第217話
いつもありがとうございます!
「あら。虹森さん。また合ったわね。」
「速水さん!?」
突然同好会の部室にやってきた神界を代表する天才女優赤座さん。そんな彼女の後に次いで私達の部室に訪ねてきたのは
「随分久しぶりわね。元気だったかしら。」
そんな彼女をこの学校から追い出したこの学校の神界側のトップである「百花繚乱」第3席「幽霊少佐」「速水愛」さんでした。
以前ゆりちゃんのことで私達の部屋を訪ねたことで顔見知りができた速水さん。私はあまり交流もないゆりちゃんのことを心から心配してくれる彼女のことに感動して彼女のことを外からのイメージとは違って結構いい人だなって思うようになりました。
「ご…ご無沙汰しております…」
「あははっ。なんなの、それ。そんなにかしこまらなくてもいいわ。」
「そ…そうですか…」
ガチガチな挨拶でぎこちなく笑っている私のことを優しい笑顔でほぐしてくれようとする速水さん。
でもやっぱり最高級生の前で、しかもあの「百花繚乱」の実権を丸握っているこの速水さんの前になるとやっぱり緊張しちゃいます…
「虹森さんって年上の人に対した物腰もできていていいわね。そういえば虹森さんって中学校時代に運動部だったわよね?だからなのかしら。あ、これゆうなから聞いたわ。」
「は…はい。お母さんが元水泳選手だったので自然と…」
「へえーすごいわね。ここだけの話だけど私、全然泳げないの。」
「そ…そうだったんですか…?」
こっそり自分の恥ずかしいところをちらっと見せつける速水さん。
以外ですね…速水さんってあの「ファントムナイツ」の令嬢ですごく美人ですし何でもできそうだと思ったんですがまさか泳ぐのが苦手だったとは…
「子供の時に溺れた時があってね。あの時はこんごうに助けてもらったんだけどそれから自然と水が怖くなって。大人になったら少しましになるのかなっと思ったけど全然治らなくてね。」
「大変でしたね…」
なるほど…子供の時のトラウマが原因で…まあ…私もずっと御祖母様のことが怖くてなかなか前に進めませんでしたから全然分からないまでもないんですけどね。
「だから皆と海に行ったり、プールで遊んだりした思い出がないの。情けないわよね。「水の剣」の継承者とか名乗っているくせに泳げないってことは。」
あっけないって笑いで自分の短所のことを皮肉る速水さん。でも私はそれが決して恥じることではないと彼女のことを励ましてあげました。
「だ…大丈夫です…!私だってできないことなんていくらでもありますから…!」
だって私、速水さんみたいに皆に尊敬される人でもありませんから…!きれいでカリスマもあっていつも皆を引っ張ってて…!
今こうやってただ顔を合わせているだけなのに速水さんと私の間にはすごい差があるって感じています…!
それに私、こう見えても一応アイドルやっているのに先輩達に比べて全然ダメですから…!
「そうかしら。虹森さんって案外結構スペック高そうだけど。第1の推薦だって?すごいじゃない。」
「そ…それはたまたま偶然で…!」
ゆうなさん…そんなことまで言っちゃったんだ…
確かにお父さんも、お母さんも私がゆりちゃんと一緒に第1の推薦を受けたことを大喜びました。何と言っても第1は様々な進学校の中でも最も優秀な世界最高水準の学校ですから。
でも私はそこに行ったらなんだか本当の意味でアイドルを止めてしまうのではないかなって気がしました。そのまま第1に入学して将来のため3年間の時間をただ勉強と勉学に励む日々。それが決して悪いことではないと思います。
私はただ昔のその楽しかった時間を、自分の大好きなアイドルにもう少し心が傾いただけです。
今もそのことに後悔はありません。私は自分のため、自分自身が正しいと思っている選択をしたんです。
「そう?偉いわね、虹森さんって。確かにそうかも知れないわ。」
っと私のあの時の決心に自身をつけてくれる速水さん。
私はやっぱりこの人はいい人だなって改めて確かめることができました。
「よ…良かったら私が泳ぎ方とか教えましょうか…!」
っととっさに言った私からのいきなりの提案に
「本当?そうさせてくれれば助かるわ。」
すごく喜んでくれる速水さん。
自分からも自分が何言ってるのか分からなくなった提案にも喜んでくれる彼女のことが私はなんだかすごく好きになりましたが…
「速水さん…今日はもう帰ってくれないかな…」
私は心の片隅からはずっとこう思っていました。
「そ…それで今日は何のご用で…」
この辺でそろそろここに来たその要件を窺うことにした私。
中にも入れず部室の前で彼女を立たせているのがすごく失礼なことというのはよく分かっています。私だって普段なら絶対そんなことはしませんから。
でも…
「お願い…!マネージャーちゃん…!あい先輩にはことりのこと、絶対秘密にして…!」
速水さんの声を聞いた途端、なんとかうまく誤魔化して速水さんのことを帰らせて欲しいっと頼む赤座さんの怖がっていた顔を見られてしまったんですから…
赤座さん…速水さんが来る前まではあんなに元気にしてお喋りしたのに速水さんの声を聞いたら顔色まで悪くなって…
そこそこ予想はしていましたがまさかあそこまで怖がっていたとは思えませんでした…赤座さん、自分をこの学校から追い出した速水さんのことをあんなに怖がっていましたね…今赤座さんのことを速水さんに合わせるのは確かにまずいかも…
とにかく今はて短く要件だけを聞いて帰ってもらうことしかありません…!
