第219話
いつもありがとうございます!
「それにしてもあのあい先輩がそんなことを考えていたとは…」
少し戸惑っているような顔。先の部室で聞かれた速水さんの話は赤座さんにとっても相当の話だったようです。
「そうね。あい先輩、神界では超有名人だから。何と言っても私達「黄金の塔」の親玉である「ファントムナイツ」の次期当主だから。「黄金の塔」から見るとこれは明らかに反逆と同じことだよ。特にあい先輩の後ろにいる偉い人はね。」
「そ…それくらいですか…?」
ふと不安な顔色で速水さんのことを案じる赤座さん。
同じ「黄金の塔」の赤座さんには思ったよりこのことに関わる様々な要素がもっと細かく見えていたかも知れないっと私はそう感じました。
「きっと険しい道になると思う。あの偉い人っていう人は人の話が全然通用しないから。あい先輩だってきっと分かっていると思うし。全部覚悟の上とはいえことりから考えればやっぱり無茶って感じね。」
そう言った赤座さんは改めて速水さんのその無茶に近い勇気に驚かされたって言いました。
「でも相変わらず強いんだね…あい先輩…やっぱりことりとは住む世界が違う…」
ふと羨むような口調で改めて速水さんのことに感心する赤座さん。
そのどことなく寂しく感じる顔色に
「いいな…その勇気、ことりにも分けて欲しいな…」
私は密かに胸を痛めてしまいました。
「あい先輩のこと、よろしくね?マネージャーちゃん。あの人、ああ見えても案外ぼやっとするところも結構あるから。それに何もかも全部一人で解決しようとする傾向もあって結構危うい人だし。」
でも私が一番驚いたのは速水さんのことを恨むことなくむしろ心配している赤座さんのことでした。
私はてっきり自分をこの学校から追い出した速水さんに彼女から少しでも恨む気持ちを抱えていると思いこんでいましたからその言葉は正直に言っても本当に衝撃的でした。
「あい先輩は私達と違って背負っているものが違うから。あい先輩は全然悪くないよ。」
っと言う赤座さん…もしかして彼女はその全てのことを全部自分のせいだと思って何もかも自分の責任だと思っているのでしょうか…
裏の校門を使って彼女をこっそり外に出そうとした私は彼女を送ってあげるため途中まで一緒にすることになりました。
まだ放課後とはいえ薄暗くなってきた後門の道はやっぱりちょっと不気味で怖いんですが結局あれから1時間はたっぷり速水さんとアイドルに関して話し合ってそのまま赤座さんにずっとロッカーに隠れてもらっちゃいましたからこのくらいはしなきゃ気持ちが収まりませんので…
特におばけが出たりするわけではないんですが私、暗いところは苦手で…
「無理しなくてもいいってことりも言ったじゃん。」
「す…すみません…」
心配してくれる赤座さん。
でも私がちゃんとできなかったせいであの狭いところで一時間も閉じ込められましたから…
それに赤座さんが入っていたロッカー…確か先輩のロッカーでしたよね…?先輩…私並みの汗っかきさんですからきっと大変だったんでしょう…
「まあ…正直に言うとちょっとしんどかったかな…中はムレムレで湿っていてサウナみたいだし先輩の匂いで頭はクラクラしてきたし…」
会長さんやゆうなさんならたまらない状況だと思うのは最近私がそっち側の人達に染まってしまったってことでしょうか…
「でもまあ、先輩の汗臭さなんてもう慣れたもんなんだから…」
「ん…?慣れ…?」
「な…何でもないから…!」
絶対何でもないじゃなさそうに聞こえたんですけど…
結局あれから私は速水さんに赤座さんのことに関して一言も聞けませんでした。
私のアイドル論を耳を傾けて聞いてくれる速水さんの期待を裏切りたくなかったか、それとも単に怖かったのか。
でも速水さんのその気持ちはきっとこの学校を大きく変えられると思ったから私は悔いのないように自分のアイドルへの本当の気持ちを一つ残らず全部話しました。
キラキラになれること、皆を笑顔にできること、自分のため、皆のため頑張れること…
自分の目で見てきた、そしてかつて自分がなろうとした全てのアイドルは皆そうだったから。
この気持ちを、その素晴らしさをちょっとだけでもいいから速水さんに分かって欲しい。小さな興味を持って欲しい。
それはきっと私にも、速水さんにも、この学校にとって大きな一歩になるから。
そう思って私は自分のアイドルへのありったけの気持ちを全部集めて速水さんに伝えました。
「そう?」
私の話が終わった後、少し間を置いて考え込む速水さん。
