理!
この学校に来てみらい先輩という強敵に霞んでしまったことがありましたが私だって料理は得意中の得意です!
何と言ってもみもりちゃんのために子供の頃から受けた花嫁修業で鍛えられましたから!
みもりちゃん、いつも私の料理を食べて
「ゆりちゃん、本当にお料理上手なんだね!私、これから毎日ゆりちゃんにご飯作って欲しいなー」
っと言ってくれたんですもの!
特に卵焼きのことは自分の一番の大好物だと言ってくれるほどすっごく気に入ってくれました!
あんなに幸せそうに食べてくれるみもりちゃんを見ると私も心がいっぱいになっちゃってもっともっとみもりちゃんに美味しいものを作ってあげたかったんです!
「あ…これって…」
その時、私は自分の中で何か重要なことを一つ思い出したような気がしました。
はっきりとは言えないが何かとても重要で大切なもの…
それは多分私がずっと忘れていた私とみもりちゃんの間に存在する何かのパズルのピースだと私の実感は私にそう囁いていました。
ただあの子の幸せそうな顔を思い出すだけでこんなにも胸がいっぱいになっちゃうなんて…
私はそれを教えてくれた青葉さんにどうしても感謝の言葉を伝えなければなりませんでした。
「ありがとうございます!青葉さん!いいヒントになりました!」
「そ…そう?良かったね。というか受けたんだ…花嫁修業…」
取り合った手の中から沸き上がるこの高揚感。今の私ならきっと何かができるかも…!
ってなんかすごく複雑な表情をしているんですね、青葉さん…
「え?はい…それくらい普通に…そうですよね?副会長?」
「ええ…」
何で私だけが変な感じになっているの?っと何か色々話したいような青葉さんでしたがとにかくこれで今の自分にもみもりちゃんに喜んでもらえるようなことができましたね!
私が作った料理をみもりちゃんが美味しく食べてくれる…
それはきっとかつて何の疑問も持たない普通のことでしたが今の私には到底たどり着くこともできない遠い道でした。
でももし私の料理を幸せそうに食べてくれるみもりちゃんを見られるのなら私は何か思い出せるかも知れない…!きっと何か大切なものを取り戻せるかも知れない…!
そう思って張り切ってしまう私でしたが私は多分みもりちゃんに自分が作った美味しい料理をごちそうしたかっただけかも知れません。
だって一人で食べるご飯なんてそんなに美味しいものではありませんから…
「お父様も、お母様もいない…」
誰もいない寂しい食卓。そこにいるのはただ薄暗いの憂鬱さだけで私は使用人達がどんな料理を作ってくれてもあまり美味しく感じられなかった…
何を食べても空腹は満たされずただ悲しくて虚しさだけがお腹の中に積もるだけ。
私はただみもりちゃんにそのような思いをさせたくありませんでした。