「あ、別に大したことではないわ。ここの部長さんとお話したいことがあってね。」
「先輩に…ですか?」
今日はゆりちゃんのことじゃないんですね…ちょっと期待外れの感じ…
しかし「百花繚乱」の速水さんがなぜうちみたいなちっぽけな同好会の先輩とお話がしたいなんて、これはまた珍しいことかも。
「まあ、一応桃坂さんとは同じクラスだけど教室ではなんか話しにくくてね。人目、多いから。」
「それはそうかも知れませんね。先輩も、速水さんもすごく美人ですし。」
「止めてよ、そういうの。」
全力でそういう発言は止めて欲しいってお願いする速水さん。
でも満更でもなさそうに顔だけはほぐれている彼女のことに私は速水さんだって仕方ない女の子だなっという当たり前なことを改めて思ってしまいました。
「でも桃坂さんは確かに美人だよね?胸だってあんなに大きいし。どうしてあそこまで大きくなれるのかしら。」
速水さんだってああいう大きさは反則だと思っているようですね…
「良かったら桃坂さんのこと、呼んでもらえるかしら。少しだけでいいから。」
っと早速先輩のことを呼んで欲しいと頼む速水さん。
でもあいにく先輩は今週の会長の外出の件で今は不在。私はそのことを速水さんに説明しなければなりませんでしたが
「そう?じゃあ、中から待たせてもらってもいいかしら。」
それは一番の悪手になって自分の首を絞めることになってしまいました。
「ええ…!?な…中から…ですか…!?」
先輩が来るまで中から待っていてもいいかなって聞く速水さんの話に異常と思われるほどびっくりしてしまう私の反応に
「な…何かしら…?」
逆に驚かされたような速水さん。
絶対怪しまれるよ、これは…!
それは一番避けるべきの状況。私はその場でもっとうまく速水さんのことを帰らせる方法を工夫しなければなりませんでしたが未熟な私にはそう簡単なことではありませんでした。結局そんな私の未熟さが一番まずい状況を呼び寄せてしまったのです。
「あ…いいえ…!」
なんか非常に困りそうな顔で何でもありませんって状況を誤魔化そうとした私でしたが頭の中はもうパニック状態に落ちて何も思い浮かびませんでした。
ここで私が何を言っても絶対怪しいって思われるのは火を見るより明らかなこと。
でも私は中の赤座さんのことを考えて絶対速水さんを中に入れるわけにはいきませんでした。
「せ…先輩…!いつ帰ってくるのか分かりませんから…!」
「そう?でも別にいいわよ。今日はゆうながいないから訓練も早めに終わったし。なんか他校の生徒達との交流会らしい。」
あの人に限っては交流会ではなく交尾会にしか聞こえませんが…
「とにかく今日はやることがないから暇ってこと。それに虹森さんとももっとお話したいし。」
「わ…私とですか…?」
っと急に私とお喋りがしたいって意思を表す速水さん。
そ…それはすごく嬉しいお言葉ですね…私、ちょっとぐらいは速水さんから気に入られたかな…
「うふっ。可愛いわね、虹森さんって。顔で全部漏れてるんじゃない。」
「ええ…だって…」
慌てる私のことを見てそっと笑ってくれる速水さんのその笑顔は透明なのに不思議に橙色で輝いていたので私はつい見惚れてぼーっと見つめてしまいました。
ど…どうしよう…速水さんのことを中に入れちゃダメなのに嬉しすぎて頭が捗りません…赤座さんに速水さんのことを絶対合わせちゃダメなのにこんなんじゃますます断りにくくなっちゃうよ…
「私、虹森さんみたいに純真って感じの人、大好きだわ。妹みたいで可愛いし。」
「そ…そうですか…?えへへ…」
「何へらへらしてるのよ!」っと言っているような後ろからの赤座さんの視線が今ちらっと見えましたがそれでも私は速水さんから可愛いって褒められて嬉しくてたまらないこの気持ちを抑え切れませんでした。やっぱり誰かと分かり合って仲良くなるのは気持ちいいなって…
あ…でも今速水さんが赤座さんに合ってしまったらきっと大事になっちゃうからここで確実に止めなければ…!