そんな彼女のことに不安そうな気持ちで胸をソワソワしていた私でしたが
「うん。やっぱりいいわね。アイドルって。」
やがて私に向けられた速水さんのその笑顔は一瞬で私の不安をふっ飛ばしてくれました。
「多分桃坂さんに聞いても同じ話を聞いたと思う。すごいわね、虹森さん。」
速水さんはこう言いました。今日本当に同好会に来て良かったっと。
彼女が満足するに足る答えが私にできたのか未だに確信はありません。先輩に比べたら私なんてもうアイドルでも何でもないですから。
私には音楽特待生の先輩みたいな音楽センスも、それほどの才能もありません。でもアイドルに対するその真剣な気持ちだけはちゃんと持っているつもりです。
いつか私のこの気持ちが皆にも届いたらきっと今よりもっと素敵な笑顔になれると思っている。
私のこの小さな気持ちが皆の大切な一歩になりますようにっとあの時の私はそう願っていました。
「それじゃ、私はそろそろ帰らせてもらうわね。あまり長引きするのも悪いし。」
それから速水さんは私に「じゃあ、近々連絡するからその時はよろしくわね」っと私と連絡先を交換した後、同好会の部室から離れました。
先輩の代わりにうまく話したのかはよく分からないんですがそれでも私はこのことから希望っというのを覗きました。
なぜなら私は
「この学校は私が必ず変えてみせるわ。」
あの時の速水さんから先輩と同じ決心を感じたからです。
本当の心で皆のことを考え、この学校を帰ろうとする優しくて孤高な意思。私はそんな彼女が大好きになりました。
初めてのことは思われないほどの優しかった速水さん。でも私はそんな彼女に赤座さんのことについてたった一言も話せませんでした。
そんな私のことを赤座さんは
「そんなに気にするなって。むしろことりはマネージャーちゃんがことりのことをあい先輩に話さなかったことに感謝しているから。」
っと全然気にすることはないって慰めてくれましたが私はやっぱり落ち着きませんでした…
「今のあい先輩にことりのことを話してもややこしくなるだけなんだから。せっかくあい先輩が一旗揚げようとしているんだからここでことりの話なんて必要ないよ。」
まるでこの問題において自分の存在なんて大したことではないって言っているような言い方。でも私は彼女にそんな風に言わないで欲しかったです。
「だって赤座さんも同好会にとって大切な人だったと先輩が言いましたから…そんな赤座さんのことが大事じゃないはずないじゃないですか…」
「マネージャーちゃん…」
先輩はいつも言いました。青葉さんと赤座さんが同好会に来てくれた頃は本当に楽しかったって…
私はその頃の話をあんなに楽しく話している先輩を見てお二人さんに嫉妬までしちゃったんです…私達じゃそんなに楽しくないのかなって。
もちろんその度に
「ち…違います…!私、みもりちゃんが入ってくれてから毎日がすごく楽しいですから…!」
慌ててそれを否定してくれる先輩のことに毎度逆に困らせられちゃう私でしたがとにかく先輩は今もお二人さんのことを大切にしています。
だからもっと自分のことを大事にしてください…!
初対面のくせに何の保証もなく自分のことを大切にしてくださいって言っている私のことを変な子だと思われるかも知れません。
でも私は赤座さんが今日同好会に来てくれたことをとても大事に思っていますから自分のことを粗末にしないで欲しいです。
話したら多分速水さんだってそう思うと私はそう信じていました。
「ありがとう、マネージャーちゃん。マネージャーちゃんっていい人ね。ことり、そういう人、めっちゃ好きなんだ。」
「そ…そうですか…実は私…赤座さんのファンなんです…」
本人の前で言うのはちょっと照れくさいけど…
「そう?嬉しいね。良かったらメール交換でもしない?多分マネージャーちゃんだって分かっていると思うんだけどことりはこの学校にあまり出入りできないから何かあったら教えて欲しいの。」
「あ…!は…はい…!どうぞ…!」
っと私と携帯を向かい合わせる時、ふと私の画面が目についた赤座さんは
「って待ち受けの子、可愛いね。誰?彼女?」
携帯の画面の向こうから私と腕を組んでそっと笑っている入学式の時のゆりちゃんのことをそう聞きました。
って早速彼女って…
「いいえ…そうじゃなくてただの幼馴染です…」
「そう?でもなんか目がこう…「ずっと愛してます♥」って言っているような気がして…」
ええ…!?なにそれ…!?普通に怖いんですけど…!?
