第213話
ブックマーク1名様誠にありがとうございます!
もうすっかり夏みたいな天気になりました!でも夜は寒いのでお体にお気をつけてください!
いつもありがとうございます!
「お休みですか?」
「はい…」
放課後、部室で合った先輩に今週末の練習は休ませてもらいたいとお願いする私の話に
「はい。もちろんです。」
あっさりと許可してくれる先輩。
「みもりちゃん、昨日は学校までお休みでしたからね。体の具合が悪い時はゆっくり休みのが一番です。」
っと先輩はあえてその理由までは聞きませんでしたが私はここはやっぱりちゃんとするべきだと思ってこんな時期にわざわざ大事な練習時間を減らしてまで休もうとする理由を先輩に説明しました。
「いいえ…昨日休んだおかげで体は大分良くなりましたから…明日ならすっかり治ると思います、多分…」
体の方は本当に平気です。ガチの風邪でもないただの体調不良ということも分かりました。
でも私、昨日私が部屋で休んでいる時、私の様子を見に来たゆりちゃんの話を聞いてやっぱり早くなんとかしなきゃっと思いました。
今までゆりちゃんを支えてくれたゆりちゃんの中の私という「アナタリウム」。それが崩れてしまったと言ったゆりちゃんの顔はとても、とても悲しく見えました。
いつも私のことを守ってくれたあの頼もしくて心強かったゆりちゃんがあんなに弱そうな顔になってしまったなんて…
私は一刻も早くゆりちゃんのその顔をなんとかしたいと思うようになりました。
「私は早くゆりちゃんの笑顔を取り戻したいです…だからもっと一緒にいる時間を増やせばっと思って…」
何をしたらいいのかはまだ分かりません。今朝の男装作戦や先の「パンツでメロメロさせちゃおう!」作戦も全部失敗でしたから…
教室に戻る時だってゆりちゃん…
「みもりちゃん…さすがにそういうの、人の目がある場所では控えた方がいいと思います…」
って心配してたし…
ゆりちゃん、そういうの好きじゃないかと思って思い切ってやったことなのに…喜ばせるつもりだったのに逆に心配掛けちゃってしまいました…
その後も…
「ごめんなさい、みもりちゃん。先に教室に戻ってください。私はお手洗いに…」
って一緒に行こうとした私をほっておいて一人で行っちゃったし…私は一体何がしたかったんでしょうか…
「というわけで今週末にはゆりちゃんをちゃんと喜ばせたいんです。だから…」
今度はしっかりしたいと思います。今日は何もかも全部ダメでしたから…
「すみません、先輩…もうすぐ交流の日もあるのにゆりちゃんのことばっかり考えて…」
「いえいえ。ゆりちゃんのことですから。みもりちゃんにとってそれがどれだけ大事なことなのかは私もよく知っています。」
っと私の手を握ってゆりちゃんのこと、しっかりと喜ばせてあげてくださいって励ましてくれる先輩。
先輩だってゆりちゃんのことをずっと気にかけていたことが取り合った手から伝わってくるような気がします。
「でも私はみもりちゃんにゆりちゃんのことや自分を回したことをもっと気楽に見て欲しいです。」
私の手を握ったまま私にもっと余裕のある心を持って欲しいと言っている先輩。先輩は今の私は少し焦っているように見えると私のことも心配していました。
「ゆりちゃんのことがみもりちゃんにとってどれほどのことか私もよく知っています。でもだからこそ落ち着いてもう一度考えるべきだと思います。焦ってしまうと案外間違えた選択肢を選ぶこともたくさんありますから。」
なんだか悔しんでいるような顔…それは多分先輩の過ぎた日から学んだ経験の産物というものだと私はそう感じてしまいました。
「私だって焦ってしまったせいで自分の道を忘れたりしちゃいましたから。うみちゃんのことも、かなちゃんと赤城さんのことも何一つ決められずただうろうろ空回りしただけで全然動きませんでした。」
「先輩…」
「私はみもりちゃんには私の二の舞いにならないで欲しいです。」
っと先輩から私に向かったその切ない表情を見てしまった時、私は先輩の経験から痛いほど思い知らされてしまったその大事な教えを謙虚に自分の心に秘めるようにしました。
「あ、そうだ!だったら一度実家に行ってくるのはどうですか?」
「里帰り…ですか?」
その時、何かいいことでも思い出したような先輩からの思いがけない提案。でも私はその提案を聞いて
「夏休みでもないのに家にですか…」