「あ…でも部室、結構散らかっているのでお構いにはちょっと向いてないかも知れません…昨日着てた服だってそのまま放置しちゃってちょっと臭うし…」
「あの桃坂さんがいるのにちょっと意外だわ。大丈夫よ?うちの子達の方がもっとひどいと思うから。汗臭さなんてもう慣れたものだわ。」
これもダメか…!
女の子としてのプライドまで捨てて考え出した言い逃れにも関わらずどうしても部屋で待とうとする速水さん。
何か別のことを考えなければっと頭を働かせていたところ
「…もしかして虹森さん…私のこと、部屋に入れたくないのかしら…」
ついに来てしまった彼女のその言葉は鋭く私の胸にズキッと刺されてしまいました!
先から何度も部屋に入ろうとした自分に理由をつけて遮った私のことについに向けられた疑いの視線…!
まだ確信まではしなかったようですがそれも時間の問題…!あの「百花繚乱」の速水さんのことです…!そのうちそのあやふやな疑いは確かな確信に変わるのでしょう…!
「虹森さん…私のこと、まだちょっと怖がっているのかしら…確かにそう思われても仕方はないと思うんだけど…」
「い…いいえ…!絶対そんなことないです…!」
「じゃあ、どうして…」
とうとうその理由を求めてきた速水さん…!はわわわ…!なんとかうまく誤魔化さなきゃ…!
でも速水さん、やっぱり悲しそうな顔をしている…
「そ…そうだよね…いきなり馴れ馴れしくしても虹森さんのことを困らせるだけなのよね…ごめんなさい、虹森さん…勝手に妹みたいっとか言っちゃって…」
っと寂しそうな顔で自分の無神経さを責めているような速水さん。その時、私はそんな彼女の表情がとても心苦しく感じられちゃいました。
赤座さんには合わせないように何か言い訳を考えるのは仕方ないです。私自身もそれを最優先しているし速水さんを入らせるわけにはいかないと思っていることに変わりはありません。
でも速水さんが思っているそんな理由ではないっということだけは今ここではっきりしたいです。だって速水さん、私のことをあんなに親しくしてくれたのに傷ついたまま、誤解されたままで終わらせたくないですから。
「違います…!そんなことではないですから…!」
確かに前はちょっとそう感じていたかも知れませんけどこの前、ゆりちゃんのために私達の部屋に訪ねてきた速水さんのことを見て少しずつ考えが変わり始めました。
速水さんって本当はすごく優しくて温かい人で今はただそうしなければならない理由があるだけじゃないかなって…
今すぐその理由を聞かせてくださいとは言わないです…!でも速水さんのことをそう思っているのではないってことだけは信じてください…!
「そ…そう…?」
私の気持ちを分かってくれたのか少し落ち着いてくれる速水さん。一人で随分と考え込んでしまったようにその透明な目元に結んだ一滴の露はまるで結晶化したこの世の全ての美しさでした。
「私のこと…怖がらないの…?」
「は…はい…!」
っと潤った目でそう聞いてくる速水さんを見ているともう怖いって気持ちよりなんだか胸がキュンとして…!なんだろう…この気持ち…!
「ありがとう…私、嫌われるのは慣れているけどさすがに1年生の後輩にまでそんな風に思われるのはショックだったから…」
「も…もう大丈夫ですから…!そんなことないですから安心してください…!」
「そ…そう…?」
そっと席から立って私から背を向けて密かに涙を拭く速水さん。
この人、あんなに大人っぽくてきれいなのにあんなところもあるんだな…びっくりしましたがやっぱりちょっとほっとしました。
あの「幽霊少佐」と呼ばれる「水の剣」の速水さんだって泳ぐのが苦手で後輩達から嫌われたらどうしようって涙を見せる普通な女の子だったということに私はなんだかすごく安心してしまいました。
皆私みたいにそれぞれそういう普通っぽいところを持っているだなっと思って。
クールで素敵な速水さんだってすごくかっこいいと思いますが今日の素直なところも悪くないと私はそう思います。
「ごめんなさい…先輩なのに乱れたところを見せちゃったわね…」
「いえいえ。私の方こそ誤解させてしまって申し訳ありませんでした。」
良かった…誤解を解いてくれて…この流れで今日はもう帰って休んだ方がいいっと話して…
「じゃあ、中で待たせてもらってもいいかしら。」
って全然帰ってくれないじゃん…!!