「でもいいね、幼馴染って。ことりはそういうの全然いないから。友達って言える子も一人しかいなかったし。こんなに可愛いなのにね?」
「そ…そうですか…」
この人…自分のことを可愛いって言えるんだ…その自身たっぷりなところはちょっと羨ましいかも…
でもその友達って人はもしかして青葉さんのことでしょうか…だったらやっぱり赤座さんは青葉さんのことを今もずっと…
「だからもう一度謝りたいの。ことりが悪かったって。許してくれないかも知れないけどちゃんと謝りたい。そのためにことりはここに戻ったんだから。」
その言葉から私はその友達のことを青葉さんって確信しました。
自分を導いてくれたたった一人の大切な友達。彼女に謝るためなら赤座さんはどんな非難も甘んじる覚悟ができていると改めて自分の心を引き締めました。
「あ、安心して。マネージャーちゃんには迷惑はかからないようにするから。これはことりの問題だから自分で解決しなければならないし。っと言ってももう先輩には迷惑かけっぱなしなんだけどね…」
少ししょんぼりした寂しい笑みを浮かんでしまう赤座さん。私自身もそんな彼女に大してやってあげられることなんて全然ないってことをよく知っています。
私は速水さんや青葉さんみたいにすごい人ではなくてただの普通な1年生の過ぎませんから。
皆から尊敬されることなく、名誉や名を知らせることもできない普通の女の子。
でもそんな私でも
「わ…私…!赤座さんの力になりたいです…!」
彼女のことを応援したいって気持ちだけは本物でした。
「マネージャーちゃん?」
そろそろ人通りの街が見えてきた頃、急に立ち止まって自分の力になりたいって言う私のことに少し戸惑ってしまう赤座さん。
でもまもなく彼女は
「ありがとうね、マネージャーちゃん。本当にいい人なんだね、君は。」
「赤い3家」の人なら皆が持っているという八重歯をちらっと見せながら私に今日一番の笑顔を向けてくれました。
「うみっこと仲良くしていて分かっていたけどマネージャーちゃんは本当にいい人なんだ。うみっこはそういう人が大好きだから。」
っと既に青葉さんとのことから私という人間を把握できたと言う赤座さんのその言葉は本当に嬉しいものでしたが私はその言葉を赤座さん本人にも聞かせてあげたかったんです。
だってこう話している間のあなたもまたあの人と同じくすごく優しくいい人っと私が感じていますから。
「それにしてもマネージャーちゃんって本当にアイドル好きなんだね。先輩にそっくりでびっくりしたよ。なんかあい先輩も夢中になってたし。」
「そ…そうでしょうか…自分的にはうまく言えたのかよく分からないんですが…」
「ううん。絶対あい先輩も分かってくれたと思う。ことりもアイドル好きだしうまく行ったたらいいわね。じゃあ、ことりはこの辺で失礼するね?送ってくれてありがとう、マネージャーちゃん。また連絡するから。」
「あ…!はい…!」
っと応援の言葉と一緒に夕暮れの中に溶け込む赤座さんの姿に少し寂しくなる私でしたが赤座さんはそんな私に手を振りながら
「今日は本当にありがとう!またね!」
なんだか嬉しそうな顔で私にまた合うことを約束してくれました。
そんな彼女の背中を見ながら私は何を考えていたのか…それは多分私の分際でおこがましいことだったかも知れませんが私はこれをぜひ「希望」だと話したいと思いました。
小さくても偉大な勇気。それはきっと大きな変化を招いてくれると私は信じてやみませんでした。
消えてしまう赤座さんの後ろ姿。そこに残された小さな希望は今も私の胸の中から眩しく輝いています。
「そういえば名前…教えなかったな…」
そして私は当分の間、彼女にずっと「マネージャーちゃん」って呼ばれることを予感してしまったのです。