っと早速珍しいって反応を見せてしまいました。
「どうせ休むのなら実家の方がいいんじゃないかと思ってですね。確かみもりちゃん、最近帰ったことありませんよね?」
「そりゃ私達の実家…ここから結構遠いですからそうやすやすと帰ってこれませんから…」
ゆりちゃんなら前の12家紋の当主さん達が集まる行事のことで一度帰ったことがありますが私は入学以来今まで一度も家に帰ったことがありません。
家までは列車に乗っても半日はかかるほど遠いですしここんとこずっと忙しいことばかりでしたから。それに交流の日のことやその前の中間テストのこともあるから家に帰ることなんて今まで考えたこともありませんでした。
「ならいいじゃないですかー家に帰ってゆっくり休んできたらいいリフレッシュにもなれるし。あ!そうだ!良かったらうちのセシリアちゃんも一緒に連れて行ってくれませんか?」
「会長さんをですか?」
っといきなり私達の実家に今の会長さんを連れて行って欲しいと言う先輩。っていうかうちのセシリアちゃんって…もうすっかり保護者になっているんですね、先輩…
「セシリアちゃん、最近ずっと病院や学校ばかりでしたから。時々市内で遊んだりはしていますがたまにどこか新しい場所に旅行させたくて。「可愛い子には旅をさせよ」ですね?」
それ、絶対この状況で使う言葉じゃないと思うんですけど…
完全に保護者モードに入ってお母さんみたいなことを言っている先輩ですが確かにそれもいいかも知れませんね。今の会長さんとゆりちゃんは随分困惑している状態ですから気分転換は確かに必要だと思います。
うちの実家、周りは全部緑で川もある田舎と都会の中間って感じですからゆっくり休むにはぴったりかも!いいアイデアです!先輩!
「あ…それに良かったらうみちゃんも一緒に連れて行ってくれませんか…?」
ふと少しためらっている顔でその里帰りに青葉さんも一生に同行させて欲しいとお願いする先輩。さすがの私でもその理由については聞かざるを得ませんでしたが
「大した理由があるわけではありません。ただうみちゃん、ここ最近ずっと無理しているように見えたのでちょっと休ませてあげたいだけです。」
まもなくそれはあえて聞く必要もなかった先輩の優しい気持ちってことを知るようになりました。
「私から誘ってもうみちゃんはきっと断ってしまうのですから代わりにみもりちゃんから誘ってくれませんか。」
「あ…はい…それも別に構いませんが…」
「なんで会長さんのところに先輩が同行しないんですか」っと聞いてしまう私の質問に
「あいにく家に大事なお客さんがいるんです。2日連続で一人ぼっちにするわけにはいかないし、他の友達にお願いするのも迷惑かと思って。」
先輩は先輩なりに今回の旅に一緒にできない理由を説明してくれました。
先輩が会長さんのことを青葉さんに預けるまでの大事なお客さんとは一体…
「でも今の青葉さんなら私からの誘いも断っちゃうかも…」
「なんでですか?」
っと珍しいって顔で青葉さんが私からの誘いを断ることを前提する私を見つめる先輩。
「実は今日の演技指導の授業、担当の先生が産休でして代わりに青葉さんが来たんですが…」
そんな先輩に今朝1限目の青葉さんによる演技指導の時のことをありのままで話そうとした私はなるべく言葉に気をつけて話を進めました。
「そこで私がちょっとふざけちゃってゆりちゃんと一緒に青葉さんに呼び出されたんです。」
「みもりちゃんがですか?一体何を…」
「そ…それはいいとして…!」
でもここはやっぱり話さない方がいいと思います…さすがに隣の幼馴染の子にあんなのを見せたってことを自分の口で言うのはなんかちょっと…
「うみちゃん、怒るとすごく怖いですもんね。」
「はい…」
「大変したね…」って顔で私の慰めてくれる先輩。でも私が授業に集中しなかったのが原因だったから青葉さんから怒るのも納得して反省もしています。
でも…
「私の授業、聞きたくないかな。虹森さん。」
いくらなんでも先の青葉さん、本当に怖かったんですから…!
「虹森さん。私のこと、あまり先輩として見ていないんだよね?私が甘やかしすぎたのかしら。」
あんな青葉さん、初めて見ました…!授業の邪魔をしてしまった私に向かってそう言って睨んでいる青葉さんの目を見ているとなんかキンタ○がひやっとして…!ついてはいませんか多分そんな感じじゃないかと…!
「虹森さん。最近ちょっと馴れ馴れしいんじゃない?」
っとすごい目で私のことを睨みつけていた青葉さん。
確かに青葉さんと知り合ってから随分時間が経って初めて出会った時みたいな新鮮な自分じゃないかも知れませんが馴れ馴れしいって…なんかその言葉はすごく寂しくてそっけなくて私、正直にあの時、とても悲しかったです…
私は青葉さんとお友達になったと思ったのにそう思っていたのは私だけだったかなと思って…
やっぱり私みたいなどこにもいる子なんかと青葉さんみたいなすごい人の間には越えられない線ってやつでもあるのでしょうか…
とにかくまるであの会議場で青葉さんのことを初めて見た時のようだった気がして私は私に向かって
「仲良くするのは結構なことだけど弁えのところくらいはちゃんとしてもらいたいね。こう見えても一尾私は教えている立場だから。虹森さんのこと、もっとしっかりした子だと思ったのに見間違いだったよね。」
っと言い詰める青葉さんにすごい距離感を抱いてしまいました。
その上、私がふざけたせいでゆりちゃんまで一緒に呼び出されて怒られちゃったし…ゆりちゃんにも本当面目ないんですよ、私…
青葉さん、授業に入る前に
「虹森さんには虹森さんのままで緑山さんに喜んでもらえる方法があるはずよ。私は二人の絆を信じている。」
っと私のことを励ましてくれたのに私は青葉さんの授業をばかにするような真似をしてしまって…
「私が悪かったんです…ゆりちゃんのことばかりで青葉さんの授業をばかにするようなことをしちゃったから…」
怒るのも当然です…誤解されても仕方ないです…でもあんなそっけないことを言う青葉さんのことがなんだかすごく寂しくてあの時、私、ちょっと泣いちゃいました…
後でちゃんと謝りたくて青葉さんのことを探しましたがどこにもいなくて…
私、先輩と青葉さんのことを仲直りさせたいって言ってたのに逆に足手まといになっちゃいました…
ゆりちゃんは
「みもりちゃんのせいじゃないです。私がおかしくなっちゃっただけでみもりちゃんは私のために頑張ってくれただけですから…」
っと自分を責めて状況はますます悪くなったし…
「私…青葉さんに嫌われちゃうんでしょうか…」
「いえいえ。それは絶対ないです。」
もし私のせいで先輩まで悪影響が出てしまったらどうしようっと落ち込んでいた私を今朝のように膝に座らせていつものように頭を撫でてくれる先輩。そしてその上に乗った私はまた自然に先輩に体を委ねて甘えていました。
「うみちゃんに限ってそんなことはありません。それは私が保証します。」
信頼に満ちた目。先輩は青葉さんが決してそういうことで人を嫌ったりする人ではないってとこを私に確信してくれました。
「うみちゃんは私のことから離れてしまったんですが決して本気で人を嫌う子ではありません。優しくて強くて他人の痛みを共感できる温かい胸を持っているんですもの。今はあんな風にちょっと空回りしていますがきっと昔の私のうみちゃんに戻ってくれるはずです。だってそのために私達がこんなに頑張っているんですから。」
先輩は信じていました。今は少し外れていても青葉さんは本来すごく優しくていい人ってことを。たとえ今は何らかの事情で他の生徒達の心を傷つけるようになっていてもそれもまた青葉さんの本位ではないってことを。
私は先輩のその言葉にまたいっぱいの勇気をもらっちゃいました。
「じゃあ、うみちゃんのこと、よろしくお願いしますね?セシリアちゃんのところには私から話しておきますから。」
「はい…!任せてください…!」
っと早速「プラチナ皇室」の親衛隊「Judgement」の関係者に連絡を入れるために少しの間部室を空くことになった先輩。
私は先輩が戻ったらいつでも練習ができるように部室でかな先輩と赤城さんのことを待つことにしました。
「それにしても皆遅いな…」
私が入ったばかりより部員は結構増えましたがそれでも私達の同好会はびっくりするほどの弱小部。
かな先輩や副会長の赤城さんが忙しいのは当然として最近は会長さんやゆりちゃんまで来なくなってしまってここんとこ部室にはほぼ私と先輩の二人だけです。
交流の日の内容が改編されてその準備で忙しくなった皆を見て私一人でこんな感じでいいのかなって思ってしまう私でしたその時、私は知りませんでした。
ーコンコン
まもなく自分がこの学校で最も忙しく人になることを。
ドアから聞こえる誰かのノックの音。その音に向かって足を運んだ私は
「はいー今出ますねー」
もしかして他の部からのオファーかなっという根拠のない期待感まで抱いてしまいましたが
「え…?」
そのドアを開けた瞬間、それは決してそういうたぐいのものではないことを気づいてしまいました。
「あら…?」
ぼっとした顔で自分を見ている私をまた向こうから見つめている少女。彼女は少しびっくりしたような声で
「ここ…だよね…?「アイドル同好会」…」
っと聞きました。
この学校に来て今まで一度も合ったことがない少女。でも私は既にその彼女のことを知っていました。




